2012年6月7日のシリア情勢

クバイル村で遺体発見

ハマー県のクバイル村で7日晩、女性や子供を含む民間人の遺体50体以上が発見された、と各紙が報じた。

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ロンドンを拠点とする反体制組織のシリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラー所長によると、クバイル村の犠牲者は55人で、うち49人がクバイル家の人々、女性と子供は18人にのぼる、という。

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ハマー県の活動家はAFP(6月7日付)に対して、クバイル村での死者が78人にのぼる、と答えた。

また目撃者は、ロイター通信(6月6日付)に対して「焦げた遺体や人間の死肉の悪臭が漂っていた」と述べた。

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シリア国民評議会のムハンマド・サルミーニー報道官は、クバイル村で子供22人、女性20人が虐殺されたと発表し、自由シリア軍に軍事攻撃を激化させ、民間人に対する軍の包囲を解除し、彼らを保護する」よう呼びかけた。

またシリア国民に対して、虐殺の犠牲者を悼んで喪に服すとともに、6月7日と8日にクバイル村とハウラ地方での虐殺に抗議するための市民運動を行うよう呼びかけた。

そのうえで「自由シリア軍、地元の諸大隊、革命運動体における我らがすべての国民に、あらゆる場所での大衆運動を激化させ…、包囲、砲撃、突入に曝されているハマー郊外、ラタキア、ヒムスの被害軽減のために行動」するよう訴えた。

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一方、SANA(6月7日付)は、武装テロ集団がクバイル農園とマアッルザーフ町で「恐るべき犯罪」を犯し、女性と子供を含む9人を殺害したとしたうえで、「司法解剖の結果、殺戮行為が6日の午前10時頃行われた。この時間帯、同農場には武装テロ集団がいた」と指摘し、「国連での会合に合わせて、シリアへの圧力を利用する動き」と非難した。

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ロバート・ムードUNSMIS司令官は声明を出し、監視団がシリア軍の検問所や地元住民によってクバイル村に入ることを妨げられていると発表した。

しかしSANA(6月7日付)は、UNSMISがクバイル村に入ったとしたうえで、同監視団が現地での移動を保障されていると強調した。

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米ホワイトハウスはクバイル村での遺体発見に関して、「アサドが責任を免れ得るようないかなる信頼性もない」とシリア政府を批判し、各国に対して「残虐で正統性を欠く体制への支援」を停止するよう呼びかけた。

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ロシアの外務省報道官は、クバイル村での「野蛮な暴力行為をもっとも激しく非難する」としたうえで、「シリアの問題解決をめざすすべての外国の当事者は、アナン特使の和平案…と矛盾した言動を行う反体制武装集団に影響力を行使せねばならない」と述べた。

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キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長はクバイル村での遺体発見に関して、「許されない」と述べ、「恐るべき犯罪の完全なる調査」を求めた。

国内の暴力

ラタキア県では、アラビーア(6月7日付)などによると、ハッファ市郊外で軍・治安部隊と反体制武装集団との戦闘が続いた。

またSANA(6月7日付)によると、ハッファ地方で、武装テロ集団の攻撃により子供1人が殺害、4人が負傷した。

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ヒムス県では、『ハヤート』(6月8日付)によると、市民6人が殺害された。

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ハマー県では、『クッルナー・シュラカー』(6月7日付)などは、カフルズィーター市が軍・治安部隊の砲撃にさらされ150人以上の市民が行方不明になっている、と報じた(現在のところ確認はとれていない)。

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アレッポ県では、『ハヤート』(6月8日付)によると、市民2人が殺害された。

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ダルアー県では、SANA(6月8日付)によると、ダルアー市で同市の軍事裁判所判事と軍の曹長が裁判所前で暗殺された。

またサナマイン市では、治安当局が、自爆テロ未遂犯を身柄拘束、大量の爆発物を押収した。

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ダマスカス県、ダマスカス郊外県では、『ハヤート』(6月8日付)によると、市民2人が殺害された。

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『クッルナー・シュラカー』(6月7日付)は、治安当局が「アサド大統領の同意のもと」、人民議会での大統領の演説後、民主的変革諸勢力国民調整委員会の弾圧を強化している、と報じた。

