ヌスラ戦線を筆頭とする反体制武装集団がラッカ市を「完全制圧」、反体制武装集団の要撃によりイラク人兵士が犠牲になるなかイラク高官が「一部の者がイラクに紛争を輸出しようとしていることへの懸念が確かになった」との見解を示す(2013年3月4日)

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国内の暴力

ラッカ県では、反体制武装集団がラッカ市をほぼ完全制圧した、とシリア人権監視団、シリア国民評議会などが発表、インターネット上には、市内のハーフィズ・アサド前大統領の銅像が倒される映像(http://www.youtube.com/watch?v=L6Urzh3VXG4&feature=player_embedded#t=0s)がアップされた。

al-Hayat, March 5, 2013

al-Hayat, March 5, 2013

シリア人権監視団によると、市内の軍事情報局支部、バアス党支部など複数カ所には軍が依然として駐留しているが、同市周辺に位置するスィバーヒーヤ検問所、マカッス検問所などすべての検問所、さらには保険局を制圧したという。

ラッカ市制圧は、シャームの民のヌスラ戦線を含む複数の武装集団によって行われ、市内の3日夜から、イトファーイーヤ広場、ダウワール・ディッラ、出入国管理局施設周辺などで、軍と反体制武装集団が交戦した。

シリア人権監視団によると、この戦闘で、軍兵士8人が死亡、またシャームの民のヌスラ戦線のアミール、アブー・ムハンマド・ガリーブも死亡した。

同監視団によると、バースィル通りや政治治安部支部近くで、現在も軍と反体制武装集団が交戦中で、ラッカ市北部のラッカ中央刑務所などに対して、軍が空爆を開始したという。

ラッカ市は人口は約24万人。

クルディーヤ・ニュース(3月4日付)は、ラッカ市を反体制武装集団が占拠したことを受け、軍の砲撃・空爆を避けるためクルド人住民らが市外に避難していると報じた。

クルド人住民はラアス・アイン市方面に避難している。

また同報道によると、反体制武装集団の侵入により、クルド人青年2人が何者かに誘拐された。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス県カラービース地区、ジャウラト・シヤーフ地区、ハーリディーヤ地区、旧市街などで、軍が反体制武装集団と交戦した。

一方、SANA(3月4日付)によると、ラスタン市、クサイル市などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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イラクのアリー・ムーサウィー首相付広報顧問は、シリア軍の負傷兵がイラク領内から経由してシリアに帰国する途中、ワリード国境通行所(イラク領内)で反体制武装集団の要撃を受け、シリア軍兵士48人とイラク軍兵士9人が死亡した、と発表した。

またムーサウィー顧問は「一部の者がイラクに紛争を輸出しようとしていることへの懸念が確かになった。しかし我々は全力で、あらゆる当事者によるこうした試みに対抗する」との意思を示した。

イラク国防省も声明を出し、シリアから潜入したテロ集団がイラク領内でシリア軍とイラク軍の兵士を殺害したと発表した。

同声明は「シリア当局に引き渡すため、ワリード国境通行所に移動中だったシリア軍兵士がシリアからイラク領内に潜入したテロ集団の攻撃を受けた」としたうえで、「シリア領内で戦闘を行うすべての当事者で、イラク領内に武装闘争を持ち込み、イラクの国境を侵害する者に対して、あらゆる手段を通じて断固たる厳しい対応をとる」と警告した。

一方、イラク国境警備隊のムハンマド・ハルフ・ドゥライミー中佐は、殺害されたシリア軍兵士に関して、ハサカ県ヤアルビーヤ市での戦闘を逃れて、3月2日にイラク領内に避難した脱走兵だったとしたうえで、「戦闘はマナージム・アクシャート地方で発生し…、何者かが(シリア軍兵士を乗せたバス)の左右から発砲し、迫撃砲、仕掛け爆弾…により軍用車輌3台が炎上した」という。

同中佐によると、この戦闘でシリア軍兵士42人、イラク人兵士7人が死亡したという。

さらにアンバール県の作戦司令部士官によると、シリア側に引き渡されようとしていたシリア軍兵士の数は65人。

AFP(3月4日付)が報じた。

イラクのファーリフ・ファイヤード国家安全保障担当首相顧問は、訪問先の米国で、カタールをはじめとする一部のアラブ諸国が、非政府団体とともに、トルコの同意のもと、シャームの民のヌスラ戦線に資金を提供していると非難した。『フォーリン・ポリシー』(3月4日付)が伝えた。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ市旧市街のウマイヤ・モスクを占拠する反体制武装集団と軍が交戦した。

