軍・治安部隊がヒムス市バーブ・アムル地区を「90%」制圧、シリア国民評議会事務局長は「民間人を防衛する」ために軍事諮問局を設置することを発表(2012年3月1日)

Contents

国内の暴力(ヒムス市バーブ・アムル地区制圧)

軍・治安部隊は約4週間におよぶ掃討作戦の末、ヒムス市バーブ・アムル地区を「90%」(シリア治安筋)制圧し、「武装集団多数がレバノンに逃走した」。

SANA, March 2, 2012

SANA, March 2, 2012

SANA, March 2, 2012

SANA, March 2, 2012

SANA, March 2, 2012

SANA, March 2, 2012

**

トルコで避難生活を送る自由シリア軍司令官のリヤード・アスアド大佐は、自由シリア軍がバーブ・アムル地区に「残された住民や民間人を守るため、戦略的に撤退をした」と発表した。

アスアド大佐によると、自由シリア軍は同地で軽火器・中火器をもって対峙していたが、武器が不足し、地元住民の人権状況悪化を懸念して、撤退を決定したという。

**

シリア革命総合委員会メンバーのハーディー・アブドゥッラーを名のる活動家によると、軍・治安部隊はバーブ・アムル地区制圧に際して、離反兵17人を殺害し、「うち12人をナイフで殺した」。

**

自由シリア軍メンバーのアブー・ヤザンを名のる活動家がAFP(3月1日付)に対してスカイプを通じて「住民は集団虐殺を恐れている」と述べた。

また自由シリア軍高官はロイター通信(3月1日付)に対して、バーブ・アムル地区の戦闘員が約7,000人の軍・治安部隊と対峙していたと述べ、圧倒的な武力の差を強調する一方、「別の場所で攻撃を集中させる」と述べ、武装闘争の継続への意思を示した。

**

バーブ・アムル地区制圧を受け、赤十字国際委員会とシリア赤新月社は「人道支援と負傷者搬出を継続する」と発表した。

**

ヒムス県では、ラスタン市の士官、兵士多数が離反を宣言するビデオがインターネットなどと通じて配信された。

また活動家らによると、ヒムス市バーブ・スィバーア地区で、治安部隊が市民3人を射殺した。

**

ハマー県では、活動家らによると、カルナーズ町で治安部隊が市民1人を射殺した。

**

ダマスカス郊外県では、活動家らによると、ドゥマイル市で治安部隊が市民1人を射殺した。

**

SANA(3月1日付)は、内務省高官の話として、軍・治安部隊が制圧したバーブ・アムル地区で、関係当局が22日に死亡した米国人記者マリー・コルヴィン女史とフランス人カメラマンのレミー・オシュリク氏の遺体を収容したと報じた。

同高官によると、シリア赤新月社と赤十字国際委員会は3度にわたって武装集団からの遺体引き渡しを拒否されていたという。

 

**

フランスのニコラ・サルコジ大統領は、ヒムス市での取材中に負傷したフランス人ジャーナリストのエディット・ブヴィエ女史とウィリアム・ダニエル氏が無事、レバノンに搬出された、と発表した。

アサド政権の動き

『シリア・ステップス』(3月1日付)は、ハサン・トゥルクマーニー副大統領、ダーウード・ラージハ国防大臣、アースィフ・シャウカト参謀長、ヒシャーム・ビフティヤール・バアス党シリア地域指導部民族治安局長、ムハンマド・イブラーヒーム・シャッアール内務大臣がアレッポ市を訪問し、地元のビジネスマンらと自由参加型の集いを開き、現下の治安、経済情勢などについて意見を交換したと報じた。

反体制勢力の動き

ヒムス市バーブ・アムル地区制圧を受け、西欧で活動するシリア国民評議会は声明を出し、国際社会とアラブ連盟に対して、制圧後に予想される「集団虐殺」を阻止するべく、即時介入を行う呼びかけた。

またシリア国民、とりわけダマスカスとアレッポの住民に対して「バーブ・アムル地区の救済と、あらゆる平和的市民抵抗の駆使」を安全な欧州の地から呼びかけた。

**

一方、シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長は記者会見を行い、「民間人を防衛する」ために軍事諮問局を設置し、自由シリア軍やシリア革命最高軍事評議会といった反体制武装集団を糾合すると発表した。

ガルユーン事務局長によると、新設された軍事諮問局は、民間人と軍人から構成され、武装闘争の調整、武器調達・配布、統合された集権的指導部のもとでの各武装集団の統合を目的としている。

