トルコのダウトオール外相がアサド大統領と会談、反体制派に対する軍事作戦の停止をめぐって「最後の警告」を伝える(2011年8月9日)

トルコのアフメット・ダウトオールがシリアを訪問し、暴力停止を求めてバッシャール・アサド大統領に「最後の警告」を発するなか、シリア国内では軍治安部隊がダイル・ザウル市、ハマー市郊外、イドリブ県、ダマスカス郊外県などで治安回復作戦を継続し、多数の市民を殺害した。

一方、トルコとの関係が悪化するなか、アサド政権がPKKの残党を利用して、シリア国内の反体制活動家を脅迫しているとの見方も浮上した。

さらにサウジアラビアのアブドゥッラー国王がアサド政権による暴力行使を非難したのを受けるかたちで、レバノン国内では、アサド政権との関係をめぐって、ナジーブ・ミーカーティー内閣を構成する3月8日勢力と野党の3月14日勢力との対立が表面化している。

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シリア国内情勢

シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市では、早朝から、ハウィーカ地区、クスール地区、ジュバイラ地区で激しい銃声。また捜索・逮捕がハウィーカ地区で重点的に行われ、17人が殺害。複数の活動家によると、ダイル・ザウル市の市街地には遺体が散乱しているという。

シリア革命調整連合によると、ハマー市郊外のタイバト・イマーム市にも軍・治安部隊が突入。同村のジャウワーシュ病院から5遺体が搬出され、そのなかには子供2人(6歳と12歳)の遺体も含まれていた、という。また数十人が負傷した。同地の弁護士によると、「ハルファーヤー市、タイバト・イマーム市周辺に戦車50輌が展開している」。またシリア人権連盟のアブドゥルカリーム・リーハーウィー所長によると、タイバト・イマーム市で4人が殺害された。

シリア人権国民機構によると、ハマー市北部のスーラーン市に軍・治安部隊が戦車などで進入、26人が殺害、数十人が負傷。

シリア人権連盟のアブドゥルカリーム・リーハーウィー所長によると、軍・治安部隊はイドリブ県のビンニシュ市、サルミーン市にも攻撃。シリア人権国民機構によると、イドリブ県ビンニシュ市では4人が殺害。シリア人権監視団によると、軍・治安部隊がビンニシュ市、サルミーン市に突入し、2人を殺害。

シリア人権監視団によると、ヒムス市では一昨日夜、15000人がマルアブ街道でデモを行った。また、ヒムス市で逮捕された市民3人が拷問を受け死亡。遺体は9日に家族に引き渡された。

シリア人権監視団によると、ダマスカス郊外のザマルカー町、アルバイン市では車の往来が禁止されている。またザマルカー町では通信が朝から遮断されている。

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こうしたなか、反体制活動家による声明発表が相次いだ。

アラウィー派宗徒が声明を発表。反体制デモを支持するとともに、バッシャール・アサド政権がアラウィー派を代表してないと強調し、賛同者に同声明の署名を求めた。声明発表時の署名者人数は4人。

シリアの反体制有識者、活動家ら数十人が共同声明を発表し、「シリアでの民間人に対する集団虐殺」を非難。声明に署名した主な有識者は、イブラーヒーム・マーフース氏、イブラーヒーム・ダルウィーシュ氏(シリア・クルド国民行動ユニット)、ハビーブ・ハッダード氏、ズハイル・サーリム(シリア・ムスリム同胞団報道官)、アリー・サドルッディーン・バヤーヌーニー(シリア・ムスリム同胞団前最高監督者)、ムハンマド・リヤード・シャカファ(シリア・ムスリム同胞団最高監督者)、ハイサム・マーリフ(シリア人権協会)、ハイサム・ラフマ(シリア革命支援国民連立)、ワリード・サフール(シリア人権委員会)などそのほとんどが在外活動家。

シリア共産主義者統一国民委員会が声明を出し、シャビーハの弾圧は、同集団が宗派的な性格を持っているために、事態をさらに複雑化すると指摘。治安部隊などによる弾圧の停止を求めた。

