2011年8月29日のシリア情勢

反体制勢力の動き(足並みの乱れ)

トルコの首都アンカラで政権打倒を求める活動家たちを指導するための暫定国民評議会の発足が突如として発表された。

同評議会は、94人のメンバーからなり、うち42人がシリア国内で活動している。議長にはソルボンヌ大学教授で思想家のブルハーン・ガルユーン氏が選出され、副議長はファールーク・タイフール氏とリヤード・サイフ氏が務める。

評議会メンバーのなかには、フィダー・ハウラーニー女史(ダマスカス宣言)、ムスタファー・ジュムア(クルド人)、ファーイズ・サーラ氏、スハイル・アタースィー女史(ジャマール・アタースィー会議)、アンワル・ブンニー弁護士、ハビーブ・イーサー氏、アリー・アブドゥッラー氏、ヤースィーン・ハーッジ・サーリフ氏、リヤード・トゥルク氏、アリー・ファルザート氏、アーリフ・ダリーラ氏、ミシェル・キールー氏、ルワイユ・フサイン氏、アンマール・カルビー氏、サラーフ・バドルッディーン氏(クルド人)、ウバイダ・ナッハース氏、ナジーブ・ガドバーン氏、ハイサム・マーリフ弁護士、などが名を連ねている(メンバーの氏名はhttp://all4syria.info/web/archives/25288を参照)。

**

しかし、暫定国民評議会発足宣言に関して、メンバーとして名前をあげられた複数の活動家が、無許可で氏名を掲載されたとの声明を相次いで出した。AKI(29日付)によると、国民民主改革諸勢力国民調整委員会のメンバーのファーイズ・サーラ氏、ミシェル・キールー氏、フサイン・アウダート氏、アブドゥルマジード・マンジューナ氏、ブルハーン・ガルユーン氏などは評議会発足に先立って何らの連絡・許可も受けていなかったことを明らかにした。また国民調整委員会に属さないアリー・アブドゥッラー氏、ヤースィーン・ハーッジ・サーリフ氏、ルワイユ・フサイン氏、リヤード・サイフ氏、ハーズィム・ナハール氏も同様に何らの連絡・許可も受けていなかったという。

なお国民民主変革諸勢力国民調整委員会は29日付で声明を出し、暫定国民評議会とは関係を否定する。

**

また暫定国民評議会のメンバーとして名前をあげられなかった活動家たちもこの動きとの関係を否定する声明を次々と発表した。

シリア革命総合委員会は暫定国民評議会発足宣言後直ちに声明を出し、評議会とは無関係で、発足に際して何らの調整も行われなかったと不快感を示す。

イスタンブールでの会合において発足したシリア国民評議会準備委員会もただち声明を出し、ジャズィーラなど複数のメディアが報じた「暫定移行国民評議会」に関して、無関係であると発表。またシリア国民評議会が体制打倒のみを目的としており、体制転換(いわゆるポスト・アサド体制の構築)は同評議会の任務ではないことを明らかにする(声明全文はhttp://all4syria.info/web/wp-content/uploads/2011/08/بيان-مجلس-الوطني-السوري-نهائي.pdfを参照)。

またシリア・クルド・ムスタクバル潮流のミシュアル・タンムー氏も同様の声明を発表した。

**

ムハンマド・サルマーン元情報大臣が代表を務める国民民主イニシアチブは、アサド政権による反体制デモ弾圧に関して、外国の干渉を招きかねない、と警鐘をならした。

反体制運動をめぐる動き

複数の消息筋によると、ヒムス県、ダイル・ザウル県、イドリブ県、ダマスカス郊外県で兵士が(28日に)離反した。シリアの政治評論家が匿名を条件にダマスカスでAFPに語ったところによると「シリア政府の軍に対する統制は強固だったが、モスクで礼拝する人々が攻撃され、ミナレットが砲撃されるのを兵士が目の当たりにした以降、そうではなくなった」。

複数の目撃者によると、ラスタン市に駐留する兵士数十人が(28日に)離反し、早朝、シリア国軍の軽戦車・装甲車40輛、兵員輸送車輌20輛が同市入り口に展開・進入した。

**

AFP(29日付)、シリア人権監視団などによると、朝、シリア軍の戦車、兵員輸送車多数がヒムス県内のレバノン国境から2キロの地点に位置するヒート村に進入、シリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン所長は、朝6時から激しい銃声が聞こえているとAFPに語った。

シリア人権監視団によると、ダマスカス郊外県カーラ市、クドスィーヤ市にも軍・治安部隊が多数展開し、多数の住民を逮捕した。シリア革命調整連合によると、カーラ市では軍・治安部隊が早朝から家宅捜索を行い、その際1人を殺害した。

シリア人権監視団によると、ダルアー県のダーイル町にも軍・治安部隊が多数展開し、多数の住民を逮捕した。また同監視団によると28日夜から29日未明にかけて、ダルアー県インヒル市で1人が殺害された。