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Syria Steps.com(6月7日付)は、レバノンのANBの記者サファー・ムハンマド女史がフェイスブックで「ハマースの幹部(アブー・バラーなる活動家)がシリア国内で爆弾テロに関与し、逮捕された」と綴ったと報じた。

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ドイツの『フランクファーター・アルゲマイン・ツァイトゥング』(6月7日付)は、住民らの証言をもとにハウラでの虐殺(5月25日付)が、軍・治安部隊やシャッビーハではなく反体制武装集団による犯行の可能性が高いと報じた。

同報道は、シリア政府側の情報にも依拠しつつ、虐殺の犠牲者のほとんどはシーア派に改宗したスンナ派で、また虐殺が行われたシューマリーヤ村の住民の多くはアラウィー派だったとしている。

またこの虐殺を機に、西側のシリア・バッシングが激化し、反体制武装集団の攻撃が激化した点に触れ、この虐殺が「casus belli」(開戦の理由)」となったと指摘している。

http://www.faz.net/aktuell/politik/neue-erkenntnisse-zu-getoeteten-von-hula-abermals-massaker-in-syrien-11776496.html

反体制勢力の動き

カタールを拠点とする反体制組織のシリア・ビジネスマン・フォーラムのムスタファー・ダッバーグ代表は、『ハヤート』(6月8日付)に対して、「自由シリア軍に給与を支払う」と述べた。

一方、シリア国内で呼びかけているとされるゼネストに関して、「この点に関する我々の活動は過去数日間において大成功を収めた」と述べ、ダマスカスで80~90%のビジネスマンがストライキに参加し、商店を閉めたほか、ヒムス県、ダイル・ザウル県、ハマー県でもストライキが実施されたと主張した(真偽は不明)。

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「アフバール・シャルク」(6月7日付)によると、国外で活動する反体制活動家は6月14日から17日にイスンブルで大会を開き、「祖国」(ワタン)という呼称の新たな反体制同盟を結成すると報じた。

同報道によると、この政治同盟は、様々な宗教・宗派、民族・エスニック集団を包摂するという。

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シリア・ムスリム同胞団は声明を出し、ハッファ地方での軍・治安部隊と反体制武装集団の交戦を「虐殺」と位置づけ、アサド政権を非難した。

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シリア人権ネットワークとダマスカス人権研究センターは共同声明を出し、アナン特使の停戦案の履行が宣言された4月12日以降の死者数が2,261人におよぶと発表した。

犠牲者のうち子供は212人、女性は193人、軍人211人、外国人13人(ほとんどがパレスチナ人)、拷問死は116件だとう。

また県別の犠牲者はヒムス県678人、ハマー県343人、ダマスカス郊外県321人、イドリブ県316人、アレッポ県180人、ダルアー県173人、ダイル・ザウル県102人、ダマスカス県74人、ハサカ県19人、ラタキア県14人、ラッカ県11人、タルトゥース県8人、クナイトラ県8人、スワイダー県1人。

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ジャズィーラ(6月7日付)は、ヨルダン在住のシリア人女性活動家「ウンム・ザーヒル」の情報として、シリア人女性1,500人が当局による身柄拘束中に強姦されたと報じた。

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民主的変革諸勢力国民調整委員会のマフムード・マルイー氏は、メロディーFMラジオのインタビュー(6月7日付)で、反体制勢力の多様な意見を尊重するとしつつ、変革解放人民戦線の人民議会(選挙)への参加を「誤りだ」と批判した。

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『シャルク・アウワト』(6月8日付)は、パリ在住の活動家ファフド・ミスリー氏の話として、シリア国内の反体制武装集団が「市民・軍事政治指導委員会」の設置を検討していると報じた。

国連での動き

潘基文事務総長は、国連総会でクバイル村に入ろうとしたUNSMISが「軽火器による発砲を受けた」と述べ、同村での虐殺を「恐るべき、嫌気感をそそる」行為と非難、またアサド大統領が「正統性を失った」と断じた。

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アナン特使は国連総会で演説し、シリア情勢に関して「6項目停戦案の実施を保障するか、危機対処のための別の選択肢を明示する時が来た」と述べ、国際社会に「できることを明確にするため統一的に行動する」よう呼びかけた。