軍事諮問局の本部は、現地から可能な限り近い場所に設置することが予定されており、トルコがその候補地だという。

また、一部の国が「革命家たち」への武器供与を望んでいるとしたうえで、それが「混沌としたかたちで配布される…余地はなくなる」と強調した。

軍事諮問局の開設に関しては、自由シリア軍、シリア革命最高軍事評議会も合意済みだと強調した。

**

自由シリア軍のリヤード・アスアド大佐は、シリア国民評議会による軍事諮問局開設の発表の直後、声明を出し、同局に参加しないと発表した。

アスアド大佐は「この組織の目的が分からない…。我々は言葉でなく行動を望んでいる」と批判し、同局開設に自由シリア軍が合意していないと反論した。

**

シリア革命調整連合はインターネットなどを通じて、3月2日(金曜日)に「自由シリア軍武装の金曜日」と銘打った反体制デモを行うよう呼びかけた。

諸外国の動き

ジェフリー・フェルトマン米国務次官補は、議会での公聴会で、反体制勢力の武装化が事態をさらに混乱させる懸念があると証言した。

フェルトマン国務次官補は「アサド政権崩壊を加速させるため米国のあらゆる政治的ツールを用いる」との意思を示す一方、「アサドは、自身を選択するか、内戦を選択するかを迫ることで人々を脅迫しようとしている。我々は内戦を回避したい」と述べ、反体制勢力の武装化については「アサドが描く構図に油を注ぐ行為」と消極的な姿勢を示した。

またロシアの対シリア政策に関して、「沈没しかけた船に乗っていても国益にはつながらない」と述べた。

一方、ロバート・フォード在シリア米大使は、現下のシリア政治体制を「アラウィー派対スンナ派」という宗派対立ではなく、「40年にわたる家族支配」と評価、過去数ヶ月の間に支配エリートや財界の不満が高まっていると指摘した。

またフォード大使は、反体制勢力の糾合がないとしつつ、移行期間に関して統一のビジョンに達する可能性については否定しなかった。

このほか、ヒラリー・クリントン米国務長官は米下院で、シリアへの人道支援をめぐるロシアの姿勢に失望していると述べる一方、同国のさらなる協力を望んでいると証言した。

**

アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、シリアの反体制勢力の武装化に異議を唱えるとともに、暴力が続けば「内戦」の可能性があると警鐘を鳴らし、即時停戦を求めた。

**

イタルタス通信(3月1日付)は、ロシア外務省報道官の話として、ロシアがGCC諸国とシリア情勢に関する会議を近く開催すると報じた。

また同報道官は、アル=カーイダがシリア軍に対する武装集団に混じって戦闘している、と述べた。

**

SANA(3月1日付)は、中国の温家宝首相がイマード・ムスタファー在中国シリア大使との会談で、シリア情勢の解決策が「すべての当事者の停戦実施と、シリア国民のすべての構成要素が参加する包括的政治対話のなかに隠されている」と述べたと報じた。

**

コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使が記者会見を行い、近くダマスカスに訪問し、「暴力行為は停止され、人道機関が(住民に)達しなければならないとの明確なメッセージ」を伝えたいと述べた。

**

国連安保理は、シリア政府がバレリー・アモス人道問題担当事務次長のダマスカス訪問を拒否したことに遺憾の意を示す声明を出した。

**

『ナハールネット』(3月1日付)は、国連の潘基文事務総長が、国連安保理決議第1701号に関する最新の報告書のなかで、アサド政権の反体制勢力弾圧がレバノンの安定に否定的な影響を及ぼし得ると指摘したと報じた。

2006年のイスラエルとレバノンのレジスタンス(ヒズブッラーなど)との全面衝突を停戦させるために採択されたこの決議は、シリア情勢とは何ら関係がない。

**

国連人権理事会(47カ国)は、アサド政権による反体制勢力弾圧を「人道に対する罪のレベルに達する」として非難した声明を採択した。声明採択は4度目。

同決議案は西側諸国、GCC諸国が提案し、37カ国が支持した。

ロシア、中国、キューバは決議に反対し、3カ国が投票を棄権し、4カ国が投票しなかった。

**

『ハヤート』(3月2日付)は、英国とスイスが「安全上の理由」で大使館の業務を一時凍結する決定を下したと報じた。

**

カタールのハマド・ブン・ジャースィム首相兼外務大臣は訪問中のブリュッセルでマーティン・シュルツ欧州議会議長と会談し、「我々はシリア国民を救済するためあらゆる選択肢を検討しなければならない」と述べた。

**

クウェート議会は、シリア反体制勢力の武装を求める決議を採択した。

同決議には拘束力はない。

**

エジプト・ムスリム同胞団のムハンマド・バディーウ最高同師は、アサド大統領を「犯罪者」と非難、「国民の下僕であることを忘れるな」と警告した。

AFP, March 1, 2012、Akhbar al-Sharq, March 1, 2012、al-Hayat, March 2, 2012、Kull-na Shuraka’, March 1, 2012、Naharnet.com, March 1,
2012、Reuters, March 1, 2012、SANA, March 1, 2012、Syria Steps, March 1, 2012などをもとに作成。

(C)青山弘之All rights reserved.