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イスラエル軍によるシリア領内への侵入
シリア軍武装部隊総司令部は声明を出し、午前1時10分、軍が、ゴラン高原の停戦ラインを越えてシリア領内のビイル・アジャム村に向かって進入したイスラエル軍車両1輌を破壊したと発表した。
声明によると、ビイル・アジャム村には、「武装テロ集団」が潜伏しているという。
声明はまた、イスラエル軍が、シリア軍の攻撃を受け、熱源追跡ミサイル2基をタッル・ファルス村(イスラエル占領下)からズバイディーヤ村(シリア主権下)の軍の陣地に発射したと付言した。
そのうえで、シリアの主権に対するあらゆる侵害に対して「断固として応戦する」との意思を示した。
SANA(5月21日付)が報じた。
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シリアの外務在外居住者省は、国連安保理議長と事務総長に宛てて書簡を提出、そのなかでイスラエル軍による領内への侵犯を報告、非難した。
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イスラエルの複数のメディアによると、モシェ・ヤアロン国防大臣は、過去48時間以内にシリア領内から停戦ラインを越えてイスラエルが占領する(併合した)ゴラン高原に向けて2度にわたって発砲したと示唆したうえで、「我々の政策は明白だ。シリアの内戦には介入しないが、事態がゴラン高原情勢に関われば、我々の領内への銃弾の雨を許すことはない」と述べた。
イスラエル軍消息筋によると、軍はシリア領内から国境地帯への発砲に対して応戦するよう指令を出したという。
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一方、『ハヤート』(5月22日付)によると、イスラエル軍報道官は、シリア領内でイスラエル軍車輌が破壊されたとのシリア側の発表を「根拠がない」と否定した。
また同報道官は、21日未明にシリア人負傷者が、イスラエル北部のサファド病院に搬送されたことを明らかにした。
なお、これに先だって、イスラエル軍は、ゴラン高原でのシリア軍の発砲により軍の車輌が小破したとしたうえで、ドゥルーズ派の兵士がシリア領内に正確に反撃し、複数名を負傷させたと発表した。
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クッルナー・シュラカー(5月21日付)は、イスラエル占領下ゴラン高原のシリア人反体制活動家の話として、シリア軍高官が乗っていると思われるメルセデスがUNDOFの兵力引き離し地域を経由して、イスラエル領内に入り(未確認情報)、イスラエル側と何らかの折衝を行ったと思われる、と報じた。
このメルセデスは約8時間にシリア領内に戻ったという。
国内の暴力
ヒムス県では、『ハヤート』(5月22日付)などによると、クサイル市の西部、南西部などで、ヒズブッラーの支援を受けているとされる軍と、反体制武装集団の戦闘が続いた。
同紙によると、軍は市内に対して空爆を行った。
AFP(5月21日付)は、反体制活動家らの話として、反体制武装集団は、市内東部前線で軍による突入を2度にわたって阻止することに成功し、その際に市内への突入を試みる兵士約40人が死亡し、反体制武装集団はヒズブッラーの戦闘員1人の遺体を回収した、と報じた。
また、活動家らによると、ヒズブッラーの戦闘員と軍兵士が、空爆・迫撃の援護を受けて、クサイル市への攻撃を再開し、同市の南部、西部の入り口は、すでにヒズブッラーによって制圧されているという。
DamPost(5月21日付)などは、自由シリア軍が声明を出し、クサイル市奪還のため、軍とヒズブッラーに対して「死の壁」作戦を行うと発表したと報じた。
シリア人権監視団は、19日からのクサイル市での戦闘によるヒズブッラー戦闘員の死者数は31人に達したと発表した。
一方、SANA(5月21日付)によると、ヒムス市内の中部、北部街区で、軍は反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、武器兵站支援のために使用していたトンネルなどを破壊した。
この際、軍は、シャームの民のヌスラ戦線司令官の一人ワルダーン・ズフーリーを殺害した。
また、レバノン領内からクサイル市郊外への潜入を試みた反体制武装集団を軍が撃退したという。
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同じくヒムス県では、SANA(5月21日付)によると、ヒムス市ワアル地区などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
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ダマスカス郊外県では、SANA(5月21日付)によると、フジャイラ村、アドラー市、ハラスターし、ジャルバー市、バハーリーヤ市、カイサー市、タッル・クルディー町で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
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ダマスカス県では、SANA(5月21日付)によると、バルザ区およびその周辺、ジャウバル区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、シャームの民のヌスラ戦線メンバーら複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
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アレッポ県では、SANA(5月21日付)によると、マンナグ航空基地周辺、ハーン・アサル村、アレッポ中央刑務所周辺、アルカミーヤ村、アイン・ダクナ村、カフルハーシル村、マーイル町で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
