自由シリア軍筋によってアル=カーイダがシリア北部でイスラーム国家樹立を宣言しようとしていることが明らかに、同組織は構想の実現に向けイドリブ県バーブ・ハワー市、ハーリム市の攻略を本格化(2013年7月16日)

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反体制勢力の動き

『シャルク・アウサト』(7月16日付)は、自由シリア軍の指導者(匿名)が、アル=カーイダがシリア北部でイスラーム国家樹立を宣言しようとしていることを明らかにしたと報じた。

同報道によると、この計画は7月6日のイドリブ県ダーナー市での「自由シリア軍」とサラフィー主義武装集団の衝突で、後者の司令官ファーディー・カッシュとその弟が殺害されたことを受けて浮上、ラマダーン月1日(7月9日)からそのための作戦を開始、イドリブ県内の対トルコ国境に面するバーブ・ハワー市、ハーリム市の攻略を本格化したという。

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バッラー大隊はビデオ声明を出し、軍が突入したダマスカス県カーブーン区に戦闘員数十人を派遣したと発表した。

声明で同大隊は「ダマスカスのカーブーン区住民の要請に応じ、我々は同地区の包囲解除と民間人保護…同地に駐留する諸部隊支援のために援軍を派遣することを発表する…。カーブーンは東グータ地方の不可分の一部であり、同地区の陥落は東グータ全体の陥落に等しい」と主張した。

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シリア国内で活動するシリア人避難民救済委員会のムハンマド・ダルアーウィーを名のる調整官は『ハヤート』(7月17日付)に「対ヨルダン国境近くの道路が数日前から封鎖されている」としたうえで、ヨルダンに避難しようとしているシリア人数万人の「人権状況が悪化している」と述べた。

またヨルダン側も「タッル・シハーブ地方近くに多数の避難民が押し寄せてきた」ことを受け、違法に開設されていた国境通行所を閉鎖していると付言した。

ダルアーウィー調整官はヨルダンの複数の士官に電話で閉鎖の理由を尋ねたが、満足できる回答は得られなかったという。

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シリア革命反体制勢力国民連立のミシェル・キールー(シリア民主主義者連合)は滞在先のパリでロイター通信(7月16日付)に、国内の反体制武装集団を再構成し、資金・武器供与を行うため、移行期政府に代えて、「執行評議会」(執行委員会)を結成する準備を行っていると語った。

キールーによると、「執行評議会」は10名のテクノクラートからなり、連立の指導部から独立した機関になるという。

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シリア国民評議会元事務局長のブルハーン・ガルユーンはフェイスブックで「シリア革命反体制勢力国民連立は、革命と国の行方を決定するうえで大きな比重を占めていない。最大の比重は、(反体制)武装組織と、アサド体制が安定しないことを国益とする支援国にある…。私見では、連立には、(反体制)武装組織の状況改善、組織化、統合、支援国との調整、動員、武器供与のレベル向上のために活用する以外には価値はない」と述べた。

国内の暴力

ダマスカス県では、『ハヤート』(7月17日付)などによると、カーブーン区、バルザ区などで、軍と反体制武装集団の交戦が続き、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(7月16日付)によると、カーブーン区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、シャームの民のヌスラ戦線の戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

またバルザ区、マイダーン地区では、反体制武装集団が撃った迫撃砲弾が着弾し、子供1人を含む複数の市民が負傷した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ムライハ市および同市周辺、ドゥーマー市周辺、ザバダーニー市などで、軍と反体制武装集が交戦、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(7月16日付)によると、ハラスター市、ダイル・サルマーン市、マルジュ・スルターン村、ハーミスィーヤ村郊外で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、シャームの民のヌスラ戦線の戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

またジャルマーナー市では、反体制武装集団が撃った迫撃砲弾が着弾し、市民4人が負傷した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ナワー市に複数の迫撃砲弾が着弾し、子供1人が死亡、また反体制武装集団が同市内の中部および東部の検問所4カ所を制圧した。

これを受け、軍はナワー市への空爆を行った。

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クナイトラ県では、シリア人権監視団によると、反体制武装集団が15日に突入・制圧したカフターニーヤ町周辺で、軍と反体制武装集団が交戦、この戦闘で反体制武装集団は軍の戦車4輌を破壊し、複数の兵士を殺傷した。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、サフィーラ市および同市周辺で、軍と反体制武装集が交戦、軍が砲撃を加えた。

またクッルナー・シュラカー(7月16日付)によると、ハーン・アサル村での軍との戦闘で、クルド・アーザーディー大隊(別名アリー・シーシャーニー大隊)のジハード・シャアブー司令官が戦死した。

一方、SANA(7月16日付)によると、アルカミーヤ村、マンナグ航空基地周辺、マンナグ村、マンスーラ村、ハーン・アサル村、アレッポ中央刑務所周辺、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

アレッポ市のラーシディーン地区、アシュラフィーヤ地区、ハーリディーヤ地区、ライラムーン地区で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、カルミード軍事基地周辺、ジャーズィル軍事基地周辺、アリーハー市などで、軍と反体制武装集の交戦が続く一方、反体制武装集団はアリーハー・アレッポ街道の検問所1カ所を制圧した。

