アレッポ県内の数十か所でダマスカス県での同時多発テロへの非難を示すデモが発生するなか、シリア国民評議会事務局長が日本記者クラブと日本外国特派員協会で講演(2012年5月11日)

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第10期人民議会選挙をめぐる動き

『クッルナー・シュラカー』(5月11日付)は、5月7日に行われた第10期人民議会選挙の投票に関して、ダマスカス郊外県キスワ市の治安部隊の検問所が有権者の移動を妨げ、投票を阻害した、と報じた。

国内の暴力

al-Hayat, May 12, 2012

al-Hayat, May 12, 2012

反体制勢力によると、各地で金曜礼拝後にアサド政権の打倒を求める散発的なデモが発生し、数万人が参加、治安部隊による強制排除で、少なくとも15人が死亡した。

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アレッポ県では、アレッポ調整連合によると、アレッポ市内数十カ所でデモが発生し、数千人が参加、ダマスカス県での同時多発テロ(10日)への非難の意を示すとともに、国際社会にシリアへの軍事介入を求めた。

シリア人権監視団によると、デモに対して治安部隊が発砲し、サラーフッディーン地区で1人を殺害した。

クルド人が多数住むアイン・アラブ市でも反体制デモが発生した。

一方、シリア・アラブ・テレビ(5月11日付)などは、アレッポシアール地区で1.2トンの爆発物を積み自爆テロを試みようとしていたテロリストを殺害した、と報じた。

またSANA(5月11日付)によると、アレッポ市サアドゥッラー・ジャービリー広場(サアドゥッラー・ジャービリー地区)に武装テロ集団が仕掛けた爆弾を爆発、撤去しようとしていた爆弾処理班1人が死亡した。

これに関連して、オリエント・テレビ(5月12日付)は、シリア人権監視団がアレッポ市内の「バアス党本部の近くで大きな爆発」があったと発表したと報じた。

さらに同市サイフ・ダウラ地区では、武装テロ集団が仕掛けた爆弾が爆発した。

SANA, May 11, 2012

SANA, May 11, 2012

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ヒムス県では、SANA(5月11日付)によると、ヒムス市郊外で治安部隊兵士3人が殺害された。

一方、SANA(5月11日付)によると、ヒムス市で武装テロ集団が士官候補生や治安維持部隊を襲撃し、3人を殺害した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、カフルルーマー村、カフルハーヤー村などで反体制デモが発生した。

一方、SANA(5月11日付)によると、サルキーン市で武装テロ集団の攻撃により市民1人が死亡、7人が負傷した。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ハルファーヤー市、カフルズィーター市などで発生したデモに対する治安当局の弾圧で4人が死亡した。

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ハサカ県では、シリア人権監視団によると、ハサカ市、カーミシュリー市、ラアス・アイン市、ダルバースィーヤ市、アームーダー市、フール市、カフターニーヤ市などで反体制デモが発生し、治安当局の弾圧で2人が死亡した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ハーッラ市などで発生したデモに対する治安当局の弾圧で1人が死亡した。

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ダマスカス県およびダマスカス郊外県では、シリア人権監視団やダマスカス調整連合によると、タダームン区などで反体制デモが発生し、治安部隊が弾圧、5人が負傷した。

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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市などで反体制デモが発生した。

アサド政権の動き

シリア政府は国連安保理決議第1559号に関する事務総長報告に関して、国連安保理と事務総長宛てに書簡を送り、そのなかで「シリアの内政に関する出来事と第1559号に関わる事項を混同している」と非難した。

『ハヤート』(5月12日付)によると、この書簡では、事務総長報告がレバノンのジャディード・テレビのアリー・シャアバーン氏殺害に関して、シリア軍の犯行と断じていることを、「最終的な判決を待たず、シリアに責任を科している」と非難している。

また「レバノンに逃れた者のほとんどは、シリアの司法において指名手配されている武装テロ集団か、彼らによって家を離れることを余儀なくされた人々だ」と説明している、という。

なお国連安保理決議第1559号(2004年)は、エミール・ラッフード大統領(当時)の任期延長へのシリアの干渉を口実に、レバノン駐留シリア軍の完全撤退とヒズブッラーなどレジスタンス組織の武装解除を求めた決議。

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シリアのバッシャール・ジャアファリー国連代表は、一部の諸外国がシリアの武装集団に資金や武器を提供していると非難し、国連安保理に対して、シリア国内での「テロ活動」を停止するための必要な措置と、テロ組織を支援する国への圧力を求めた。

ブルハーン・ガルユーン氏(シリア国民評議会事務局長)講演

日本を訪問中のブルハーン・ガルユーン・シリア国民評議会事務局長は、日本記者クラブと日本外国特派員協会で講演を行った。

青山弘之撮影

青山弘之撮影

講演で、ガルユーン氏は、アナン特使の和平案がアサド政権による停戦違反により失敗の危機にあると述べ、国際社会および地域社会に対して、制裁を前提としたかたちでの介入を呼びかけた。