シリア人権監視団によると28日夜から29日未明にかけて、ダイル・ザウル県ブーカマール市で軍・治安部隊によって3人が殺害された。

シリア人権監視団によると28日夜から29日未明にかけて、イドリブ県のハーン・シャイフーン市で軍・治安部隊によって1人が殺害された。また、イドリブ県郊外のサルミーン市に軍・治安機関が突入し、子供1人を含む5人を殺害、60人が負傷した。イドリブ県郊外のカフルナブル市では治安部隊の要撃作戦で元士官の活動家1人が殺害され、活動家2人が負傷した。

SANAは、ハマー市のアドナーン・バックール検事総長が武装テロ集団に誘拐されたと報じる。

**

シリア・ムスリム同胞団が声明を発表。モスクや礼拝者に対する軍・治安部隊の攻撃を厳しく非難。

**

反体制活動家のナジャーティー・タイヤーラ氏(2011年5月12日に逮捕)が29日にヒムス刑事裁判所の決定に従い保釈(保釈金は5,000シリア・ポンド)される。しかしその直後、空軍情報部が再逮捕し、ヒムス支部の拘置所に再び拘束。

**

ムハンマド・アブドゥルマジード・マンジューナ氏、アブドゥルハキーム・バッシャール氏、ナダー・ハッシュ氏、ダーニヤール・サウード氏、ラディーフ・ムスタファー氏が共同声明を出し、暫定国民評議会メンバーに無許可で含まれていたと発表する。

**

EMHRNは声明を出し、約7,000人のシリア人が軍の攻撃を逃れてイドリブ県からトルコなど避難し、ハタイ県の6つのキャンプで避難生活を余儀なくされている。しかしシリア政府は、避難民の数を10,000人以上としたうえで、そのほとんどがイドリブ県での武装テロ集団に対する掃討作戦終了後に帰国したと発表している。

**

ダマスカス県、ダマスカス郊外県の地元の情勢委員会が中心となって共同声明を出し、イスラーム教のウラマーに「革命」への参加を呼びかける。

声明に参加したのは、マイダーン地区シリア革命調整委員会、カダム区シリア革命調整委員会、ルクンッディーン区シリア革命調整委員会、カフルスーサ区シリア革命調整委員会、ジャウバル区シリア革命調整委員会、ハラスターアルビーン・シリア革命調整委員会、マッザ区シリア革命調整委員会、イマーラ・バグダード通りシリア革命調整委員会、ジュダイダ・アルトゥーズ・シリア革命調整委員会、ダーライヤー・シリア革命調整委員会、ヤブルード市シリア革命調整委員会、ラタキア・シリア革命調整委員会、ハサカ・シリア革命調整委員会。

アサド政権の動き

バッシャール・アサド大統領はダマスカスを訪問したロシア大統領特使のミハエル・ボクダノフ外務副大臣と会談した。大統領府が発表した声明によると、ボクダノフ外務副大臣はシリア情勢をめぐるドミートリー・メドヴェージェフ大統領の「見解」を伝え、アサド大統領に対して「モスクワはシリアが政治、経済の両分野で進める改革路線を支持する」と述べたと発表した。これに対して、アサド大統領は、「バランスのとれたロシアの姿勢を高く評価」し応えた、という。

SANA, August, 29, 2011

SANA, August, 29, 2011

ボクダノフ外務副大臣との会談には、ムアッリム外務大臣、ブサイナ・シャアバーン、ファイサル・ミクダード外務次官が同席した。また会談後、ボクダノフ外務副大臣はワリード・ムアッリム外務大臣と個別に会談した。

モスクワ・ニュースは信頼できる消息筋の話として、ボクダノフ外務副大臣がアサド大統領に対して、「可能な限り早急な事態の沈静化」を求めるとともに、「安保理が決議採択に向かう可能性に警戒する」よう伝えたと報じた。

**

アサド大統領はクウェート在住のシリア人使節団と会談し、在外シリア人に国内での改革支援を求める。

**

シリア・アラブ・テレビは、シリア調整革命評議会議長を名乗る「破壊調整」(委員会)の「テロリスト」ムハンマド・ラッハール氏が警察署、軍・治安機関の施設などへの攻撃の計画について、ラタキア市スライバ地区で活動していたメンバー(ムハンマド・ハーワンディー氏)と交わした携帯電話での会話を放送。

**

『クッルナー・シュラカー』(29日付)は、ラーミー・マフルーフ氏が運営する日刊紙『ワタン』のワダーフ・アブドゥラッブフ編集長がラマダーン月初め(8月初め)に米国に渡っていたと報じる。帰国の意思はないという。米国への批判を行ってきた編集長の米国訪問については、まもなく生まれる子供に米国籍を与えるためとの憶測などが流れている。

