Contents
諸外国の動き(化学兵器使用に関する国連調査団の動き)
国連のファルハーン・ハック副報道官は、化学兵器使用に関する国連調査団が、前日のムウダミーヤト・シャーム市に続いて、21日に化学兵器が使用されたという地域への調査を行う予定だったが、「準備レベルを改善し、チームの安全を確保するため」、28日に訪問を延期したと発表した。
反体制勢力の動き
リハーブ・ニュース(8月27日付)は、シリア・クルド国民評議会のシリア革命反体制勢力国民連立への合流などを骨子とする合意に両組織の代表が署名したと報じ、合意文書の全文を掲載した。
合意文書は16項目からなり、現体制打倒後の国名を「シリア・アラブ共和国」から「シリア共和国」とすること、憲法においてクルド人のアイデンティティと民族的権利を保障すること、クルド人に対するすべての差別的・例外的措置を廃止すること、シリア・クルド国民評議会がシリア革命反体制勢力国民連立の総合委員会(定数114人)に11議席を、政治委員会(定数19人)に2議席、そして副議長職1ポストを得ることなどが定められている。
**
民主統一党のサーリフ・ムスリム共同党首は『ハヤート』(8月28日付)に、シリア・クルド国民評議会のシリア革命反体制勢力国民連立への合流などを定めた合意に関して「合意は、クルド最高委員会とともになされない限り、我々はそれを受け入れない」と拒否し、合意署名に関して最高委員会で何らの協議もなされなかったことを明らかにした。
**
東グータ軍事革命評議会を名のる反体制武装集団は声明を出し、「政権が東グータ地方を訪問すると、調査団メンバーの生命が危険に曝されると説得した…。調査団メンバーの一部と連絡をとり、政権がデマだと伝えた。評議会は調査団保護を完全に遵守する」と発表した。
**
シリア国民評議会元事務局長のブルハーン・ガルユーン氏は声明を出し、「アサド体制への(米国などの)攻撃の準備がなされていることは疑う余地がない。しかし、今日、アンマンに集まっている国際社会の指導者に警告したい…。見せ物的な攻撃の類では、シリア国民へのアサドの復讐の新たな口実を与えるだけだ…。必要なのは(化学兵器使用への)処罰ではなく…現状を変えるための計画だ」と述べ、アサド政権打倒のために軍事力を行使するよう西側諸国に呼びかけた。
**
シリア民主世俗主義諸勢力連立は声明を出し、化学兵器使用疑惑を受けた米英仏などによるシリアへの軍事攻撃を「シリアにおける前代未聞の独裁と犯罪を殲滅するための真の糸口」として支持し、ただちに実行するよう求めた。
シリア政府の動き
ワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣がダマスカスで記者会見を開き、シリア軍が化学兵器を使用したとの米国などの主張はまったくの嘘だと強調した。
ムアッリム外務在外居住大臣はまた「自国民に対して大量破壊兵器を使う国は、世界中どこにもない」と述べ、化学兵器使用疑惑を否定した。
そのうえで「軍事攻撃が行われた場合、我々には二つの選択肢がある。降伏するか、あらゆる手段で自衛するかだ。後者の方がよい選択だ」と述べ、「シリアは「いいカモ(格好の餌食)」ではなく、自衛する術を持っている。我々はそのことで他の国の度肝を抜くだろう」と強調した。
さらにムアッリム外務在外居住者大臣は、国連調査団の調査延期に関して「昨日(26日)、調査団は二カ所目に向かいたいと述べ、我々は問題ないと応え、我々が制圧し彼らの安全を確保できる地域への立ち入りのための調整を行ってきた…。しかし今日、同地の武装集団が調査団の安全を保障することをめぐって(彼らどうしの間で)合意に達することができず、2カ所目への立ち入りができなり、明日に延期となった」と述べた。
諸外国の動き(その他)
『ワシントン・ポスト』は、米英仏が準備しているとされるシリアへの軍事攻撃に関して、アサド政権を罰してさらなる化学兵器攻撃を抑止するのが目的で、期間と規模を限定した攻撃が検討されていると報じた。
