2012年6月3日のシリア情勢

アサド政権の演説

アサド大統領は人民議会で70分にわたり演説し、国内の反体制運動や諸外国の干渉に関する自らの姿勢を明らかにした。

SANA, June 3, 2012

SANA, June 3, 2012

演説で、アサド大統領は、現下のシリアが政治問題に苛まれているとの見方を否定、テロに根ざした「内乱の計画」、「外国からの真の戦争」に直面しているとの現状認識を示した。

また国内の政治プロセスの進展にもかかわらず、「テロは留まることなくエスカレートしている」と指摘、テロと政治的解決を峻別し、危機の解決に望むとの意思を示した。

そのうえで「テロとの休戦、テロへの寛容はない…。我々は祖国を癒すべくテロと戦わねばならない」との意思を強調した。

http://www.sana.sy/ara/2/2012/06/04/423121.htm(アラビア語)

http://www.sana.sy/eng/21/2012/06/04/423234.htm(英語)

**

アサド大統領の演説の骨子は以下の通り。

SANA, June 3, 2012

SANA, June 3, 2012

<国内の混乱による犠牲者に関して>

「彼らの血は無に帰することはない。それは憎しみゆえでなく、真理ゆえに…。我々全員が示すことのできる唯一の弔意とは、我々の祖国が平和と健全さを取り戻し、祖国で暮らす人々を安全、平和、安心、そして安定によって和ませることである」。

<国内の政治改革に関して>

「我々は危機の当初から、明確な改革政策を行うと宣言し…、これらの措置は、我々の意思を疑う敵の期待に反して、発表された日程通りに実施された。危機に依存する国内外の勢力が政治の分野での成果に反対し、政治プロセスを失敗させようと試み続けてきたにもかかわらず、我々は宣言を実行することを止めず、法律を制定し、地方自治選挙を実施し、憲法を制定した。そして殺戮脅迫、テロに屈せず…人民議会選挙が実施された」。

<国内の混乱に関して>

「1年半が経ち、事態が明らかになってきた…。現状における国際社会の役割は…まったく変わっていない…。植民地主義は依然として植民地主義であり、その方法や様相に変化は見られない。地域(中東諸国)の役割も失敗に次ぐ失敗を経て自らをさらけ出している。国民の代理人だと自称する国内の一部の勢力や個人もまた、国民が保護者や代理人なしで自らを表現できることを目の当たりにしている…」。

「我々が国民から学びとったものとは、古く単純な原則だが、実に深いものである。すなわちそれは、問題の解決を望むなら、その問題から逃げるのではなく、立ち向かうということだ」。

<政治的解決とテロ>

「危機の当初から政治的解決について多くが語られてきた…。しかし今まで政治的解決とテロの関係について何かを提示した者はいない…。政治的対話や政治的解決は、テロリストが今行っていることを抑止するのだろうか?…」

「テロはすべての当事者を例外なく打ちのめすのであって、政治的な対立の一部をなすものではない。ある当事者に与して、別の当事者と対立するものでもない…。政治プロセスは前進を見せているが、テロもまた留まることなくエスカレートしている…」。

SANA, June 3, 2012

SANA, June 3, 2012

「彼らは当初、問題は政党がないからだと言っていたが、政党法は制定された。問題は憲法第8条だと言っていたが、憲法も改正された…」。

「テロリストは、改革、対話に関心がなく、断罪や非難に関心があるだけなのだ…」。

「テロと政治プロセスを分けないことは、一部の人が犯している大きな間違えで、テロに根拠を与えてしまっている…」。

「我々が直面しているのは、祖国に内乱と破壊をもたらそうとする計画であり、この内乱の道具こそがテロなのだ…」。

「そして我々は問題がテロに関わる問題だという時、我々はもはや国内の枠組みにのみ留まってはいない。我々は今、外国からの真の戦争に直面しているのだ」。

<反体制勢力に関して>

「実際、我々は常に、対話の準備がある、我々の扉は対話のために開かれている、と言ってきた…。一部の反体制勢力は、対話への意思やその準備があることを発表したが、別の勢力は何も発表しなかった…。一部の反体制(反政府)勢力は選挙に参加し、対話への意思を表明した。そうした勢力は今、この議事堂にいる…」。

「しかし別の反体制勢力は、いまだに国外のバランスに期待している…。彼らは外国からの指図を待っている…。我々には、外国と関係を持ち、外国に依存し、外国の介入を要求し、テロ屁の直接支援を行ってきた勢力以外との無条件な対話を行う用意が常にある」。

<治安回復>

「テロは政治プロセスとは関係なく、祖国とその国民、制度、政党を標的としている…。我々は祖国を治癒すべくテロと戦わねばならない…。テロとの休戦はないし、それを支援する者との休戦もない。それを断念した者に対してしか寛容であってはならない」。

