アサド大統領は戦闘停止の条件として、テロリストがその立場を強化せず、トルコなどがテロ支援を停止することを条件として提示(2016年2月20日)

アサド大統領はスペイン日刊紙『エル・パイス』(2月10日付、http://internacional.elpais.com/internacional/2016/02/20/actualidad/1455973003_241057.html)の単独インタビューに応じた。

インタビューは英語で行われ、英語全文(http://sana.sy/en/?p=70035)、アラビア語全文(http://www.sana.sy/?p=339402)、映像(https://youtu.be/MNLY5rbjarA)はSANAが配信した。

アサド大統領はインタビューのなかで、軍事作戦を停止するには「テロリスト」がそれに乗じて自らの立場を強化することと合わせて、トルコをはじめとする諸外国が「テロリスト」や武器の派遣、「テロリスト」へのあらゆる兵站支援を行うことを阻止することが求められると述べた。

またロシアとイランの支援がシリア軍の攻勢にとって本質的な役割を果たしていることを認めた。

SANA, February 20, 2016

SANA, February 20, 2016

 

インタビューにおけるアサド大統領の主な発言は以下の通り:

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「我々はシリア国内のいかなる地域においても制裁は科していない。特定の地域を制裁することと軍によって包囲することの間には違いがる…。(シリア軍が包囲を続けている)これらの地域における問題は、武装集団が人々の食糧や必需品を奪い、それらを戦闘員に与えたり、高値で住民に売っていることにある。政府としては、ラッカのようなダーイシュ(イスラーム国)支配地域であっても支援することを妨げてはいない」。

「(米国とロシアによる戦闘停止に向けた動きに関して)我々は用意ができていると発表した。しかし発表するだけの問題ではない。なぜなら相手も同じように発表するからだ。重要なのは現場で何をするかだ。停戦という言葉は…正確ではない。なぜなら、停戦は軍隊どうし、国どうしで行うものだからだ。(正確には)敵対行為の停止、作戦の停止になる。それはまず、発砲を停止することだが、より複雑で重要な要素もある。それは、テロリストが停戦であれ敵対的行為の停止であれ、自らの立場を強化するために利用するのを阻止することだ。また諸外国、とりわけトルコがさらなるテロリスト、武器、さらにはテロリストへのあらゆる兵站支援を行わないようにすることだ。この点に関する国連での決議、安保理での決議は実施されていない。停戦のための必要要件を提供しないというのであれば、それは安定に反するもので、シリアに混乱をもたらし、事実上の国家分裂をもたらす」。

「ダーイシュ、ヌスラ戦線、そしてアル=カーイダに属するそのほかのテロ組織に対してはもちろん(戦闘を続ける)。シリアとロシアは4つの組織を明言している。シャーム自由人イスラーム運動、イスラーム軍、ヌスラ戦線、そしてダーイシュだ」。

「(アレッポ県北西部での戦闘に関して)それはトルコとテロ組織の間の道路を封鎖するためのものだ」。

「ロシアとイランの支援は我々の軍が前進するうえで本質的な意味をもっている…。あくまでも「仮に」こうした支援が必要な理由を問うとしたら、その理由はただ一つだろう。80カ国以上がテロリストをさまざまなかたちで支援し、その一部は資金を、兵站支援を、武器を、そして戦闘員勧誘を支援している。さまざまな国際会議で政治的な支援を行う国もある。もちろん、シリアは小国だ」。

「(イドリブ県マアッラト・ヌウマーン市の病院に対する空爆に関して)米国の一部の高官は誰がそれをやったか分からないといっている…。こうした矛盾した声明は米国によくあることだ。しかし実際に誰がそれを行ったのかを証明することはできない…。犠牲者に関して言うと、それはどの戦争においても問題だ。もちろん、私は無実の市民が我が国の紛争で犠牲となることを悲しいと感じている」。