シリア反体制政党国民調整委員会を名乗る政治同盟のハーズィム・ナハール報道官は、「シリア人は今日、心理的な支援を必要としており…、リヤードが表明した立場は、内政干渉にはあたらない」と述べ、サウジアラビアのアブドゥッラー国王の8日の声明への支持を表明。

シリア・ムスリム同胞団のズハイル・サーリムが声明を出し、民間人への弾圧を非難し、大使を召還したサウジアラビアのアブドゥッラー国王やGCC諸国の対応を評価。

シリア・クルド人権一般的自由擁護機構(DAD)、シリア人権国民機構、シリア人権機構(Maf)、シリア・アラブ人権機構、シリア・クルド人権委員会(監視団)、シリア民主的自由人権擁護諸委員会(CDF)が共同声明。弾圧継続を非難。各地での死者の氏名を公開。

シリアとトルコの関係が悪化するなか、ハーフィズ・アサド前政権がPKKを対トルコ政策、対クルド政策に利用したのと同様、バッシャール・アサド政権が国内のクルド民族主義勢力を利用している、とトゥルキー・ジスル氏がKull-na Shuraka Suriya(9日付)の論説で主張。同氏によると、シリア国内のPKK残党や支持者はシリア民主統一党(PYD)を結成し活動を継続。3月にシリアでデモが始まって以降、シリア民主統一党はデモを指導する調整委員会を脅迫し続け、活動家を誘拐、暴行している、という。

アサド政権の動き

トルコのダウトオール外務大臣はダマスカスでアサド大統領と会談した。

Kull-na Shuraka’(9日付)などによると、ダウトオール外務大臣は民間人弾圧を目的とした軍事作戦の停止を求めるとともに、自らの訪問が、シリア政府に対する「最後の警告」だと告げる。これに対してアサド大統領は、「我々は妥協しない。もし戦線布告を受けたら、地域戦争も辞さないだろう」と述べ、内政干渉を改めて拒否。

しかし、ダウトオール外務大臣は会談後の記者会見で、近日中に重要な改革措置がとられることを期待している、と述べた。複数の消息筋によると、4時間にわたる会談では、当初緊張に包まれていたが、会談を終えたダウトオール外務大臣には笑顔も見られた、という。

ダウトオール外務大臣によると、会談では、シリア情勢をめぐって詳細に議論、トルコ側の見解、シリアへの要求を伝える一方、シリア政府による改革措置についても議論。また信頼できる消息筋によると、議題のなかには、改革の一環として、トルコによる政権と反体制勢力の仲介もあったが、アサド大統領は「武装テロ集団」への断固たる対応をとるとの意思を示した。

この点に関して、SANAは「祖国の安定と国民の安全を守るため、武装テロ集団追跡に妥協しない」という点を確認するとともに、「包括的改革措置を完了するための立案も行われている」点が会談において強調されたと伝えた。

フェイスブックの「シリア革命2011」によると、ダウトオール外務大臣は、ダマスカスのマイダーン地区のモスクを訪問し、イフタール後の礼拝を行うとともに、抗議行動を行う市民の要求に耳を傾けた。

トルコ高官筋が『ハヤート』(11日付)に明らかにしたところによると、ダウトオール外務大臣はアサド大統領との会談で、暴力停止がなされなかった場合、トルコがとるであろう一連の措置について伝えたという。トルコで記者団に対して、アサドとシリアでの流血停止と民主的改革実行の方途について議論した、と述べる。

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アリー・ハビーブ前国防大臣がシリア・アラブ・テレビに出演し、退任の挨拶。退任の理由が健康状態の悪化にあると述べる。しかし『シャルク・アウサト』(9日付)が西側外交筋の話として伝えたところによると、ハビーブ前国防大臣はハマーでの弾圧に再三にわたって反対したために国防大臣を解任された、という。