「国民の安全はレッドラインであり、その代価は高いものとなるだろう…。しかし代価がいかに高かろうと…、我々は国民統合、シリア社会、そしてシリアの力を維持するためにそれを支払う準備をせねばならない…」。

<政治的解決とは>

「政治的解決とな何か?現下のプロセスは危機を解決することもなく、テロを軽減してもいない…。しかし、政治的解決とは法律や憲法よりも包括的なものである…」。

「政治的解決とは我々が、豊かさを意味する意見の相違と、破壊を意味する祖国をめぐる相違を区別することから始められる。多元主義は闘争や衝突ではなく、統合を意味する…」。

<街頭での抗議運動に関して>

「彼ら(街頭でデモを続ける一部の人々)は、問題が政治的当事者間の意見の相違以上の問題だということを理解していない…。問題は当初訴えられていた改革や民主主義をめぐるものではなく、レジスタンスを行うシリアの役割や、レジスタンス組織への支援をめぐる問題だ…」。

「今日、我々が目にしている結果とは、連呼されていたあの自由が一部の国民によるものだったということであり、彼らが語っていたあの民主主義が我々の血で沈んでしまっているという現実だ」。

<ハウラでの虐殺に関して>

「ハウラで起きたこと、そしてカッザーズ、マイダーン、ダイル・ザウル、アレッポなどで起きたことを、我々は卑劣な虐殺だと言ってきた。実際、獣(けだもの)でも我々が見たもの、とりわけハウラの虐殺を行わないだろう。アラビア語、そしておそらく人類の言語は、我々が見たものを表すことなどできない…」。

「このような状況で、誰が得をするのか、そして国家や国家を支持するものがこうした行為を行うだろうか?…我々はアナン特使の和平案と訪問を失敗させようとする者が誰だったかを知っている…」。

「問題は単純で自明的だ。彼らはこの危機において様々なことを始めてきた。民衆革命を起こそうとしたが、ラマダーン月までには挫折した…。ラマダーン月後は、武装活動を始めた…が、失敗した。そのあとは、暗殺、爆発、テロへと移行したが…、失敗した。彼らには、宗派主義的内乱を起こそうとせざるを得なかった…。私は、この状態、そしてこのカードが彼らにとって最後のカードだと考えている。そしてそのことが彼らの破綻を示すものなのだ…」。

「我々の国民に死や破壊を遣わそうとする者がいれば、我々は国民に文明的なモデルを示し、それによって国民は自由を享受し、祖国建設のパートナーとなる…。そしてそうすることにより、奴隷制の国々が民主主義のアドバイスをするのではなく、自由の国々の兄弟たちから人道的なメッセージが我々のもとに届くであろう」。

アサド政権の動き

シリアのユースフ・アフマド・アラブ連盟代表大使は、2日の外相会議での決定に関して、「アラブ連盟は、アナン特使の停戦案に代表される国際社会の努力に資するような公正な当事者たり得ない」と批判し、シリアの加盟資格を停止して以降の連盟のシリア問題に関するいかなる決定も無効だとの立場を改めて示した。

**

イエメンのシリア大使館は、声明を出し、サウード・アッバース常駐代表が離反したとの一部報道を否定した。

**

『クッルナー・シュラカー』(6月3日付)は、政権からの離反を宣言したハーズィム・シハービー在カリフォルニア名誉参事官が米高官に対して、アサド政権が外交官の忠誠を確認するため、その家族をダマスカス県マッザ区ヴィーラート・ガルビーヤにある軍の団地に「拘留」していると語ったと報じた。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン所長によると、ドゥーマー市で反体制活動家のアドナーン・ワフビー医師が治安当局によって暗殺された。

またカラムーン地方で未明、反体制武装集団が軍の検問所を襲撃した。

アルバイン市では2日に殺害された市民の葬儀に数千人が参列し、反体制デモを行った。

一方、SANA(6月3日付)によると、ニダール・バシュンマーニー准将が武装テロ集団によって暗殺された。

Syria-Politic.com(6月4日付)は、民主的改革諸勢力国民調整委員会の結成メンバーの一人アドナーン・ワフバ氏がドゥーマー市でシリア当局に暗殺されたと同在外事務局のハイサム・マンナーア代表が発表したと報じた。

なおワフバ氏の暗殺については、シリア国民評議会と民主的改革諸勢力国民調整委員会広報局も3日に当局による暗殺だと発表した。

ワフバ氏はアラブ社会主義連合民主党メンバーでもあった。

**

アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アナダーン市、ハイヤーン町で軍・治安部隊と反体制武装集団が交戦した。

