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国内の暴力(アレッポ県)
アレッポ県では、シリア人権監視団などによると、アレッポ市のスッカリー地区、サラーフッディーン地区周辺、カッラーサ地区、アルクーブ地区、ザイディーヤ地区、サーリヒーン地区などで軍・治安部隊と反体制武装集団が激しく交戦し、軍はヘリコプターを動員した。
また旧市街の入り口にあたるバーブ・ハディード地区、バーブ・ナスル地区でも戦闘があった。
反体制武装集団はサイフ・ダウラ地区の郵便局に進入し、アサド大統領の写真などを破壊した。
またサーフール地区では軍の戦車を破壊した。
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一方、『サウラ』(7月25日付)によると、サーリヒーン地区の警察部隊が武装集団と対峙し、甚大な被害を与えた。
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シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラー代表は、戦闘のほとんどが「民衆的性格」を帯びていると宣伝した。
しかし「民衆的性格」を有しているはずの反体制武装集団の攻勢で多数の住民が避難を余儀なくされている。
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「アレッポ殉教者部隊」司令官のムスタファー・アブドゥッラーなる反体制戦闘員はロイター通信(7月24日付)に対して、シリアの軍・治安部隊がアレッポ県北部を砲撃し、反体制武装集団の戦闘員の進軍を阻止しようとしている、と述べ、戦闘員がトルコ方面から進軍していることを認めた。
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またトルコに避難中の離反兵は、反体制武装集団がアレッポ市郊外のムスリミーヤ村にあるアレッポ法兵学校を制圧したと述べ、自由シリア軍事評議会のムスタファー・シャイフ准将も避難先のトルコでロイター通信(7月24日付)に対して、「この作戦(アレッポ法兵学校制圧)は戦略的・象徴的な重要性がある」と述べた。
しかし法兵学校制圧の事実は確認されていない。
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シリア国民評議会は、21日にアレッポ中央刑務所で暴動があり、治安当局が実弾・催涙ガスを使用して強制排除、その際15人の収監者が死亡した、との声明を発表した。
また同評議会は、21日にヒムス中央刑務所で暴動が始まり、政権による「大虐殺」に警鐘を鳴らしたが、シリア公式筋は暴動の発生を否定しており、そもそも暴動が発生しているかどうかも定かでない。
国内の暴力(その他の地域)
ダマスカス県では、シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン代表によると、「シリア軍はマッザ区、バルザ区、マイダーン地区、カフルスーサ区を完全に制圧した」。
しかし、シリア人権監視団によると、ダマスカス県、ダマスカス郊外県では「戦闘員が退避した」カダム区、ハジャル・アスワド市で戦闘が続いた。
またアブ・カイスを名のる活動家によると、バルザ区に第4機甲師団の戦車20輌が進入し、掃討作戦を継続した。
一方、『サウラ』(7月25日付)によると、マイダーン地区で軍・治安部隊が反対武装集団の「残党狩り」を継続した。
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『クッルナー・シュラカー』(7月24日付)は、ダマスカス郊外県ジャルマーナー市で、「シャッビーハ」と目されるドゥルーズ派の青年が「何者か」によって殺害されたことを受け、住民と避難民が衝突したと報じた。
同報道によると、シャッビーハと目されるドゥルーズ派の青年の殺害を受け、ある「シャッビーハ」が報復として青年1人(ジャルマーナー市外出身)を殺害、またジャルマーナー市内の避難民(3,000~4,000人)が避難している学校を襲撃、放逐すると脅迫した、という。
その後、ジャルマーナー市住民が発砲を受け複数が負傷、さらに避難民が実を寄せる学校を「シャッビーハ」が襲撃した。
事態は、同市のドゥルーズ派のシャイフや地元の有力者らとともに現場を訪れることで収拾した、という。
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ヒムス県では、『サウラ』(7月25日付)によると、ヒムス市カラム・シャムシャム地区を軍・治安部隊が制圧した。
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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市内各所で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦した。
一方、『サウラ』(7月25日付)によると、ダイル・ザウル市で軍・治安部隊が反体制武装集団と交戦し、戦闘員2人を殺害した。
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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ダーイル町、ラジャート高原、ヌジャイフ村、フラーク市などが軍・治安部隊の砲撃に曝されたという。
一方、『サウラ』(7月25日付)によると、フラーク市で治安維持部隊が武装テロ集団の襲撃を受けたが、応戦し、またガバーイブ市での戦闘で反体制武装集団の戦闘員1人を殺害した。
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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、ワーディー・ダイフ地方、ハーン・シャイフーン市、マアッラト・ニウマーン市などが軍・治安部隊の砲撃に曝され、少なくとも4人が死亡した。
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ハマー県では、シリア人権監視団によると、カフルズィーター市での軍・治安部隊の砲撃により、4人が死亡した。
シリア政府の動き
