シリア国民評議会使節団がロシアで同国外相と会談するも両者の見解の相違は解消されず、国連安保理ではロシアがUNSMISの人気延長を求める安保理決議案を提出(2012年7月11日)

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国内の主な動き

アサド大統領は、第1次リヤード・ファリード・ヒジャーブ内閣発足(2012年6月23日)を受けるかたちで政令を出し、以下の人事改編を行った。

SANA, July 11, 2012

SANA, July 11, 2012

スライマーン・ムハンマド・ナースィル:ラタキア県知事
アーティフ・ナッダーフ:スワイダー県知事(タルトゥース県知事より異動)
マーリク・ムハンマド・アリー:クナイトラ県知事(スワイダー県知事より異動)
ニザール・イスマーイール・ムーサー:タルトゥース県知事
アブドゥルワッハーブ・アリー・フサイン:ハサカ県知事
ガッサーン・アフマド・ルトフィー・カナーティリー:ダイル・ザウル県知事
アフマド・ムニール・ムハンマド:ヒムス県知事
ムハンマド・ガッサーン・ハバシュ:計画国際協力委員会委員長(前駐日本シリア大使)

ムハンマド・ラスール・アムーリー:財務監査中央局長官

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7月7日から続けられていたシリアの陸海空軍は合同演習が終了した。

SANA, July 11, 2012

SANA, July 11, 2012

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AFP(7月11日付)は、匿名外交筋の話として、ナウワーフ・シャイフ・ファーリス駐イラク・シリア大使が、イラク外務省に自身が離反したことを伝えた、と報じた。事実確認はとれていない。

同消息筋によると、イラク高官は12日に同大使の第三国への出国を協議するための会合を開く、という。

ファーリス氏は2008年に駐イラク大使に就任、それ以前は1994年から1998年までバアス党ダイル・ザウル支部指導部書記長、1998年から2000年までラタキア県知事、2000年から2002年までイドリブ県知事、2002年から2008年までクナイトラ県知事を歴任していた。

イラク外務省高官は『ハヤート』(6月12日付)に対して、ファーリス大使の離反に関して「今のところファーリス大使は通常の執務を行っている。彼ないしは大使館がそうした決断を下したとの報告はまだ受けていない」と否定した。

国内の暴力

SANA(7月11日付)によると、ハマー県カルアト・マディーク町で治安維持部隊が武装テロ集団と交戦し、トルコ人4人を含むテロリスト多数を殺害した。

このほかヒムス県ヒムス市(ジャウラト・シヤーフ地区など)、ダイル・ザウル県などで武装テロ集団の「残党狩り」を行い、テロリスト多数を逮捕、大量の武器弾薬、資金(米ドルなど)を押収した。

国内の暴力(反体制勢力の発表)

ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、カダム区で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦した。

Kull-na Shurakāʼ, July 11, 2012

Kull-na Shurakaʼ, July 11, 2012

またマッザ区では夜間デモが行われ、若者数百人が体制打倒を叫んだ。

シリア革命総合委員会によると、カフルスーサ区で治安部隊が反体制活動家の逮捕・捜索を行った。

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ヒムス県では、SNN(7月11日付)によると、ヒムス市のハーリディーヤ地区、ジャウバル区、クサイル市に対して軍・治安部隊が砲撃を続けた。

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アレッポ県では、SNN(7月11日付)によると、アアザーズ市で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦した。

またシリア人権監視団によると、数日前にナイラブ・パレスチナ難民キャンプに向かう途中に誘拐されていたパレスチナ解放軍兵士13人の遺体が発見された。

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ハマー県では、SNN(7月11日付)によると、スーラーン市で治安部隊が反体制活動家の逮捕・捜索を行った。

al-Hayat, July 12, 2012

al-Hayat, July 12, 2012

反体制勢力の動き

シリア国民評議会の使節団がロシアでセルゲイ・ラブロフ外務大臣と会談した。

使節団は、アブドゥルバースィト・スィーダー事務局長、ブルハーン・ガルユーン前事務局長、ムンズィル・マーフース氏、バスマト・カドマーニー報道官、ナジーブ・ガドバーン氏、リヤード・サイフ氏など。

