マクディスィー報道官が家族とともにロンドンに向かい政権を離反したと報じられる、米高官らは化学兵器使用の可能性をめぐってシリア政府をけん制(2012年12月3日)

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国内の暴力

ハサカ県では、クッルナー・シュラカー(12月3日付)によると、ラアス・アイン市に対して、軍が午前10時に2度にわたって空爆を行った。

「ヘヴェダール」を名乗るクルド人活動家によると、空爆はダウワール・アアラーフ地区、マハッタ地区、市内の郵便局に対してMiG戦闘機によって行われた。

クルディーヤ・ニュース(12月3日付)はこの空爆で反体制武装勢力戦闘員と民間人合わせて4人が死亡、多数が負傷したと報じた。

シリア人権監視団によると、空爆は市南西部のマハッタ地区に対して行われ、反体制武装勢力の戦闘員8人を含む12人が死亡し、約30人が負傷した。

同地区はシャームの民のヌスラ戦線とシャーム外国人大隊が占拠している地区。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、空港街道に近いバイト・サフム市、バサーティーン市に対して軍が空爆を行った。

またザバダーニー市では、反体制武装勢力がザバダーニー地方局舎を襲撃、地元警察が交戦した、という。

このほか、ハジャル・アスワド市で複数の爆発音が聞こえた。

一方、『サウラ』(12月4日付)によると、ダーライヤー市、ジスリーン町、ミスラーバー市、リーハーン農場などで、軍が反体制武装勢力の掃討を継続、シャームの民のヌスラ戦線メンバーら多数の戦闘員を殺傷し、装備を破壊・押収した。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、タダームン区で複数の爆発音が聞こえた。

また未明から朝にかけて、タダームン区、ヤルムーク区で砲撃があった、という。

一方、『サウラ』(12月4日付)によると、タダームン区で爆弾を積んだ車が爆発し、乗っていた「テロリスト」1人が死亡、全員が負傷した。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ市メリディアン地区の軍検問所で未明に車に仕掛けられた爆弾が爆発し、複数が負傷した。

一方、『サウラ』(12月4日付)によると、アレッポ・ラッカ街道、フライターン市、カフルナーハー村、ダーラ・イッザ市、ハンダラート・キャンプ、ムスリミーヤ地方などで軍が反体制武装勢力と交戦し、シャームの民のヌスラ戦線メンバーら多数の戦闘員を殺傷した。

また、反体制武装勢力はアレッポ市工学部前で車爆弾を爆発させ、市民4人が死亡した。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ハマー市教育学部地区近くで爆弾が仕掛けられた車が爆発し、女子学生が負傷した。

また市内の3月8日通りで反体制武装勢力と治安部隊が交戦した。

ハマー市郊外のアクラブ町では、軍のヘリコプターが反体制武装勢力に対して空爆を行った。

一方、『サウラ』(12月4日付)によると、アクラバー村で軍・治安部隊が反体制武装勢力を撃退し、シャームの民のヌスラ戦線メンバーらを殺害した。

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ヒムス県では、地元調整諸委員会によると、ヒムス市各所、ハウラ地方、ラスタン市などで砲撃があった。

一方、『サウラ』(12月4日付)によると、ヒムス市内でシャームの民のヌスラ戦線メンバーが治安部隊の襲撃を試みたが、軍・治安部隊が応戦、多数の戦闘員を殺傷した。

またラスタン市郊外、ハウラ地方などでは軍が反体制武装勢力のアジトを破壊した。

さらにタルビーサ市近くのダマスカス・アレッポ街道上で旅客バスが反体制武装勢力の砲撃を受け、乗っていた2人が負傷した。

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イドリブ県では、『サウラ』(12月4日付)によると、ムハムバル村、ビンニシュ市、タフタナーズ市、トゥウーム村、ダイル・サンバル村、サルジャ村、イドリブ・ハーリム街道、アリーハー市などで、軍が反体制武装勢力と交戦し、シャームの民のヌスラ戦線メンバーら多数の戦闘員を殺傷した。

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ザマーン・ワスル(12月3日付)は、自由シリア軍最高軍事評議会議長のムスタファー・シャイフ准将の甥のハーリド・シャイフ少尉がイドリブ県で何者かに殺害されたと報じた。

ハーリド・シャイフ少尉は今年の夏に軍を離反したが、イドリブ県のバーブ・ハワー国境通行所がサラフィー主義者の手に落ちる前に、投降し、軍に復帰していた。

シリア政府の動き

シリア外務在外居住者省はクリントン米国務長官の発言(後述)に対して、声明を出し、「いかなる状況下においても、こうした兵器(化学兵器)が国民に対して使用されることはない」と発表した。

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アクス・サイル(12月3日付)は、アサド大統領がジャーミア・ジャーミア少将を空軍情報部アレッポ支部長に任命した、と報じた。

反体制勢力の動き

クッルナー・シュラカー(12月3日付)は、シリア外務在外居住者省のジハード・マクディスィー報道官が家族とともにシリア国外の「安全な場所」に脱出、政権を離反したと報じた。

同報道によると、マクディスィー報道官一家は11月30日にシリアを出国したという。

またマナール(12月3日付)は、マクディスィー報道官が外務在外居住者省の許可を得ず、ベイルート国際空港からロンドンに出国、これを受け、同報道官が規律違反で解任された、と報じた。