また特使はクバイル村での虐殺を非難し、責任者の処罰を求める一方、集団殺戮は認められたいとの立場を示した。

一方、アサド政権に関しては、「私の努力に協力せねばならないと明言したが…、アサド大統領は国会での演説でいかなる変化(の姿勢)も見せなかった」と批判、「暴力停止における最大の責任を負っているのはシリア政府」と述べ、弾圧停止を求めた。

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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、国連総会で、「アラブ連盟は安保理に軍事介入ではなく、政治、通商面での圧力手段をとることを求めている」と述べた。

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SANA(6月7日付)によると、シリアのバッシャール・ジャアファリー国連代表は国連総会で演説し、アナン特使の停戦案に消極的な姿勢をとる当事者、とりわけ外国による軍事介入や武力行使以外に解決策はないと主張する当事者の釈明を求めたいと批判した。

また、シリアに対するテロ行為の実行を鼓舞する武装テロ集団を一部のアラブ諸国が支援していると非難した。

一方、シリア政府の立場については、包括的国民対話を望むすべての人々に対して門戸を開いていると強調し、対話による事態収拾への意思を示した。

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国連総会では西側諸国、露中の国連代表が発言し、前者はアサド政権打倒を通じたシリア政府の破壊を主唱、後者は軍事介入を通じた危機解決の手法を拒否した。

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国連安保理でシリア情勢を協議するための会合が開かれた。

複数の外交筋によると、会合で潘基文事務総長は、UNSMISが重火器や無人飛行機の攻撃を受けたと述べ、シリア国内でこれらの兵器を唯一保有するシリア軍の関与を示唆した。

また潘事務総長は、村々に接近した軍の兵員輸送車に対してUNSMISが攻撃停止を求めたが、無視されたと証言した。

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アナン特使は記者会見で、「シリアの政府や反体制勢力といった当事者に影響力を持つ国々からなる新たな連絡グループの結成」のための対話を行っていると述べた。

アナン特使はまた「イランは地域において重要である…。(イランがシリアへの危機)解決に参加することを望む」と述べ、グループへの参加をめざしていることを明らかにした。

複数の外交筋によると、この連絡グループには、西側諸国、トルコ、サウジアラビア、ロシア、中国が参加することが見込まれるが、イランの参加に関しては是非が分かれているという。

潘事務総長、ナビール・アラビー・アラブ連盟事務局長はアナン特使によるこの新たなイニシアチブに歓迎の意を示している。

一方、6項目停戦案に関しては、「停戦案は終わっていないが、その実施はつまづいている」と述べるとともに、「シリアはリビアでない。国内で爆発することはなく、国境の外で爆発する」と述べ、シリアでの暴力の継続が地域全体に波及することへの懸念を表明した。

そのうえで、「安保理は統一したかたちでダマスカスに圧力をかけなければならない」と述べ、アサド政権に対して一致団結して停戦案の履行を迫るよう求めた。

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潘事務総長は記者会見で、「内戦の危険は差し迫った現実のものとなりつつある」と改めて警鐘を鳴らした。

レバノンの動き

NNA(6月7日付)によると、北部県アッカール郡のブルジュ・アラブ村にあるシリア人避難民のキャンプで火災が発生し、5人が負傷した。

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SANA(6月7日付)によると、レバノンの北部県から潜入しようとした武装テロ集団に国境警備隊が対峙、撃退した。

諸外国の動き

イスタンブールで開かれていたシリアの友連絡グループ実務委員会会合が閉幕した。

SANA, June 7, 2012

SANA, June 7, 2012

会合では、国連憲章第7条に基づく安保理決議を通じたシリア問題への対応が協議されたが結論は得なかった。

だがシリア反体制勢力支援のための会合をイスタンブールで6月半ばに開催するとし、反体制勢力代表や専門家に参加を呼びかけた。

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国務省高官によると、会合ではクリントン国務長官が、「アサド大統領の権限移譲などを含むポスト・アサド段階に向けた転換の戦略を支援する基本原則」を明らかにした、という。