またマンナグ航空基地周辺でも軍と反体制武装集団が交戦した。

一方、SANA(3月4日付)によると、マンスーラ村、ハーディル村、ダイル・ジャマール村、カフルダーイル村、ダーラ・イッザ市、タッル・リフアト市、バーブ市などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またアレッポ市では、マサーキン・ハナーヌー地区、カラム・トゥラーブ地区、ブスターン・カスル地区、カッラーサ地区、ハール市場地区、アカバ地区、バーブ・アンターキヤー地区などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス郊外県では、SANA(3月4日付)によると、リーハーン農場郊外、アドラー市郊外、ダーライヤー市、ザバダーニー市などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、イスラーム旅団メンバーら複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス県では、SANA(3月4日付)によると、ジャウバル区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷した。

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イドリブ県では、SANA(3月4日付)によると、イドリブ市郊外、ジスル・シュグール市郊外の村々、ワーディー・ダイフ軍事基地周辺、ハーミディーヤ航空基地周辺、ビンニシュ市、ナイラブ村、ルーマー市、カフルワヒーン市、タフタナーズ市、アリーハー市などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダイル・ザウル県では、SANA(3月4日付)によると、ダイル・ザウル市旧空港地区などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、サラーヤー・ナスル大隊メンバーなど複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ハマー県では、SANA(3月4日付)によると、ジャルスィーサ市で、市民が街頭デモを行い、軍支持、テロ撲滅、治安回復を訴えた。

一方、カルマス村では、ハマー水利機構の職員3人が飲料用井戸のメインテナンス作業中に、近くに仕掛けられた爆弾が爆発し、死亡した。

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ハサカ県では、クッルナー・シュラカー(3月4日付)が、シャラービーン部族に近い消息筋の話として、タッル・タムル町でシャラービーン部族(アラブ人)と民主統一党人民防衛隊の緊張が高まっていると報じた。

民主統一党人民防衛隊の検問所で2日にシャラービーン部族の子息が殺害されたことが原因だという。

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『ハヤート』(3月5日付)は、サウジアラビア人のヤズィード・ムハンマド・シャフリー(18歳)、通称「アブー・ハフス」がシリアで死亡したとの連絡をサウジアラビアの家族が受けたと報じた。

家族によると、シャフリーは友人とともに週末をキャンプで過ごすと言って家を出たが、翌日、シリアに入ると電話で伝えてきたという。

祖母によると、シャフリーは、1ヶ月間軍事教練を受けて、戦場に入ると語り、その1週間後、サウジ人風の何者かが、彼が死亡し、埋葬されたことを連絡してきたという。

シャフリーの叔父は、パキスタンでアル=カーイダから戦闘員の軍事教練を任されていたウサーマ・シャフリー。

反体制勢力の動き

アレッポ県地元評議会は、トルコのガジアンテップ市で実施していた評議会選挙の結果を発表した。

評議会はアレッポ市(13議席)、北部農村地域(7議席)、東部農村地域(5議席)、西部農村地域(3議席)、南部農村地域(1議席)。

諸外国の動き

ジョー・バイデン米副大統領はAIPACで演説し、シリア情勢に関して「悲劇に対する我々の姿勢は…アサドは去らねばならないが、犯罪集団を支援し、ダマスカスの別の犯罪集団(アサド政権)と取りかえることはしない、というものだ」と述べた。

バイデン副大統領はまた「我々が力点を置いているのは、合法的な反体制勢力を支援することであり…、我々が支援を行うこれらの勢力を厳しくチェックしている」と付言した。

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イスラーム諸国会議機構(OIC)のエクメレッディン・イフサン・オグル事務局長は、シリア情勢に関して、国連安保理が責任を果たさないことで、国際社会が「完全に無力」な状態にあると指摘した。

またオグル事務局長は、「平和的解決」の必要を強調し、「平和的な政権移譲と危機終結の基礎を確立するため、当事者どうしが国際社会の保護のもとに一つのテーブルに着くべき」と述べた。

AFP, March 4, 2013、Akhbar al-Sharq, March 4, 2013、The Foreign Policy, March 4, 2013、al-Hayat, March 5, 2013、Kull-na Shuraka’, March 4, 2013、al-Kurdiya News, March
4, 2013、Naharnet, March 4, 2013、Reuters, March 4, 2013、SANA, March 4, 2013などをもとに作成。

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