同報道によると、攻撃期間は2日程度で、巡航ミサイル(トマホーク)などによる化学兵器関連施設など軍事目標への攻撃が行われる可能性が高いという。
また同報道によると、バラク・オバマ大統領は、諜報機関の最終報告や米議会、さらには同盟国との調整に加えて、国際法のもとで軍事攻撃が正当化し得るかを見極めたうえで、最終判断を下すという。
**
8月26日晩から27日にかけて、ヨルダンの首都アンマンで西側諸国軍参謀長が会談し、シリア情勢などについて協議した。
シリアン・エンジェルス(8月27日付)によると、会談には、米英仏独伊、カナダ、サウジアラビア、カタール、トルコの軍参謀長が出席、またシリア革命反体制勢力国民連立メンバーが、フランス、サウジアラビア、トルコの軍高官とともに、ヨルダン入りし、会談に参加した。
シリアン・エンジェルス(8月27日付)は、この会談で、西側諸国によるシリアへの軍事攻撃後に、共和国護衛隊元准将のマナーフ・トゥラース氏を司令官とする部隊をシリアに進軍させることなどが議論されたと報じた。
また会談では、西側のシリア攻撃後にシリアとイスラエルの交戦をいかに回避するかについても協議されたという。
**
ジョン・ケリー米国務長官は国務省で記者会見を開き、シリア情勢への対応に関する声明を読み上げた。
この声明のなかで、ケリー国務長官は、アサド政権が化学兵器を使用したと一方的に断じたうえで、「責任をとらせなければならない」と述べた。
また「オバマ大統領は、化学兵器による無差別攻撃にどう対処するか、情報を総合して決断する」と付言した。
**
チャック・ヘーゲル米国防長官は、BBC(8月27日付)に「軍事行動の準備はできている。大統領がいかなる決断をしても対応できるように(艦艇などを)配備した」と述べた。
またヘーゲル国防長官は「米国の諜報機関は近く、化学兵器使用がシリアの反体制勢力によるものではないだろうとの結論を下すだろう」との見方を示した。
**
ジェイ・カーニー米ホワイトハウス報道官は記者会見で「アサド政権が化学兵器を使用したことを疑う余地はほとんどない」と述べた。
カーニー報道官は、この根拠として、犠牲者の症状や現地での証言などをあげ、「良心と常識」から判断すると、アサド政権の使用は明らかだと強調、「追加情報」を今週中に発表すると付言した。
またシリアへの軍事攻撃については、「我々が検討している選択肢には政権交代は含まれない」としつつ、事態を放置すれば、「さらなる化学兵器の使用」と「国際規範の崩壊」を招き、「米国にとって脅威となる」と述べた。
**
米政府高官によると、ホワイトハウスで安全保障担当の閣僚らによる会議が開かれ、シリア情勢への対応が協議された。
**
『ハヤート』(8月28日付)などは、米国務省高官の話として、21日のシリアでの化学兵器使用疑惑への対応について西側諸国が協議中であることを踏まえ、28日にオランダのハーグで予定されていた、ジュネーブ2会議開催準備のためのロシア側との会合の延期を米側が決定したと報じた。
**
ジョー・バイデン米副大統領は、テキサス州ヒューストンで講演し、シリアでの化学兵器使用疑惑に関して「誰が使ったかを疑う余地はない。シリアの政権だ」と述べた。
**
英国のデヴィッド・キャメロン首相は、米英仏が準備しているとされるシリアへの軍事攻撃に関して、「中東の戦争への関与とか、シリアをめぐる我々の姿勢の変化とか、紛争へのさらなる介入とは関係なく…、化学兵器と関係がある。その使用は誤りであり、世界はそのことに手をこまねいていてはいけない」と述べた。
**
フランスのフランソワ・オランド大統領は、シリア情勢に関して「シリアで無実の人々に毒ガスを使用するという卑劣な決定を下した者たちを処罰する準備ができている」と述べた。
**
アラブ連盟はカイロで緊急代表会合を開き、シリア情勢について協議した。
会合終了時に採択された声明で、連盟は「化学兵器使用による醜い犯罪を非難し、拒否する」としたうえで、「この犯罪に関与した者を国際司法の場」で裁くことを呼びかけた。
そのうえで国連安保理に対して「自らの責任を果たし、対立を解消し、シリア政府に責任があるこの犯罪…の実行者に対して、必要な抑止的措置を行う」よう呼びかけた。