SANAによると、ダイル・ザウル市で武装テロ集団の発砲により、市民1人が死亡、3人負傷した。

ナーディル・ハサン・カッターンを名のるハマーの武装集団メンバーの1人がシリア・アラブ・テレビで、警察署を襲撃し、武器を強奪、警官を殺害したと証言した。

サウジアラビアのアブドゥッラー国王の8日の声明発表を受け、シリアの主要各紙がその姿勢を強く批判。『ワタン』(9日付)は、武装テロ集団の存在、改革政策を無視している、と非難。『サウラ』(9日付)は「米国の要請に応えた声」と非難。

SANA, August 9, 2011

SANA, August 9, 2011

 

レバノンの動き

ナジーブ・ミーカーティー内閣は閣議で、シリアへの武器密輸を阻止することで合意。これは進歩社会主義党/国民党争ブロックの閣僚が問題提起し、閣内で合意した。

自由国民潮流のミシェル・アウン代表はシリア情勢に関して、「殺人や虐殺ではなく、投票に訴えるべき」と述べ、改革を求める一方、「テロを行っているのは武装集団であり、彼らが言うように、国家ではない」、「シリアがトルコ国境はアラブ諸国の国境で害を与えているとは思わない」とアサド政権の弾圧に一定の理解を示した。そのうえで、国際社会の動きが、「改革ではなく、イラン、ヒズブッラー、ハマースとの関係を絶たせシリアと交渉するための圧力」と非難した。

SANA, August 9, 2011

SANA, August 9, 2011

『リワー』(9日付)によると、進歩社会主義党のワリード・ジュンブラート党首はシリア情勢を悲観。ジュンブラート党首はシリア情勢に対して中立の姿勢を維持しようとしているが、「改革以外に逃げ道はない、時間やチャンスを無駄にしてはならない。これはシリアの将来への賭け」と述べたという。サウジアラビアでサアド・ハリーリー前首相と会談するといった情報も流れている。

ムスタクバル潮流はアドナーン・マンスール外務大臣のシリア訪問を「忌まわしい」シリア実効支配を思い起こさせると非難。

ベカーア県内の複数の村の住民数十人が国境のマスナアに行進。アサド政権による弾圧に抗議。

『リワー』(9日付)、ヒムス県内対レバノン国境通行所でシリア当局がレバノンのトラックに積まれたライフル銃約250丁を押収。トラックはシリア経由でイラクに向かう途中だったとされるが、シリア当局は反体制デモへの武器を供与しようとしていたと断じた。なおレバノン司法当局筋によると、これ例外にも、3人のレバノン人がベイルートで、バーニヤースへの武器密輸を試みて逮捕されたという。『ハヤート』(9日付)によると、この3人の車からカラシニコフ銃6丁が押収された。

各国の動き

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、ワリード・ムアッリム外務大臣と電話会談し、暴力行為の停止が最優先事項とのロシアの立場を伝える。

エジプトのムハンマド・アムル外務大臣はシリアが「戻れないところに向かっている」と述べ、暴力停止に向けて早急な措置を講じるよう呼びかける。

イラク国民議会のウサーマ・ヌジャイフィー議長は、シリア政府に対して「流血を停止するための大胆な対応」を行うよう呼びかける。

国連安保理は今日、潘基文事務総長からシリア情勢に関する報告を受ける。ニューヨークの複数の消息筋によると、インド、ブラジル、南アフリカの国連代表は、シリア高官に今日、「国際社会の立場は、暴力の拒否と即時改革要求という点で統一されている」ことを伝えるとのこと。

AFP, August 9, 2011、Akhbar al-Sharq, August 9, 2011, August 10, 2011、AKI, August 9, 2011、facebook、al-Hayat, August 9, 2011、August 10, 2011, August 11, 2011、Kull-na Shuraka’,
August 9, 2011, August 10, 2011、al-Liwa’, August 9, 2011、Naharnet.com, August 9, 2011、Reuters, August 9, 2011、SANA,
August 10, 2011、al-Sharq al-Awsat, August 9, 2011、al-Thawra, August 9, 2011、UPI, August 9, 2011, August 10, 2011、al-Watan, August 9, 2011をもとに作成。

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