一方、SANA(7月16日付)によると、マアッラト・ヌウマーン市内で、軍が反体制武装集団に対する特殊作戦を行い、シャームの民のヌスラ戦線の戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ハサカ県では、シリア人権監視団によると、ラアス・アイン市で、民主統一党人民防衛隊がシャームの民のヌスラ戦線と交戦し、ヌスラ戦線戦闘員4人が死亡、3人が負傷した。

この戦闘で人民防衛隊は、ヌスラ戦線に拉致されていた隊員1人に釈放に成功、また同戦線が占拠していた政治治安部施設を制圧した。

一方、SANA(7月16日付)によると、タッル・アフマル村で、軍が反体制武装集団に対する特殊作戦を行い、カアカーア旅団の戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、対イラク国境に近いフール市を軍が空爆した。

一方、SANA(7月16日付)によると、ダイル・ザウル市の旧空港地区、工業地区、マリーイーヤ村で、軍と反体制武装集団が交戦し、ハドラー大隊の戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ハマー県では、SANA(7月16日付)によると、ハウワーシュ村で、軍が反体制武装集団と交戦し、シャーム自由人旅団の戦闘員を殲滅した。

またサラミーヤ市では、反体制武装集団が道路に仕掛けた爆弾が爆発し、市民2人が死亡した。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ザーラ市で、「ラマダーン休戦」の実施に尽力していた「地元和解委員会」のメンバー7人が人民諸委員会(自警団)によって殺害された。

殺害された「地元和解委員会」は退役士官2人、モスクのイマームらからなっていた。

その他の国内の動き

SANA(7月16日付)によると、ダマスカス郊外県のドゥーマー市、ハサカ県シャッダーディー市で、武装テロ集団の退去を求めるデモが発生し、多数の市民が参加した。

レバノンの動き

AFP(7月16日付)などによると、ベカーア県ザフラ郡の対シリア国境に位置するマスナア市の街道で爆弾が爆発し、シリアに向かっていたヒズブッラーの車列(2台)が被弾、2人が負傷した。

国連の動き

国連安保理で、オーストラリアとルクセンブルクの提案のもと「中東情勢」に関する会合が開かれ、人権関連団体およびシリア周辺諸国の代表が参加、シリア情勢への対応について協議した。

会合に参加したアントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官は「これほどの規模での避難民の流出は、約20年前のルワンダでの大虐殺以降見たことがなかった…。(シリアの)この危機は、我々が恐れていた以上のものになっており、人道面への悪影響は耐えがたい」と述べた。

またバレリー・アモス人道問題担当事務次長は「この危機は地域的だ」としたうえで「国際社会全体の継続的関与」が必要だと主張、国際社会に対して、シリア領内への「越境支援」を行うよう呼びかけた。

これに対して、シリアのバッシャール・ジャアファリー国連代表は、現下の紛争状態が「テロとの戦い」だと述べ、「我々は世界全体に代わってタクフィール主義・原理主義的テロと戦っている」と主張、「テロリストを養っている国々にもテロはいずれ達するだろう」と警鐘を鳴らした。

また会合に提示された「約180万人」という避難民数の集計に関して「プロらしからぬ」かたちでなされたと批判した。

一方、レバノンのナウワーフ・サラーム国連代表は「レバノンのシリア人避難民の数が今年末までに122万9,000人に達することが見込まれる」と述べ、危機感を表明した。

諸外国の動き

パキスタンのターリバーン幹部で、同シューラー会議メンバーの一人はAFP(7月16日付)に対して、「ターリバーンに戦術上の何らの変化も生じていないし、シリアに部隊を派遣する決定も下されていない…。こうしたニュースは正しくない。我々には現地でより優れた目標がある。米国が指導するNATO軍が依然としてアフガニスタンに駐留しているからだ」と述べた。

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イラクの法治国家連立(ヌーリー・マーリキー代表)のイッザト・シャーバンダル議員は『ハヤート』(7月17日付)に「イラクは独立国であり、米国、イスラエルの命令を受けない。またシリアの反体制勢力への西側の武器供与に反対する権利がある。なぜなら、これらの武器の半分は、イラクに流れてくるからであり、こうした状況には自衛に対する断固たる姿勢が求められるからだ」と述べた。

またイラクからシリアへの武器兵站の空輸に関しては「武器流入を阻止する能力をイラクは持っていない」と述べた。

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イランのアッバース・アラクジー外務省報道官は、「我々は(シリアの反体制勢力に)完全休戦を実施し、武器を置き、シリア政府との交渉を始めることを忠告する…。軍事的解決はない。唯一の道は政府と真の反体制勢力による国民対話だ」と述べた。

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イスラエル軍報道官は、イスラエルが占領するゴラン高原南部の兵舎にシリアの武装集団が侵入し、軍パトロール部隊に発砲してきたと発表した。

同報道官によると、この兵舎は現在使用されておらず、イスラエル軍は武装集団に対して応戦した、という。

この交戦で死傷者が出たかについては明らかにしなかった。

AFP, July 16, 2013、al-Hayat, July 17, 2013, July 18, 2013、Kull-na Shuraka’, July 16, 2013、Kurdonline,
July 16, 2013、Naharnet, July 16, 2013、Reuters, July 16, 2013、SANA, July
16, 2013、al-Sharq al-Awsat, July 16, 2013、UPI, July 16, 2013などをもとに作成。

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