さらに「シリア国民が自衛を行うのに必要なあらゆる支援の提供、およびそのためのアラブ諸国と国際社会の協力」を主唱した。
しかしこの声明には、イラク、アルジェリア、レバノンが棄権した。
『ハヤート』(8月28日付)によると、イラク代表は化学兵器の使用そのものを非難しつつ、その責任追及については国連調査団の調査結果が明らかになってから行うべきと主張した。
またアルジェリア代表は「危機の政治的解決が理想的」と主張し、化学兵器を誰が使用したのかを限定することが先決だとの姿勢をとった。
レバノンは、シリア紛争への不関与政策という方針に基づき、決議採択を棄権した。
一方、サウジアラビアの代表は、国連安保理でのより強力な非難決議が必要だとしたうえで、「我々は、「見ざる、言わざる、聞かざる」の原則によって、シリア政府に殺戮停止は求めない。しかし、この犯罪を犯した者を至急、公正な法廷に立たせるべきだ」と述べた。
カタールの代表は「サウジアラビアの代表の言葉を全面支持する」としたうえで、アサド政権の責任を追及すべきだと述べた。
**
サウジアラビアのサウード・ファイサル外務大臣はジェッダで、アサド政権が化学兵器を使用したと断じたうえで、「シリア国民に対する人道的悲劇を停止させるため、国際社会は真摯で断固たる姿勢で臨む必要がある…。とくに、シリア政府はアラブのアイデンティティを失い、もはやいかなるかたちでも、アラブ性の心臓であり続けたシリア文明に属していない」と非難した。
**
イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外務大臣が、テヘランを訪問中のジェフリー・フェルトマン国連事務次長(政務局長)と会談し、シリア情勢などについて協議した。
イラン外務省報道官によると、会談で、ザリーフ外務大臣は、西側諸国によるシリアへの軍事行動がシリアだけでなく、中東全体に悪影響を及ぼすと警鐘をならすとともに、反体制勢力が化学兵器を使用したとの証拠をロシアが国連安保理に提出したと明かし、西側諸国の指導者に充分な知性を示すよう求めた、という。
**
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、シリア情勢に関して、「我々はシリアでの内戦の当時者ではないが、我々に対して攻撃の試みがなされたら、対応する。力で対処する」と述べた。
**
イタリアのエマ・ボニーノ外務外務大臣は国会で「イタリアは国連の承認なしにいかなる軍事的解決にも参加しない…。限定的な介入が行われれば、無期限の介入になるかもしれない…。シリアの紛争に軍事的解決はない。唯一の解決策は対話による政治的解決だ」と証言した。
**
キプロスのイオアニス・カスリーディス外務大臣は、国営ラジオ(8月27日付)に、米英仏が準備しているとされるシリアへの軍事攻撃に関して、キプロス駐留英軍が「基本的な役割を果たすことはない…。(在留英軍)基地が使用されるだろうとのいかなる公式の情報もない」と述べた。
**
ロシア外務省によると、セルゲイ・ラブロフ外務大臣が、ジョン・ケリー米国務長官、アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表とそれぞれ電話会談し、シリア情勢について協議した。
外務省によると、ラブロフ外務大臣は、ケリー国務長官に対して、化学兵器の使用の有無に関して専門家が調査する必要があると伝える一方、ブラーヒーミー共同代表には紛争の政治的解決の重要性を強調したという。
**
ABC(8月27日付)は、『ワシントン・ポスト』のウェブサイトがシリア電子軍のサイバー攻撃を受けて、閲覧不可能になったと報じた。
国内の暴力
ダマスカス県では、SANA(8月27日付)によると、バルザ区、ジャウバル区で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷し、拠点・装備を破壊した。
