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ムハンマド・サイード・ラマダーン・ブーティー暗殺
ダマスカス県マズラア地区のイーマーン・モスクに対して自爆テロが行われ、ムハンマド・サイード・ラマダーン・ブーティー師を含む42人が死亡、84人(SANA発表)が負傷した。
自爆テロ発生時、ブーティー師はモスク内で学生らに宗教の授業を行っていた。
犠牲者のなかにはブーティー師の孫も含まれている。
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ブーティー師は、1929年に現在のトルコ領内に位置するジャズィーラ・ブータン(ジャズィーラ・イブン・ウマル)地方のジルカー村で生まれた。クルド人。1933年に家族とともにトルコを逃れ、ダマスカスに移住、アズハル大学での修学後、ダマスカス大学シャリーア学部長などを歴任、2012年の退官後はビラード・シャーム・ウラマー連合の代表を務めてきた。
シリアでもっとも著名なシャイフで、故バースィル・アサド准将、アサド大統領の「養育係」として、宗教やアラビア語を教授した人物で、ハーフィズ・アサド前政権および現政権を一貫して支持してきた。
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ブーティー師が犠牲になったイーマーン・モスクに対する自爆テロに対して、ワーイル・ハルキー内閣は声明を出し、「臆病で卑劣な行為」と非難した。
またムハンマド・アブドゥッサッタール・サイイド宗教関係大臣も声明を出し、ブーティー師暗殺を「憎しみ、犯罪、裏切り、計略、そしてタクフィールを認めるファトワーの手先が、言葉、思考、対話の男、慈愛と決意の男を暗殺した」と非難した。
このほか、バアス党シリア地域指導部、統一社会民主党、アラブ社会主義連合党、変革解放人民戦線、シリア改革党(野党)が相次いで非難声明を出した。
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自由シリア軍は、アラビーヤ(3月21日付)に対し、ブーティー師暗殺への関与を否定した。
『ハヤート』(3月22日付)によると、複数の反体制筋が「彼の姿勢は学生など多くの人々の(革命に対する)感情に反していた」とし非難しつつ、偉大なシャイフの死に哀悼の意を評したという。
一方、シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・マアーッズ・ハティーブ議長は声明を出し、ブーティー師暗殺を「あらゆる尺度においても完全に拒否されるべき犯罪」と強く非難、その背後にアサド政権がいると思われると断じた。
自由シリア軍合同司令部中央広報局は声明を出し、ムハンマド・サイード・ラマダーン・ブーティー師暗殺に関して、「明らかになっていない多くの曖昧な点があるが」としたうえで「こうした行為はシリア革命と自由シリア軍の道徳、原則、目的と無縁だ」と関与を否定した。
そのうえで「こうした行為は、シリア革命を失敗させようとする計略の一部をなす」とし、その背後に「一部の居住地や巡礼地を保護する口実で近隣諸国からの戦闘員流入を正当化しようとする…第一歩だ」と指摘、イランとヒズブッラーに嫌疑を向けた。
その他の国内の暴力
クナイトラ県では、シリア人権監視団によると、反体制武装集団が、マシャーティー・ハドル地区、ダウワール・バラド・ハーン・アルナバ地区、および県内の砲兵大隊拠点2カ所を戦闘の末に制圧し、またハーン・アルナバ市とジュバーター・ハシャブ村間の砲兵大隊拠点周辺や検問所で軍と交戦、これに対して軍はタラール・ハムル市に砲撃を加えたという。
一方、SANA(3月21日付)によると、タラール・ハムル市、ハーン・アルナバ市、ハドル村で、軍が反体制武装集団と交戦し、シャームの民のヌスラ戦線メンバーを含む複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ゴラン高原に近いスィヒム地方、ワーディ・ヤルムーク地方で軍と反体制武装集団が交戦した。
同監視団によると、反体制武装集団はジッリーン村の士官クラブを占拠、これに対して軍はサフム・ジャウラーン村、タスィール町、シャジャラ町、ナーフィア村、ジャムラ村などに砲撃・空爆を行ったという。
クナイトラ県とダルアー県での反対武装集団と軍の戦闘激化に関して、AFP(3月21日付)はシリア治安筋の話として、「2,000人から2,500人の戦闘員がヨルダン領内からシリアに潜入し…、彼らはよく訓練され、十分な装備で武装している」と報じた。
