各地でカーミシュリーの春の犠牲者を追悼するデモが行われるなか、イスラエルのペレス大統領は欧州議会で同国大統領として初めての演説を行い国連に平和維持軍の派遣を求める(2013年3月12日)

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シリア政府の動き

シリアの外務在外居住者省は国連安保理議長と事務総長に宛てて書簡を提出し、そのなかで、EUの反体制武装集団への準軍事支援決定を受け、シャームの民のヌスラ戦線などシリア国内でテロ活動を行う武装集団への武器供与が増加し、暴力が激化していると主張、国連安保理にテロ撲滅を徹底するよう求めた。

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『ワタン』(3月12日付)は、「シリア・アラブ軍はシリア防衛のための戦争を今後数年間続けるに充分な兵士と装備を有する。しかし、このことは、シリア国民が戦闘に参加せずに報道を追っているだけだということを意味するのか」と自問し、シリア・ファトワー評議会のファトワーに沿って、反体制武装集団掃討への国民の参加を暗に呼びかけた。

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SANA(3月12日付)は、シリア・アラブ航空がウクライナのアントノフ社から10機の旅客機を購入したと報じた。

クルド民族主義勢力の動き

クルディーヤ・ニュース(3月12日付)は、カーミシュリーの春の犠牲者を追悼するデモが各地で行われ、ハサカ県カーミシュリー市では数万人、アームーダー市では数千人が参加、ラアス・アイン市では学生がデモ行進を行ったと報じた。

また、ハサカ県のハサカ市、タッル・タムル町、ダイリーク市、ルマイラーン町、ダルバースィーヤ市、アレッポ県のアフリーン市、アイン・アラブ市などでも合わせて数千人の市民がデモを行ったという。

一方、イラク・クルディスタン地域のエルビル市でもシリア・クルド人避難民が追悼デモを行い、約500人が参加したが、クルド人ジャーナリストのムヒーッディーン・イースー氏は、「イラク・クルディスタン地域にいるシリア・クルド人避難民15万人のうち、500人しか街頭に出なかった」と消極的な評価を下した。

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クッルナー・シュラカー(3月12日付)は、ハサカ県カーミシュリー市で、シリア・クルド女性連合が、カーミシュリーの春追悼の一環として、清掃キャンペーンを呼びかけ、多数の市民が参加したと報じた。

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クッルナー・シュラカー(3月12日付)は、2012年から2013年にかけて活動が確認されているシリアの31のクルド民族主義政党とその党首の指名のリストを掲載した。

シリアのクルド民族主義政党については、その数の多さから、シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーンが事務局長在任中に、いくつの党があるのか分からない、と吐露していた。

Kull-na Shuraka', March 12, 201

Kull-na Shuraka’, March 12, 201

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クッルナー・シュラカー(3月12日付)は、ハサカ県アームーダー市の検問所で、民主統一党人民防衛隊とシャームの民のヌスラ戦線メンバーが合同で警備にあたっているとして、その写真を公開した。

http://all4syria.info/Archive/74670

反体制勢力の動き

クッルナー・シュラカー(3月12日付)は、軍、「外国人らからなるシャッビーハ」25,000人と戦車50輌がハーン・アサル村西部に結集し、警察学校奪還のための総攻撃を計画しており、住民約15,000人はそのほとんどが避難を完了した、と報じた。

これに関して同報道は、軍が化学兵器を使用して攻撃を行う可能性があると指摘した。

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反体制組織のシリア・ウラマー連盟は、シリア・ファトワー最高評議会の声明に対抗するかたちで声明を出し、「シリアのウラマーは非常警報を出し、シリア全土の解放、とりわけヒムスの体制からの救済を求める。また適性を満たすすべてのシリア人に対して、祖国防衛のジハードを呼びかける」と発表した。

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『ハヤート』(3月13日付)は、フェイスブックなどの映像をもとに、シャームの民のヌスラ戦線がイドリブ県ザーウィヤ山のバーラ村などで、道路修復、破壊された公共施設などの修復を行っている、と報じた。

