人民防衛隊がイラク・シャーム・イスラーム国やシャームの民のヌスラ戦線との戦闘の末ラアス・アイン市をほぼ制圧、民主統一党のムスリム共同党首を首班とする「西クルディスタン政府」が近く発足することが明らかに(2013年7月17日)

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クルド民族主義勢力の動き

『ハヤート』(7月18日付)などによると、民主統一党人民防衛隊は、ハサカ県ラアス・アイン市で、イラク・シャーム・イスラーム国、シャームの民のヌスラ戦線をはじめとする反体制武装集団を戦闘の末に放逐し、対トルコ国境の国境通行所を含む同市を「ほぼ完全に制圧」した。

また、クルドオンライン(7月17日付)によると、民主統一党人民防衛隊は、武装集団が拠点としていたラアス・アイン市内の穀物サイロも制圧した。

これに関して、民主統一党のサーリフ・ムスリム書記長は『ハヤート』(7月18日付)に「人民防衛隊の戦闘員は、過激なイスラーム主義武装集団の戦闘員に、別の地域に逃走する余地を与え、トルコ領内で戦闘が起きないようにした」と述べた。

一方、クルドオンライン(7月17日付)は、民主統一党人民防衛隊が制圧したラアス・アイン市内のイラク・シャーム・イスラーム国の拠点の一つ(マハッタ地区)からトルコ人のIDカード3枚が発見、押収されたと報じ、その写真を公開した。

同報道によると、ラアス・アイン市でのこれまでの戦闘でも、トルコ人1人が殺害されたほか、トルコの救急車両が目撃されているという。

またハサカ市サッド地区でもトルコ軍兵士の認識票が発見されたほか、アフリーン地方では、アル=カーイダの戦闘員がアサーイシュに対して、トルコ軍士官の支援を受けてシリアに入国していると証言していた、という。

Kurdonline, July 17, 2013

Kurdonline, July 17, 2013

なお、シリア人権監視団やクルド人活動家によると、ラアス・アイン市住民は、ラマダーン月に入ってからのイラク・シャーム・イスラーム国やシャームの民のヌスラ戦線の振る舞い(断食の強要、女性のヒジャーブ着用を強いるなど)に憤慨していた、という。

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クッルナー・シュラカー(7月17日付)は、民主統一党の複数の消息筋の話として、同党の主導のもと、西クルディスタン政府が近く樹立される、と報じた。

同消息筋によると、西クルディスタン政府は民主統一党のサーリフ・ムスリム共同党首を首班とし、以下のような閣僚から構成されるという。

首相:サーリフ・ムスリム(民主統一党党首)
副首相:スィーナム・ムハンマド(西クルディスタン人民議会議員)
外務大臣兼副首相:アブドゥルハミード・ダルウィーシュ(シリア・クルド進歩民主党書記長)
エネルギー石油資源大臣:ムハンマド・ムーサー(シリア・クルド左派党書記長)
財務投資大臣:ムハンマド・ファーリス(タイイ部族シャイフ)
法務移行期問題大臣:フアード・アリークー(シリア・クルド・イェキーティー党)
情報大臣:シーラザード・アーディル・ヤズィーディー(西クルディスタン人民議会報道官)
社会団結大臣:サーリフ・カッドゥー
内務大臣兼武装部隊司令官:アールダール・ハリール(大佐、西クルディスタン人民議会)

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民主統一党のサーリフ・ムスリム共同党首は、西クルディスタン自治政府樹立構想に関して、『ハヤート』(7月18日付)に、民主統一党が2007年に自治構想を提起、その後、同構想の内容に沿って、民主的変革諸勢力国民調整委員会と、住民へのサービス提供のための地方自治行政、経済、救済・支援、通商などについて協議したことを明らかにした。

またシリアのクルド民族主義政党が、7月11日にイラク・クルディスタン地域のスライマーニーヤ市で同構想について協議したとしたうえで、近くエルビル市で協議を再開すると述べた。

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シリア・クルド進歩民主党のアブドゥルハミード・ダルウィーシュ書記長は『ハヤート』(7月18日付)に、7月11日のイラク・クルディスタン地域スライマーニーヤ市でのクルド民族主義政党の会合で、民主統一党の代表者の提案を受け、「シリアのクルディスタンでの自治」について協議したと述べた。

ダルウィーシュ書記長によると、会合は、アームーダー市での民主統一党とシリア・クルド・イェキーティー党などとの対立によってもたらされた悪影響を解消することがめざされたとしたうえで、「いかなる自治の宣言も…一つの政党のみが行えば、大きな誤りとなるだろう」と述べた。