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ダマスカス郊外県では、SANA(3月21日付)によると、ハラスター市、ドゥーマー市郊外、ダーライヤー市、フジャイラ村などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、バッラー大隊メンバーなど複数の戦闘員を殺傷、拠点・武器を破壊した。
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ダマスカス県では、SANA(3月21日付)によると、ジャウバル区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・武器を破壊した。
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アレッポ県では、SANA(3月21日付)によると、マンナグ村および同市郊外、アイン・ダクナ村、カフルハースィル市、ハーン・アサル村、カフルナーハー村、フライターン市、アターリブ市、マンスーラ村、アルカミーヤ村、ダーラト・イッザ市、マアーッラ・アルティーク村などで、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・武器を破壊した。
またアウラム・クブラー町では、反体制武装集団どうしが略奪品の分配をめぐり衝突し、双方に複数の死傷者が出た。
アレッポ市では、マサーキン・ハナーヌー地区、ブスターン・バーシャー地区、ブスターン・カスル地区などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・武器を破壊した。
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イドリブ県では、SANA(3月21日付)によると、ジャーヌーディーヤ町、マガーラ村、サラーキブ市・タッル・サラムー市間の街道、ブワイティー市、タッル・サラムー市、ウンム・ジャリーン村、マアッラト・ヌウマーン市、ワーディー・ダイフ軍事基地周辺、ハーミディーヤ航空基地周辺、サルミーン市などで、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・武器を破壊した。
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ハマー県では、SANA(3月21日付)によると、ラフジャーン市を襲撃しようとした反体制武装集団を軍が撃退した。
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ヒムス県では、SANA(3月21日付)によると、ヒムス市ジャウラト・シヤーフ地区などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・武器を破壊した。
またヒムス市ワーディー・ザハブ地区で、反体制武装集団が車に爆弾を仕掛けて爆破、市民2人が死亡した。
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ラタキア県では、SANA(3月21日付)によると、カフルティー村で軍がシャームの民のヌスラ戦線を追撃、戦闘員を殲滅、装備を破壊した。
反体制勢力の動き
シリア革命反体制勢力国民連立の駐英代表大使を名のるワリード・サフールは『ハヤート』(3月22日付)に対して、「シャームの民のヌスラ戦線はシリアの組織ではない。そのメンバーはシリア人ではなく、外国人だ…。その数は膨大だが、戦闘員全体の5~10%を占めるに過ぎない」と述べた。
またサフール大使は、シリアでのカリフ制の樹立を求めているヌスラ戦線が「危機が終わり、アサド政権が倒れればシリアを去るだろう」と楽観的に述べた。
しかし「我々が彼ら(ヌスラ戦線)がテロリストだというアメリカの指定を受け入れるのであれば、それはつまり、我々がシリアの革命家のなかに紛争を持ち込むことを意味する」と述べ、シャームの民のヌスラ戦線をテロ組織とみなすことを拒否した。
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スハイル・アタースィーはフェイスブック(3月21日付)で、シリア革命反体制勢力国民連立のメンバーシップ凍結(20日発表)を撤回し、組織に復帰すると綴った。
アタースィーは「チームワーク欠如に関する深淵で真摯な対話に基づき」凍結を撤回したという。