会談後、スィーダー事務局長は、アサド政権退陣の是非をめぐってロシアとの対立が解消されなかったと記者団に語った。

スィーダー事務局長は「私は、シリアのすべての国民的反体制勢力の名のもと、アサドが退陣しない限り対話は不可能だと強調した。しかしロシアは別の見解を持っていた」としたうえで、「我々はロシアの政策を拒否する…。なぜなら体制を支持するその政策は暴力継続を許すだけだからだ」と述べた。

またスィーダー事務局長はロシアの安保理での拒否権発動によってシリア国民が暴力や弾圧に曝されていると訴えた。

ガルユーン前事務局長は、「ロシアの姿勢に変化は観られなかった。1年前にもロシアを訪問したが、それから何らロシアの姿勢は変わっていない」と非難した。

一方、ラブロフ露外務大臣は、シリア国民評議会使節団との会談で、反体制勢力の「疑念を完全に払拭すべく」、すべての紛争当事者による対話が必要だとのロシアを改めて明示したと述べた。

また「シリアの反体制勢力が、アナン特使の停戦案に基づき、政府との対話という点で結束する真の可能性があるかを判断したい」と述べた。

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シリア・クルド国民評議会のアブドゥルハミード・ダルウィーシュ氏(シリア・クルド進歩民主党書記長)は、同評議会がイラクのエルビルで会合を開き、加盟組織がクルド民族主義勢力に対する武装闘争には関与しないことで合意したと発表した。

ダルウィーシュ氏によると、会合はイラク・クルディスタン自治区のマスウード・バールザーニー大統領の主催のもとに開かれ、政治指導部や在外組織委員会の設置を決定した、という。

またクルド民族主義勢力との武装闘争への関与を拒否することで、アサド政権に協力的なPKK系の民主統一党との対立の回避をめざしている。

『ハヤート』(6月12日付)によると、マスウード・バールザーニー大統領は最近、シリア・クルド国民評議会と民主統一党の対立解消の仲介を行っているが、両者はシリアの反体制運動とクルド問題の位置づけ方、とりわけトルコの介入の是非をめぐって対立したままだという。

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シリア国民変革潮流は声明を出し、漸進的に暴力停止をめざすとするアサド大統領の提案を拒否する、と発表した。

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シリア・トルクメン民族運動なる組織のズィヤード・ハサン報道官はトルコのイスタンブールで、アサド政権打倒後のシリアでトルクメン人にマイノリティとしての権利を与えるよう求めた。

レバノンの動き

レバノンのシリア人避難民を支援する救援最高委員会は声明を出し、シリア人避難民に対する医療費支援を一時凍結したと発表した。

この措置は「政治的ではなく、技術的な」もので、義援金目当てで避難民を名のるシリア人への支援という「行き過ぎ」に対処するためだという。

救援最高委員会によると、レバノンには現在、3万2000人にシリア人避難民がいる、とされる。

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AFP(7月11日付)はベイルート国際空港でシリアの反体制活動家、ザカリヤー・ムトラク氏(26歳)がレバノン治安当局に逮捕されたと報じた。

レバノン総合情報総局の消息筋によると、ムトラク氏は関係当局から「指名手配」されており、身柄はレバノン軍に引き渡された、という。

ムトラク氏はヒムス県ヒムス市バーブ・アムル地区の出身で、同地区が制圧された今年2月にシリアを脱出していた。

指名手配の理由は不明。

諸外国の動き

国連安保理では、ロシアがUNSMISの任期(7月20日)の3ヵ月の延長を求める安保理決議案を提出した。

同決議案は、UNSMISの活動を強化するうえで軍事的能力を高める必要がある点を強調、シリア政府などに対してその活動の安全と自由を保障するよう求めている。

またアナン特使の停戦案の即時履行への支持を表明、シリア人による政治的解決を求める内容となっている。

しかし同決議案は、停戦が実現しなかった場合の措置については言及していない。

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米英仏の国連代表大使は、ロシアの決議案に異議を唱え、「国連憲章第7章」に基づき、アナン特使の停戦イニシアチブの履行を求め、停戦が実現しなかった場合、制裁を科すべきだと主張し、代案を提出すると述べた。