一方、ダマスカス県での同時多発テロ(10日付)に関しては、「アナン特使の和平案を頓挫させるための新たな手段」と位置づけ、アサド政権がその背後にいると断じた。

またシリア国内でのアル=カーイダによる活動が活発化しているとの米国などの見方を受けるかたちで、「アサド政権はイラクのアル=カーイダと親密な関係を持っていることは周知の事実」と述べた。

青山弘之撮影

青山弘之撮影

しかし上記の発言からも明らかなように、ガルユーン事務局長の講演は、誇張・事実誤認、具体性の欠如に彩られ、在外反体制活動家の一泡沫勢力になりさがったシリア国民評議会の無能さを再認識させた。

例えば、ガルユーン事務局長は、2011年9月のシリア国民評議会が「民主的変革諸勢力国民調整委員会以外のすべての政治勢力が参加したが、その後新たな小規模・脆弱な組織が次々と現れ、評議会は組織の再構築を進めている」と述べた。

だが評議会には発足当初からシリア国内で活動を続けているほとんどの反体制組織・活動家は参加していない。

またアナン特使の和平案に関して、その失敗を前提に論を展開、シリア国民評議会もまた(アサド政権と同様に)、アナン特使のイニシアチブに積極的に応じていないとの印象を与えただけだった。

他方、アナン特使の和平案が危機解決のため、対話を通じて政治的解決をめざすことを求めていることに関しては、アサド大統領の退任が政治的解決の前提とするとの見解を示した。

しかし、ガルユーン事務局長は、「アサド大統領退任を前提とした場合の政治的解決の内容は何か」との筆者の質問に対して、アサド大統領の退任の必要性とそのための国際社会の圧力を強調しただけで、ポスト・アサドの政治プロセス(民主化)の具体的な手順については何ら説明することはなかった。

総じて、ガルユーン事務局長の姿勢は、シリア国民評議会には実現不可能なアサド政権の打倒を外国の介入によって実現しようとする他力本願と、その後の政治プロセスについての具体的ビジョンの欠如という2点によって特徴づけられていた、と言える。

反体制勢力の動き

シリア国民評議会は、組織の拡大・再編に際して選挙を通じた代表の選出を拒否するとの姿勢を示した。

シリア国民評議会再編準備委員会のメンバー5人が声明で明らかにした。

声明を発表したのはアブドゥッラッザーク・イード、ナウワーフ・バシール、アンマール・カルビー、ワリード・ブンニー、イマードッディーン・ラシードの5人でいずれもシリア国民評議会メンバーではない。

声明によると、シリア国民評議会は、組織のすべてのレベルのメンバーの選出を選挙で行うことを拒否し、再編後に評議会に加入・参加する組織・個人の数を制限するべきだとの立場を示したという。

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シリア・国民評議会のジョルジュ・サブリー執行委員会メンバーは、フランスで記者会見を開き、「来週、カイロで新事務局長を選ぶための大会を開催する」と述べた。

レバノンの動き

ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長がテレビ演説を行い、ダマスカスでの同時多発テロ(10日)に関して、「レバノン、パレスチナでのレジスタンスを支援するシリアを破壊したいと考えている者がいる」と述べ、西側や湾岸アラブ諸国の関与を暗に示唆した。

またシリア人の前には「シリア政府が指導する真摯な改革か、自爆テロ犯への武器資金供与を行う…破壊的知性」のいずれかの選択肢しかないと強調した。

諸外国の動き

国連安全保障理事会はダマスカスで起きた連続自爆テロを「もっとも強い言葉で非難する」とした報道機関向け声明を発表した。

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イラン国営通信(5月11日付)は、ムハンマド・リザー・ロハイミー副大統領が、ダマスカスでの同時多発テロ(10日)に関して、「バッシャール・アサド大統領が始めた民主的改革プロセスを停止させるために行われた」との見方を示したと報じた。

またイラン外務省報道官は「シリアの民間人に対してこのような卑劣な行為を行うということは、これらの集団の戦略が、人民議会選挙に投票した…大多数の人々の意思に反しているということを意味する」と非難した。

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イラクのヌーリー・マーリキー首相は、ダマスカスでの同時多発テロ(10日付)に関して、強い非難の意を示し、シリア国民に対し事件再発を回避するための意思を持つよう呼びかけた。

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ローマ法皇ベネディクト16世は、ダマスカス県での同時自爆テロ(10日)を受け、シリア人に同情の念を示すと友に、UNSMISのさらなる派遣を呼びかけた。

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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長はダマスカス県での同時自爆テロ(10日)に関して、「背後にいる者はUNSMISの任務を失敗させ、シリアでの殺戮・流血を助長しようとている者だ」と非難した。

AFP, May 11, 2012、Akhbar al-Sharq, May 11, 2012、al-Hayat, May 12, 2012、Kull-na Shuraka’, May 11, 2012, May 12, 2012、Naharnet.com,
May 12, 2012、Orient TV, May 12, 2012、Reuters, May 11, 2012、SANA, May 11,
2012、al-Watan, May 11, 2012などをもとに作成。

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