**
ダマスカス郊外県では、SANA(8月27日付)によると、アルバイン市、ハラスター市、フサイニーヤ町、フジャイラ村、スバイナ町、ダーライヤー市、ハーン・シャイフ・キャンプ、アッバーサ市、シャクハブ村で、軍が反体制武装集団と交戦し、フダー青年旅団戦闘員、外国人戦闘員らを殺傷し、拠点・装備を破壊した。
**
アレッポ県では、SANA(8月27日付)によると、マーイル町、クファイン村、バヤーヌーン町、ハイヤーン町、タームーラ村、タルマーニーン村、アレッポ中央刑務所周辺、キンディー大学病院周辺、ハーン・アサル村、ハッダーディーン村、サフィーラ市、フライターン市、マンスーラ村、クワイリス村、ラスム・アッブード村、ダイル・ハーフィル市、バザーア村で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷し、拠点・装備を破壊した。
またアレッポ市では、シャイフ・サイード地区、マサルーン地区、サイイド・アリー地区、ジュダイダ地区、旧市街で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷し、拠点・装備を破壊した。
**
ヒムス県では、SANA(8月27日付)によると、タルビーサ市、ヒムス市バーブ・フード地区、ジャウラト・シヤーフ地区、タルビーサ市郊外、ラスタン市、タッルドゥー市、サアン村で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷し、拠点・装備を破壊した。
**
ハマー県では、SANA(8月27日付)によると、ムーリク市で、軍が反体制武装集団と交戦し、外国人戦闘員らを殺傷し、拠点・装備を破壊した。
またスカイラビーヤ市に迫撃砲弾が着弾し、市民3人が死亡、4人が負傷した。
**
イドリブ県では、SANA(8月27日付)によると、カフルナジュド村、アイン・バイダー村、アリーハー市、マアッラトミスリーン市、シュワイハ市、タッル・ダマーン村、カフルサジュナ市、マアッラト・ヌウマーン市、カフルルーマー村で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷し、拠点・装備を破壊した。
**
ハサカ県では、SANA(8月27日付)によると、シャッダーディー市で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷し、拠点・装備を破壊した。
**
スワイダー県では、クッルナー・シュラカー(8月27日付)によると、スワイダー市で若者ら約300人が、東グータ地域などでの化学兵器攻撃をアサド政権によるものと批判し、抗議デモを行った。
レバノンの動き
サラフィー主義者シャイフのアフマド・アスィール師はビデオ声明を出し、北部県トリポリ市での同時爆弾テロに関して「イラン・シリア陣営とその手先がこの犯罪の背後にいる。ないしは最重要容疑者だ」と断じ、ヒズブッラーに疑惑の目を向ける一方、「キリスト教徒たちに気をつけろと言おう。なぜなら、トリポリやダーヒヤで起きたような爆弾攻撃はあなたたちの街で起き、ナスルッラーが「安全な町などない。レバノン人はタクフィール主義者に対して自衛しなければならない」という自分の言葉を証明するかも知れないからだ」と述べた。
ABC, August 28, 1013、AFP, August 27, 2013、al-Hayat, August 28, 2013、Kull-na Shuraka’, August 27, 2013、Kurdonline, August
27, 2013、Naharnet, August 27, 2013、Reuters, August 27, 2013、Rihab News,
August 27, 2013、SANA, August 27, 2013、Syrian Angels, August 27, 2013、UPI,
August 27, 2013、The Washington Post, August 27, 2013などをもとに作成。
(C)青山弘之 All rights reserved.