その後、英国が西側諸国を代表して、ロシア案に対抗するための決議案を提出した。

この決議案は、国連安保理憲章第7章に基づき、6月末のジュネーブでのシリア作業グループ会合声明を履行するかたちでの暫定挙国一致内閣の発足、憲法改正、選挙実施を求めている。

またシリア政府に対して、国連安保理決議2042、2043号に従ってアナン特使の停戦案の完全履行を求めるとともに、すべての当事者に暴力停止と政治的転換に相応しい雰囲気の醸成を呼びかけている。

一方、UNSMISについては、任期を45日延長し、非武装の監視団員を削減し、これに代えて民間人の監視団を増員、政治対話の促進、弾圧に関する調査任務の重点的実施をめざしている。

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インテルファクス通信(7月11日付)は、連邦軍事技術協力庁高官が、ロシアがシリアとの契約に基づき、シリアへの防空システムなどの供与を継続すると述べたと報じた。

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NATOのアナス・フォー・ラスムセンNATO事務局長はシリア情勢に関して、政治的解決の支援が必要と述べ、軍事介入の可能性を改めて否定した。

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イランのホセイン・エミール・アブドゥッラフヤーン外務副大臣は、イランを訪問したアナン特使とアリー・アクバル・サーレヒー外務大臣の会談で、イラン側がシリア国境で武器密輸監視を行うよう求めたと述べた。イラン国営通信(7月11日付)が伝えた。

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コフィ・アナン特使はジュネーブで記者団に対して、イラン政府がシリアの主導のもとでの政治的転換をめざす自身の停戦案を支持している、と語った。

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米ホワイトハウスのジェイ・カーニー報道官は、アナン特使のイラン訪問に関して、「イランの役割は積極的ではないし、有益でもない。我々の関心はシリアでの安定を望む国と協力すること」と述べた。

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中国外交部報道官は、「中国はシリア問題に相応しい解決策において地域諸国は切り離せず、シリアの当事者に影響力を持つ地域の国々の支援や参加が必要だと考える」と述べ、シリア危機の解決へのイランの参加をめざすアナン特使の姿勢への支持を表明した。

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AKI(7月11日付)は、イタリア当局がイオニア海でシリア人避難民25人(うち女性12人、子供4人)が乗ったボートを発見した、と報じた。

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パレスチナ解放軍参謀本部は声明を出し、ヒムス・ハマー街道で同軍のレジスタンス戦闘員2人(休暇中)が武装テロ集団に誘拐されたと発表した。

一方、パレスチナ自治政府はシリアのパレスチナ人に対する救援活動を行うと発表した。PECDARのムハンマド・シュタイヤ議長がラーマッラーで明らかにした。

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ウィキリークス(7月11日付)は、アサド政権が米国の広告代理店ブラウン・ロイド・ジェームズ社に反体制運動への対応についてのアドバイスを求めたことを示すメールを公開した。

また、2011年6月に営利活動からの撤退を宣言していたラーミー・マフルーフ氏(アサド大統領のいとこ)が依然として営利活動を行っていることを示すメールも公開した。

AFP, July 11, 2012、Akhbar al-Sharq, July 11, 2012、AKI, July 11, 2012、al-Hayat, July 12, 2012, July 13, 2012、Kull-na Shurakaʼ, July 11, 2012、Naharnet.com,
July 11, 2012、Reuters, July 11, 2012、SANA, July 11, 2012などをもとに作成。

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