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アサド大統領発言
バッシャール・アサド大統領はロシア国営放送第1チャンネルのインタビューに出演した。インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り。
「こうした言説(西側諸国がシリアに軍事介入するとの言説)は、最近耳にするようになっているが…、その目的はシリアに圧力をかけてその政治姿勢の変更を迫ることになるのだろう」。
「我々は常にあらゆる可能性を考えている。こうした問題がメディアでリークされ、ごろん去れていなくてもである。しかし祖国が軍事的、安全保障面で脅威に曝されているとき、パワー・バランスなどには価値がないし、誰がより強くて、誰がより弱いのかといったことも関心事とはならない。もしシリアが弱い小国で、強大だとしても、パワー・バランスを度外視して国を防衛することは自然なことである」。
「このシナリオ(シリアへの軍事介入)考慮することは容易なことではない。なぜならシリアは地理的、地政学的、歴史的な側面で特別な地位を占めており、文化、宗教、宗派、エスニシティなど、中東のほとんどすべての構成要素の結節点だからである。それはあたかも活断層であり、この活断層の安定を揺るがそうとするいかなる試みも、大地震をもたらし、地域全体がその被害を受けることになるだろう」。
「(誰が反体制勢力を代表するかという問題は)新政党が結成され、統一地方選挙と人民議会選挙が実施されたときにより正確に決せられるだろう…。我々はすべての人々と関係を持っている。(政治の)場にいるすべての勢力、既存の勢力、そして危機発生以降に表れた勢力と…。なぜなら我々は今、これらの勢力と関係を持つことが非常に重要だと考えているからである。我々は誰が大衆的基盤を持ち、誰が持っていないなどと限定はしていない」。
「シリアに対する(西側の)包囲、具体的には経済、技術、テクノロジーへの制裁は数十年前から行われていた…。しかしこの包囲は最近の危機において強まっている。それゆえ我々は2005年以降、東に目を向けるようになった」。
「最初の数ヶ月、とりわけ最初の1ヵ月、どこから資金と武器がもたらされているのか、そして実際に資金や武器が存在するのかを知ることは容易でなかった…。しかしその後7ヵ月が経ち…、完全ではないが明確な情報がもたらされるようになった。最近行われたテロリストらへの聴取によって、近隣諸国からシリア国境を経て武器が密輸され、資金が支払われていることが疑う余地なくなった…。現在、我々にはシリア国外の複数の国でこの活動を指導する者たちの情報を有している。これらの者たちと各国の関係に関する正確な情報を有していないが、明らかなのは、武器の種類や量、資金の額が個人によるものでなく、この援助の背後に複数の国が存在しているということである。
http://www.sana.sy/ara/2/2011/10/30/378876.htm
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『サンデイ・テレグラフ』(10月30日付)はバッシャール・アサド大統領とのインタビューを掲載した。同記事でのアサド大統領の発言は以下の通り。
「(西側諸国は)明らかに圧力を強めようとしている…。しかしシリアはエジプト、チュニジア、イエメンとあらゆる点で異なっている。歴史が違う。政治が違う」。
「シリアは今やこの地域の中心点だ。活断層だ。その地盤をもてあそべば、地震を発生させることになろう…。もう一つのアフガニスタンを見たいというのか?」
「シリアのいかなる問題も地域全体を炎上させるだろう。計画がシリア分断なのなら、地域全体が分割されるだろう」。
「軍のみがアル=カーイダに対峙するために訓練されている…。あなたがたの国の軍隊を派遣しても同じことが起きるだろう。我々は今テロリストと戦っているだけだ。戦闘が減っているのはそのためだ」。
アサド政権の動き
スワイダー県のスワイダー市で、アサド大統領の改革支持、外国の干渉拒否を訴える大規模集会が開催された。
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SANA(10月31日付)は、シリア・アラブ共和国憲法草案準備国民委員会がダマスカス郊外県の旧在外居住者省舎で第1回会合を開催したと報じた。
委員会のサーム・ダッラ報道官によると、会合では、委員会の活動方針、憲法改正案全般に関する審議が行われた。
また11月1日に引き続き審議を継続することを決定した。
DP-News(10月31日付)、『ワタン』(10月31日付)によると、会合では、被選挙権を厳正に適用する必要を確認したと報じた。
同報道によると、ハルフ・アッザーウィー委員長は、人民議会議席の労働者・農民代表とその他の諸集団代表の議席配分に関して近く委員会で審議すると述べた。
またその際、立候補者の要件として、「読み書きができ、自身が立候補する選挙区の有権者であるか、同選挙区に選挙登録を移動させねばならず、選挙に関わる諸委員会のメンバーであってはならず、複数の選挙区で立候補してはならない。また地方議会選挙の立候補者は公務員であってはならない」と述べたという。
なお委員会は、すべての有権者は立候補資格の有無に関して、(立候補届け却下後)3日以内に各地の選挙分科委員会に申し立てができ、委員会はこの申し立てに3日以内で回答することを確認した。さらに、立候補者の選挙活動に関しては、外国のメディアを使用することができないことを確認した。
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ダマスカス県で経済対話大会が始まった。同大会には約300人が出席し、3日間にわたって社会経済改革についての議論が交わされる予定。
開会式でアーディル・サファル首相は「改革プロセスは法律、行政、社会における困難に立ち向かう」としたうえで、この困難への対処することが「政府の義務であり、延滞は許されない」と改革への意思を改めて表明した。
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バアス党シリア地域指導部のハイサム・サターイヒー氏はルーマニアの報道使節団と会談し、近く開催予定の国民対話大会に関して、「いかなる勢力、個人も排除しない」と述べた。
