ラタキア市内各所で軍・治安部隊が激しい銃撃、英外相いわくアサド大統領は自身の正統性を「かろうじて保っている」(2011年8月16日)

戦車によるラタキア市の住宅地区への砲撃も継続され、少なくとも5人が軍・治安部隊によって殺害された。同市への攻撃はこれで4日目に入り、44人以上が死亡、数十人が負傷している。シリア革命調整連合によると、死者の中には13歳の少年が含まれる。

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反体制デモをめぐる動き

複数の活動家、目撃者によると、ラタキア市内各所で3時間以上にわたって、軍・治安部隊が激しい銃撃を行った。とりわけスンナ派が多く住むラムル地区、シャアブ地区の近くに住む住民がロイター通信に語ったところによると、両地区は軍・治安部隊の激しい砲撃に曝された。

シリア人権監視団によると、ラムル地区、マスバフ・シャアブ地区、アイン・タムラ地区で早朝から激しい銃撃。銃撃が激しい地区の住民の避難は続いている。

一方、複数の住民によると、サウラ通りには装甲車、兵員輸送車などの軍用車輌約20台が集結、クナイニス地区への攻撃の恐怖が高まっている。またジャズィーラによると、軍・治安部隊がマディーナ・リヤ-ディーヤの住民数千人を包囲。

シリア革命調整連合によると、シリア軍は「パレスチナ難民キャンプ、ラムル広場、サカントゥーリーの住民に対して、同地区からの避難を呼びかけ、とどまる者はみな抵抗者とみなす」と何度も呼びかけているという。

シリア人権監視団によると、約400人がマディーナ・リヤーディーヤ、マラーイブ、ダウル・スィーニマーで逮捕。マスバフ・シャアブ地区、ギラーフ地区で無差別の家宅捜索が行われた。また晩、スカントゥーリー地区で軍・治安部隊が大規模な逮捕・捜索、数十人を逮捕。

シリア内務省道徳指導局長のムハンマド・ハサン・アリー准将は声明を出し、治安維持部隊が軍の支援のもとに行っていたラタキア市ラムル地区での任務が完了したと発表した。

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SANAなどによると、ダイル・ザウル市の南部および北東部から撤退を開始した。16日、シリア情報がダイル・ザウル市での各国記者団の取材を許可、市の南部では「アサドの兵」と書かれた装甲車12輌、兵員輸送車6輌が撤退する様子、住民が軍を歓迎し、「人民、ダイル[・ザウル]はバッシャール・アサドを欲する」、「我々はあなたに魂と血を捧げる、バッシャールよ」と連呼する様子が取材された。

また北東部では市民数千人が軍を歓迎し、「アッラー、シリア、バッシャールのみ」と連呼する様子が取材された。しかし住民によると、ダイル・ザウル市包囲で配備されていた対空砲は撤収されたが、市内の主要各所には武装した兵士を載せた車輌が依然として駐留している、という。

シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン所長によると晩、シリア軍・治安部隊が撤退開始を宣言していたダイル・ザウル市でデモが発生し、数百人が参加。治安部隊の発砲で16歳の青年1人が死亡。

SANA, August 16, 2011

SANA, August 16, 2011

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一昨日夜から昨日にかけて、ダマスカス、ダマスカス郊外県、アレッポ、ハマー、ダイル・ザウル、ラタキア、イドリブ、ダルアー、ヒムスなどで、夜の礼拝後にデモが発生した。デモではラタキアとの連帯、体制打倒が叫ばれた。

晩にはムウダミーヤト・シャームで活動家5人が、ハラスター、アルバイン、ザバダーニーで数十人逮捕される。

ヒムス市では一昨日の夜の礼拝後、ラタキア市との連帯や体制打倒を叫ぶデモが発生し、少なくとも12人が殺害された。シリア人権監視団によると、バーブ・スィバーア地区で2人が殺害、多数が負傷したという。また複数の活動家によると、バーブ・スィバーア地区、バイヤーダ地区で朝から大規模な逮捕・捜索が行われており、シリア人権監視団によると、アシーラ地区の地上電話、携帯電話が不通となっている。

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反体制派の青年らがインターネット週刊誌『アフバール・ムンダッス』(潜入者ニュース)をフェイスブック上に創刊。「シリア国民の機関紙」と位置づけられている同誌は、「シリアの青年活動家、シリア4月17日民主変革青年運動の協力」のもと編集されている。雑誌タイトルは、デモ発生当初、「潜入者」の一団が抗議行動を煽動したとのシリア政府のプロパガンダを皮肉っている、という。http://ar-ar.facebook.com/Mundas.News

活動家のラザーン・ザイトゥーナ女史は晩に衛星放送アラビーヤの「パノラマ」で、「白黒はっきりしない立場」をとっている人々に「革命への参加」を呼びかける。

諸外国の動き

『シャルク・アウワト』(16日付)によると、100世帯以上のシリア人がヒムス県クサイルなどから、レバノンの北部県アッカール郡のワーディー・ハーリドなどに避難。彼らは夜間の軍・治安部隊による攻撃の逃れるため、日没前にレバノンに避難し、早朝に自らの村に戻っているという。
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ダマスカスに拠点を置くパレスチナ諸派は、シリア軍がラタキア市ラムル地区のパレスチナ難民キャンプを攻撃しているとのUNRWAの発表を否定、同発表が「シリアとパレスチナの立場を悪化させることをめざす試みの一環をなす」と非難した。またアラブ・パレスチナ難民総合委員会のアリー・ムスタファー委員長もUNRWAの発表内容は根拠がないと非難し、その訂正を求めた。

ラムル・キャンプは1952年に建設され、面積は約22,000平方メートル、約11,000人のパレスチナ難民が暮らしている。

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は記者会見で、シリアの政府と反体制勢力はいずれも国内の危機解決のための妥協の準備ができていないとの意見を示す。

ヒラリー・クリントン米国務長官は、米国防大学で演説、バッシャール・アサド大統領の政権に対する国際社会の制裁の強化や圧力の方が「成り行きまかせのスケジュール」に基づく大統領退任要求よりも効果的である、と述べた。同長官によると、大統領に対する退任要求は、「国際社会と地域がこの問題で強調すること」なしには大きな効果がないと述べた。そのうえで、「合衆国がアサドに退任を呼びかけてもあまり変化はないだろうが、トルコやサウジ国王がそうすれば、アサド政権は無視できないだろう」と述べる。

ウィリアム・ヘイグ英外務大臣は、「アサド大統領は行動するときが来た」と述べ、「かろうじて保っている正統性をも失いつつある。早急に暴力を停止せねばならない」と述べた。

西側諸国は、アサド政権によるデモ弾圧を審議するため、国連人権委員会の特別会合の召集を正式に求めた。

AP, August 16, 2011、AFP, August 16, 2011、Akhbar al-Sharq, August 16, 2011,
August 17, 2011、Aljazeera.net, August 16, 2011、al-Hayat, August 17, 2011, August 18, 2011、Kull-na Shurakaʼ Suriya, August 16,
2011, August 17, 2011、Naharnet.com, August 16, 2011、Reuters, August 16,
2011、SANA, August 17, 2011、Al-Sharq al-Awsat, August 16, 2011などより作成。

 

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