2012年6月6日のシリア情勢

国内での主な動き

アサド大統領は2012年政令第194号を発し、リヤード・ファリード・ヒジャーブ農業・農業改革大臣を首相に任命し、組閣を要請した。

SANA, June 6, 2012

SANA, June 6, 2012

ヒジャーブ首相(1966年生まれ)はダイル・ザウル市出身のスンナ派で、バアス党ダイル・ザウル支部書記長(2004~2008年)、クナイトラ県知事(2008~2011年2月)、ラタキア県知事(2011年2月~8月)、農業・農業改革大臣(2011年8月~)を歴任してきた。

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SANA(6月6日付)によると、革命青年連合ダマスカス支部の青年ジャーナリストが、アラブサットとナイルサットでのシリアの衛星テレビ放送の配信停止を求めたアラブ連盟外相会議の決定に抗議するためダマスカス県旧市街のバーブ・トゥーマでデモを行った。

国内の暴力

国連安保理・総会でのアナン特使の報告を7日に控え、在ロンドンの反体制組織、シリア人権監視団などは、シリア国内での戦闘や犠牲者に関する情報の発信を活発化させた。

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ラタキア県では、シリア人権監視団によると、前日に引き続き、ハッファ市近郊、バッカース村、シールカーク村、バーブナー村、ジャンキール村、ダフィール村などで、軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦した。

この戦闘で、反体制武装勢力はサルマー町の治安当局施設や政府関連施設を制圧したものと思わ、軍・治安部隊は奪還のために「ヘリコプター、戦車、ロケット・ランチャー」などを投入して大規模な反撃を行っており、同監視団によると、砲撃は「避難民の避難を抑えるべく」ハッファ市の入り口に集中している、という。

またこの戦闘によりサルマー町で、離反した士官1人が殺害され、シールカーク村では市民4人が、ハッファ市では3人が死亡した、という。

一方、SANA(6月6日付)は、ハッファ地方で武装テロ集団が治安維持部隊に発砲し、兵士2人が死亡、士官2人が負傷した、と報じた。

シリア国民評議会は5日から戦闘が激化したハッファ地方へのUNSMISの派遣を呼びかけた。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、フライターン市での軍・治安部隊による攻撃で、未明にアレッポ大学学生1人が死亡した。またシャイフ・イーサー村で市民2人が治安部隊に射殺された。

また軍・治安部隊は、フライターン市、バヤーヌーン町、アアザーズ市に対する砲撃を激化させた。

一方、ムザイリーブ町で爆弾が爆発し、治安部隊兵士10人が殺害された。

このほか、アレッポ大学では、学生が反体制デモを行ったが、治安部隊に強制排除され、多数が逮捕された。

他方、SANA(6月6日付)によると、ハイヤーン町で武装テロ集団が輸送していた爆弾が爆発し、テロリスト2人が死亡した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、マルイヤーン村が軍・治安部隊の砲撃に曝された。

またサラーキブ市近くで、爆弾が爆発し、士官2人を含む兵士3人が死亡、またジスル・シュグール市近郊でも爆弾により、軍・治安部隊兵士1人が死亡した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ジスリーン町、カフルバトナー町、サクバー市、ハラスター市、ジュダイダト・アルトゥーズ町、ドゥーマー市郊外、アルバイン市、ザマルカー町などで、軍・治安部隊と反体制武装勢力が交戦した。

一方、SANA(6月6日付)によると、ジュダイダト・アルトゥーズ町の学校近くで武装テロ集団が爆弾を爆発させ、アフマド・アブドゥー・ムルヒジュ准将が暗殺された。

またブワイダ地方でも武装テロ集団が爆弾を爆発させ、少女1人が犠牲となった。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、ザーヒラ地区で爆発があったが、死傷者はなかった。

また、カーブーン区、ティシュリーン地区では未明に軍・治安部隊と反体制武装勢力による銃撃戦があった、という。

一方、SANA(6月6日付)によると、ルクンッディーン区では、テロリストのアジトで爆弾が誤って爆発市し、1人が負傷した。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ハマー市で爆弾が爆発し、市民1人が死亡したほか、治安当局の発砲で1人が射殺された。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ラジャート高原で、軍・治安部隊と反体制武装勢力が交戦し、前者の兵士3人が殺害された。