復旧活動には、戦線の「公共事業連隊」があたっているという。

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Damas Post(3月12日付)は、民主的変革諸勢力国民調整委員会のラジャー・ナースィルが、危機解決の糸口に関して、アサド政権が対話実施に真摯に対処し、逮捕者釈放と暴力停止をまず行う必要があるとの見解を改めて示した。

また「対話は今もロシア側と続けられている…。その基軸は、国を指導するための全権をゆだねられた移行期政府の樹立にある…。これが対話の基礎となる」と付言した。

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『ハヤート』(3月13日付)は、3月18、19日にトルコのイスタンブールで予定されているシリア革命反体制勢力国民連立の大会で、移行期政府の樹立にはシリア分裂をもたらす危険があると主張し、政府樹立に疑義を呈したアフマド・マアーッズ・ハティーブ議長が辞意を表明するだろうと報じた。

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シリア国民連立のムスタファー・サッバーグ事務局長は、移行期政府の樹立にはシリア分裂をもたらす危険があるとのアフマド・マアーッズ・ハティーブ議長の発言に関して、「シリア人を代表する正統な政府として移行期政府を樹立しなければならず、それこそがシリア分裂を回避する唯一の保証だ」と反論した。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、反体制筋によると、ダマスカス国際空港街道(東グータ地方バイト・サフム市、アクラバー村、ジャルマーナー市周辺)で反体制武装集団約30人が軍の要撃に合い、殺害された。

一方、SANA(3月12日付)によると、ザマルカー町、ハラスター市、ドゥーマー市、ダーライヤー市、ザバダーニー市などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、ジャウバル区、ヤルムーク区で軍と反体制武装集団が交戦した。

またバルザ区で、軍の無差別発砲により2人が死亡したという。

一方、SANA(3月12日付)によると、ジャウバル区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

他方、クッルナー・シュラカー(3月12日付)は、ジャウバル区での戦闘で、ダマスカス県・郊外県革命軍事評議会に属する部隊が、軍のアンワル・ジャドアーン・アブドゥッラー少将を狙撃、殺害したと報じた。

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ラッカ県では、シリア人権監視団によると、ラッカ市、タブカ市に対して軍が空爆を加えた。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市バーブ・アムル地区、ハーリディーヤ地区、クサイル市、ラスタン市などに軍が激しい砲撃を加えた。

一方、SANA(3月12日付)によると、ハミーディーヤ村、ジュースィーヤ村郊外、クサイル市、ラスタン市、タドムル市、サーブーニーヤ村、などで、軍が反体制武装集団の追撃・交戦を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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アレッポ県では、SANA(3月12日付)によると、フライターン市、カフルアントゥーン市、マーイル町、ジブリーン市、マンスーラ村、タームーラ村、ハーン・アサル村、マンナグ村などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またアレッポ市では、マサーキン・ハナーヌー地区、サーフール地区、ハラク地区、ハイダリーヤ地区、ハーラト・シハーディーン地区、旧市街などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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イドリブ県では、SANA(3月12日付)によると、反体制武装集団がイドリブ市・マストゥーマ村間の国際幹線道路で仕掛け爆弾を爆破、これにより市民1人が死亡、複数が負傷した。

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ハサカ県では、SANA(3月12日付)によると、ウンム・カイフ村で、住民が反体制武装集団と交戦、撃退した。

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ダルアー県では、SANA(3月12日付)によると、ダルアー市、ジャムラ村などで、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

一方、クッルナー・シュラカー(3月12日付)は、フェイスブックなどの情報として、ウムラーン・ズウビー情報大臣のおいでジャーナリストのアドナーン・マフムード・ズウビー氏がダルアー県で従軍取材中に死亡した、と報じた。

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『ニューヨーク・タイムズ』(3月12日付)は、アサド政権、反体制勢力、クルド民族主義勢力の支配地域を過度に単純化して塗り分けた地図を掲載した。

