2日前に発生したダマスカス県の連続自爆テロに関して「シャームの民のヌスラ戦線」が再び犯行声明を発表、シリア国民評議会運営委員会ではガルユーン事務局長の再選の是非について協議される(2012年5月12日)

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第10期人民議会選挙をめぐる動き

SANA(5月12日付)は、ダマスカス郊外県司法小委員会が、ダーライヤー市、クドスィーヤー市、キスワ市の投票所14カ所で不正が発覚、第10期人民議会選挙の投票やり直しを行うことを決定したと報じた。

SANA, May 12, 2012

SANA, May 12, 2012

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変革解放人民戦線代表で人民意思党党首のカドリー・ジャミール氏はダマスカスで記者会見を開き、第10期人民議会選挙が危機解決のための包括的政治プロセスの起点になることに失敗したと批判し、選挙結果を無効として、人民議会を解散したうえで、全国一選挙区での比例代表制に基づく選挙のやり直しを呼びかけた。

変革解放人民戦線は第10期人民議会選挙に参加したが、候補者全員の落選が確実となっている。

5月10日のダマスカスでの同時多発テロをめぐる動き

5月10日のダマスカスでの同時多発テロに関して、「シャームの民のヌスラ(救済)戦線」を名のる組織が「住宅地に政府が砲撃を続けること」への報復として実行したと発表した。

同組織による犯行声明はこれが4度目。

これまでに、2012年1月6日、3月17日、4月27日のダマスカスでの爆弾テロ、2月12日のアレッポでの爆弾テロに対して犯行声明を出している。

『ハヤート』(5月15日付)は、専門家の話として、テロの手法はアル=カーイダの手法に似ている、と報じた。

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5月10日のダマスカスでの同時自爆テロの犠牲者の葬儀がウスマーン・モスク(ダマスカス)で行われ、共和国ムフティーのアフマド・バドルッディーン・ハッスーン師、アドナーン・マフムード情報大臣、ムハンマド・アブドゥッサッタール・サイイド宗教関係大臣らが参列した。

SANA, May 12, 2012

SANA, May 12, 2012

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SANA(5月12日付)は、アーディル・サファル首相が、ダマスカスの同時自爆テロ現場(カッザーズ地区)を視察、また負傷者を慰問し、「こうした陰謀を根絶するための一致団結と国民統合」の必要を強調したと報じた。

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アドナーン・マフムード情報大臣はダマスカスで記者団に対して、「テロとの戦いを口実に戦争を行う同盟者らを指導する西側諸国と米国は今日、シリアに対してテロを行う勢力と同盟を結んでいる」と述べた。

国内の暴力

UNSMISのロバート・ムード司令官は、西側の煽動報道とは対称的に「シリア情勢は平静であり、(現在)民間人、軍人157人からなる隊員がいる」と述べた。

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イドリブ県では、SANA(5月12日付)によると、トルコからの潜入を試みた武装テロ集団を国境警備隊がヒルバト・ジューズで撃退した。

またイドリブ県で、武装テロ集団がアレッポ・ラタキア間の鉄道線路に爆弾を仕掛けて爆発させ、路線を数メートルにわたって破壊した。

一方、シリア人権監視団によると、カフル・ウワイド市、カンスフラ村、クークファイン市などに軍治安部隊が突入し、逮捕・摘発活動を行った。

また軍・治安部隊と離反兵がハントゥーティーン村東部で交戦、イフスィム地方で爆発や砲撃があった。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ムーリク市での軍・治安部隊の砲撃により1人が死亡した。

またカルナーズ町出身で4日前にハマー市で負傷していた市民1人が死亡した。

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ヒムス県では、SANA(5月12日付)によると、ヒムス・サラミーヤ街道で武装テロ集団が貨物車2台を襲撃し、市民1人が殺害された。

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ダマスカス郊外県では、SANA(5月12日付)によると、アルトゥーズ町で武装テロ集団がシリア軍士官・下士官を襲撃し、1人を殺害した。