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ハサカ県では、Welati.net(6月6日付)によると、西クルディスタン人民議会に属するアフリーン市人民保護諸委員会は、身柄拘束していたシリア・クルド国民評議会メンバーら5人を釈放した。

反体制勢力の動き

『ハヤート』(6月7日付)によると、在外シリア人ビジネスマン300人以上がカタールのドーハに集まり、シリア・ビジネスマン・フォーラムを結成し、「シリアの自由尊厳革命の支持」を呼びかけるとともに、約3億米ドルの資金からなる「革命支援基金」を設立した。

シリア・ビジネスマン・フォーラム結成に合わせて、参加者は、ヤフヤー・クルディー氏、ムフタール・イバーラ氏、ムスタファー・サッバーグ氏、ワーイル・ミルザー氏と、国内在住のビジネスマン(匿名)3人を事務局メンバーに選出した。また代表にはムスタファー・ダッバーグ氏が就任した。

複数の消息筋によると、シリア・ビジネスマン・フォーラムはカタールなどが支援するシリア国民評議会への参加をめざしているという。

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シリア国民評議会のアブドゥルバースィト・スィーダー氏はAKI(6月6日付)に対して、「民間人保護…は合法的権利である。とりわけ、民間人殺害が15ヵ月続くなか、あらゆる選択肢が合法的だ」と述べ、シリア国民ではなく、国連に「真剣な措置」を講じるよう呼びかけた。

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反体制活動家のナジャーティー・タイヤーラ氏は、ヒジャーブ首相指名に関して、ジャズィーラ(6月6日付)に、アサド大統領が無所属の人物を首相に指名すると思っていたが「過激なバアス党員」を選んだ、と不快感を示した。

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反体制活動家のサミール・アティーヤ氏は、アサド大統領の人民議会での演説に関して、「最後の瞬間まで国内に政治的危機があることを認めなかったイラクのサッダーム・フサイン前大統領の演説に似ている」と批判した。

レバノンの動き

AFP(6月6日付)によると、ベカーア県バアルベック郡アルサール地方ヒルバト・ダーウードで、シリア軍・治安部隊と地元の若者らが交戦した。

地元高官によると、この戦闘に先立って、レバノン人4人にシリア軍が発砲し、1人が死亡していた。

LBC(6月6日付)によると、この4人はシリアに密輸を行おうとしていたという。

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NNA(6月6日付)によると、北部県トリポリ市のバーブ・タッバーナ地区とジャバル・ムフスィン地区を隔てるシリア街道で何者かが発砲、手榴弾が爆発した。

諸外国の動き

ロシアのプーチン大統領と中国の胡錦濤国家主席は共同声明を発表し、軍事介入や政治的圧力を通じたシリア危機の解決への反対の意思を改めて示した。

SANA, June 6, 2012

SANA, June 6, 2012

共同声明の骨子は以下の通り。

「ロシアと中国は、軍事介入を通じたシリアの危機解決のあらゆる試みに反対する。またシリアの体制転換のためのいかなる政治的制裁にも、国連安保理の枠内で行われるものを含めて反対する」。

「シリア情勢は中東と世界全体の和平と安定に大きな影響を及ぼす」。

「ロシアと中国は、アナン特使の和平案のみへの支援強化が必要だと考えるとともに、すべての紛争当事者に武装闘争の即時停止を説得する」。

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ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、北京で声明を出し、シリアの体制転換が地域に「大災難」をもたらすと警鐘をならした。

同声明で、ラブロフ外務大臣は「シリア国外の反体制組織は国際社会に対して、アサド政権を軍事的に攻撃し、対戦転換をもたらすようこれまで以上に強く要求している…。しかしこれはきわめて危険なことであり。こうした方法は地域を大災難に陥れると言い得る」と述べた。

また「我々はシリアの反体制勢力が多様で、非宥和的な反体制組織があることを理解せねばならない」と付言した。

さらに「シリアの反体制勢力に実質的な影響力を行使している各国」、具体的には、トルコ、イラン、アラブ連盟、EU、安保理メンバーに対して、紛争解決のための国際会議を開き、「シリアを除く外国の当事者が何よりも先ずアナン特使の停戦案履行で合意する」ことをめざすべきと主張した。

