反体制武装勢力がアレッポ市シャイフ・サイード地区を制圧するなか、シリア革命反体制勢力国民連立のハティーブ議長がミュンヘンを訪問し露外相、米副大統領、イラン外相らと相次いで会談(2013年2月2日)

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国内の動き(シリア政府の動き)

ハルキー内閣の危機解決政治プログラム実施閣僚委員会は各県知事と会談し、各県での国民対話開始の準備方法をめぐって協議した。SANA(2月2日付)が報じた。

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進歩国民戦線は声明を出し、イスラエル軍戦闘機によるダマスカス郊外県ジャムラーヤーの軍科学研究センターへの越境空爆を厳しく非難した。

国内の暴力

アレッポ県では、反体制武装勢力がアレッポ市シャイフ・サイード地区を制圧した、とシリア人権監視団が発表した。

同監視団によると、反体制武装勢力は12日にわたる戦闘で同地区を制圧、この戦闘で戦闘員26人、軍兵士数十人が死亡し、同地区長が制圧後に反体制武装勢力によって射殺されたという。

またこの制圧と前後して、シャイフ・サイード地区のほとんどの住民は避難を余儀なくされ、同地区に展開していた軍部隊も撤退、その後軍が同地区を複数回にわたって空爆した。

なおシリア人権監視団によると、シャイフ・サイード地区は、ナイラブ航空基地やアレッポ国際空港を攻撃するうえでの要衝だという。

このほかシリア人権監視団によると、サフィーラ市、ダイル・ハーフィル市、タッル・リフアト市、タルアルン市周辺を軍が空爆した。

一方、SANA(2月2日付)によると、カラースィー村、ダイル・ハーフィル市、ワディーヒー村、サフィーラ市、マンナグ村などで軍が反体制武装勢力の拠点を攻撃、多数の戦闘員を殺傷、装備を破壊した。

またアレッポ市では、スッカリー地区、カルム・マイサル地区、シャイフ・サイード地区、ブスターン・カスル地区、カッラーサ地区、旧市街、アシュラフィーヤ地区、ライラムーン地区などで、軍が反体制武装勢力の拠点を攻撃、多数の戦闘員を殺傷、装備を破壊した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ダーライヤー市、ムウダミーヤト・シャーム市、アルバイン市、ハラスター市などが軍の空爆・砲撃を受けた。

一方、SANA(2月2日付)によると、ドゥーマー市郊外、ハラスター市、アルバイン市、バイト・サフム市などで、軍が反体制武装勢力の追撃を続け、多数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

また反体制武装勢力がサフナーヤー市の変電所を襲撃し、同市が停電となった。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、シャーグール区イブン・アスカルで車に仕掛けられた爆弾が爆発し、1人が負傷した。

一方、SANA(2月2日付)によると、カダム区で警察が反体制武装勢力と交戦、多数の戦闘員を殺傷した。この戦闘で警官1人が死亡、2人が負傷した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、タフタナーズ市、タフタナーズ航空基地などに軍が空爆を行った。またヒーシュ村近くの国際幹線道路で軍と反体制武装勢力が交戦した。

一方、SANA(2月2日付)によると、サラーキブ市で反体制武装勢力が仕掛けた爆弾が誤爆し、戦闘員15人が死亡、また爆発に巻き込まれて子供1人が死亡、市民22人が負傷した。

またワーディー・ダイフ周辺などで軍が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷した。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、アーミリーヤ市での軍と反体制武装勢力の戦闘で、「政府を支持する民間人10人」が死亡した。

一方、SANA(2月2日付)によると、タルビーサ市、カフルラーハー市などで、軍が反体制武装勢力の拠点を攻撃、多数の戦闘員を殺傷、装備を破壊した。

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ダイル・ザウル県では、SANA(2月2日付)によると、ダイル・ザウル市各所で軍が反体制武装勢力を攻撃し、多数の戦闘員を殺傷した。

反体制勢力の動き

シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ムアーッズ・ハティーブ議長はドイツを訪問し、ミュンヘンでの安全保障会議に出席するため同地に滞在中のロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣と会談した。

西側諸国が支援する在外の反体制組織の指導者がロシアの外務大臣と会談するのは今回が初めて。

会談内容については明らかにされなかったが、ロイター通信(2月2日付)は、セルゲイ外務大臣がハティーブ議長をモスクワに招待したと報じた。

ハティーブ議長は会談後に「ロシアには明確なビジョンがあるが、我々は危機軽減のための対話を歓迎しており、詳細についてより多くの議論をしなければならない」と述べた。

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シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ムアーッズ・ハティーブ議長は、ミュンヘンでの安全保障会議に出席するため同地に滞在中のジョー・バイデン米副大統領と会談した。

シリアの反体制組織の指導者が米副大統領と会談するのは今回が初めて。

ハティーブ議長はバイデン米副大統領との会談に関して、ロイター通信(2月2日付)に対して、「流血と人名損失を最小限に抑えつつ、いかに体制を排除するかを議論する」ことが会談の主な目的だったと述べた。

