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国内の暴力・反体制デモ
離反兵が放棄したヒムス市バーブ・アムル地区で軍・治安部隊による「集団処刑」の疑惑が高まるなか、軍・治安部隊が各地で掃討作戦を継続し、死者数は反体制活動家らによると65人(うち32人がヒムス県)にのぼった。
また金曜礼拝後の反体制デモが各地で行われ、複数の活動家らによると「数千人」が参加した。
しかし前日の歴史的な降雪によって、デモはこれまでに比べると低調で、アラビーア(3月2日付)も、これまでに比べて反体制活動家によるとインターネットなどでの画像の配信も少なかったと報じた。
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『ハヤート』(3月2日付)などは、国連人権理事会筋の話として、軍・治安部隊が制圧したヒムス県のヒムス市バーブ・アムル地区で、17人が「集団処刑」されたとの報告があったと報じた。
またシリア革命総合委員会メンバーのハーディー・アブドゥッラーを名のる活動家がAFP(3月1日付)に電話で明らかにしたところによると、ヒムス市バーブ・アムル地区では、「地区に残っている活動家、離反兵でない人々」に対する「報復の処刑」が行われている、という。
シリア人権監視団によると、バーブ・アムル地区では10人が殺害されたという。
一方、ラスタン市では、シリア人権監視団によると、軍・治安部隊による掃討作戦が続けられ、12人が死亡した。
バアス党レバノン地域指導部のアースィム・カーンスー書記長(国会議員)は『ナシュラ』(3月2日付)に対して、ヒムス市バーブ・アムル地区制圧に際して、シリア軍・治安部隊が同市で士官18人、フランス人空挺部隊兵士100人、レバノン人70人を逮捕したことを明らかにした。
そのうえで、「このスキャンダルはフランスのニコラ・サルコジ大統領を退任に追い込むだろう」と述べるとともに、「レバノン人陰謀者たちに関する詳細を明らかにする」と約束した。
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ダマスカス県およびダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ドゥーマー市で市民2人が治安部隊によって射殺された。
ダマスカス県・ダマスカス郊外県調整連合のムハンマド・シャーミーを名のる活動家によると、ダマスカス県のマッザ区、アサーリー地区、カダム区、カーブーン区、カフルスーサ区、ハジャル・アスワド市などで数千人が反体制デモを行った、という。
一方、SANA(3月2日付)によると、ドゥーマー市で武装テロ集団メンバー4人を当局が逮捕した。
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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市で市民2人が治安部隊によって射殺された。
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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ハマー市で市民1人が治安部隊によって射殺された。
一方、SANA(3月2日付)によると、ハルファーヤー市で当局が武装テロ集団多数を逮捕し、大量の武器弾薬を押収した。
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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、アレッポ市で反体制デモに参加していた市民3人が治安部隊によって射殺された。
アレッポ調整連合のムハンマド・ハラビーを名のる活動家によると、数千人がアレッポ市内の12カ所で反体制デモを行った。デモは1日夜から行われていた、という。
またシリア人権監視団によると、マンビジュ市でも反体制デモがあり、35人以上が逮捕された。
一方、SANA(3月2日付)によると、アレッポ市で武装テロ集団が仕掛けた爆弾が爆発して、幼児1人が死亡した。
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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、マアッル・シャマーリーン村、サラーキブ市で市民4人が治安部隊によって射殺された。
一方、SANA(3月2日付)によると、対トルコ国境沿いのアイン・バイダー村で密入国を試みた武装テロ集団と国境警備隊が交戦、前者のメンバー1人が死亡、多数が負傷した。
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インターネットなどでは「自由シリア軍武装の金曜日」と銘打って、デモが呼びかけられていた。
アサド政権の動き
シリア正教アンティオキア総主教のイグナティウス4世ハズィームは、シリア情勢に関して、「外国の内政干渉の障害が、イスラーム教徒とキリスト教徒に等しく及んでいる」と述べ、西側の介入を批判した。
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シリア外務省は国連安保理議長と国連事務総長宛てに書簡を送付し、そのなかで近隣諸国が「テロ集団の武器入手を促している」と非難、このことが「地域に悲惨な結果をもたらし、この盲目的な行為によって高い代償を払わされる」と警鐘をならした。
