米大統領と伊首相がアサド政権への圧力強化手段をめぐって会談、サウジに続きクウェートとバーレーンも駐ダマスカス大使の召還を発表(2011年8月8日)

軍・治安部隊が早朝、イドリブ県マアッラト・ヌウマーン市を襲撃。数十人を逮捕。

ダイル・ザウル市では、断続的な砲撃が続き、シリア人権監視団など複数の活動家によると「住民は家の中で恐怖にさらされている」。攻撃はハウィーカ地区、ジャウラ地区に集中している。この二つの地区の住民数千人はすでに避難した。

複数の住民によると、ジャウラ地区は大規模な逮捕・捜索が行われ、現在までのところ34人が逮捕された。シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市では女性2人、子供2人が治安部隊の銃撃で殺害された。うち女性一人とその子供2人はハウィーカ地区で軍治安部隊の攻撃を回避しようとしているときに殺害された。また同監視団によると、ダイル・ザウル市への軍の突入以来、死者数は65人に上る。

Kull-na Shuraka', August 8, 2011

Kull-na Shuraka’, August 8, 2011

シリア人権監視団はまた、ダルアー市で指導的な活動家の一人であるマアン・アウダート氏が治安部隊によって暗殺されたと発表した。同氏はダルアーの犠牲者(先週逮捕された後に殺害されたとされるムハンマド・アクラード氏)の葬儀に参列中だった。また同氏とともに会葬者2人も殺害された。マアン・アウダート氏は人権活動家ハイサム・マンナーア氏の弟。

ヒムス市内の複数の地区で昨晩に引き続き、夜の礼拝後に市民がデモを行った。数千人が参加。アサド政権支持者の発砲により、少なくとも1人が負傷した。もっとも大規模なデモが行われたのはハーリディーヤ地区で、そのほかにもバイヤーダ地区、バーブ・スィバーア地区、バーブ・ドゥライブ地区。これらの地区は2週間前から電話回線などが遮断された。

シリア人権監視団によると、タドムルでもラマダーン月開始以来、毎晩、夜の礼拝後にデモが行われている。

ラスタン市でも数千人が参加したデモが行われた。

このほか、ダマスカス郊外県各市、ラタキア市、バーニヤース市、ハサカ市、ラアス・アイン市、カーミシュリー市、ラッカ市、ダルアー市でもデモが発生した。

シリア人権監視団によると、ダマスカス郊外県ザマルカー町で200人が逮捕。

ハサカ県の各都市・村のシリア正教会説教師らが日曜日、国内情勢について協議し、「自由、民主主義、尊厳を求めるシリア国民の正当な要求を支持する」と宣言。

ムハンマド・サルマーン元情報大臣はダマスカスで記者会見を開き、「国民民主イニシアチブ」を立ち上げる。アサド大統領に対して「現下の危機を克服するための解決策を案出するための国民対話開催のイニシアチブ」をとるよう呼びかけ、政治的解決を主唱した。また現バアス党指導部の政策を「行き過ぎ」と批判する一方、外国の干渉に反対の立場を明示した。

シリア国防省のウェブサイトを何者がハッキングし、トップページをシリア国内での弾圧を非難する画像、文書に置き換えた。『ハヤート』(10日付)によると、ハッカー集団「アノニマス」の犯行。

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バッシャール・アサド大統領は政令第307号を発し、アリー・ハビーブ国防大臣に代えて、シリア軍武装部隊参謀長のダーウード・ラージハ一等中将を国防大臣に任命。SANAによると、ハビーブ国防大臣は長らく健康を害していたという。ラージハ一等中将の国防大臣昇進に伴う参謀長人事は発表されていない。だが2009年7月以来、アースィフ・シャウカト中将が副参謀長に就いており、参謀長職を代行する可能性は否定できない。