またアレッポ市では、ブスターン・カスル地区、シャイフ・サイード地区、ライラムーン地区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
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イドリブ県では、SANA(5月21日付)によると、サルミーン市、シャビーバ軍事基地周辺、ウンム・ジャリーン村、タッル・サラムー市、ブワイティー市、マジャース市、アブー・ズフール軍事基地周辺で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
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ダルアー県では、SANA(5月21日付)によると、ヨルダン領内からの密入国を試みた武装集団の戦闘員多数を軍が拘束した。
またダルアー市、シャジャラ町、フラーク市、サフム・ジャウラーン村、ナーフィア村、シャブラク村、シャイフ・マスキーン市、ハバブ町、ブスル・ハリール市などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
シリア政府の動き
『ハヤート』(5月22日付)は欧州外交筋の話として、アサド政権が「ジュネーブ2」大会に出席する政府側の代表として、ワーイル・ハルキー首相、ジャミール・カドリー経済問題担当副首相兼国内通商消費者保護大臣、ウムラーン・ズウビー情報大臣、アリー・ハイダル国民和解問題担当国務大臣、ジョゼフ・スワイド赤新月社担当国務大臣の5人を提示したと報じた。
欧州筋によると、反体制勢力は、影響力の低い一部の高官が代表として派遣されることに異議を唱えているという。
一方、クッルナー・シュラカー(5月22日付)は、ロシアがアサド政権に対して、ジュネーブ2会議の使節団メンバーを再選定し、2月にロシア側に示された使節団にとって代えるよう要請、これを受け、アサド政権は、ワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣、ブサイナ・シャアバーン大統領府政治情報補佐官、アリー・ハイダル国民和解問題担当国務大臣らからなる新たな使節団名簿をロシア側に提示したと報じた。
反体制勢力の動き
スペインのマドリードで、国民成長党のイニシアチブのもとに開かれていたシリア国民協議会合は、2日間の予定を終えて閉幕し、「アサド大統領および現体制は移行期の一部をなさず、シリアの将来における役割はない」ことを確認、また「民主制の樹立」をめざすことを合意した。
また、会合では、シリア国民連立反体制勢力国民連合をジュネーブ2会議におけるシリアの反体制勢力側の代表とすることが承認された。
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クッルナー・シュラカー(5月21日付)は、ヒムスの代表として参加した「アブー・サリーム」の話として、シリア国民協議会合の出席者が、シリアの危機の政治的解決を受け入れつつ、アサド政権との対話を通じて何も期待しておらず、軍事的バランスを変化させ、アサド政権を追い詰める必要があることを確認した、と報じた。
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なおクッルナー・シュラカー(5月21日付)は、イスタンブールの反体制消息筋の話として、シリア国民協議会合に参加したシリア革命反体制勢力国民連立のメンバーは、ジュネーブ2会議に先立って、反体制勢力を政治的ビジョンの統一と対話を促すため、「個人の資格」で参加したと報じた。
同報道によると、こうしたメンバーの動きに、シリア革命反体制勢力国民連立は「消極的中立」の姿勢を示している、という。
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クッルナー・シュラカー(5月21日付)は、5月28日にイスタンブールで開催予定のシリア革命反体制勢力国民連立の会合(総合委員会)で新規加入予定メンバーのリストを入手したとしたうえで、その氏名を公開した。
加入予定メンバーには、ワリード・ブンニー、ミシェル・キールー、ファーイズ・サーラなどシリア民主フォーラム指導者、シャーム・ウラマー連盟、シリア・イスラーム戦線、クルド人活動家などの名前が列記されている。
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クッルナー・シュラカー(5月21日付)は、CNNの情報をもとに、シリア国内で化学兵器が使用されたとされる場所、死傷者数を示した地図を公開した。
クルド民族主義勢力の動き
『ハヤート』(5月21日付)によると、民主統一党人民防衛隊は、イラク(クルディスタン地域)から「違法に」シリア領内に入ろうとしたシリア・クルド民主党アル・パールティの戦闘員74人を逮捕した、と報じた。
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この逮捕を受け、イラク・クルディスタン地域大統領府は声明を出し、「一部の当時者」が武装化し、他のクルド民族主義政党・組織を排除、そのメンバーらを殺害、逮捕している」とし、民主統一党を暗に批判した。
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クッルナー・シュラカー(5月21日付)は、民主統一党人民防衛隊は、イラク(クルディスタン地域)から「違法に」シリア領内に入ろうとしたシリア・クルド民主党アル・パールティの戦闘員74人を逮捕したのを受け、イラク・クルディスタン地域政府は、スィマールカー国境通行所を完全封鎖した、と報じた。
スィマールカー国境通行所は2013年2月に開設された通商用の通行所。
レバノンの動き
NNA(5月21日付)によると、北部県アッカール郡アクルーム山、ワーディー・ハーリド地方に、シリア領内から発射された迫撃砲弾が複数発着弾し、レバノン人、シリア人が少なくとも8人が負傷した。
