アサド大統領がアルゼンチン紙によるインタビューのなかで「政治的解決をもたらすあらゆる行動を支持している」としつつ、化学兵器使用をめぐる西側メディアの報道の狙いが軍事介入にあるとの見解を示す(2013年5月18日)

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アサド大統領のインタビュー

SANA(5月18日付)によると、アサド大統領はアルゼンチン日刊紙『クラリン』と国営通信社TELAMのインタビューに応じた。

アラビア語全文:http://sana.sy/ara/2/2013/05/19/482896.htm
英語訳文:http://sana.sy/eng/21/2013/05/18/482901.htm

SANA, May 18, 2013

SANA, May 18, 2013

インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り。

「(シリアの)危機には様々な内的、外的な要因が作用している。うちもっとも重要なのは外国の干渉だ…。(西側)諸国は計画が数週間、数ヶ月で終わると考えていたが、そうはならなかった。実際に起きたのは、あらゆる外国の介入へのシリア国民の抵抗、拒否だった」。

「何よりもまず、殺戮は醜い行為だと言いたい。1人であっても数百人が殺されてもだ。なぜなら殺されているのがシリア人だからだ。しかし、彼ら(西側諸国)が云々する死者の多くが、シリア国民を殺すためにやって来た外国人であることを無視はできない。彼らはシリア人ではない」。

「テロが改革の方法になることはあり得ない。チェチェンから来るテロリストとシリアの改革に何の関係があるのか?イラク、レバノン、アフガニスタンから来るテロリストと改革に何の関係があるのか?最近の統計によると、約29カ国の外国人がシリアで戦っている…。一方、我々に関して言うと、我々は改革を行った。また今、我々は対話からなる政治的イニシアチブを示している。あらゆる政治的解決の基礎は、シリア国民が何を望むかということだ。これは投票箱によって決められることで、それ以外に方法はない。テロリストに関して言うと、誰もテロリストとは対話はしない…。世界のどの政府がテロリストと対話をするのか?」

「我々は政治的解決をもたらすあらゆる行動を支持している…。我々はロシアと米国の接近を歓迎しており、シリア人がこの危機を克服するを支援するための国際会議を望んでいる。しかし、多くの西側諸国がシリアでの解決を望んでいないと思う。テロリストを支援する国々が危機の解決を望んでいるとは思えない…。我々は現実主義者でなければならない…。シリアの一当時者だけから解決策は導出され得ない。少なくとも二つの当時者がいなければならない」。

「(西側諸国が)言及する在外の反体制勢力は、外国とつながりがある。これらの勢力は独自の決定を下すことができる勢力ではない。これらの勢力は外国に養われ、資金援助を受けている…。これらの国が決めたことを言うだけだ…。より重要なことは、これらの組織にはシリア国内で大衆基盤を持たないことだ…。一方、我々シリアには、政治的な反体制勢力はいる。それはシリア国内におり、さまざまなレベルではあるが大衆基盤を有している…。彼ら(在外の反体制勢力)は、対話を望んでいないと宣言した。我々が疑念を持っているのでなく…、彼らが正式に宣言したのだ」。

「イスラエルはテロ集団を二つの方法で支援している。第1に、これらの勢力に兵站支援を行っている…。一方(第2に)、イスラエルはこれらの組織に指示を下している。どういう風に攻撃をするかという指示をだ」。

「我々がシリアで外国人戦闘員が戦っていると言及すると、彼ら(西側諸国)は、シリアでヒズブッラーとイランも戦っていると反論した…。シリアには2,300万人の人口がおり、いかなる外国人の人的支援も必要としていない。我々には軍があり、治安部隊があり、自らの国を防衛しようとするシリア人がいる…。我々とヒズブッラー、イランの関係は非常に古く…、あらゆる分野で互いの経験を交換していることは周知のことだ…。もし戦闘員がいれば、シリア国民がそれを目にするだろうし、そのことを隠すことなどできない。しかし、彼らはどこにいるのか?…我々のもとにはいかなる外国人戦闘員もいない…。ヒズブッラーのメンバーやイラン人が何人もシリア国内にはいるが、彼らは危機が始まる前からシリアを往来してきただけだ」。

「私が(大統領として)とどまるか、去るかは、私が個人的に決めることではない…。2014年の大統領選挙で、国民がこの問題を決する」。

「ケリー(米国務長官)などが、シリア国民の名のもとに、(大統領が)去らねばならないとか、残留すべきだろうと云々することを承認されているかどうかはともかく、我々が当初から言ってきたのは、シリアの改革に関するいかなる決定も…シリア国内の問題であり、米国などが介入することは認められないということだ」。

「政府軍が化学兵器によって攻撃を行ったとする西側メディアの情報は、世論にシリアへの軍事介入を用意させることがねらいである…。化学兵器使用に関してシリアに向けられる嫌疑、そして私の辞任に関する声明は日々変わっている。それはおそらくは我々の国に戦争を仕掛けようとしているからだろう…。彼らは我々が居住地域で化学兵器を使用したと主張している。この兵器が都市や村に対して使用されたのに、死者が10人から数十人しか出なかったということが信用できるだろうか?…科学兵器が使用されれば、数千人、数万人が数分で死ぬ。こうしたことを誰が隠蔽できようか?」。

