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アナン特使の動き
コフィ・アナン特使はイランを訪問し、シリア情勢などに関してアリー・アクバル・サーレヒー外務大臣と会談し、漸進的な事態収拾をめざすとするアサド政権の提案に事実上沿ったかたちでの政治的解決に理解を示した。
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会談後の記者会見で、アナン特使は、アサド大統領が暴力停止に向けて「漸進的な方法をとり、暴力行為がもっとも激しいホットスポットから収拾のための試みを始め、一歩一歩進むことで全土での暴力の停止をめざす」と提案したことを明らかにした。
また6月末のジュネーブでのシリア作業グループ会合での合意に関して「これは我々が紛争における人々の武装化ではなく、政治的解決をめざしていることを実質的に意味する」と述べた。
そのうえで「私は事態がそのように推移するだろうと思う。過った者の手にある武器を回収するための真摯な計画が策定されねばならず、今後発足するであろう政府、ないしは現政府が武器使用と武器を管理することが保障されねばならない。つまり一つの権力、一つの武器(管理)だ」と述べた。
さらに「シリアの危機がコントロール不能となり、地域に波及する危険がある」としたうえで、「イランは積極的な役割を果たすことができる」と述べた。
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これに対して、サーレヒー外務大臣は、「我々はシリアと地域における安定と平穏が回復されるまで、アナン氏が行動を続けることを期待する」と述べるとともに、「イランは(シリア危機の)解決策の一部をなす」と強調した。
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アナン特使はその後、イラクに移動し、ヌーリー・マーリキー首相と会談した。
アリー・ダッバーグ報道官によると、会談では、シリア情勢への対応が協議された。
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マナール(7月10日付)は複数のシリア消息筋の話として、アナン特使がダマスカスでアサド大統領と合意した提案のなかに、「反体制武装集団の国家への武器引き渡しと政治的解決受諾を条件として、すべてのシリア人による対話を開始する」との項目があったと報じた。
国内の主な動き
シリアのダーウド・ラージハ国防大臣は、「国内のテロと外国の敵対行為」を許さないと述べた。SANA(7月10日付)が報じた。
国内の暴力
シリア赤新月社は声明を出し、ダイル・ザウル市で救急車両が銃撃を受け、乗っていたボランティア活動家ハーリド・ハッファージー氏が負傷、死亡したと発表した。
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ヒムス県では、SANA(7月10日付)によると、クサイル市および郊外で治安維持部隊が武装テロ集団の攻撃に応戦し、テロリストに打撃を与えた。
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アレッポ県では、SANA(7月10日付)によると、アレッポ市で武装テロ集団がアブドゥルバースィト・アルジャ医師を暗殺した。
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イドリブ県では、SANA(7月10日付)によると、ジスル・シュグール市で治安維持部隊が武装テロ集団を追跡、複数名を逮捕した。
またトルコ領内からヒルバト・ジューズ村に潜入しようとした武装テロ集団を拘束した。
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ラタキア県では、SANA(7月10日付)によると、バラータ村とハラータ村で武装テロ集団が農民を襲撃、1人を殺害した。
国内の暴力(反体制勢力発表)
ダルアー県では、SNN(7月10日付)やシリア革命総合委員会が、軍・治安部隊がラジャート高原北部の井戸数十カ所を埋め、自由シリア軍による水の確保を阻止しようとしていると報道・発表した。
シリア人権監視団によると、ダルアー市内各所および同市郊外の避難民キャンプが軍・治安部隊の砲撃にさらされ、複数が負傷した。
地元調整諸委員会によると、1人が殺害された。
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ダマスカス県およびダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、カダム区、カフルスーサ区、ダーライヤー市などで治安部隊が活動家の逮捕・捜索活動を行い、爆発音や銃声が聞こえた。
またバルザ区では1ヵ月以上前に逮捕された民間人1人が拷問の末死亡した、という。
地元調整諸委員会によると、2人が殺害された。
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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市内での軍・治安部隊と反体制武装集団との戦闘で、前者の兵士4人と後者の戦闘員2人が死亡した。