そのうえで、西側諸国による「シリアの友連絡グループ」に関して、「シリア国民評議会とその過激な要求のみを支援」しているに過ぎないと批判した。

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トルコのイスタンブールでシリアの友連絡グループ実務委員会会合が開かれ、ヒラリー・クリントン米国務長官、ローラン・ファビウス仏外務大臣、トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣、ウィリアム・ヘイグ英外相、アラブ諸国外相らがシリア情勢を協議した。

会合では、シリアでの暴力停止や反体制勢力結集の方途が話し合われたという。

ティモシー・フランツ・ガイトナー米財務長官はイスタンブールで開催されたシリアの友連絡グループ実務委員会会合で、「米国は、必要な場合、国連憲章第7章のもとでシリア政府に対する措置を講じる国に加わる意思がある」との提案を行い、アナン特使の和平案に進展が見せない場合の強硬姿勢に転じる可能性を示唆した。

またガイトナー米財務長官は「制裁は重要な役割を果たしてはいるが、それだけでは我々が望む変化をもたらすことはできない」とも述べた。

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イタリアのジュリオ・テルツィ・ディ・サンタガタ外務大臣は国会で「早急な介入がなければ、ダマスカスの戦略は大量虐殺をもたらすだろう」と述べた。

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ヒジャーブ首相への組閣要請に関して、フランス外務省報道官は「前進を避けた茶番」と一蹴した。

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『ワシントン・ポスト』(6月6日付)は、国連外交筋の話として、アナン特使が、ロシア、イラン、米国、フランス、中国、英国、サウジアラビア、トルコ、カタール、アラブ連盟各国を含んだ連絡グループを結成して、同グループのイニシアチブのもとにシリアでの体制転換をめざす新たな行程表を準備している、と報じた。

新行程表案は、期限付きで大統領選挙、国会選挙、新憲法制定の実施、そして「アサド大統領のロシアへの亡命」を提言しており、今週中に安保理に提出される、という。

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『日本経済新聞』(6月7日付、インターネット版)によると、玄葉光一郎外相は記者会見で、シリア政府が5日に鈴木敏郎駐シリア大使(現在ヨルダンに退避中)を「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)に指定し、受け入れを拒否したと明らかにした。

外務省によると日本の大使がペルソナ・ノン・グラータの通告を受けたのは初めて。

シリア政府は5日に、米英仏など十数カ国の大使や外交官を「ペルソナ・ノン・グラータ」として国外退去処分とすると発表していたが、そのなかに日本の外交官は含まれていなかった。

鈴木大使は、2011年9月13日、アメリカ、フランス、デンマーク各国の大使とともに、ダーライヤー市(ダマスカス郊外県)でのデモ弾圧犠牲者(ギヤース・マタル氏)の葬儀に参列するなど(https://www.youtube.com/watch?v=_iQilinL2jU)、シリアに対する西側の強硬姿勢に積極的に参与してきた。

なおこれに先立ち、日本政府は5月30日に、異動が決まっていたムハンマド・ガッサーン・ハバシュ駐日本シリア大使に国外退去を求めていた。

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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、国連総会出席のための訪米を前に、『ハヤート』(6月7日付)に対して、シリア政府に暴力の停止、逮捕者釈放、真の政治改革の開始を訴えてきたと強調、殺戮が続く現状において、「内戦勃発の可能性がある」と警鐘を鳴らした。

AFP, June 6, 2012、Aljazeera.net, June 6, 2012、Akhbar al-Sharq, June 6, 2012、AKI, June 6, 2012、DPI, September 14, 2011、al-Hayat, June 7, 2012、Kull-na Shurakā’, September 14, 2011, June 6, 2012、Naharnet.com,
June 6, 2012、NNA, June 6, 2012、Reuters, June 6, 2012、SANA, June 6, 2012、The Washington Post, June 6, 2012、Welati.net, June 6, 2012、『日本経済新聞』2012月6月7日などをもとに作成。

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