ダーイシュ(イスラーム国)は、今度はイスラエル人(48年パレスチナ人)を処刑するビデオを公開(2015年3月10日)

ダーイシュ(イスラーム国)は、イスラエル諜報機関のスパイとして活動していたというイスラエル人のムハンマド・サイード・イスマーイール氏(19歳)を殺害する映像をインターネットを通じて公開した。

ARA News, March 11, 2015

ARA News, March 11, 2015

イスマーイール氏は、イスラエル国籍を持つ「48年パレスチナ人」(イスラエル・アラブ人)でエルサレム市出身。

ビデオ映像は約13分におよび、フルカーン広報制作機構のロゴが付されていた。

映像のなかで、イスマーイール氏は、オレンジ色の囚人服を着せられて、室内に座らされ、イスラエル諜報機関がどのように彼をスパイとして勧誘、養成したかを証言した。

イスマーイール氏によると、イスラエルの諜報機関の士官だった隣人から諜報員になるよう誘われ、家族に相談、両親や兄弟にスパイ活動を強く奨められ、諜報員になることを決心したという。

諜報員になることを決心したイスマーイール氏は、エルサレム市東部の訓練施設で、8人のイスラエル人とともに、1ヶ月間にわたり諜報員としての教練を受けた。

ともに教練を受けた8人は、イスマーイール氏とは異なり、いずれもユダヤ人だったという。

イスマーイール氏は教練後に帰宅し、今度はミーローを名のる諜報員からダーイシュ支配地域での諜報活動の誘いを受け、トルコを経由して、密輸業者の仲介でシリア領内に潜入した。

潜入後の任務は、イスラエルに武器、基地の場所、パレスチナ人戦闘員の居場所などを知らせることだったが、潜入後程なく、指示された任務の一部に失敗、自身の素性が知られることを恐れて、父親に連絡をとると、帰国するよう言われた。

だが、そのときにはすでにムジャーヒディーンに監視されており、逮捕・投獄され、逮捕後の聴取で、自身がイスラエルのモサドのスパイだったと自供したという。

イスマーイール氏は、自身をこのような状況に追いやったのは家族の責任だと非難して、証言を終えた。

その後、屋外で撮影されたシーンに切り替わり、イスマーイール氏は、軍服を着た子供に頭や体を撃たれ、銃殺された。

斬首はされなかった。

この子供は、隣に立っている男性から、フランス語で「カリフ制の若き勇者」と讃えられた。

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『ハヤート』(3月12日付)によると、イスラエル治安筋は、ダーイシュ(イスラーム国)に処刑されたムハンマド・サイード・イスマーイール氏が2014年10月にダーイシュに参加して戦闘を行うためにシリアに入ったとしつつ、スパイだったとのイスマーイール氏の自供を否定した。

またイスマーイール氏の父親も、息子がトルコに観光旅行中の2015年2月に失踪したと述べるとともに、「捕虜になったときに逃げようとしたが、彼ら(ダーイシュ)は息子にイスラエルのために活動していると言うよう求めた…。息子は犠牲者だ」と述べた。

母親も記者らに対して「10代のスパイ? そんなことあり得ますか? スパイだったとしてもなぜそこに行くの?」とスパイ容疑を否定した。

一方、イスラエルのモシェ・ヤアロン国防大臣は、国営ラジオで「シリアとイラクに行って、ダーイシュに参加しているイスラエル・アラブ人(48年パレスチナ人)が数十人いる。その一部は殺され、そのほかにも帰国しようとして逮捕された者がいる。だがこうした現象はイスラエル・アラブ人の間で広まってはいない」と述べた。

また「このイスラエル・アラブ人(イスマーイール氏)はモサドなどイスラエルのいかなる治安機関とも関係ない」と強調した。

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一方、AFP(3月11日付)は、信頼できる複数の消息筋の話として、ムハンマド・サイード・イスマーイール氏を殺害するダーイシュ(イスラーム国)のビデオに映っていた男性がサブリー・アスイード氏の可能性が高いと伝えた。

アスイード氏は、2012年にフランスで発生した連続銃撃事件の実行犯ムハンマド・ムラーフ氏の義理の兄弟にあたり、2014年4月にシリアに向かったとされている。

エスィード氏は、2006年にイラクに向かおうとしていたアル=カーイダ戦闘員を自宅にかくまっていたことで、フランス当局に逮捕され、国外追放処分を受けていたという。

AFP, March 11, 2015、AP, March 11, 2015、ARA News, March 11, 2015、Champress, March 11, 2015、al-Hayat, March 12, 2015、Iraqi News, March 11, 2015、Kull-na Shuraka’, March 11, 2015、al-Mada Press, March 11, 2015、Naharnet, March 11, 2015、NNA, March 11, 2015、Reuters, March 11, 2015、SANA, March 11, 2015、UPI, March 11, 2015などをもとに作成。

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