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アナトリア通信(12月3日付)は、自由シリア軍のアブー・アンマールを名乗る司令官が、「同胞は今のところ、ダマスカス国際空港の戦闘に関する事態を掌握している。現地では具体的な進展があり、戦闘は近く自由シリア軍優位のもとに決着するだろう」と述べたと報じた。

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クッルナー・シュラカー(12月3日付)は、革命軍事評議会のハサン・アブドゥッラー大佐が、ハサカ県ラアス・アイン市のクルド人住民に向け、「我々はあなたたちとシリアを解放するためにやって来た…。我々はシリアのいかなる成員にも敵対しない…。自由シリア軍にはクルド人もいる」との声明を発表したと報じた。

同声明によると、2日にシリア・クルド国民評議会と自由シリア軍ラアス・アイン市合同指令部が、民主統一党と自由シリア軍の停戦、捕虜交換などについての協議を行い、民主統一党による武装放棄と同市の引き渡しに48時間の猶予を与えた、という。

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アクス・サイル(12月3日付)は、内務省組織運営局のズィヤード・ハマド・バディーウィー局長が離反し、ヨルダンに逃走したと報じた(未確認情報)。

レバノンの動き

ナジーブ・ミーカーティー首相は首相府でのシリア人避難民問題への対応をめぐるUNHCRなどとの会合で、「レバノンだけでは彼ら(シリア人避難民)の負担を支援しきれない」と述べ、支援を求めた。

諸外国の動き

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がトルコを訪問し、レジェップ・タイイップ・エルドアン首相と会談、シリア情勢について協議した。

会談後の記者会見で、プーチン大統領は、「シリア情勢の正常化の手段をめぐって、ロシアとトルコは今のところ共通のビジョンに達していない」と述べた。

またパトリオット・ミサイル配備に関して「国境地帯への伝統的兵器の配備は事態を沈静化させず、逆に緊張化させる」と指摘した。

一方、エルドアン首相は、「シリア危機を巡ってある程度両国は接近している」としつつ、「多大なる努力を通じて、明確な共通点に達するべく協力するだろう」と述べた。

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『ハヤート』(12月4日付)などは、トルコ治安筋の話として、トルコ政府がシリアのハサカ県ラアス・アイン市の自由シリア軍の拠点に対するシリア軍の空爆を受け、ヂャルバクル基地からF16戦闘機を派遣する一方、地上部隊を対シリア国境地帯に展開させた、と報じた。

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ヒラリー・クリントン米国務長官は訪問中のプラハでアサド政権による化学兵器使用の可能性について言及、「米国にとってレッドラインである…。アサド政権が国民に対して化学兵器を使用したことが明らかになったときの具体的措置について言及はしない。しかし、我々は必ずこうしたことが起きたら行動すると言うだけで十分だろう」と述べた。

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バラク・オバマ米大統領は、アサド政権による化学兵器使用の可能性について、「世界は見張っている…。もしお前がこれらの兵器を使うという悲劇的な間違えを犯したら、結果が生じ、お前は責任を負うだろう」と述べた。

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英国のウィリアム・ヘイグ外務大臣は、「我々はこれまでにも増して、シリアの化学兵器のことが心配だ。なぜなら米国が心配しているからだ」と述べた。

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Wired.comのDanger Room(12月3日付)は、米国高官(匿名)の話として、アサド政権がサリンガス製造に必要な化学物質の調合を始め、「物理的に、彼らは航空機に搭載し、投下する段階に達した」と報じた。しかし同記事は同高官の発言の根拠については報じなかった。

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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長はAFP(12月3日付)に対して、「(アサド政権の崩壊)はいつでも起こり得る…。現地ではシリアの反体制勢力が政治的、軍事的に前進していることは明らかだ。毎日進軍している…。戦闘は今やダマスカスで行われている」と述べた。

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イラクの運輸省のカリーム・ヌーリー報道官は、「イラクは領空を通過してシリアに向かうイランの航空機の検査を遵守している。疑わしい航空機の検査から目を背けているというもは正しくない…」と述べ、米紙の報道に反論した。

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エジプト航空高官は、運行が一時中止されていたカイロ・ダマスカス便を再び運休した、と発表した。

同高官によると、ダマスカスからの情報を受け、エジプト当局は第721便にカイロへの帰還を要請した、という。

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国連のマーティン・ニスルキー報道官は、ダマスカス郊外県での戦闘激化を受け、同国内での活動を無期限で停止し、約100人からなる職員(人道支援などにあたるスタッフ)のうち非常勤職員25人の出国を決定した、と発表した。

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キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長付報道官のマイケル・マン氏は、ダマスカス郊外県での戦闘激化を受け、ダマスカス県内のEU代表部の職員を必要最低限に削減する、と発表した。

AFP, December 3, 2012、Akhbar al-Sharq, December 3, 2012, December 4, 2012、‘Aks al-Sayr, December 3, 2012、Danger Room, December 3, 2012f、al-Hayat, December 4, 2012、The Independent, December 4, 2012、Kull-na Shuraka’, December 3, 2012、al-Kurdiya News, December 3, 2012、al-Manar, December 3, 2012、Naharnet, December 3, 2012、Reuters, December 3, 2012、SANA, December 3, 2012、al-Thawra, December 3, 2012、Zaman al-Wasl, December 3, 2012などをもとに作成。

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