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アブドゥルハリーム・ハッダーム前副大統領は、アラビーヤ(3月21日付)に対して、アサド政権が大量の化学兵器を備蓄していると述べた。
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トルコで活動する反体制組織、シリア国民変革潮流(アンマール・カルビー代表)は声明を出し、シリア革命反体制勢力国民連立によるガッサーン・ヒートゥー暫定政府首班選出について「シリアの悲惨な現状を踏まえない独断的な行為」、「シリア・ムスリム同胞団の独断」と厳しく批判した。
クルド民族主義勢力の動き
シリア・クルド民主党(アル・パールティー)のアブドゥルハキーム・バッシャール書記長は、クルディーヤ・ニュース(3月21日付)に対して、2011年10月のミシュアル・タンムー(シリア・クルド・ムスタクバル潮流代表)暗殺に関して、民主統一党人民防衛隊の犯行だと断じ、非難した。
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クッルナー・シュラカー(3月21日付)は、ハサカ県各所で、クルド人が街頭に出て、ノウルーズを祝ったと報じた。
しかし、ダイリーク市では、同市を実効支配する民主統一党が禁じていたたき火を市民(シリア・クルド国民評議会加盟政党支持者ら)が行うと、党の治安部隊が空砲などを撃ち、強制排除した。
ダルバースィーヤ市でも、民主統一党人民補語部隊がムスタファー・バールザーニーの写真を掲げた若者2人を逮捕した。
カーミシュリー市では、民主統一党の支持者、シリア・クルド国民評議会の支持者がそれぞれ別の会場で祝典を行った。
ラアス・アイン市では、シリア・クルド進歩民主党が祝典を主催し、民主統一党、シリア・クルド国民評議会加盟政党が参列した。
レバノンの動き
NNA(3月21日付)などは、シリアの関係当局が、ヒムス県タッルカラフ地方で、軍がレバノンから潜入する反体制武装集団に対して行った要撃で逮捕したレバノン人戦闘員のハッサーン・スルールを、レバノン治安当局に引き渡したと報じた。
スルールは2012年11月にシリア領内で反体制武装集団とともに戦っていた複数の戦闘員とともに逮捕された。
レバノン治安当局への引き渡しに先立って、スルールはシリア・アラブ・テレビ(3月21日付)に対して、「サラフィー主義者のシャイフ、ダーイー・イスラーム・シャッハールがサラフィー主義者らに政府軍(シリア軍)と戦うためにシリアに向かうよう指示していた」と証言した。
また「我々はワーディー・ハーリドから、爆弾と機関銃をもってシリア領に向かい、夜中に越境した。シリアでは、アブー・ウマルを名乗る男が我々を待っていた」と潜入時の様子を明らかにした。
さらに「夜が明け…、我々はカルアト・ヒスン方面に向かった…。だが途中で戦闘となり、逃走したが、その後、逮捕された」と述べた。
諸外国の動き
国連の潘基文事務総長は記者団に対して、ハーン・アサル村での化学兵器使用に関して国連が調査を行うことを決定したと述べた。
調査の開始時期・対象に関して、潘事務総長は「実質的に可能になり次第」としたうえで、「シリア政府が報告した事件のみ」を調査対象とすることを明らかにした。
『ハヤート』(3月22日付)によると、米国のスーザン・ライス国連代表大使は、「シリアで化学兵器が使用されたと可能性を示す信頼できるすべての主張を調査することを支持する」と述べ、シリア政府だけでなく、反体制勢力の主張に沿って調査を行うべきだと主張した。
英仏もこうした姿勢に同調し、反体制勢力によって繰り返されるシリア軍の化学兵器使用疑惑についても調査するため、シリア全土を調査対象とするよう求めた。
一方、ロシアのヴィタリ・チュルキン国連大使は、調査がシリア政府の報告のみを対象とするよう求めていた。
AFP, March 21, 2013、Akhbar al-Sharq, March 21, 2013、Alarabia.net, March 21, 2013、al-Hayat, March 22, 2013、Kull-na Shuraka’, March 21, 2013、al-Kurdiya News, March
21, 2013、Naharnet, March 21, 2013、Reuters, March 21, 2013、SANA, March 21,
2013などをもとに作成。
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