ブラーヒーミー共同特別代表が民主的変革諸勢力国民調整委員会のアブドゥルアズィーム代表らと面会するなか、イスラエル副首相はシリア軍がサリン・ガスを使用したとする主張を一蹴(2012年12月25日)

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反体制勢力の動き

ダマスカスに滞在中のアフダル・ブラーヒーミー共同特別代表は、民主的変革諸勢力国民調整委員会のハサン・アブドゥルアズィーム代表ら反体制組織の使節団とシェラトン・ホテルで会談した。

AFP(12月25日付)によると、使節団は、ハサン・アブドゥルアズィーム代表、ラジャー・ナースィル(委員会執行委員会書記長)ら6人から構成されていた。

アブドゥルアズィーム代表は、ブラーヒーミー共同特別代表が「日曜日(30日)まで(シリア国内での)折衝を続け、この危機を解決させるための国際社会のコンセンサスを確実なものとするために活動するだろう」と述べた。

ナースィルは、「会談が終わるまで、全般的な印象を明らかにすることはできない」としつつ、アサド政権首脳とブラーヒーミー共同特別代表との追加会談によって「合意ないしは前向きな成果」がもたらされることへの「大いなる希望」を持っていると述べた。

そのうえで「全権を担い、国を安全へと導く暫定政府」を発足する必要があると強調するとともに、政治的解決こそ唯一の出口」と述べ、「現体制を残すことなく、新たな民主的体制を建設する」との意思を示した。

民主的変革諸勢力国民調整委員会はブラーヒーミー共同特別代表と使節団の会談後に声明を出し、「アラブ諸国や国際社会の努力は依然として不充分で、外国の介入のなかには消極的なものもあり、あたかもシリアの根絶を狙っているかのようだ」との姿勢を示した。

また会談でブラーヒーミー共同特別代表が、政治的解決に向けた国内情勢の整備、反体制勢力の分裂克服が必要で、「米国とロシアのコンセンサスが政治的解決の基軸となる」との立場を示したことを明らかにした。

さらに同声明によると、ブラーヒーミー共同特別代表は、「軍事的決着」をめざすことに警鐘をならし、「勝者はシリアという国家を見出すことはないだろう…。国家を存続すべきで、イラク・シナリオを繰り返してはならない」と述べたという。

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地元調整諸委員会は、アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表のシリア訪問に関して、「現体制に…殺戮と破壊を継続させる新たなチャンスを与える」と非難し、「アサドをはじめとするすべての軍、治安機関、政治高官の退任が、紛争解決に向けたあらゆるイニシアチブを成功させるうえでの不可欠な条件」と述べた。

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シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ムアーッズ・ハティーブ議長は声明を出し、「連立指導部はブラーヒーミーに直接、体制およびその首脳の権限が維持されることを拒否する…。体制救済のためのいかなる政治的解決もアサド退任をもって開始されなければ、拒否すべき」と述べ、ダマスカス訪問を非難した。

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シリア・ムスリム同胞団は声明を出し、アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表のシリア訪問に関して、「専制体制が犯した罪と腐敗すべての清算」を主張し、「未来のシリアに殺人者・犯罪者がいる場所はない」と述べ、否定的な姿勢を示した。

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自由シリア軍アレッポ軍事評議会のアブドゥルジャッバール・アカイディー大佐は、アレッポ市郊外の基地でAFP(12月25日付)の取材に応じ、そのなかで、武装闘争の戦略を変更したことを明らかにし、都市部での戦闘に代えて、郊外各地の軍の基地を包囲し、兵士離反を誘い、突撃に向けて弱体化を図っていると述べた。

アカイディー大佐によると、反体制武装勢力は現在、クワイリース、ナイラブ、マンナグの三つの軍事基地を包囲している、という。

また、アカイディー大佐の部隊は「いかなるアラブ諸国、外国からも支援を受けていない」と弁明した。

『ハヤート』(12月26日付)によると、アカイディー大佐は25,000~30,000人の戦闘員を指揮している。

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スカイ・ニュース・アラビック(12月25日付)は、ムハンマド・アドナーン・アラブー人民議会議員(バアス党、アレッポ県諸地域B部門選出)が離反した、と報じた。

同報道によると、人民議会議員の離反者はアラブー議員が3人目だという。

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『ガーディアン』(12月25日付)は、ジハード・マクディスィー外務在外居住者省スポークスマンが、米ワシントンに滞在し、彼のレバノンへの逃走を支援した米各機関の援助を受けている、と報じた。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ダーライヤー市、ムウダミーヤト・シャーム市、ヤルダー市などが軍の砲撃を受け、アルバイン市・ハラスター市間で軍と反体制武装勢力が交戦した。

一方、SANA(12月25日付)によると、ダーライヤー市、ドゥーマー郊外、ハラスター市、ヤブルード市郊外などで軍が反体制武装勢力を追撃し、多数の戦闘員を殺傷、装備を破壊した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、複数の反体制武装集団がハーリム市を数ヶ月におよぶ包囲の末に完全制圧した(未確認情報)。

