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シリア政府の動き
Middle East Online(8月21日付)などは、モスクワ訪問中のカドリー・ジャミール経済問題担当副首相兼国内通商消費者保護大臣とアリー・ハイダル国民和解問題担当国務大臣が記者会見を開いた。
記者会見でジャミール副首相は、「我々の立場は当初から明白で、それは前提条件なしで対話に向かわねばならないというものである。なぜなら対話開始の前提条件を示すことで、対話の開始が妨げられるからだ」と述べた。
そのうえで、「交渉のプロセスにおいて、すべての問題を検討し得る。我々は、この問題(大統領退任)でさえ検討する準備がある」と付言し、反体制勢力との交渉でアサド大統領の退任に関して議論する準備があることを認めた。
またシリアでの化学兵器使用の可能性をめぐる20日のバラク・オバマ米大統領の発言に関して、「選挙のためのプロパガンダに過ぎない」としたうえで、越境攻撃を伴う米国の軍事介入など「不可能だ」と述べた。
そして「西側は直接介入の口実を探している…。しかしロシアと中国の拒否権発動後に明らかとなった国際社会の姿勢を彼らは理解していない」と批判した。
一方、ハイダル国民和解問題担当国務大臣は、「国民和解のための政治プロセスは暴力停止後に開始されねばならず、暴力停止が政治プロセスの前提とならなければならない。なぜなら…、軍事的戦闘の圧力のもとで政治プロセスに入ることはできず、そうした圧力があると別の種類のプロセスに至ってしまうからである」としたうえで、「暴力停止は…発砲を停止したうえで、合法的な武装、すなわち国家の武装のみを承認し、違法な武器の解除の仕組みを案出する…といった行程表が必要」との見方を示した。
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SANA(8月21日付)は、ワーイル・ハルキー首相がダマスカス県マッザ区で住民が避難生活を送る学校などを視察し、国際機関やNGOと協力のもと、関係機関が反体制武装勢力によるテロ活動の被害者への住宅供給などに努力していることを強調したと報じた。
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『クッルナー・シュラカー』(8月21日付)は、レバノンのミシェル・サマーハ元情報大臣のテロ容疑に関与しているとされるアリー・マムルーク国民治安会議議長がすでに粛清されたか、厳重な警備のなか拘置されている、と報じた。真偽は定かでない。
国内の暴力
ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、軍・治安部隊が早朝ムウダミーヤ・シャーム市に突入し掃討作戦を本格化させた。
地元調整諸委員会によると、軍・治安部隊は反体制活動家の追跡・捜索を行い、少なくとも活動家23人を処刑し、数十人の遺体が発見された。
またシリア人権監視団によると、ビラーリーヤ村、ナシャービーヤ町、バービッラー市、ヤルダー市、ダイル・アサーフィール市、ハジャル・アスワド市などを軍のヘリコプターが攻撃し、ダーライヤー市、アルトゥーズ町、ドゥマイル市、ザバダーニー市にも砲撃が加えられた。
これに対し、SANA(8月21日付)によると、ムウダミーヤ・シャーム市で、当局が大量の武器弾薬を発見、押収した。
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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、カダム区で遺体6体が発見された。
複数の目撃者によると、マッザ区で車に仕掛けられた爆弾が爆発し、兵士4人が死亡し、複数が負傷した。
またタダームン区、カッザーズ地区に攻撃ヘリコプターが攻撃を加えたほか、カダム区、アサーリー地区、ダッフ・シューク地区などが砲撃を受けた、という。
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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ市のスライマーン・ハラビー地区、カーディー・アスカル地区、サーフール地区などで軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦した。
これに対して、SANA(8月21日付)は、アレッポ市タッル地区、ジュダイダ地区、ファルハート広場などを軍・治安部隊が完全に制圧し、外国人戦闘員を含む多数の戦闘員を殺傷した、と報じた。
また同市のザバディーヤ地区、カラム・マイサル地区、ファイド地区、アルクーブ地区、マシャーリカ地区、ブスターン・ザフラ地区、マーリア市、アアザール市では、軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷、逮捕した、という。
一方、自由シリア軍のアレッポ県軍事評議会議長のアブドゥルジャッバール・アカイディー大佐がAFP(8月21日付)に対して、「アレッポ市の60%以上を制圧した」と発表した。