またハジャル・アスワド市では、武装テロ集団がシリア軍士官・下士官を襲撃し、1人を殺害した。

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ダイル・ザウル県では、ダイル・ザウル市で軍・治安部隊と離反兵が交戦した。

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ダマスカス県では、『クッルナー・シュラカー』(5月12日付)によると、旧市街で「殺戮を止めよ、我々はすべてのシリア人のための祖国建設を望む」というプラカードとロウソクを掲げて集会を行った青年数十人が治安当局に身柄拘束された。

反体制勢力の動き

民主的変革諸勢力国民調整委員会は声明を出し、アナン特使の和平案への支持を改めて表明する一方、アサド政権との対話に関しては、国内での暴力が続く限り「国民によって明らかに拒否されている」と述べ、応じない姿勢を示した。

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自由民主シリアのための「共に」運動は声明を出し、アサド政権の打倒、マイノリティの権利を尊重した民主的市民国家の建設、外国の軍事的干渉拒否を呼びかけるとともに、反体制勢力による大会を開き、一致団結することを提案した。

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シリア報道と表現の自由センターのメンバー8人が釈放された。

8人は2月16日にダマスカス県内のセンター本部で逮捕されていた。

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ロイター通信(5月13日付)は、シリア国民評議会の運営委員会がローマで開催され、ブルハーン・ガルユーン事務局長の再選の是非について協議した、と報じた。

会合に関して、サミール・ナッシャール氏(ダマスカス民主変革宣言)は、ガルユーン事務局長の国内での支持の低さや、評議会の国際社会での承認取り付け失敗を踏まえ、「我々はブルハーン・ガルユーンの任期延長、更新に反対だ」と述べた。

また「我々は政権交代を支持している。なぜならすべての政治勢力がその職(事務局長職)に就任する機会を持っているからだ」と付言した。

レバノンの動き

ヒムス県クサイル地方でのシリア軍・治安部隊と離反兵の戦闘が、レバノン領に一時拡大、ベカーア県バアルベック郡カーア地方にシリア軍が進入・発砲し、シュトゥーラ村でレバノン人1人が負傷した。

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『ムスタクバル』(5月12日付)は、ベカーア県バアルベック郡の対シリア国境地帯で、シリアの反体制勢力約50人をジャアファリー家が誘拐、これに対抗するかたちで自由シリア軍がジャアファリー家の2人とシリア人1人を誘拐した、と報じた。

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ベカーア県バアルベック郡サアドナーイル市では、「シリア革命との連帯」を求める集会が開催され、自由シリア軍司令官のリヤード・アスアド大佐がビデオ演説を行い、「革命」への支援と避難民保護を求めた。

サアドナーイル市はムスタクバル潮流支持者が多い。

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北部県トリポリ市では、イスラーム主義者の青年数百人が11日にテロ容疑で逮捕されたイスラーム主義者の釈放を求めて、同市の北部、南部の入り口前で抗議行動を行った。

青年らは委任統治時代のシリアの旗を掲げていた。

諸外国の動き

トルコのアフマド・ダウトオール外務大臣は、シリア国内での違法な取材活動中に身柄拘束されていたトルコ人記者2人が、イランの仲介でトルコ側に引き渡された、と発表した。

一方、トルコの国境警備隊は、シリア国内で反体制勢力が誘拐したイラン人18人のうちの2人を釈放した。

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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、連盟主催のもとにカイロで16日に予定されているシリア反体制勢力大会で発表される「政治宣言」をアナン特使がシリア政府に手渡すことになるだろう、と述べた。

AFP, May 12, 2012、Akhbar al-Sharq, May 12, 2012、al-Hayat, May 13, 2012, May 14, 2012、Kull-na Shuraka’, May 12, 2012, May 13, 2012、al-Mustaqbal, May 12, 2012、Naharnet.com, May 12, 2012、Reuters, May 12, 2012、SANA, May
12, 2012、al-Watan, May 12, 2012などをもとに作成。

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