国内の暴力

ハマー県では、アラウィー派が多く住むトゥライスィーヤ村、ズグバ村、シュウタ村、バリール村を反体制武装集団が制圧した、とシリア人権監視団が発表した。

同監視団によると、数週間におよぶ戦闘の末、軍が4村を撤退し、反体制武装集団が制圧したという。

またハルファーヤー市が軍の空爆を受けた。

一方、SANA(5月18日付)によると、ハルダーン市、スーハ市、クライブ・スード市で、軍が反体制武装集団を追撃し、シャームの民のヌスラ戦線メンバーなど複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス県では、SANA(5月18日付)などによると、オートストラード・ルクンッディーン区で爆弾が仕掛けられた車が爆発し、市民14人が死傷した。

またドゥワイラア地区で、車に仕掛けられた爆弾が爆発し、市民4人が負傷した。

このほか、ジャウバル区で、軍が反体制武装集団を追撃し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、アドラー市、ムウダミーヤト・シャーム市、ムカイラビーヤ農場(キスワ市郊外)が軍の砲撃を受けた。

一方SANA(5月18日付)によると、シャイフーニーヤ村、タッル・クルディー町、ザバダーニー市、ライハーニー市郊外、ナバク市、ジャルバー市、バハーリーヤ市、ダーライヤー市、ヤブルード市、アドラー市などで、軍が反体制武装集団を追撃し、シャームの民のヌスラ戦線メンバ-(外国人戦闘員)など複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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アレッポ県では、SANA(5月18日付)によると、マンナグ航空基地周辺、アレッポ中央刑務所周辺、ハーン・アサル村などで、軍が反体制武装集団を追撃し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またアレッポ市ブスターン・カスル地区、ライラムーン地区などで、軍が反体制武装集団を追撃し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ラタキア県では、SANA(5月18日付)によると、ムライジュ村、ハドラー村、ブルジュ・ザーヒヤ村などで、軍がシャームの民のヌスラ戦線の拠点を攻撃・破壊、戦闘員を殺傷した。

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イドリブ県では、SANA(5月18日付)によると、アブー・ズフール軍事基地周辺、ジャーヌーディーヤ町、マアッラトミスリーン市、タフタナーズ市、アルバイーン山、タッル・サラムー市などで、軍が反体制武装集団を追撃し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ヒムス県では、SANA(5月18日付)によると、レバノン領内からタッルカラフ市周辺に密入国しようとした反体制武装集団を軍が発見、撃退した。

またタラフ村、タッルドゥー市などで、軍が反体制武装集団を追撃し、外国人戦闘員など複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

一方、「レバノンの声」ラジオは、レバノン領内からクサイル市郊外に潜入しようとしたヒズブッラーの戦闘員を自由シリア軍が攻撃し、ヒズブッラー側に10人の死者が出て、多数が負傷したと報じた。

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ダルアー県では、SANA(5月18日付)によると、ダルアー市内の軍検問所複数カ所が反体制武装集団の攻撃を受けたが、軍が応戦、南部タウヒード旅団、南部殉教者旅団、南部解放旅団メンバー、そして外国人戦闘員など複数の戦闘員を殺傷した。

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ダイル・ザウル市では、SANA(5月18日付)によると、ダイル・ザウル市旧空港地区、マリーイーヤ村などで、軍が反体制武装集団を追撃し、アンサール大隊メンバーなど複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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AFP(5月18日付)によると、治安当局が女優のミー・スカーフ女史を釈放した。スカーフ女史はダマスカス県ドゥンマル区で16日に身柄を拘束されていた。

反体制勢力の動き

クッルナー・シュラカー(5月18日付)は、国内で反体制活動を続ける民主的変革諸勢力国民調整委員会の執行部(ダマスカス)が、「ジュネーブ2」大会に参加する使節団を人選したと報じた。

同報道によると、主な使節団は以下の通り:アブドゥルアズィーズ・ハイイル、ハイサム・マンナーア、ラジャー・ナースィル、ムンズィル・ハッダーム、ジャマール・ムッラー・マフムード、アーリフ・ダリーラ。

上記メンバー以外にも、国内外で活動する活動家の人選がなされる、という。

諸外国の動き

クッルナー・シュラカー(5月18日付)は、軍を離反したクルド人士官3人が、イラク・クルディスタン地域のエルビル市に到着後、失踪したと報じた。

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ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティ・インターナショナル、国境なき記者団は、シリアの反体制人権団体とともに、2012年2月に逮捕され、依然身柄抗争中の人権活動家3人、マーズィン・ダルウィーシュ、フサイン・ガリール、ハーニー・ズィーターニーの釈放を要求した。

AFP, May 18, 2013、al-Hayat, May 19, 2013、Kull-na Shuraka’, May 18, 2013、Kurdonline, May 18, 2013、Naharnet,
May 18, 2013、Reuters, May 18, 2013、SANA, May 18, 2013、UPI, May 18, 2013、Voice
of Lebanon, May 18, 2013などをもとに作成。

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