ダーウド・ラージハ国防大臣、ハサン・トゥルクマーニー副大統領補、アースィフ・シャウカト副参謀長、ヒシャーム・ビフティヤール・バアス党シリア地域指導部メンバーの暗殺(18日)を受け、アサド大統領は以下の通り、ムハーバラートの人事改編を行った。
アリー・マムルーク少将:総合情報部長から国民安全保障会議議長に異動。
ルストゥム・ガザーラ少将:軍事情報局ダマスカス郊外県課長から政治治安部長に異動。
ディーブ・ザイトゥーン少将:政治治安部長から総合情報部長に異動。
アブドゥルファッターフ・クドスィーヤ少将:軍事情報局長から総合情報部第2次長に異動。
アリー・ユーヌス少将:総合情報部第2次長から軍事情報局長に異動。
なおマムルーク少将の移動により、ビフティヤール少将が国民安全保障会議議長を務めていたことが明らかになった。
シリアのムハーバラートについてはhttp://www.tufs.ac.jp/ts/personal/aljabal/biladalsham/syria/m.htmを参照。
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アラビーヤ(7月24日付)はラミーヤー・ハリーリー駐キプロス・シリア大使が離反したと報じた。
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『クッルナー・シュラカー』(7月24日付)は、信頼できる消息筋の話として、政治治安部がダマスカス県カッサーア地区、バーブ・トゥーマー地区の住民(キリスト教徒)に武器を配付している、と報じた。
反体制勢力の動き
自由シリア軍国内合同司令部は声明を出し、アサド政権が「大量破壊兵器をちらつかせることで、イスラエルの脅威を利用しようとしている」と主張、「地域社会と国際社会に圧力を軽減するため…数ヶ月前から大量殺戮兵器の備蓄の再配置を始めた」とし、その一部が国境地帯の空港に転送されたと述べた。
同声明によると、自由シリア軍はシリア国内の大量破壊兵器の配置を完全に把握しているというが、根拠に乏しい。
しかし、西側諸国やイスラエルがアサド政権の化学兵器の脅威をにわかに強調するなか、シリアの反体制(武装)勢力が化学兵器の使用を政局に劣勢の打開を図ろうとしていることは明らかである。
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離反兵の一人、ファーイズ・アムルー准将は避難先のトルコでロイター通信(7月24日付)に対して、「国境通行所の制圧は戦略的重要性はないが、心理的影響がある。なぜならアサド軍の精神を砕くからだ」と述べた。
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シリア国民評議会のアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長は、トルコのアフマド・ダウトオール外務大臣と会談した。
会談後、記者団に対して、「子供を殺害し、女性を犯してきた態勢が化学兵器を使用することはいともたやすいことだ」と述べた。
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シリア国民評議会のジョルジュ・サブラー報道官はAFP(7月24日付)に対して、「我々はアサドの退任と、イエメンのように体制内の誰かに移行期間を指導するための(大統領)権限の移譲で同意した」と述べた。
「体制内の誰か」が誰なのかに関して、サブラー報道官は「シリアは愛国的な人材が抱負だ。政権内にいる人物やシリア軍の一部士官も役割を果たすことができる」と答えた。
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しかし、同評議会のバスマ・カドマーニー報道官は、反体制勢力は「現体制内の人物を長とする挙国一致政府を発足すると一度も言及したことはない」と述べ、サブラー報道官の発言を否定した。
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マナーフ・トゥラース准将はアラビーヤ(7月24日付)に出演し、自身の離反を改めて公式に宣言、「一国民…一兵士として…腐敗した体制の犯罪的方法を拒否する」と政権を非難するとともに、「自由で民主的なシリアを一致団結して建設するのが我々シリア人の義務だ」と述べた。
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シリア国民評議会のアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長は、トルコのアフマド・ダウトオール外務大臣との会談後、記者団に対して、アレッポ県のアイン・アラブ市、アフリーン市から軍・治安部隊が突如撤退し、シリア国旗が降ろされ、二つのクルド民族主義政党の旗が掲揚されたと語った。
なおこの動きと時を一にして、シリア軍を離反したのち、イラクのクルディスタン地域で教練を受けたクルド人民兵(ペシュメルガ)約600人以上がシリア領内に入ったとの情報があるが、事実確認は取れていない。
スィーダー事務局長によると、この二つのクルド民族主義政党とはPKK系の民主統一党と、反体制組織の一つシリア・クルド民主統一党(イェキーティー)で、「アサドがこのうちの一党(民主統一党)に与えた地域で両党がそれぞれの党の旗を掲揚した」という。
スィーダー事務局長はまた「クルド人民は革命を支持しており、これら二党を支持していない」と付言した。
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シリア国民評議会のアブドゥルハキーム・バッシャール渉外局長は、「シリア政府高官はシリア・クルド民主統一党(イェキーティー)の党員を呼び、彼らに(クルド人が多く地域の)行政を託した」と述べた。
アナトリア通信(7月24日付)が伝えた。
バッシャール渉外局長によると、政府側の動機は定かでない。
なおシリアのクルド民族主義政党に関しては以下の資料を参照。
「シリアにおけるクルド問題と「アラブの春」『中東研究』第512号(2011年9月)、pp. 43-52。http://www.meij.or.jp/chutokenkyu/index.html
「シリアにおけるクルド民族主義政党・政治組織(1)」『現代の中東』第39号、2005年7月、pp. 58-84。http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Mid_e/pdf/2005_02_aoyama.pdf