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シリア人権監視団は、クナイトラ県ゴラン高原のハーン・アルナバ市で、軍と反体制武装勢力が激しく交戦した、と発表した(未確認情報)。

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アレッポ県では、SANA(12月25日付)によると、カフルナーハー村、フライターン市、ズィルバ村、ハーン・トゥーマーン村、アレッポ市ナッカーラ地区、カッラーサ地区、ブスターン・カスル地区、ハイダリーヤ地区などで、軍が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷した。

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ハマー県では、SANA(12月25日付)によると、タッル・カルターン市、ムーリク市などで、軍が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷した。

また、軍武装部隊総司令部は声明を出し、シリアの国民および国家に敵対する外国と結託した武装テロ集団が、同県郊外の村々を襲撃し、民間人を殺害、脅迫、略奪行為を続けている、と批判し、同集団掃討にあたっていると発表した。

一方、シリア人権監視団によると、サラミーヤ市で元政治犯で活動家のファイサル・ハッラークが車で遺体で発見された。

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ヒムス県では、SANA(12月25日付)によると、東ブワイダ市、ジュースィーヤ村などで、軍が反体制武装勢力と交戦し、バーバー・アムル団の指導者ら多数の戦闘員を殺傷した。

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ダルアー県では、SANA(12月25日付)によると、ブスラー・シャーム市の砦を占拠しようとした反体制武装勢力を軍が撃退した。

またタスィール町で軍が反体制武装勢力を殲滅した。

シリア政府の動き

ファイサル・ミクダード外務在外居住者副大臣とアフマド・アルヌース同省次官がベイルート経由でモスクワに向かった。

レバノンの動き

AFP(12月25日付)は、ベイルートのアメリカン大学に入院中のムハンマド・イブラーヒーム・シャッアール内務大臣を、レバノンの弁護士が「1986年(レバノン内戦中)のトリポリ市バーブ・タッバーナ地区での宗教関係者らや子供に対するジェノサイド」で告訴した、と報じた、

諸外国の動き

『ル・フィガロ』(12月25日付)は、アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表が、アサド大統領の2014年までの残留を前提とした暫定政府発足を骨子とする提案を携えて、シリアを訪問している、と報じた。

同提案は、アサド大統領は2014年の任期終了まで大統領職を務め、次期大統領選挙に出馬しないことを求めている、という。

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イスラエルのモシェ・ヤアロン副首相は、イスラエル軍のラジオで、シリア軍がサリン・ガスを使用したとする反体制勢力の主張を証拠がないと述べ否定した。

副首相は「我々は反体制派の報告を見た。こうした報告は今回が初めてではない。反体制派は国際社会の軍事介入を望んでいる」と述べた。

そのうえで「今のところ、実際に化学兵器の使用は確認されておらず、そうした証拠もない。しかし、我々は事態を懸念して見ている」と明言した。

さらに「我々が見た(ユーチューブなどでの化学兵器が使用されたと訴える)映像が化学兵器使用の結果だとの確証はないが、おそらくは別のものだろう」と付言した。

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イラン外務省報道官は、訪問先のアンカラで、シリア情勢に関して、「政府から反体制諸派に至るすべての集団がシリアで民主的選挙を実施するために協力し合うべきで、選挙こそ双方が危機解決のために従うべき唯一の方法」と述べた。

アナトリア通信(12月25日付)が報じた。

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UAEのアブドゥッラー・ブン・ザーイド・アール・ナヒヤーン外務大臣は、シリア革命反体制勢力国民連立のムハンマド・マアーッズ・ハティーブ議長とアブダビで会談し、非宗派主義的な政治的移行プロセスを支持することを伝えた。AFP(12月26日付)が報じた。

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ローマ法皇ベネディクト16世はクリスマスを祝してメッセージを発表し、そのなかでシリアでの「流血停止」、「支援促進」、「紛争の政治的解決の模索」を呼びかけた。

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ロイター通信(12月25日付)は、イタリア籍貨物船2隻がロシアからシリアのバーニヤース港(タルトゥース県)に灯油約42,000トン(4,000万ドル相当)を搬送した、と報じた。

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イラク・クルディスタン地域政府大統領報道官は、クルディスタン・シリア間の国境通行所で閉鎖されたヵ所はないと発表した。

AFP, December 25, 2012、Akhbar al-Sharq, December 25, 2012、Le Figaro, December 25, 2012、The Guardian, December 25, 2012、al-Hayat, December 26, 2012, December 27, 2012、Kull-na Shuraka’, December 25, 2012、al-Kurdiya
News, December 25, 2012、Naharnet, December 25, 2012、Reuters, December 25,
2012、SANA, December 25, 2012、Sky News Arabic, December 25, 2012、UPI, December
25, 2012などをもとに作成。

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