ダマスカス郊外県の各市で軍・治安部隊が反体制武装勢力の大規模浄化を試みる、シリア革命反体制勢力国民連立が12人からなる政治委員会の設置を決定(2012年12月1日)

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国内の動き

AFP(12月1日付)は、ダマスカス県、ダマスカス郊外県の一部で不通となっていた国際電話回線、携帯電話回線、インターネット回線が再開した、と報じた。

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SANA(12月1日付)は、「改修工事を終え、ダマスカスの電話回線、インターネット回線のすべてが復旧した」と報じた。

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シリア人権監視団は、「シリアのほとんどの県で携帯電話回線とインターネット回線が再開された」と発表した。

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SANA(12月1日付)は、「米国企業がシリアへの制裁実施を口実として、SANAの配信を停止した…。シリアのメディアへの新たな敵対行為である」と報じた。

国内の暴力

『ワタン』(12月1日付)は、ダマスカス国際空港の閉鎖に関して、「シリア・アラブ軍は木曜(29日)早朝、ダマスカスへの接近、ないしはその攻撃を行うべく自らをそそのかしたすべての者の前に、地獄の門を大きく開いた」と報じ、軍による反体制武装勢力の大規模浄化が行われていることを認めた。

同報道によると、11月29日午前に反体制武装勢力が空港街道の封鎖と空港制圧を試み、空港職員が乗るバスを襲撃、2人を負傷させた、という。

また、「テロリスト」数百人がダマスカス県攻撃のため接近中との情報を入手し、フジャイラ村、バイト・サフム市、グスーラ町、ハラスター市、ドゥーマー市、シャイフーニーヤ村への攻撃を行った、という。

さらに『サウラ』(12月2日付)によると、ダーライヤー市、シャイフーニーヤ村、ドゥーマー市、ハラスター市、アクラバー村、バイト・サフム市、アルバイン市、ザマルカー町、アイン・タルマー村、フジャイラ村、ズィヤービーヤ町、フサイニーヤ町などで、軍がシャームの民のヌスラ戦線の追撃を継続し、多数の戦闘員を殲滅、装備を破壊・押収した。

一方、シリア人権監視団によると、ダマスカス国際空港に近いバービッラー市、ヤルダー市、アクラバー村、バイト・サフム市、ダーライヤー市などで、軍が反体制武装勢力の拠点破壊のための空爆を続けた。またこの空爆に合わせて、軍・治安部隊が反体制武装勢力と激しく交戦した。

空爆はダマスカス県カフルスーサー区の農園でも行われた、という。

シリアの治安筋によると、ダマスカス国際空港街道の西側すべてと東側の一部の治安は回復し、旅行者の通行は可能となっている、という。

しかし、数千人のテロリストが占拠する街道の東側部分の制圧はまだ完了していない、という。

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ダマスカス郊外県では、『サウラ』(12月2日付)によると、軍がハジャル・アスワド市で反体制武装勢力の拠点を攻撃し、多数の戦闘員を殲滅した。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ市のマシャー学校周辺一帯で反体制武装勢力が数日にわたる包囲を経て突入、軍・治安部隊と交戦した。

またアレッポ市ブスターン・カスル地区、スッカリー地区では、軍・治安部隊が砲撃を加えた。

一方、『サウラ』(12月2日付)によると、クーリース市、ダーラ・イッザ市、ハナースィル市、アレッポ市ブスターン・バーシャー地区、ライラムーン地区などで、軍がシャームの民のヌスラ戦線の拠点などを攻撃し、多数の戦闘員を殺傷、装備を破壊・押収した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、軍・治安部隊がマアッラト・ヌウマーン市を砲撃した。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団が、ウマル油田から撤退していた軍が戦車、装甲車を増援し、同油田に再展開した、と発表した。

反体制武装勢力は、同油田から「数キロ」の距離に展開しているが、「地雷を恐れて」進軍できなかったのだという。

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シリア人権監視団は、アレッポ県の治安当局がイドリブ県サラーキブの反体制勢力の野戦病院で治療に当たっていた英国人のアッバース・ハーンが逮捕された、と発表した。

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ラタキア県では、『サウラ』(12月2日付)によると、カスタル・マアーフ町、タラール市付近で、軍が反体制武装勢力を殲滅した。

在外シリア人の動き

『ワタン』(12月1日付)は、政権支持派と反体制派の在外シリア人の双方が、インターネット通信や国際電話回線の遮断を受け、フェイスブック上などで、「こちらダマスカス」と書き込み、現地情勢が伝えられないダマスカスとの連帯を訴えた。

反体制勢力の動き

シリア・ジャーナリスト連盟は、11月のジャーナリスト死者数が13人に達したと発表した。

同連盟によると、死亡したジャーナリストたちのなかには、軍だけでなく反体制武装勢力によって殺害された者も含まれている。

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『ハヤート』(12月2日付)は、シリア革命反体制勢力国民連立がカイロでの4日にわたる会合を閉幕し、12人からなる政治委員会の設置を決定したと報じた。

政治委員会は、アフマド・ムアーッズ・ハティーブを議長とし、スハイル・アタースィー、ジョルジュ・サブラー、リヤード・サイフ、そしてクルド人を副議長とする。

シリア国民評議会のムウタッズ・シャクラブは『ハヤート』(12月2日付)に対して、正副議長以外の7人の委員は、12月11日にモロッコのマラケシュで開催されるシリアの友連絡グループ会合開催までに、合意、ないしは(合意が形成されない場合は)選挙で選ばれる、と述べた。