同高官によると、そのなかには「すべての勢力に門戸を開いた暫定内閣の発足、自由で公正な選挙の実施、すべての当事者による暴力の停止、法の前の平等」などからなるというが、いずれも具体性、斬新さを欠いている。

なおクリントン米国務長官はイスタンブールでの記者会見で「我々は改めて結束し、我々とともに行動していない国々に…、(アサド政権を支持しても)未来はないという明確なメッセージを伝えねばならない…。協調的な転換のための計画を策定することが(今後の)重要なステップとなるだろう」と述べた。そのうえで国際社会を統一するため、「我々はロシアとともに行動したい。我々には共通のビジョンがある」と述べ、ロシアとの協力が不可欠だとの見方を示した。

またクバイル村での虐殺に関して「政府によって支援された暴力」と断じ、「受け入れられない」と非難し、「アサドは権力を移譲し去らねばならない」と述べた。

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英国のデビッド・キャメロン首相はイスタンブールでの記者会見で「我々はシリアとシリア政府を孤立させ、圧力をかけるためさらなる努力を行い、世界全体が正統性を欠くこの体制から国民に関心を示す体制への政治的転換を望んでいることを示さねばならない」と述べた。

一方、英国のウィリアム・ヘイグ外務大臣は、「イランが会合に参加すると非効率的になるだろう」と述べ、イランを排除すべきだとの見方を示した。

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フランス外務省は次回のシリアの友連絡グループ会合をパリで7月6、7日に開催すると発表した。

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トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣は、記者会見で「我々は最後まで外交的な方法をとるだろう。しかし、外交は重要だとしても、原則も重要である。この原則に違反する者を許してはならない…。外交が行き詰まれった思えたら、民間人保護のためのすべてのシナリオ、すべてのオルターナティブを検討しなければならない」と述べた。

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上海協力機構(SCO)加盟国首脳理事会第12回会議が北京で開かれ、シリアに対する「軍事干渉、力による体制転換、一当事者への一方的制裁」に反対し、「政治的対話を通じた問題の平和的解決」を支持するとの共同宣言を発表し、閉幕した。

会議には、加盟6カ国に加えて、準加盟国のインド、パキスタンの代表も参加した。

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インテルファクス通信(6月7日付)によると、ロシアのミハイル・ボグダノフ外務副大臣はアサド大統領の退任の是非に関して、「我々とは関係のないこと」としたうえで、「シリアでの紛争解決のために、いわゆるイエメン・シナリオを実行することは、シリア自身が同意しなければ不可能だ…。シリア人がこのシナリオを話し合い、採用するのであれば、反対はしない」と述べた。

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ロシアのデトレブ・メドベージェフ首相は訪問先のカザフスタンで、「国連でシリアへの軍事介入が認められることはないだろう」と述べた。

また「シリア国民評議会を名のる在外勢力など複数の紛争当事者が政府との対話を望まないばかりか、武装闘争継続を望んでいる」と非難した。

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カタールのハマド・ブン・ジャースィム首相兼外務大臣は、フランスのフランソワ・オランド大統領とパリで会談した。

カタール高官によると、会談でハマド首相はシリアでの「権力の平和的移譲のための計画がなければならない…。これこそが我々が実際に選ぶべき解決策だ」と述べた。

しかしカタールは反体制武装集団に武器・資金援助を行っている。

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ロイター通信(6月7日付)は、IAEA理事会で、米国代表が、「シリア政府の民間人に対する殺戮など…シリア国内での出来事は、ダマスカスがIAEAに協力することを妨げている…。シリア政府が不安定化のために行う行為は、シリアがIAEAへの誓約履行を拒否することを正当化しない」と述べた、と報じた。

AFP, June 7, 2012、Akhbar al-Sharq, June 7, 2012, June 8, 2012、Alarabia.net, June 7, 2012、Aljazeera.net, June 7, 2012、Frankfurter Allgemeine Zeitung, June 7, 2012、al-Hayat, June 8, 2012、Kull-na Shurakā’, June 8, 2012、Naharnet.com, June 8, 2012、NNA,
June 7, 2012、Reuters, June 7, 2012、SANA, June 7, 2012、al-Sharq al-Awsaṭ, June 8, 2012、Syria Steps.com, June 7, 2012などをもとに作成。

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