軍高官筋は昨日、シリア軍・治安部隊がハマー市での任務を完了し、撤退を開始したと述べた。またハマー市当局は残骸の撤去を開始。

ハマーの治安筋によると、軍部隊は市内で武装犯罪集団が隠し持っていた大量の武器弾薬を押収するとともに、メンバー数人を逮捕。

Kull-na Shuraka’が信頼できる消息筋の話として報じたところによると、共和国護衛隊のドゥールヒンマ・シャーリーシュ准将(アサド大統領のいとこ)が海外への渡航を禁止された。シャーリーシュ准将は1956年生まれで、晩年のハーフィズ・アサド前大統領、アサド大統領に付き添う姿が、常にテレビなどの映像に映し出されている。ビジネス界、とりわけ道路、ダム建設事業への影響力も強い。EUはシャーリーシュ准将およびその弟のリヤード・シャーリーフ氏などのビジネスマンを制裁対象としている。なおアーティフ・ナジーブ准将(ダルアーでの虐殺を支持し、大統領のいとこ)も渡航禁止となっているという。

Kull-na Shuraka', August 8, 2011

Kull-na Shuraka’, August 8, 2011

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レバノンのナジーブ・ミーカーティー首相はシリアでの暴力停止のためのあらゆる努力を支持すると述べつつ、「レバノンの確固たる姿勢は、シリア内政への干渉を抑止するということを前提にしている」と述べた。

サアド・ハリーリー前首相は、「GCCやアラブ連盟の最近の声明は、レバノンの内閣にこの歴史的瞬間の深刻さを理解させるだろう」と述べ、アサド政権の命運とレバノンを結びつけるような政策の変更を求めるとともに、サウジアラビアのアブドゥッラー国王による駐シリア・サウジ大使の召還を歓迎した。

ベイルートの殉教者広場にレバノン人有識者、ジャーナリスト、活動から数百人が集まり、シリア国民との連帯を求める抗議運動を行う。アフマド・ファトファト国民議会議員(ムスタクバル潮流)が現職として唯一参加した。

SANA, August 8, 2011

SANA, August 8, 2011

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ヒラリー・クリントン米国務長官は、9日にシリアを訪問予定のトルコのアフメット・ダウトオール外務大臣と電話会談を行う。国務省報道官によると、クリントン米国務長官はこの電話会談で「兵士をただちに兵舎に撤退させるよう」求める米国の明確なメッセージをダマスカスに伝えるよう要請した。

バラク・オバマ米大統領は、イタリアのシルヴィオ・ベルルスコーニ首相と会談し、EUとNATOがアサド政権への圧力を強化するためさらなる協調を行う必要を確認。またマーク・トナー米国務省副報道官は、アラブ連盟、GCCによるシリアへの批判的姿勢を歓迎。

サウジアラビアに続き、クウェートとバーレーンが事態を協議するとの理由で駐ダマスカス大使を召還すると発表した。クウェートのムハンマド・スバーフ・サーリム・スバーフ外務大臣、バーレーンのシャイフ・ハーリド・ブン・ハマド・アール・ハリーファ外務大臣がそれぞれ明らかにした。

アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、シリア情勢に関して、自らが悲観的な見方をしているとしたうえで、同国をめぐる立場が複雑だと指摘、弾圧を終わらせるための「抜本的な措置」をとるのではなく、「改革実施のための真剣な対話」を行うべきだと述べた。またアラブ諸国、非アラブ諸国に対して、チュニジア、エジプトの例を教訓にすべきだと述べた。

フランス外務省副報道官は記者団に対して、「シリア国民の要求に応えるための民主的移行期が不可欠」であると述べた。

ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、シリアでの暴力継続に懸念を表明し、ダマスカスが民間人殺害停止を求める国際社会の呼びかけを無視していると批判。首相報道官が述べた。

イタリア外務省も暴力の即時停止を求める。

アズハルのシャイフ、アフマド・タイイブが声明を出し、「ことは限度を超えている」、「この惨事を停止せねばならない」と述べた。

AFP, August 8, 2011、AKI, August 8, 2011、Akhbar al-Sharq, August 8, 2011、August 9, 2011、al-Hayat, August 9, 2011, August 10, 2011、Kull-na Shuraka’, August 8, 2011、Naharnet, August 8, 2011、Reuters, August 8, 2011、SANA, August 9, 2011などをもとに作成。

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