またカイロの会合では、12人から15人の閣僚から構成される暫定政府を樹立することで合意した、という。

閣僚は、国防大臣、外務大臣、そして内政を担当する閣僚からなり、避難民問題への対処、教育、衛生、自由シリア軍支援、地元の自治評議会支援を任務とする、という。

さらに首班にはリヤード・ファリード・ヒジャーブ前首相が最有力候補だが、シリア革命反体制勢力国民連立は国民の信頼を得ることを彼の就任の条件としている、という。

このほか、会合では、広報委員会、救援委員会、メンバー委員会、法務委員会を設置し、リーマー・フライハーン、スハイル・アタースィーらが委員長の候補としてあがっている、という。

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シリア革命反体制勢力国民連立のカイロでの会合に出席したワリード・ブンニーは、『ハヤート』(12月2日付)に対して、首班は、政府の犯罪に荷担していないこと、殺戮・汚職に関与していないこと、革命運動に寄与していることという三点が条件となるとし、ヒジャーブ前首相の就任に暗に疑義を呈した。

またアナトリア通信(12月1日付)に対して、ブンニーは「首班がシリア革命反体制勢力国民連立外の人物になるだろう」と述べた。

一方、シリアへの国連平和維持軍の展開に関しては、アサド大統領と政権交換の退陣が前提となる、との見方を示した。

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クルディーヤ・ニュース(12月1日付)は、カイロでのシリア革命反体制勢力国民連立が「シリア・ムスリム同胞団のヘゲモニーを強化して閉幕した」と批判的に報じた。

同報道によると、会合に参加したクルド人は、シリア・クルド進歩民主党のアブドゥルハミード・ダルウィーシュ書記長のみで、私人として参加し、クルド問題をめぐるビジョンを提示するよう求めたが、アフマド・ムアーッズ・ハティーブ議長は自由選挙による国会の選出までクルド人の要求への対応を決することを延期するとの立場を示した、という。

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カイロで11月25日に結成されたシリア国民民主同盟はシリア国民に宛てて声明を出し、体制打倒に向けた「革命」継続の意思を示した。

Kull-na Shuraka', December 1, 2012

Kull-na Shuraka’, December 1, 2012

また、シリア国民を構成するすべての集団の参加をめざして活動するが、自らをシリア国民の代表とは位置づけないとの意思を表明し、シリア革命反体制勢力国民連立の存在を暗に批判した。

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AFP(12月1日付)は、アレッポ県で11月27、28日に地対空ミサイルで軍のヘリコプター、MiG23を撃墜したというダーラ・イッザ自由人大隊の戦闘員(アブー・ウマル)の証言を掲載した。

同証言によると、撃墜に使用された地対空ミサイルはソ連製のSA-6で、アレッポ県郊外の第46中隊から奪取したものだという。

反体制武装勢力による軍戦闘機・ヘリコプター撃墜後、アレッポ県ではシリア軍戦闘機による空爆は確認されてないという。

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『ワシントン・ポスト』(12月1日付)は、西側・中東諸国の諜報筋の話として、反体制武装勢力がカタールが供与した地対空ミサイル40発を入手した、と報じた。

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スワイダー在外居住者連盟は声明を出し、ダマスカス郊外県ジャルマーナー市での連続爆破テロ(28日)を強く非難した。

クルド民族主義勢力の動き

クルド人の学者らが中心となって「クルド刷新評議会発足案」なる文書を作成、発表した。

同文書では、汚職、独裁から解放されたリベラルな「シリア共和国」の建設がめざされ、民族・エスニック集団、宗教宗派などへの帰属の自由が保障され、クルド人による国民投票を通じたクルド問題の解決、自決権の保障などが決せられることなどが謳われている。

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クルディーヤ・ニュース(12月1日付)は、シリア・クルド国民評議会の代表とアラブ人のタイイ部族の体制支持派の代表が会談し、民主統一党とタイイ部族の緊張緩和に向けて協議した、と報じた。

諸外国の動き

アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表は安保理会合後に記者団に対して、「シリア国民が人工的な変革でなく、真の変革を必要としていることは明らかだ…。新生シリアは現在のシリアと似通ったものとはならないだろう…。シリア人自身が自分たちの望む体制の性格を決定するだろう」と述べた。

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イラクのカルバラー市のアッバース廟広報担当者のジサーム・スアイディーは、シーア派(12イマーム派)のマルジャイーアの命に基づき、対シリア国境のカーイム市のシリア人避難民への人道物資を積んだ貨物車輌6輌を派遣した、と発表した。

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AP(12月1日付)は、イラクのヌーリー・マーリキー首相が、イラク領空を通過するイランの航空機のすべてを検査することは不可能だと述べた、と報じた。

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トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣は、外務省がパスポートを所持するシリア人に対して1年の滞在許可を与えることを決定したと発表した。

アナトリア通信(12月1日付)が伝えた。

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『ニューヨーク・タイムズ』(12月1日付)は、米政府高官(匿名)の話として、イラク領空を経由して、ロケット弾や迫撃砲などといった武器がイランからシリアに供与されていることに、米政府が失望感を感じていると報じた。

AFP, December 1, 2012、Akhbar al-Sharq, December 1, 2012、AP, December 1, 2012、al-Hayat, December 2, 2012、Kull-na Shuraka’, December 1, 2012, December 2, 2012、al-Kurdiya
News, December 1, 2012、Naharnet, December 1, 2012、Reuters, December 1,
2012、SANA, December 1, 2012、The Washington Post, December 1, 2012、al-Watan, December 1, 2012などをもとに作成。

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