**

Elaph.com(29日付)で、バヒーヤ・マールティーニー氏は、故ジャミール・アサド人民議会議員(ハーフィズ・アサド前大統領の弟)の孫娘とリフアト・アサド元副大統領(ハーフィズ・アサド前大統領の弟)の孫息子の結婚式が後者が滞在するスペインで行われる。マールティーニー氏によると、この結婚はラーミー・マフルーフ氏が今時の反体制デモを受けて語った「家族の統一」を想起させる、という。なお、3月半ばにシリア各地で抗議行動が始まって以降、リフアト・アサド大統領の息子のリーバール・アサド氏が西欧において続けてきた反体制運動は影を潜めるようになっている。

諸外国の動き

EUはシリアからの石油輸入に関して原則合意に達した、と外交筋が明らかにする。EUはシリア産石油の95%を輸入しており、その収入はシリアの歳入の3分の1を占めるとされている。

**

レバノンのアドナーン・マンスール外務大臣は、28日のアラブ連盟外相会議(和平フォローアップ委員会会合)後の声明に関して、「外相会議では、シリア情勢について審議され、いかなる声明も発表しないことで合意・閉幕した」と『リワー』(29日付)に対して語り、アサド政権とともに声明発表に異議を唱える。

一方、スーダンのアリー・クルティー外務大臣は、AFPに対してシリア情勢をめぐるスーダンの姿勢はアラブ連盟の声明と一致していると述べる。クウェート外務省も28日にスーダンと同様の姿勢を明示している。

**

トルコ外務省は、自国民に対して、シリア領への陸路が移動を伴うと警告を発し、必要な場合でも単独での移動はさけるよう求めた。シリア・トルコ国境でのシリア側の税関当局でのトルコ人旅行者や車輌運転手への対応の悪さに関してはたびたび指摘されているが、トルコ外務省が指摘した陸路での移動に伴う危険とは、シリア領内で武装活動再開の兆候を見せているPKKに起因する、という。

複数のトルコ筋が『ハヤート』(30日付)に語ったところによると、トルコ政府は、シリア情勢をめぐるトルコのスタンスに、イランとシリアがPKK問題を利用して対処しようとしていることに不快感を示しているという。こうしたなか、イラン当局が、トルコ政府との秘密交渉を行っていたとされるクルディスタン民主党のナンバー2を逮捕したとの報道が流れた(イラン側はこれを否定している)。

**

イラン外務省報道官は声明を出し、「我々はこの国(シリア)の内政干渉においていかなる役割も果たしていない…。EUは革命防衛隊クドス軍団とシリア国内での事件との関係を何の証拠もなく指摘している…。シリア政府とシリア国民は、問題を解決できるだけ、政治的に成熟しており、イランは他国の主権を尊重する」と述べ、クドス軍団をも対象とする西側の制裁に異議を唱えた。

**

ファルハーン・ハック国連報道官は、「これがシリアでの軍事作戦と集団逮捕のすべてを即時に停止するよう求めた潘国連事務総長との電話会談での回答だ」と述べ、継続される弾圧への不快感を露わにした。

**

アズハル機構のアフマド・タイイブ氏は、シリア国内でのモスクに対する軍・治安当局の進入・攻撃を非難。またイスラーム教ウラマー世界連盟も、モスクに対する軍・治安当局の進入・攻撃を「蛮行」と非難。

**

米国のウェブサイト『ザ・ケーブル』はロバート・フォード駐シリア米大使がアサド大統領支持者に包囲された映像を公開。映像は23日に撮影されたという。

**

ニューヨークでは、国連安保理常任理事国が大使級の会合を開き、シリアへの決議に関して初めて審議を行った。複数の外交筋が『ハヤート』(31日付)に語ったところによると、「見解の相違は続くもの、この会合は常任理事国5カ国は決議採択で合意が形成されていることを示している」。複数の西側消息筋によると、ロシアがシリアへの制裁に反対しているのは、ロシアが「リビアに続いて、4,000,000,000ドル相当のシリアにおける武器市場を失いたくないから」だという。

AFP, August 29, 2011、Akhbār al-Sharq, August 29, 2011, August 30, 2011、AP, August 29, 2011、The Cable, August 29, 2011、Damas Post, August 29, 2011、Elaph.com, August 29, 2011、al-Ḥayāt, August 30, 2011, August 31, 2011、Kull-nā Shurakā’, August 29, 2011, August
30, 2011, August 31, 2011, September 2, 2011、al-Liwā’, August 29, 2011、Naharnet.com, August 29, 2011、Reuters, August 29, 2011、SANA,
August 30, 2011、UPI, August 29, 2011、al-Waṭan, August 29, 2011などをもとに作成。

(C)青山弘之All rights reserved.

カテゴリー: シリア政府の動き, 反体制勢力の動き, 国内の暴力, 諸外国の動き パーマリンク