反体制勢力の動き
ユーチューブなどでは、アサド政権による弾圧の残虐さをアピールするために、活動家らが野良ネコの遺体を動画で配信した。
反体制活動開始以来、幼児などを終始動員してきた活動家らが「動物を動員」したことは、彼らの窮状を示すものと言え、哀れさすら感じる。
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『ザマーン・ワスル』(3月2日付)は、バーブ・アムル地区で籠城していた反体制活動家(離反兵)のアブドゥッラッザーク・トゥラース曹長、ワリード・アブドゥッラー曹長が無事同地区を脱出したと報じた。
反体制活動家らは、同地区では活動家、離反兵でない市民に対する「集団処刑」が行われていると非難しているが、離反兵は一般市民を犠牲に「戦術的撤退」を行ったことになる。
諸外国の動き
ブリュッセルではEU首脳会合が開かれ、数ある反体制組織の一つで、欧州・トルコで活動するシリア国民評議会を「シリア国民の正当な代表として承認する」との声明を出した。
シリア国民評議会は、武装闘争の方法をめぐり在外の自由シリア軍と対立している一方、外国の介入の是非をめぐって国内の民主的変革諸勢力国民調整委員会と対立しており、反体制勢力の総意を代表していない。
また声明では、アサド政権へのさらなる制裁を主唱するとともに、アラブ連盟の行程表に沿ったかたちでの停戦と問題解決への支持を改めて表明した。
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国連の潘基文事務総長は、アサド大統領にコフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使の受け容れを求める書簡を送付した。
同書簡によると、アナン特使の任務は、①暴力停止、②人道問題への対処、③国連総会決議(アラブ連盟行程表)に沿った問題の平和的解決、の三つ。
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ロシアのウラジーミル・プーチン首相は、外国メディアとの会見で、「(ロシアは)シリアと特別な関係によって結びついていない」と述べる一方、国連安保理での拒否権発動が「内戦」回避という「原則的」立場に基づくものだと正当化し、「我々の目標は…シリア人どうしによる問題解決だ」と主張した。
また一部諸国による反体制勢力武装化の試みに関して、西側が「破壊分子への武器支援とアサド政権への圧力を通じて危機を煽っている」と非難、武器供与が行われれば「反体制勢力は交渉のテーブルに決してつかないだろう」と述べた。
一方、ロイター通信(3月2日付)は、シリア情勢をめぐる最近のウラジーミル・プーチン露首相の西側批判と時を一にするかたちで、ロシア産の灯油がシリアに搬入された、と報じた。
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フランスのニコラ・サルコジ大統領はブリュッセルでの記者会見で、アサド政権の弾圧に抗議し、フランス大使館を閉鎖するだろう、と述べた。
フランス政府は先日、一時帰国させていた在ダマスカス・フランス大使をダマスカスに戻したばかり。
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バラク・オバマ米大統領は『アトランティック・マンスリー』とのインタビューで、アサド大統領に残されている日が「限られており」、「問題は退任するかどうかではなく、いつするかだ」と述べた。
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「アフバール・シャルク」(3月2日付)によると、イラクのバグダード西部にあるヒートでアサド政権の弾圧に抗議するデモが実施され、約1,000人が参加した。
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赤十字国際委員会のヤコブ・ケレンベルガー総裁は、アサド政権が許可したにもかかわらず、ヒムス市バーブ・アムル地区に人道支援のため入ることができない、と述べ、早急な対応を求めた。
一方、22日にバーブ・アムル地区で殺害された外国人記者2人の遺体をシリア当局から受け取ったことを明らかにした。
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アフメト・ダウトオール外務大臣は、シリア国民評議会の使節団とイスタンブールで4時間にわたって会談した。
トルコ外交筋によると、この会談で、評議会はトルコ領内での軍事顧問局の開設を求めなかったという。
AFP, March 2, 2012、Akhbar al-Sharq, March 2, 2012、elnashra.com, March 2, 2012、al-Hayat, March 3, 2012, March 4, 2012、Kull-na Shuraka’, March 2, 2012、Naharnet.com,
March 2, 2012、Reuters, March 2, 2012、SANA, March 2, 2012、Zaman al-Waṣl,
March 2, 2012などをもとに作成。
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