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AKI(10月30日付)は、バアス党シリア地域指導部のファーイズ・イッズディーン氏が、アラブ連盟外相会議のイニシアチブに関して、「問題はシリアがアラブ(連盟)のイニシアチブにどの程度応えるかという点にあるのではない。シリア政府は未だ公式に回答してはいないが、重要なのはシリアと連盟で合意されたことである…。連盟が提示した問題のなかには、シリアが完全に合意の意思を示したものと、いまだ検討中のものがある…。シリアが同意したのは、シリアの主権と安定、加盟国の内政に干渉しないとしたアラブ連盟憲章に関して完全なる合意がなされているという点である」と述べ、暴力停止要求や国民対話大会開催といった要請には応じないことを示唆した。
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『クッルナー・シュラカー』(10月30日付)は、来年初めに予定されている人民議会選挙を前に、当局がクルド人を懐柔するための選挙リスト作成を持ちかけ、反体制活動への参加を控えるよう試みていると報じた。
同報道によると、当局はクルド人立候補者だけから構成される選挙リスト「シャームおよび同郊外県西クルディスタン評議会選挙」の結成を持ちかけているという。
同リストは以下のような構成だという。
第1区:ルクンッディーン、テシュリーン、カーブーン、アッシュ・ウルード
第2区:ルーズ・アーファー、ドゥンマル、マッザ、クドスィーヤー、クラー・アサド
第3区:キスワ、ビナー・クワイティー、サビーナ、イザーア、フジャイラ村、ヤルダー、ハジャル・アスワド、サフナーヤー
第4区:ヒルバト・アワルド、ガザール、ディヤービーヤ、ニシャービーヤ、ムライハ、アドラー、ハラスター、ドゥーマー、ムハイヤム・ファーフィディーン
第5区:ナバク、ザバダーニー、ムウダミーヤ、ジュダイダト・ファドル町、ジュダイダ・アルトゥーズ
反体制運動掃討
ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市のダイル・バアルバ地区とガントゥー市の検問所で治安部隊が市民に発砲し、2人が殺害され、10数人が負傷した。
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複数の活動家によると、ヒムス県(ヒムス市、タドムル市)、ダイル・ザウル県(クーリーヤ市)、ハマー県、タルトゥース県バーニヤース市(バイダ村)、イドリブ県(ザーウィヤ山)、ダマスカス郊外県、ダルアー県で、アラブ連盟におけるシリアのメンバーシップ凍結を求めるデモが発生し、ユーチューブなどにその映像がアップされた。
フェイスブックの「シリア革命2011」などは、「メンバーシップ凍結の日曜日」と銘打ってデモを呼びかけていた。
アラブ連盟外相使節団をめぐる動き
カタールの首都ドーハで、アラブ連盟外相使節団とシリア使節団の非公式会合が行われた。
会合では、アラブ連盟外相使節団がアサド政権に示した提案に対する「シリア側の回答」をめぐって議論がなされたという。複数の高官によると、使節団の提案とは、殺戮の即時停止、シリア人の要求に応えるための対話などを骨子としているという。
シリアの使節団はワリード・ムアッリム外務大臣、ファイサル・ミクダード外務次官、ブサイナ・シャアバーン大統領府情報顧問らからなっていた。
アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長はAFP(10月30日付)に対して、会談で、外相使節団側は「軍備の即時撤退、暴力の即時停止することで、我々(アラブ連盟)が信頼とシリア国内を安堵させるメッセージと与える」べきとした行動計画をシリア側に示したと述べた。
なお『カバス』(10月30日付)は、ダマスカスを訪問したアラブ連盟外相使節団がアサド大統領に対して、危機解消のための行程表を示すことを求めるとともに、「問題がアラブ世界の枠組みを出て、地域が国際的な制裁に曝されるのを回避するため、アラブ連盟の努力に応える必要がある」と警告したと報じた。
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またこの会合と時を一にして、イランのアリー・アクバル・サーレヒー外務大臣がドーハを訪問した。
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一方、レバノンのアドナーン・マンスール外務大臣は、カタールを訪問しハマド・ブン・ハリーファ・アール・サーニー首長と会談した。NNA(10月30日付)によると、会談ではシリア問題に議論が集中した。
諸外国の動き
AFP(10月30日付)は、国の呉思科中東問題特使がシリア訪問に関して、「シリアの高官に危険な状態であり、そうした常態が続いてはならない」としたうえで、アサド大統領が「国民の合法的な要求を尊重し、応えるだろう」と述べたと報じた。
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レバノン治安筋によると、負傷したシリア人5人がレバノン領内に逃げ込んだ。
うち4人はシリア領内で銃で撃たれて、北部県アッカール郡アクルーム地方に逃げ込み、残り1人は地雷を踏んで負傷し、ベカーア県ヘルメル郡を経由して北部県ディンニーヤの病院に搬送されたという。
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『クッルナー・シュラカー』(10月30日付)は、在米シリア人の使節団がシリアを訪問し、アサド政権の改革路線への支持を表明したと報じた。
AFP, October 30, 2011、Akhbar al-Sharq, October 30, 2011、AKI, October 30, 2011、DP-News, October 30, 2011、al-Hayat, October 31, 2011、Kull-na Shuraka’, October 30, 2011, October 31, 2011、Naharnet, October 29, 2011、NNA, October 30, 2011、al-Qabas, October 30, 2011、Reuters, October 30, 2011、SANA, October 30, 2011、October 31, 2011、The Sunday Telegraph, October 30, 2011、al-Watan, October 31, 2011などをもとに作成。
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