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ムスタクバル潮流は声明を出し、ミシェル・スライマーン大統領、ナジーブ・ミーカーティー暫定首相、ナビーフ・ビッリー国民議会議長に対して、ヒズブッラーによるシリアへの干渉を停止させるよう呼びかけた。
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マルワーン・シルビル内務地方自治大臣は、シリアからの避難民の流入に関して「レバノンの声」(ラジオ)で、「我々はシリア人避難民をキャンプにとどめておくべきだった…。我々は対応を誤った」と述べ、シリア人避難民の流入により、トリポリ市バーブ・タッバーナ地区、ジャバル・ムフスィン地区などでの市民どうしの対立が煽られているとの見方を示した。
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北部県トリポリ市のバーブ・タッバーナ地区、ジャバル・ムフスィン地区で住民どうしの交戦が再発し、アラブ民主党によると、少なくとも4人が死亡、複数が負傷した。
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『ディヤール』(5月21日付)は社説(シャールル・アイユーブ編集長)で、シリアのアサド大統領が、国軍司令官時代のミシェル・スライマーン現大統領に、アースィフ・シャウカト准将やムハンマド・ナースィーフ少将の執務室を通さず、自身に直接連絡をとるよう求めていたことを明らかにした。
またアサド大統領はスライマーン司令官(当時)に、レバノンの大統領になるであろうことを告げていた、という。
諸外国の動き
『ハヤート』(5月22日付)は、自由シリア軍司令官らの話として、ヨルダンの治安当局が、アンマンでのシリアの友連絡グループ会合に合わせて、4日間にわたって治安上の理由から対シリア国境の通行所閉鎖を決定したと報じた。
またヨルダン当局も未明、ヨルダンに避難するシリア人の入国を24時間停止すると発表した。
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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長はカイロでの常駐代表レベル緊急会合で、ジュネーブ2会議について触れ、「我々は大会させてはならない。その成功以外にシリア危機解決の道はない」と述べ、国連安保理に国連停戦監視団の派遣などを定めた決議の採択を求めた。
また、アラビー事務総長は、アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表、潘基文国連事務総長、さらにはシリアの反体制勢力との連絡で、ジュネーブ2会議開催に向けた準備を進めることで確認したことを明らかにした。
さらに、シリアの反体制勢力がイランの介入やヒズブッラーの参戦に懸念を抱いていることを紹介し、こうした動きがシリア国内に悪影響を及ぼしかねないと警鐘を鳴らした。
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『ハヤート』(5月22日付)は、ヨルダン消息筋の話として、アンマンで22日開催予定のシリアの友連絡グループ会合で、ジョン・ケリー米国務長官が、シリアの反体制勢力使節団に対してジュネーブ2会議の原則を受け入れるよう説得し、「アサド大統領の退任が移行期政府発足後に漸進的になされる」ということを説得しようとしていると報じた。
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米ホワイト・ハウスのジェイ・カーニー報道官は、「クサイルに対する戦闘にヒズブッラーが直接関与していることを…改めて非難する。同地でヒズブッラーは(アサド)政権の攻撃において重要な役割を果たしている」と述べた。
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ジョン・ケリー米国務長官に同行する米国務省の匿名高官は、オマーンの首都マスカットで、「シリアの戦闘へのヒズブッラーの参加はより顕在化しているが、我々は、同地にイラン人もいるとの情報も得た」と述べた。
同高官は「イラン人が戦闘に直接関与しているかは分からない」としている。
AFP(5月21日付)が報じた。
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イラン外務省のアッバース・アルガシー報道官は、「ジュネーブ2成功の条件は、シリアの出来事に対して影響力を行使し得るすべての国の参加を通じて、大会を拡大することにある…。イランがもっとも影響力を行使し得る国の一つであることを世界の誰も疑わない」と述べた。
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英国のアリスター・バート中東問題担当大臣は『ハヤート』(5月22日付)に対して、「ヒズブッラーの軍事部門をテロ組織として認定するようEUに要請した」ことを明らかにした。
バート大臣は、その理由として、ブルガリでのイスラエル兵士殺害、キプロスでのテロ計画などを通じて、テロ活動を行っていることが確認されたと述べた。
しかしバート大臣は、「ヒズブッラーの軍事部門と政治部門を分離して考えなければならない。政治部門は、レバノンの安定維持に一定程度役割を果たしていると思う」と付言した。
一方、ジュネーブ2会議へのイランの参加の是非に関して、「イランがこうした大会でいかなる役割を果たすか明確ではないが、この問題に関する決定はなされていない」と述べた。
AFP, May 21, 2013、DamPost, May 22, 2013、al-Diyar, May 21, 2013、al-Hayat, May 22, 2013、Kull-na Shuraka’, May 21, 2013、Kurdonline, May 21, 2013、Naharnet,
May 21, 2013、Reuters, May 21, 2013、SANA, May 21, 2013、UPI, May 21, 2013などをもとに作成。
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