アカイディー大佐によると、制圧した地区は30以上にのぼり、そのなかには、サイフ・ダウラ、ブスターン・カスル、マシュハド、アンサーリー、ハナーヌー、サーフール、ブスターン・バーシャー、シャイフ・サイード、フィルドゥース、カッラーサなどが含まれる、という。
またサラーフッディーン地区は50%制圧下にある、という。
しかしAFP(8月21日付)によると、ダマスカスの治安筋は、「こうした言葉は根拠がない…。テロリストはいかなる前進もしていない。逆に軍が少しずつ前進している」と否定した。
また「軍は破壊分子の拠点に武器弾薬が届くのを阻止するべくアレッポを砲撃している…。この戦闘には長い時間がかかるだろう」と付言した。
シリア人権監視団は、トルコ人、レバノン人、米報道機関に属すアラブ人を含む3人の記者がアレッポ県で取材中に失踪したと発表した。
これを受け、ジャディード・チャンネル(8月21日付)は、アレッポ県で取材中に失踪したとされるユムナー・ファウワーズ記者が拉致されていないことを確認したと報じた。
また、フッラ・チャンネル(8月21日付)は、20日にシリアに取材のために入国したバッシャール・ファフミー記者、クネイト・ウナル記者がアレッポで拉致・拘束されたと報じた。
これに先立って、アーザーズ市の反体制武装活動家のアフマド・ガザーリー大佐がユーチューブ(8月21日付)でフッラ・チャンネルの記者2人が軍に拉致・拘束されたと発表した。
一方、日本人ジャーナリストの山本美香氏がアレッポ市スライマーン・ハラビー地区で取材中に軍・治安部隊と反体制武装勢力の戦闘に巻き込まれ、死亡した。
山本氏とともに取材を行っていた佐藤和孝氏によると、山本氏らはトルコからシリア国内に入り、反体制武装勢力が占拠する地区で現地の惨状を取材していた。
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ヒムス県では、SANA(8月21日付)によると、クサイル地方で軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、戦闘員3人を殺害した。
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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、マアッラト・ニウマーン市、タフタナーズ市、サラーキブ市、マアッラトミスリーン市、アリーハー市、ザルダーナー市、タルマラー市、カフルサジュナ村、ラカーヤー村などを軍・治安部隊が砲撃した。
一方、SANA(8月21日付)によると、国境警備隊がトルコ領内からの潜入を試みる戦闘員を撃退した。
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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、フラーク市、ナーフタ町、インヒル市、東ムライハ町、東ガーリヤ村、西ガーリヤ村、ブスル・ハリール市、ハイト村、ラジャート高原、スーラ町に対して軍が砲撃・空爆を加えた。
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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ブーカマール市を軍が空爆した。
一方、ロイター通信(8月21日付)は、自由シリア軍の複数の消息筋の話として、軍・治安部隊がブーカマール市内の治安機関の施設2棟を放棄した、と報じた。
反体制勢力の動き
クルディーヤ・ニュース(8月21日付)は、自由シリア軍の70以上の調整組織、大隊が作成した「シリア革命統一戦線発足文書」を入手したと伝えた。
同文書(未発表)は、国内で反体制武装闘争を行う諸組織の統合をめざすもので、発足が宣言される統一戦線には、調整、地元組織、学生、ビジネスマン、事業家、専門家、自由シリア軍の諸大隊が参加するという。
なお国内の反体制武装闘争を統括しているとされる自由シリア軍国内合同司令部との関係は不明である。
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民主的変革諸勢力国民調整委員会国民評議会議長のフサイン・アウダート氏は、同委員会によるアサド政権と反体制武装勢力の双方への一時停戦呼びかけに関して、「シリア自国民の運動、栄光ある蜂起に奉仕しない」と批判し、こうしたイニシアチブがすべての反体制勢力による包括的国民大会での合意を必要とすると主張した。
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トルコで暮らす自由シリア軍司令官のリヤード・アスアド大佐は、ダマスカス郊外県でのハッサーン・ミクダード氏の誘拐が「レバノンで不和と不安定を作り出そうとする政権のゲーム」だとしたうえで、自由シリア軍の犯行ではないと断じた。