その一方で「私はカイロであれ、チュニジアであれ、イスタンブールであれ、シリア政府の代表と直接席をともにする用意があると宣言する」と述べ、条件付きでの対話に応じる意思を改めて示した。

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シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ムアーッズ・ハティーブ議長はイランのアリー・アクバル・サーレヒー外務大臣と滞在中のミュンヘンで会談した。

45分間にわたる会談を終えたハティーブ議長は記者団にロイター通信(2月2日付)に「我々はシリア国民の苦しみを終わらせるための解決策を案出しなければならない点で合意した」と語った。

クルド民族主義勢力の動き

al-Kurdīya News, February 1, 2013

al-Kurdiya News, February 1, 2013

クルド最高委員会のアフマド・スライマーン報道官は声明を出し、同委員会に暫定政府発足の意思があるとしたフェイスブックなどでの書き込みを否定した。

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クルディーヤ・ニュース(2月2日付)は、クルド最高委員会がハサカ県ダイリーク市(アラビア語名マーリキーヤ市)郊外のスィーマルカー国境通行所を経由してシリア領内に持ち込まれる灯油およびガソリン1リットルに対して0.03米ドルの関税を、また入国税として1,000シリア・ポンドを課すことを決定した、と報じた。

諸外国の動き

ドイツ南部のミュンヘンでの安全保障会議に出席するため同地に滞在中のジョー・バイデン米副大統領とロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣が会談した。

会談には、アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表も参加し、シリア情勢をめぐって協議が行われた。

会談後、バイデン副大統領は、ロシアとの間に依然として「大きな意見の隔たりがある」と述べた。

また「我々は、シリアの反体制勢力がさらに統合、団結するため、関係国と協力している…。我々はアサドが権力にとどまることを企む暴君だと考えている。だが彼にはもはや国民を指導することなどできない」と付言し、反体制勢力をさらに支援するよう国際社会に求めた。

これに対し、ラブロフ外務大臣は、関係当事国がブラーヒーミー共同特別代表の指導のもとに結集し、「進展が実現した」とみなし得るような暫定的な解決策を案出すべきだと米国に伝えたことを明らかにした。

また「アサド大統領退任を交渉の前提条件とする固執した姿勢こそが、シリアの悲劇継続の最大の原因だ」と述べた。

さらに「我々のパートナー(西側諸国)は、これらの武器(化学兵器)を反体制武装集団が入手する可能性に最大の脅威を抱いている点で一致している」と付言した。

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イランのサイード・ジャリーリー国家安全保障最高会議書記がシリアを訪問し、ワーイル・ハルキー首相と会談し、二国間関係、シリアでの紛争、イスラエルによる越境攻撃などについて協議した。

SANA(2月2日付)によると、ジャリーリー書記は、アサド政権による危機解決政治プログラムの実施と危機の政治的解決への支持を改めて表明した。

また1月30日のイスラエルによるダマスカス郊外県への越境空爆については、「地域の治安と安全を脅かす行為」と非難する一方で「シリアに対する陰謀の失敗」を確信しているとの意思を示した。

会談に先だって、ジャリーリー書記は記者団に対して、イスラエルの越境空爆が「レジスタンスを打ち砕こうとする絶望的な試みを通じて、シリア国民に復讐しようとしている」と非難していた。

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レオン・パネッタ米国務長官は、AFP(2月2日付)に対して、「シリアでの混乱は、これらの武器(化学兵器)が国境を越えてヒズブッラーの手にわたる可能性を一大関心事とする環境を作り出した」と述べた。

またイスラエル軍によるシリアへの越境空爆に関しては、「SA-17のような洗練された兵器や生物科学兵器がテロリストの手に渡らないようにするために、あらゆることをしなければならないと(イスラエルに)表明してきた…。米国はこれらの兵器がテロリストの手に渡らないようにするためのあらゆる措置を支持する」と述べた。

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AFP(2月2日付)は、米高官からの情報として、イスラエル軍が1月30日に越境空爆したのが、レバノンに武器を輸送していると思われる車列ではなく、ダマスカス郊外県に配備されていたロシア製のSA-17地対空ミサイル・システムと化学兵器を貯蔵していると思われる施設だったと報じた。

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ハマースのハーリド・ミシュアル政治局長は、ヨルダン国営テレビ(2月2日付)とのインタビューに応じ、そのなかでシリア情勢を「陰謀ではなく(アラブの)春」だとしたうえで、「国民に対する軍事的オプションをとるシリア政府を支持することはできない」と述べた。

AFP, February 2, 2013、Akhbar al-Sharq, February 2, 2013、al-Hayat, February 3, 2013, February 4, 2013、Kull-na Shuraka’, February 2, 2013、al-Kurdiya News, February 2, 2013、Naharnet, February 2, 2013、Reuters, February 2, 2013、SANA, February 2, 2013、UPI, February 2, 2013などをもとに作成。

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