ロシアのユーリイ・ボリソフ副首相を団長とする使節団が9月6日にシリアに到着したのに続いて、SANA(9月7日付)によると、セルゲイ・ラヴロフ外務大臣がシリアを電撃訪問し、使節団に加わった。
ラヴロフ外務大臣がシリアを訪問するのは8年ぶり。
ラヴロフ外務大臣を加えたロシア使節団は首都ダマスカスで、アサド大統領と会談した。
SANA(9月7日付)によると、二国間関係の維持強化について話し合われ、経済面では、一部諸外国によるシリアへの制裁の影響を軽減するため、すでに締結されている二国間合意の実施状況、新規の合意の是非について意見が交わされた。
政治面では、ロシア使節団が、一部諸外国に対抗して、シリアの領土の統一性と保全、主権の維持、国際社会や地域における役割の回復を支援すると表明、アサド大統領も「テロとの戦い」、治安と安定の回復に向けて路線を継続すると答え、ロシア側に謝意を示した。
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ロシア使節団はその後、フサイン・アルヌース首相と個別に会談した。
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会談後、ワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣兼副首相、ボロゾフ副首相、ラヴロフ外務大臣が外務在外居住者省で共同記者会見を行った。
ムアッリム外務在外居住者大臣は、会談について「すべての分野で実り多いものだった」と総評したうえで、シリアとロシアの関係は発展し、両国民の利益を実現すると述べ、「両国関係は安泰で、有望だ」と強調した。
また、米国によるシリアへの経済制裁について、シリア独自の決定、イスラエルやレジスタンスへの姿勢を好ましいと思っていないがゆえの措置だと批判した。
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一方、ボリソフ副首相も、「会談は建設的で有益だった」としたうえで、両国の通商、工業、経済分野での協力拡大にかかる新規の合意案があり、その数は40以上にのぼることを明らかにした。
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ラヴロフ外務大臣は、シリア国内の戦況が比較的落ち着いているとしたうえで、「こうした方向に向けた取り込みを続ける必要がある…。シリア人は国内で一致団結しなければならない」と述べる一方、「しかし、外国諸勢力はこうした前進を快く思っておらず、分離主義的なアジェンダを押し通そうとし、一方的な経済制裁を駆使してシリア国民を経済的に締め付けようとする」と警鐘を鳴らした。
そのうえで、国連安保理決議第2254号に基づき、制憲委員会の活動への支援などを通じて、主権や領土の一体性の原則がシリアで貫徹されるよう支援すると強調した。
さらに、シリアが、ロシアの支援を受けて、国際テロリズム、そしてそれを支援する外国勢力との戦いに勝利したとしたうえで、完全勝利に向けて「テロと戦い」を継続すると述べる一方、シリアにおける新たな優先課題は、インフラや経済の復興だと述べた。
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質疑応答においては、ロシアで活動し、いわゆるモスクワ・プラットフォームを主導してきた人民意思党(カドリー・ジャミール元副首相が率いる組織)と人民防衛隊(YPG)主体のシリア民主軍の代表がモスクワで「シリア民主評議会」の設置を合意したことに話題が及んだ。
これに関して、ムアッリム外務在外居住者大臣は「我々シリアは、シリアの憲法に反するいかなる合意も支援しない」と述べた。
また、ラヴロフ外務大臣は「我々ロシアは過去数年にわたり、モスクワ・プラットフォームにシリアの様々な勢力を加えて拡充させようとしてきた。おそらくは、現時点でそれ以外に良いプラットフォームがないがゆえに、シリア民主軍とモスクワ・プラットフォームはロシアのモスクワを協議の場所として選んだのだろう」と述べ、関与していないことを明らかにした。
SANA(9月7日付)が伝えた。
AFP, September 7, 2020、ANHA, September 7, 2020、al-Durar al-Shamiya, September 7, 2020、Reuters, September 7, 2020、SANA, September 7, 2020、SOHR, September 7, 2020などをもとに作成。
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