またアターリブ市郊外では、民間人1人が砲撃に巻き込まれ死亡した。

**

ハマー県では、シリア人権監視団によると、カフルズィーター市で、軍・治安部隊が奪還をめざして砲撃を加えた。

**

ラッカ県では、シリア人権監視団によると、タブカ市での爆発で死亡した市民の葬儀に数百人が参列し、アサド政権の打倒を求めた。

**

『クッルナー・シュラカー』(6月3日付)は、イドリブ県出身で在カタールのビジネスマン、ハーリド・ガザール氏が、「イドリブ国家安全保障大隊」を名のる民兵を結成し、弾圧にあたっている、と報じた。

同報道によると、この大隊はバアス党が結成した人民委員会に属する青年約1,500人からなり、金曜礼拝後のデモの強制排除などを行っている、という。

反体制勢力の動き

シリア国民評議会の渉外局メンバーのムハンマド・ヤースィーン・ナッジャール氏はUNSMISを現在の300人弱から3,000人に増員する必要がある、と述べ、安保理に増員を求める方針であることを明らかにした。

**

シリア・ムスリム同胞団は、レバノンのトリポリでの住民の衝突に関して声明を出し、アサド政権が現状を打開するため「レバノンに殺戮計画を輸出しようとしている」と非難した。

レバノンの動き

レバノンの北部県トリポリ市のジャバル・ムフスィン地区とバーブ・タッバーナ地区での住民どうしの衝突を受け、レバノン国軍と内務治安総軍が展開、事態の収拾にあたった。

衝突では15人が死亡、50人以上が負傷している。

**

シリア当局は、6月30日にレバノン領内で拘束したレバノン人2人を釈放した。

諸外国の動き

サウジアラビアのサウード・ファイサル外務大臣は、ジェッダを訪問中の潘基文国連事務総長と会談した。

会談後の記者会見で、サウード・ファイサル外務大臣は、「シリア政府はすべてのイニシアチブを受諾したが、実行しなかった」と述べ、こうした姿勢が何なる「時間稼ぎに過ぎない」と非難した。

そのうえで、アナン特使に関して、「明確で透明性のある」報告書を国連安保理に提出するよう求めた。

しかし、アラブ連盟外相会議での国連憲章第7章に基づく介入に関しては、「アラブ世界の状況が安定するまで、いかなる軍事行動もないだろう」と述べ、軍事介入を否定した。

またシリア国内に安保理が管理する「緩衝地帯」を設置することの是非に関しては、「虐げられた人々の避難所となるのであれば、支持する」としつつ、「真の問題解決は個々人の保護」であると強調した。

一方、レバノンのトリポリでの衝突に関しては、シリア情勢の一環をなすと位置づけたうえで、アサド政権が現下の紛争を「宗派紛争」に転じようとしていると非難、「こうした動きはレバノンだけでなく、シリアにも脅威となる」と警鐘を鳴らした。

**

これに対して、潘事務総長は、国際社会がアサド政権の殺戮停止を説得するため努力を行っているとしたうえで、そのなかにロシアの姿勢も含め、その努力を評価した。

**

潘事務総長はまたイスラーム諸国会議機構のエクメレッディン・イフサン・オグル事務局長とも会談した。

会談でオグル事務局長は、「政府軍と国内で戦闘を行うそれ以外の武装集団が(停戦)合意に至らなければ…、シリア国内の戦闘が国外に波及する」と警鐘をならし、アナン特使の和平案への実施に関して期限を求めるべきだとの立場を示した。

**

ヒラリー・クリントン米国務長官は、滞在先のストックホルムで記者会見を開き、「ロシアは(シリアでの体制転換プロセスを)支援するためにいなければならない…。すべてのシリア人は民主的転換を通じてよりよい未来を得られると確信せねばならない」と述べた。

**

トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、アサド政権が依然として「専制的論理で問題に対処しようとしている」と批判した。

**

英『デイリースター』(6月3日付)は、英国のSASおよびMI6が、「シリアで内戦が発生した場合」に備え、反体制勢力を支援する準備を行っている、と報じた。

**

スイス経済省経済管轄局報道官は、アサド政権に近いシリア人高官20人の資産20,000,000スイス・フランを追加制裁として凍結した、と発表した。

AFP, June 3, 2012、Akhbar al-Sharq, June 3, 2012、The Daily Star, June 3, 2012、al-Hayat, June 3, 2012、June 4, 2012、Kull-na Shurakā’, June 3, 2012, June 4, 2012、Naharnet.com, June 3, 2012、Reuters, June 3, 2012、SANA, June 3, 2012、Syria-Politics.com, June 4, 2012などをもとに作成。

(C)青山弘之 All rights reserved.