なお反体制武装集団は市内西部をRPG弾で砲撃する一方、軍・治安部隊の市内複数地区の制圧のため砲撃で応戦した。
地元調整諸委員会によると、12人が殺害された。
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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、タッル・リフアト市、マンナグ村などが軍・治安部隊の砲撃に曝された。
またアアザーズ市での軍・治安部隊と反体制武装集団の交戦で、後者の戦闘員2人が死亡した。
地元調整諸委員会によると、7人が殺害された。
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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市のジャウラ・シヤーフ地区、カラービース地区、ハーリディーヤ地区で軍・治安部隊による砲撃が続いた。
地元調整諸委員会によると、4人が殺害された。
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イドリブ県では、地元調整諸委員会によると、2人が殺害された。
反体制勢力の動き
シリア国民評議会はロシア外務省によるアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長招聘(7月10日訪問予定)を受けて声明を出し、従来通り「革命とシリア国民の要求」に沿って、アサド政権の打倒、自由シリア軍の支援、国連憲章第7章に基づく暴力停止のための国際社会の介入を要求し続けることを確認した。
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シリア人権監視団は声明を出し、2011年3月以降の死者数が17,129人に達したと発表した。
うち11,897人が民間人、884人が離反兵、軍・治安部隊兵士が4,348人だという。
同監視団は6月14日に死者総数を14,476人(10,117人が民間人、807人が離反兵、3,552人が軍・治安部隊兵士)と発表していた。
レバノンの動き
レバノン赤十字社など複数の消息筋によると、北部県アッカール郡ワーディー・ハーリド地方の違法国境通過ポイントで未明に銃撃戦があり、シリア人2人とレバノン人1人が死亡、レバノン人1人が負傷した。
レバノン国軍は声明を出し、シリア軍と武装集団の間で戦闘があり、迫撃砲複数発がレバノン領内に着弾、レバノン人が負傷したことを認めたうえで、「軍部隊は、銃撃戦が発生し、レバノン軍も応戦した地点での厳戒パトロールを行い、チェックポイントを設営した」と付言、銃撃戦に参加したことを明らかにした。
『サフィール』(6月11日付)によると、銃撃戦はシリア領内のシリア国境警備隊のチェックポイントを砲撃武装集団とシリア軍の間で行われた。
その際、シリア軍はレバノン領内から攻撃する武装集団に応戦、ワーディー・ハーリド地方のムカイブラ、ヒーシャに迫撃砲が着弾した。
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一方、SANA(7月10日付)によると、ヒムス県タッルカラフ地方の対レバノン国境地帯複数カ所で国境警備隊が武装テロ集団の潜入を阻止した。
同通信社によると、武装テロ集団は、ジスル・カマール、ジスル・アブー・スワイド、ハルムーシュ、アルムータ、アリーダ、ヌーラー、ダーリヤにある国境警備隊の拠点を襲撃したが、国境警備隊が応戦、撃退したという。
この戦闘でテロリスト多数が死傷、また国境警備隊兵士1人が負傷した。
諸外国の動き
ロシアのミハイル・ボグダノフ外務副大臣は、シリア作業グループの第2回会合(シリア情勢をめぐる国際会議)のモスクワでの開催を呼びかけた。インテルファクス通信(7月10日付)が報じた。
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ヨルダン内閣は声明を出し、領内にシリア人避難民を受け入れるための緊急キャンプを設営することを決定したと発表した。
また国際移民機関(IOM)に、シリア在住の外国人を本国への帰国、ないしは第三国への移住を調整するためのオフィスの設置も認めた。
ヨルダンには現在、14万人のシリア人避難民が非難しているとされる。
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ロシア北方艦隊の大型対潜艦アドミラル・チャバネンコを旗艦とするロシア海軍の船団がセヴェロモルスク港を発ち、タルトゥース港に向かった。
AFP, July 10, 2012、Akhbar al-Sharq, July 10, 2012、al-Hayat, July 11, 2012、Kull-na Shurakaʼ, July 10, 2012、al-Manar, July 10, 2012、Naharnet.com,
July 10, 2012、Reuters, July 10, 2012、al-Safir, July 10, 2012、SANA, July 10, 2012などをもとに作成。
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