The New York Times, March 12, 2013

The New York Times, March 12, 2013

この地図に基づくと、いずれの紛争当事者の面でシリア領内の一部を実効支配しているかに見える。

だが、彼らの統治能力、さらには大多数の国民がいずれの紛争当事者にも与していないことを踏まえると、こうした塗り分けに基づくシリアの紛争のパワー・バランスの評価は、実態を反映していない。

レバノンの動き

NNA(3月12日付)は、サイダー県のアイン・フルワ・パレスチナ難民キャンプで、PFLP-GCの民兵とビラール・バドル(ファタハ・イスラームの指導者の一人)の支持者が交戦し、11人が死亡したと報じた。

アクサー殉教者旅団のムニール・マクダフ司令官は、レバノンの声(3月12日付)に対して、戦闘は終わったとしたうえで、「我々はシリアのパレスチナ難民キャンプと似たような構図を(アイン・フルワ)キャンプにもたらさないよう努力を行っている」と述べ、シャームの民のヌスラ戦線の潜伏を否定した。

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NNA(3月12日付)は、北部県アッカール群アリーダ村の対シリア国境で、シリア領にからの発砲により、レバノン軍兵士1人が軽傷を負ったと報じた。

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ヒズブッラーのナイーム・カースィム副書記長は、「23ヶ月前から続くシリアの危機は、バッシャール・アサド大統領なくして政治解決はないが、こうした解決が今後数ヶ月間で実現する見込みはない」と述べた。

またカースィム副書記長は「アサド大統領は来年の大統領選挙に立候補し…、おそらく国民は彼を選ぶだろう」との見方を示した。

諸外国の動き

イスラエルのシモン・ペレス大統領は欧州議会でイスラエル大統領として初めての演説を行い、そのなかで「アラブ連盟は、シリアでの虐殺を停止し、その爆発を阻止するため、暫定政権を樹立することができ、またそうせねばならない。国連はアラブ平和維持軍を支援しなければならない」と述べた。

ペレス大統領は、「シリア大統領が国民と子供を殺害するのに我々は手をこまねいていることはできない…。シリアの悲劇を停止させる最善の解決策はアラブ連盟に介入を許すことだ」と強調した。

一方、ヒズブッラーに関して、ペレス大統領は、EUにテロ組織のブラックリストに追加指定すべきだと呼びかけた。

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ロシアの各メディアは、ロシアの非常事態省報道官の話として、11トンの人道支援物資を積んだ同省の航空機がラタキア県のバースィル・アサド国際空港に向けてロシアを出発した、と報じた。

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ロシアの複数のメディアによると、ロシア外務省のアレクサンドル・ルカシェヴィッチ報道官は、「米国高官によるシリア革命反体制勢力国民連立へのあからさまな支援表明は、ジュネーブ合意を一方的に解釈していることを示している…。これによりシリアでの対立集結の方法を検討することがさらに困難になっている」と批判した。

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ジェームズ・クラッパー米国家情報長官は、議会に提出した世界の脅威に関する評価報告で、シリア政府が政権維持のために国民に対して化学兵器を使用する可能性があると指摘した。

また同報告書では、化学兵器が武装集団の手にわたる恐れがあるとの警戒感も示された。

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UNICEFは、シリアでの紛争発生から2年が経過したのに合わせて報告書を発表、そのなかで国際社会の財政支援がなければ、「200万人以上の子供たちが失われた世代(lost generation)になるだろう」との危機感を表明した。

AFP, March 12, 2013、Akhbar al-Sharq, March 12, 2013、al-Hayat, March 13, 2013、Kull-na Shuraka’, March 12, 2013、al-Kurdiya News, March
12, 2013、Naharnet, March 12, 2013、NNA, March 12, 2013、Reuters, March 12,
2013、The New York Times, March 12, 2013、SANA, March 12, 2013、UPI, March 12, 2013、al-Watan, March 12, 2013などをもとに作成。

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