アラブ連盟のシリア問題閣僚委員会および緊急外相会議「国連憲章第7章に基づき」アナン特使和平案の実施を推し進めることを安保理に求める(2012年6月2日)

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レバノンの動き

北部県トリポリ市のジャバル・ムフスィン地区、バーブ・タッバーナ地区で住民どうしが衝突、ロケット弾、RPG弾などによる交戦で12人が死亡、40人以上が負傷した。

Naharnet.com, June 2, 2012

Naharnet.com, June 2, 2012

ジャバル・ムフスィン地区(アラウィー派)はシリアのアサド政権を支持する住民が多く、バーブ・タッバーナ地区(スンナ派)はムスタクバル潮流の地盤地域の一つである。

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NNA(6月2日付)によると、ヒムス県クサイル地方で負傷したシリア人キリスト教神父がレバノン領内(ベカーア県ザフレ郡)の病院に搬送された。

アラブ連盟の動き

アラブ連盟のシリア問題閣僚委員会および緊急外相会議(議長国クウェート)が、アナン特使出席のもとドーハで開かれ、国連憲章第7章に基づきアナン特使和平案の実施を推し進めることを安保理に求めた。

しかし、イラク、レバノン、アルジェリアは、「国連憲章第7章に基づく」との文言に態度を保留した。

外相会合閉幕時に発表された声明では、期限付きでアナン特使の和平案を即時・完全履行するための必要な措置を講じる責任を果たすよう安保理に呼びかけ、国連憲章第7章に基づく6項目停戦案の実施、経済関係、国境の通行、通信手段などの断絶などを求めた。

また、シリア政府に「治安対策の停止と暴力・殺戮の即時停止」を求める一方、ハウラでの虐殺などを受けるかたちで、正規軍および非政府軍による犯罪への非難を表明、国連人権理事会の採択に従い、国際独立調査委員会の派遣と国際刑事裁判所への提訴の必要があることを強調した。

さらにアラビア語の衛星テレビ放送を配信するアラブサットとエジプトのナイルサットに対して、シリアの国営、非国営の衛星テレビチャンネルの放送を停止するよう要請した。

al-Hayat, June 3, 2012

al-Hayat, June 3, 2012

ナビール・アラビー事務総長は、国連憲章第7章に基づく行動を安保理に求めた点に関して、「我々は安保理にこの案(停戦案)が今日から適用され、その受諾をめぐる交渉の余地がないことを示す明確な決議を求めた」と述べた。

しかし、軍事介入を求めたわけでないと付言した。

アナン特使は会合で、「シリア軍が残虐な行為を行い、恣意的逮捕などの違反を犯している」と非難し、シリア政府に対して言葉でなく行動で応えるよう求めた。

アサド政権の動き

SANA(6月2日付)によると、シリア情報省は声明を出し、アラブサットとナイルサットでのシリアの衛星テレビ放送の配信停止を求めたアラブ連盟外相会議の決定に関して、「報道の自由と表現の自由に対する全体未聞の敵対行為への敵対行為」、「国民の声を封じ込めようとする試み」だと酷評した。

国内の暴力

シリア人権監視団によると、ヒムス県で9人、ダマスカス郊外県で2人、イドリブ県で3人、ダマスカス県で1人、ダルアー県で1人の民間人が殺害された。

またイドリブ県、ハサカ県、ダルアー県、ダマスカス郊外県などで軍・治安部隊と反体制武装集団の戦闘により前者の兵士22人が殺害された。

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AKI(6月3日付)は、複数の活動家の話として、アレッポ県の商店などがハウラでの虐殺に抗議して、ストライキを行ったと報じた。

反体制勢力の動き

自由シリア軍国内合同司令部報道官のカースィム・サアドッディーン大佐はAFP(6月2日付)に対して、「アナン特使の停戦案は失敗した…。我々は自衛のための作戦を再開するだろう」と述べ、暴力の再開を示唆した。

Kull-na Shurakā’, June 2, 2012

Kull-na Shuraka’, June 2, 2012

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シリア国民評議会は声明を出し、アラブ連盟外相会議の決定を高く評価した。

諸外国の動き

ヒラリー・クリントン米国務長官はロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣と電話会談し、米高官によると、「政治的転換のためシリア人を支援するため、共に行動しなければならない点で意見が一致した」。

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『ハヤート』(6月3日付)によると、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との会談(1日)でフランスのフランソワ・オランド大統領は、アサド政権に対する安保理での制裁決議への支持をとりつけるため、政権崩壊後のプロセスへのロシアの参加をもちかけ、シリア人不在の取引を求めたという。

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イランの最高指導者アリー・ハーメネイー師の軍事顧問でイラン・イスラーム革命防衛隊前司令官のヤフヤー・ラヒーム・サファヴィー師は、「米国、イスラエル、欧州諸国、カタールやサウジアラビアといったペルシャ湾岸諸国は、トルコに自らの目的を実行させようとしている。その目的とはアサド政権を打倒し、シオニスト体制を維持することだ」と批判した。

AFP, June 2, 2012、Akhbar al-Sharq, June 2, 2012、AKI, June 3, 2012、al-Hayat, June 3, 2012、Kull-na Shuraka’, June 2, 2012、Naharnet.com, June 2, 2012、NNA,
June 2, 2012、Reuters, June 2, 2012、SANA, June 2, 2012などをもとに作成。

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