「シリアにおけるクルド民族主義政党・政治組織(2)」『現代の中東』第40号、2006年1月、pp. 20-31。http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Mid_e/pdf/200601_05.pdf
「シリアにおけるクルド民族主義政党・政治組織(補足):ハリーリー元首相暗殺に伴う政情変化のなかで(2005年)」『現代の中東』第41号、2006年7月、pp. 65-94。http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Periodicals/Mid_e/pdf/200607_06.pdf
レバノンの動き
アドナーン・マンスール外務大臣は、シリア軍によるレバノン領への侵犯に関して、「現場で検証すべき事実がある」とし、アリー・アブドゥルカリーム駐レバノン・シリア大使への抗議を保留すると述べた。
シリア大使への抗議はミシェル・スライマーン大統領によって指示されていた。
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マヤーディーン(7月24日付)は、「ムフタール・サカフィー連隊」を名のる組織がレバノン領内でシリア人反体制活動家を誘拐したと報じた。
同報道によると、アレッポ県で誘拐されたレバノン人巡礼者(シーア派)11人との交換が目的だという。
『アフバール』(7月25日付)によると、誘拐された活動家の数は3人から5人だというが、誘拐された活動家の人数は定かでない。
一方、レバノンの軍当局は、レバノン領内で誘拐されていたシリア人3人(ハマー県出身)の身柄を確保したと発表した。
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レバノンのドゥルーズ派のシャイフ・アクル府はシリア国内、とりわけダマスカス郊外県ジャルマーナー地方およびグータ地方のドゥルーズ派宗徒に対して「一時の紛争を超越し…隣人と共に平穏な暮らしを維持する」よう呼びかけた。
諸外国の動き
ヒラリー・クリントン米国務長官は、シリア情勢に関して、さらなる反体制活動のためシリアの反体制勢力と緊密に行動すべきと述べるとともに、アサド政権に改めて退陣を求めた。
クリントン国務長官は、「我々は反体制勢力と緊密に行動しなければならない。なぜなら彼らは徐々に領土を制圧しており、これらの領土は最終的にはシリア領内に安全な隠れ場所となり、さらなる活動のための基地となるだろう…。アサド体制が(体制)転換を始めることは手遅れではない」と述べた。
トーマス・ドニロン米国家安全保障問題担当大統領補佐官が北京を訪問し、中国高官らとシリア情勢について協議した。
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ロシア外務省は、タルトゥース港に向かって航行中のロシア艦隊がジブラルタル海峡を通り、地中海に入ったと発表した。
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AFP(7月24日付)は、イラン軍のマスウード・ジャザーイリー副参謀長が革命防衛隊のサイトで「シリア国民とその友好国は体制転換を許さないだろう」と述べた、と報じた。
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トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、シリアの反体制武装集団による国境通行所の占拠による国境地帯の緊張状態が増すなか、「シリア政府が教訓を得ず…敵対的な行動を続けるなら、トルコは報復をためらわないだろう」と述べ、国境地帯へのシリア軍の奪還作戦を牽制した。
また「シリア国民はこれまで以上に勝利に近づいている」と煽動した。
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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、ドーハでのアラブ連盟シリア問題閣僚委員会会合の後、「政治改革に関して話すことはない」と述べ、シリアでの政権交代が不可避との見方を示しつつ、「(政権交代までの)期間がどのくらいかを限定できないが、体制は長くは続かないだろう」と述べた。
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ヨルダンでシリア人避難民の支援活動を行っている聖典スンナ協会のザーイド・ハマード代表は、過去3日でシリア領内から約5,000人のシリア人が避難してきたと発表した。
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シリアの反体制武装集団への武器・資金供与を行うサウジアラビアのアブドゥッラー国王の呼びかけを受け、3,260万ドルの寄付金が集まった。サウジの公式筋が明らかにした。
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『ワシントン・ポスト』(7月24日付)は、米高官の話として、CIAがエジプトやリビアとは異なり、シリア国内での諜報活動の拠点を築くことができず、国内の反体制勢力などの情報を収拾できていない、と報じた。
AFP, July 24, 2012、al-Akhbar, July 25, 2012、Akhbar al-Sharq, July 24, 2012、Alarabia.net, July 24, 2012、al-Hayat, July 25, 2012、Kull-na Shurakaʼ, July 24, 2012、al-Mayadin, July 24, 2012、Naharnet.com, July 24, 2012、NNA, July 24, 2012、Reuters, July 24, 2012、SANA, July 24, 2012、al-Thawra, July 25, 2012、The Washington Post, July 24, 2012などをもとに作成。
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