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西クルディスタン人民議会のシーラーザード・アーディル・ヤズィーディー報道官は『シャルク・アウサト』(7月17日付)に、同議会選挙の準備、暫定憲法草案の作成が進められていることを明らかにした。

シリア政府の動き

アサド大統領は2013年政令第255号および256号を発し、マアン・サラーフッディーンをクナイトラ県知事、タラール・バラーズィーをヒムス県知事に任命した。

クッルナー・シュラカー(7月17日付)によると、バラーズィー新知事は、ドバイを拠点とするビジネスマンで、ラーミー・マフルーフの資金のマネーロンダリングを担当している人物だという。

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クッルナー・シュラカー(7月17日付)は、テロ法廷が先週、ムハンマド・ハバシュ前人民議会議員を起訴した、と報じた。

ハバシュ前人民議会議員は現在、イスラーム研究センター(在ダマスカス)所長を務める。

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クッルナー・シュラカー(7月17日付)は、タルトゥース港当局が7月17日17時より港湾施設を一時閉鎖すると発表した。

同報道によると、この措置は、ロシア船籍による武器搬入に伴う措置だという。

反体制勢力の動き

自由シリア軍参謀委員会のサリーム・イドリース参謀長は、『デイリー・テレグラフ』(7月17日付)に、デヴィッド・キャメロン英首相がシリアの反体制勢力への武器供与を断念したことにより「政府軍の殺戮に(自由シリア)軍を曝し、アル=カーイダによる反乱軍制圧への道を開く」と非難した。

イドリース参謀長はまた「西側の約束はもう消え去った。我々が殺されるよう放置するのか、とキャメロンに個人的に尋ねる機会もない…。西側の友人たちは何を期待しているのか?イランとヒズブッラーがシリア国民を皆殺しにすることを待っているのか?」と述べた。

さらに「西側がより穏健な武装集団への武器供与を拒否したことで、シリアの革命は過激集団の手に渡ってしまうだろう…。武器が供与されるはずの自由シリア軍は存在しなくなるだろう。なぜなら、イスラーム主義集団がすべてを制圧してしまうからだ。これは英国の国益にはならない」と強調した。

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シリアの有識者100人が共同声明を発表し、「シリアの独立、安全、領土の統一性をめざす多元的民主体制樹立のために戦う革命諸勢力への支持」、「シリアの愛国的決定の独自性の追及と、域内諸国の戦略的・宗派主義的紛争にシリアを曝すことへの拒否」、そして「バッシャール・アサドとその幹部の退任」を呼びかけた。

共同声明には、サーディク・ジャラール・アズム、ユースフ・アブダルキー、ヤースィーン・ハーッジ・サーリフ、ハイサム・ハッキー、ムハンマド・アリー・アタースィーらが在外の活動家が著名している。

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Elaph(7月17日付)は、シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・アースィー・ジャルバー議長を団長とする使節団が近くサウジアラビアを訪問し、執行委員会の発足など今後の戦略などについて協議する予定だと報じた。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、カナーキル村で爆弾が仕掛けられた車が爆発し、子供を含む7人が死亡した。

またムウダミーヤト・シャーム市で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

一方、クッルナー・シュラカー(7月17日付)は、ザバダーニー市で反体制活動家6人が刑務所で拷問を受け、死亡したと報じた。

他方、SANA(7月17日付)によると、ドゥーマー市、アドラー市、フジャイラ村、ハラスター市、アルバイン市、バハーリーヤ農場、ザバダーニー市、ハーン・シャイフ町で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、シャームの民のヌスラ戦線の戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

またカナーキル村で反体制武装集団が車に爆弾を仕掛け爆破し、市民3人を殺害した。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、カーブーン区、バルザ区、座ブラターニー地区で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(7月17日付)によると、カーブーン区、バルザ区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またマッザ区では、反体制武装集団が撃った迫撃砲弾が着弾し、11歳の子供が死亡、8歳の子供を含む2人が負傷した。

さらにファイハー・スポーツ・サロンにも迫撃砲弾が着弾した。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市で軍がバーブ・フード地区への再突入を試み、同地区などが砲撃を受けた。

