米軍が軍事教練した「新シリア軍」がダーイシュとの交戦の末、対イラク国境のタンフ国境通行所を一時制圧するも、数時間後にはダーイシュが奪還(2016年3月5日)

米軍の軍事教練を受けた「新シリア軍」はインターネットを通じて声明を出し、3月4日に対イラク国境に位置するタンフ国境通行所を、ダーイシュ(イスラーム国)との戦闘の末に制圧したと発表し、写真や画像(https://www.youtube.com/watch?v=XoRXGzttgQA)を公開した。

Kull-na Shuraka', March 8, 2016

Kull-na Shuraka’, March 8, 2016

声明によると、「新シリア軍」は、米軍主導の有志連合の航空支援を受け同地に進軍、殉教者アフマド・アブドゥー軍団とともに同地を制圧したという。

タンフ国境通行所は、ヒムス県タドムル市一帯からシリア軍が戦略的撤退をしたのを受け、2015年5月22日にダーイシュが制圧していた。

「新シリア軍」は、ダーイシュとの戦闘でダイル・ザウル県から敗走していた武装集団の一つアサーラ・ワ・タンミヤ戦線が2015年11月に結成した武装集団で、アサーラ・ワ・タンミヤ戦線のハズアル・スィルハーン氏を司令官を務める。

結成時に公開された宣伝ビデオでは、シリア国外で米国製の武器の使用訓練を受けたとされる軍服姿の戦闘員の訓練の様子が映し出されるとともに、スィルハーン氏がダーイシュ以外のジハード主義武装集団との共闘の意思を表明した。

また殉教者アフマド・アブドゥー軍団もダイル・ザウル県から敗走していた武装集団が結成した組織で、ダマスカス郊外県東カラムーン地方などで活動をしていた。

Kull-na Shuraka', March 5, 2016

Kull-na Shuraka’, March 5, 2016

Kull-na Shuraka', March 5, 2016

Kull-na Shuraka’, March 5, 2016

Kull-na Shuraka', March 5, 2016

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Kull-na Shuraka’, March 5, 2016

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Kull-na Shuraka', March 5, 2016

Kull-na Shuraka’, March 5, 2016

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これに関して、シリア人権監視団は、ダマスカス郊外県東カラムーン地方とヒムス県南東部で活動を続けてきたとされるジハード主義武装集団などからなる反体制武装集団と、ヨルダン領内から進入した「新シリア軍」が、イラク国境に位置するタンフ国境通行所を制圧したと発表した。

同監視団によると、「新シリア軍」はヨルダン国境地帯のマフルーサ地区からタンフ国境通行所方面に進軍したという。

一方、クッルナー・シュラカー(3月5日付)は、「新シリア軍」がタンフ国境通行所一帯に進軍した経路に関して、有志連合による降下、ヨルダン領内からの進入などの諸説が流れていると伝えた。

しかし、シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン代表は、AFP(3月5日付)に対して、米軍主導の有志連合の航空支援によって、ダーイシュはタンフ国境通行所からイラク領内に撤退し、「新シリア軍」が同地に進軍したが、その後ほどなくダーイシュは反撃に転じ、国境通行所から「新シリア軍」を放逐、その後、通行所の施設を爆破・破壊したと述べた。

その後、シリア人権監視団は6日、「新シリア軍」がタンフ国境通行所を数時間にわたり制圧したが、その後ダーイシュが同地を奪還したと改めて発表した。

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一方、シリア革命反体制勢力国民連立は、ダイル・ザウル県で活動するという「生活のための正義監視団」のジャラール・ハマド代表の話として、自由シリア軍に所属する部隊がダーイシュをタンフ国境通行所から掃討したと発表した。

同連立によると、ダーイシュ掃討戦に参加したのは、殉教者アフマド・アブドゥー軍団、東部の獅子軍、新シリア軍、そして地元の若者からなる複数の小集団で、攻撃は4日早朝に開始されたという。

なお、東部の獅子軍は、ダーイシュとの戦闘でダイル・ザウル県から敗走していた武装集団が2014年8月にダマスカス郊外県カラムーン地方で結成した組織で、同年12月には、アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線、サウジアラビアが支援するイスラーム軍とともに東部カラムーン統一司令部を結成していた。

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ダーイシュの通信部門アアマーク通信は、「新シリア軍」がタンフ国境通行所を制圧したとの報道を否定している。

AFP, March 5, 2016、AP, March 5, 2016、ARA News, March 5, 2016、Champress, March 5, 2016、al-Hayat, March 6, 2016、March 7, 2016、Iraqi News, March 5, 2016、Kull-na Shuraka’, March 5, 2016、al-Mada Press, March 5, 2016、Naharnet, March 5, 2016、NNA, March 5, 2016、Reuters, March 5, 2016、SANA, March 5, 2016、UPI, March 5, 2016などをもとに作成。

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