ロシアのリゾート都市ソチで、内戦後のシリアの未来像や復興・人道支援について協議するためのシリア国民対話大会が開幕した。
大会は、2017年10月にロシアのヴラジミール・プーチン大統領が「シリア諸国民大会」の名で提唱、同月のアスタナ7会議で、シリア政府と反体制武装集団の停戦の保証国であるロシア、トルコ、イランが合意して開催が決定された。
**
ロシア外務省によると、大会は、ロシア、トルコ、イランの連名で呼びかけ国となり、シリア人1,600人を招待するとともに、ヨルダン、エジプト、サウジアラビア、イラク、レバノン、カザフスタン、米国、中国、英国、フランス、国連などもオブザーバーとして招待されている。
ジュネーブ会議に参加する反体制派代表団の一つ最高交渉委員会、西クルディスタン移行期民政局は参加をボイコットすると表明した。
だが、『ハヤート』(1月30日付)によると、トルコが後押しする「自由シリア軍」諸派(ハワール・キリス作戦司令室、ユーフラテスの盾作戦司令室、オリーブの枝作戦司令室に参加するシャーム軍団など)の代表団、大会に参加するためにソチに向かったという。
**
一方、『ハヤート』(1月29日付)などがフランス消息筋の話として伝えたところによると、オブザーバーとして招待を受けた諸外国のうち、米国とフランスは、ロシアがダマスカス郊外県東グータ地方での停戦を履行していないとの理由で、大会への参加をボイコットした。
同消息筋によると、ロシアは1月26日にスイスで開幕したジュネーブ9会議において、東グータ地方での停戦を実施する旨誓約したが、同地では、アル=カーイダ系のシャーム自由人イスラーム運動、ラフマーン軍団、シャーム解放機構などからなる「彼らが不正を働いた」作戦司令室に対するシリア軍の攻撃が続いており、そのことが米国とフランスのボイコットにつながったという。
しかし、国連は、ジュネーブ会議の仲介役を務めるスタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表の派遣を決定、同氏がソチ入りした。
**
『ハヤート』(1月30日付)は、複数の消息筋の話として、シリア国民対話大会を運営するロシア、イラン、トルコ、そしてシリア政府は、大会期間中に大会を統括する議長評議会、最高委員会、組織委員会に加えて、制憲委員会、人道委員会を含む三つの分科会を設置することで合意済だと伝えた。
なお、大会は、バアス党が指導する連立与党の進歩国民戦線に加盟するアラブ社会主義連合党のサフワーン・クドスィー書記長が議長を務め、議長評議会には、「モスクワ・リスト」(モスクワ・プラットフォーム)を主導してきたカドリー・ジャミール前副首相、シリア革命反体制勢力国民連立元議長でカタール在住のアフマド・ウワイヤーン・ジャルバー氏、ドイツで活動する「モスクワ・リスト」のメンバーの一人ランダー・カスィース氏、国内で活動を続ける反体制組織「民主主義のためのシリア人」の代表のマイス・クライディー氏、欧州で活動するシリア国家建設潮流のリーム・トゥルクマーニー氏が参画する見込みだという。
また、制憲委員会の議長に関しては、ロシアとシリア政府は、人民議会議員のアシュワーク・アッバース氏を任命することで合意しているという。
だが、インターファックス(1月29日付)は、シリア国民対話大会で設置が予定されている制憲委員会の委員長にスタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表が就任する見込みだと伝えた。
**
アスタナ会議におけるロシア代表団を率い、シリア国民対話大会のロシア代表団の団長も務めるアレクサンドル・ラヴレンチエフ・シリア問題担当大統領特使は、大会開幕に先立って、「目標は、憲法について議論するための委員会の活動に参加する候補者を選定することにある」としたうえで、「大会に出席者に閉幕声明の審議と、シリア復興支援を求める文書を国連、国際機関に送ることを提案する」との方針を明らかにした。
一方、参加予定のシリア人に関して「シリア社会のすべての集団、そしてシリアの未来に関心を持つすべての人が大会に参加するだろう…。クルド人は個人として招聘した」と述べた。
『ハヤート』(1月30日付)などが伝えた。
**
ドゥラル・シャーミーヤ(1月29日付)が入手した議事次第によると、2日間の日程(29日午前6時から30日午後8時40分)のうち、対話に割かれているのは6時間半のみで、32時間40分もの時間が、休憩と飲食(12時間)、移動(10時間10分)、就寝(10時間半)に充てられているという。
**
SANA(1月29日付)は、ソチの複数の消息筋の話として、2日間の議事終了後に発表される予定の「閉幕声明」(案)がリークされたことに関して、「まったくもって不正確なものだ」と伝えた。
また、ロシアのマリア・ザハロワ外務省報道官も、フェイスブックのアカウントを通じて「閉幕声明」(案)が陸されたことに不快感を示した。
**
『シャルク・アウサト』(1月30日付)は、西側高官からの情報として、ワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣が、29日のソチでのシリア国民対話大会の開幕に先立って、ロシアに向かう出席者数百人を首都ダマスカスのオペラ・ハウス(ウマウィーイーン広場)に招集し、大会で設置が予定されている議長評議会や制憲委員会メンバーの最終候補の氏名を開示した、と伝えた。
それによると、議長評議会メンバーの最終候補は10人で、サフワーン・クドスィー(アラブ社会主義連合党書記長)、ランダ・カスィース、アフマド・ウワイヤーン・ジャルバー(ガド潮流代表)、ジャマール・カーディリー(労働総連合総裁)、アマル・ヤーズジー(シリア民族社会党)、マイス・クライディー、ファーリス・バイユーシュ(自由イドリブ軍元司令官)、ハイサム・マンナーア(カムフ潮流代表)、ズハイル・ラマダーン(芸術組合)らからなる。
一方、制憲委員会メンバーは25人からなり、アフマド・クズバリー(ジュネーブ会議のシリア政府代表団)、アフマド・アッカーム氏、カドリー・ジャミール(モスクワ・リスト代表)、ランダ・カスィース、アマル・ヤーズジーらからなる。
AFP, January 29, 2018、ANHA, January 29, 2018、AP, January 29, 2018、al-Durar al-Shamiya, January 29, 2018、al-Hayat, January 29, 2018、January 30, 2018、Interfax, January 29, 2018、Reuters, January 29, 2018、SANA, January 29, 2018、al-Sharq al-Awsat, January 30, 2018、UPI, January 29, 2018などをもとに作成。
(C)青山弘之 All rights reserved.