またラスタン市で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(7月17日付)によると、ラスタン市、キースィーン市、アクラブ町、ヒムス市バーブ・フード地区、ハーリディーヤ地区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、シャームの民のヌスラ戦線の戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、シャイフ・マスキーン市、ナワー市で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(7月17日付)によると、フラーク市、東ムライハ町、ブスラー・シャーム市、サフム・ジャウラーン村、シャジャラ町、ムザイリーブ町、シャブラク村、ナーフィア村、ナワー市、ティーラ市、ハマド丘、ヒルバト・スィニーン市で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、交戦した。

この戦闘で、軍は、シャームの民のヌスラ戦線の「ダルアーのアミールの代理」と称されるヨルダン人のサミール・タワーイナらヨルダン人、サウジ人、リビア人、パレスチナ人戦闘員を殺傷した。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、ワディーヒー村、アレッポ中央刑務所周辺、ダイル・ハーフィル市、カブターン・ジャバル村で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

アレッポ市では、ハーリディーヤ地区などで、軍と反体制武装集団が交戦した。

一方、SANA(7月17日付)によると、アアザーズ市南部で、トルコから武器弾薬を運び込もうとしていた反体制武装集団の車列を軍が攻撃、複数の戦闘員を殺傷、車輌・武器弾薬を破壊した。

またカフルハムラ村、マアーッラト・アルティーク村・バービース村間の街道、カフルダーイル村、アターリブ市、ハーン・アサル村郊外、ムスリミーヤ街道で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

アレッポ市では、サーフール地区などで、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、アクラブ町で、軍と反体制武装集団が交戦した。

一方、SANA(7月17日付)によると、フワイズ市、ジャービリーヤ村などで、軍が反体制武装集団と交戦し、シャームの民のヌスラ戦線の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、ジューズィフ市、バサーミース市、ナビー・アイユーブ高地、マアッルバリート市、マアスラーン市、ナイラブ村周辺、アリーハー市・サラーキブ市間の街道、マアッラト・ヌウマーン市、ワーディー・ダイフ軍事基地周辺、ハーミディーヤ航空基地周辺で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(7月17日付)によると、イドリブ市郊外の煉瓦向上近くの軍拠点(カルミード軍事基地)を襲撃しようといた反体制武装集団を軍が撃退した。

またダーナー市、バサーミス市、ダイル・サンバル村、ハーン・スブル村、バーラ村、イブリーン村、マルイヤーン村、ハーッス村、アリーハー市で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市の赤新月社地区、ラサーファ地区、ガリーバ村で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

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ラッカ県では、シリア人権監視団によると、タブカ航空基地周辺で、軍と反体制武装集団が交戦した。

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クナイトラ県では、SANA(7月17日付)によると、ジュバーター・ハシャブ村、タルナジャ市、ビイルアジャム市の郊外で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ラタキア県では、SANA(7月17日付)によると、ラビーア町、サーミヤ村、カラク村、ハーン・ジャウズ村で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

レバノンの動き

アラブ在外居住者世界機構のムハンマド・ディラール・ジャンムー政治交際関係局長が、サラファンド市(南部県サイダー郡)の自宅前で深夜、武装集団に暗殺された。

ジャンムー局長は親政権のシリア人政治活動家で、LBCI(7月17日付)によると、22発の銃弾を受けて、即死だったという。

諸外国の動き

ヨルダンの治安当局はシリアに不法入国しようとしたソマリア人12人を身柄拘束したと発表した。彼らの多くは妻と子供を連れていたという。

UPI(7月17日付)が報じた。

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国連のバレリー・アモス人道問題担当事務次長はジュネーブで記者会見を開き、シリアでおよび周辺諸国で人道支援を行う73,000人の活動を支援するため約40億ドルが必要だと述べた。

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イランのハサン・ロウハーニー次期大統領は、シリアとイランの緊密な関係を通じて「シオニスト政体をはじめとする地域の敵」に対抗すると述べる一方、シリアが「現下の危機を克服するだろう」との書簡をアサド大統領に送った。

またロウハーニー次期大統領はヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長にも書簡を送り、対イスラエル闘争における「努力」を賞賛する一方、レバノンの国家の安定を支持するとの意思を表明した。

IRNA(7月17日付)が報じた。

AFP, July 17, 2013、The Daily Telegraph, July 17, 2013、Elaph, July 17, 2013、al-Hayat, July 18, 2013, July 19, 2013、IRNA, July 17, 2013、Kull-na Shuraka’, July
17, 2013、Kurdonline, July 17, 2013、Naharnet, July 17, 2013、Reuters, July
17, 2013、SANA, July 17, 2013、al-Sharq al-Awsat, July 17, 2013、UPI, July 17, 2013などをもとに作成。

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