「我々はロシアの攻撃が民間人を標的としていることを示す証拠を持っていない…。彼らは日々、テロリストの基地や標的を攻撃している。米国も同じことを行っているが、シリア北東部では多くの民間人が犠牲となっている」。

「我々はテロリストに対処するように、トルコやサウジアラビアと対処するつもりだ…。これらの国には政治的にも軍事的にもシリアに介入する権限はない。国際法違反だ。シリアの市民として唯一の選択肢は戦い、守ることだ…。トルコは砲撃を行う以前からテロリストを送り込んできた」。

「法律上、そして憲政上、国民や政府に対して機関銃を向ける者は誰であってもテロリストだ…。彼らが武器を放棄し、政治プロセスに参加すれば合法的になり得ただろう…。彼らが武器を放棄すれば…、我々は彼らを恩赦するし、過去2年間そうしており、この動きは加速している」。

「彼ら(2011年以前に投獄されてきた反体制派の指導者)はみなずっと前に出獄し、そのほとんどが反体制派となった」。

「サウジアラビアはテロリスト(外国人戦闘員)への最大の資金提供者だ。サウジアラビアは彼らを飛行機に乗せ、トルコに送り、そしてトルコからシリアに潜入させている」。

「(シリア政府支配下の地域で今後選挙を実施するかとの問いに対して)政府、挙国一致体制を樹立するのは自然なことだ。現政権が新憲法を準備すべきだ。もしシリアの将来について話し合うのであれば…、それは憲法に基づいて行われるべきだ。もちろん、シリア国民は新憲法をめぐって投票を行うべきだ…。憲法が制定されれば、前倒し選挙、つまり国会選挙も行われるべきだろう。大統領選挙について言及する者もいるだろう。シリア国民が選挙を望むのならば、行われるだろう…。私は権力の座にいることにはこだわらない。シリア国民が私に権力の座にいることを望めば、とどまるだろう。彼らが望まなければ、私には何もできない…。私はすぐにでも去らねばならない」。

「(シリアでの人権侵害を調査するための国連人権理事会調査委員会の報告に関して)それはカタールが10年以上にわたり作ってきたものに基づいており…、シリアに対するプロパガンダの一部だ…。彼らは出所が明らかでない情報を用いて、シリアを非難している」。

「難民が自分たちの国に帰れるようにするにはどのような行動がとられるべきか…。まずは、我々はテロに対処しなければならない。なぜならテロリストは人々を脅かすだけでなく、彼らが生活を送る上で必要なものを奪うからだ。第2に、西側諸国、とりわけ米国がシリアに対して科している制裁(の解除)だ」。

「武器供与を通じて民主主義がもたらされることはない…。民主主義は対話を通じて達成することはできるが、同時に民主主義に向けて社会の水準を向上させる必要がある。なぜなら、民主主義とは単に、憲法とか大統領とか法律などといったものではないからだ。これらは民主主義を達成するための道具、ないしは手段に過ぎない。真の民主主義は、社会そのものに根ざしていなければならない。どのように我々はお互いを受け入れ合うことができるか…。互いを受け入れ合えたときに、政治的にも互いを受け入れることができる。そしてこれが真の民主主義が生じる場所なのだ。つまり大統領をどうするかという問題ではない。彼ら(欧米諸国)は、問題を一個人の問題にすり替え、大統領が去れば、すべてが良くなる、と主張する。しかし、誰もそのようなことを受け入れることはできない」。

AFP, February 20, 2016、AP, February 20, 2016、ARA News, February 20, 2016、Champress, February 20, 2016、al-Hayat, February 21, 2016、Iraqi News, February 20, 2016、Kull-na Shuraka’, February 20, 2016、al-Mada Press, February 20, 2016、Naharnet, February 20, 2016、NNA, February 20, 2016、Reuters, February 20, 2016、SANA, February 20, 2016、UPI, February 20, 2016などをもとに作成。

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