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シリア国民評議会は、レバノン国内で過去数日の間にシリア人36人が誘拐されたと発表し、レバノン当局による対応の遅れを非難した。
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『クッルナー・シュラカー』(8月21日付)は、反体制組織のサルキーン市調整が、ダマスカス郊外県のムウダミーヤ・シャーム市、タッル市、ダマスカス県カーブーン区への空爆を行ったパイロット2人の名前を公表した。
空爆を行ったとされるのは、バドル・ハドラ大佐(MiG23パイロット)とバッサーム・カーリム大佐(Sukhoi22パイロット)。
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シリア国民評議会のアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長がフランスのフランソワ・オランド大統領と会談した。
会談後、スィーダー事務局長は、暫定政府樹立を「早急に宣言するための真剣な活動」がシリアの諸勢力との協議を通じて進行中だと述べた。
また「我々は早急に国内に移動し、この政府(暫定政府)が国内での義務を果たすこと」を望んでいると述べた。
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シリア国民変革潮流は声明を出し、アレッポで取材中に死亡した山本美香氏に関して、アサド政権が外国の記者を平然と殺害している、と批判した。
クルド民族主義勢力の動き
クルディーヤ・ニュース(8月21日付)は、複数のシリア・クルド人の話として、シリア最高委員会が8月初めにイラク・クルディスタン地域のエルビルに使節団を派遣し、シリア国民評議会の代表と会談していたと報じた。
シリア最高委員会のムスタファー・ウースー(渉外委員会)によると、使節団(3人)のなかには民主統一党メンバーが含まれており、同党がシリア国民評議会と接触したのはこれが初めてで、会談において委員会は、クルド人の権利の承認の是非が議論されたという。
レバノンの動き
20日にトリポリ市のバーブ・タッバーナ地区とジャバル・ムフスィン地区で発生した住民同士の衝突は21日も続き、ジャディード・チャンネル(8月21日付)などによると、少なくとも4人が死亡、数十人が負傷した。
また事態収拾のために展開した軍の兵士4人も負傷した。
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ムハンマド・カッバーラ議員(トリポリ無所属ブロック代表)は、「軍が無実の住民に向かって無差別に発砲している」と非難、「シリア政府がアレッポ、ダイル・ザウル、ヒムス、ダルアー、ダマスカスで犯した犯罪から注意を反らそうとして、バーブ・タッバーナ地区とジャバル・ムフスィン地区での不和を作り出そうとしていた」と断じた。
諸外国の動き
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、「我々がシリアで目の当たりにしている現状を踏まえると、現時点で、講じられている措置は不十分に思われる。しかし、我々はこうした方法以外に道はないと考えている」と述べた。『ハヤート』8月22日付などが報じた。
またラブロフ外務大臣は中国の外交官との会談後、両国が「国際法、国連憲章に基づく諸原則を断固として遵守し、それらを侵害することを許さない」と述べ、アサド政権が化学兵器を使用した場合、軍事介入もあり得ると示唆したバラク・オバマ米大統領の姿勢を牽制した。
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米国務省のデヴィッド・ロビンソン移民担当国務次官補 はシリア情勢に関して「世界最悪の危機」と評した。
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トルコのガズィアンテップ市での20日の車爆弾の爆発に関して、トルコ高官は当局がシリアおよびPKKの関与を調査していると述べた。『アフバール・シャルク』(8月22日付)が伝えた。
しかしPKKに近いウェブサイト「ユーフラテス・ニュース」(8月21日付)は事件への関与を否定するPKKの声明を転載している、という。
AFP, August 21, 2012、al-Hayat, August 22, 2012、Kull-na Shurakaʼ, August 21, 2012, August 22, 2012、al-Kurdiya News, August 21, 2012、al-Jadid Channel, August 21, 2012、Middle East Online, August 21, 2012、Naharnet.com, August 21, 2012、Reuters, August 21, 2012、SANA, August 21, 2012、Youtube, August 21, 2012などをもとに作成。
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