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反体制勢力の動き
地元調整委員会は、アサド大統領の演説を受けて声明を出し、「現体制に平和的なイメージを与えて幕引きしようとするいかなる対話も拒否し、すべての国民のための新たなシリア、民主的で自由な国家への変革をめざす」と発表した。
地元調整諸委員会はまた、アサド大統領による対話の呼びかけを「単なる時間稼ぎ」だと批判、演説内容を「シリアが3ヶ月にわたって身を置いてきた国民的危機をめぐる演説とはほど遠かった」と一蹴した。
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『ハヤート』(6月21日付)などは、アサド大統領の演説後、ダマスカス郊外県、ハマー県、ヒムス県、ラタキア県、イドリブ県、アレッポ県、ハサカ県各所で、その内容に抗議するデモが行われたと報じた。
しかしSANA(6月20日付)は、各地で大統領の演説を支持するデモが行われたと伝えた。
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『アフバール』(6月20日付)は、イドリブ県ヒルバト・ジャウズ村で19日に発表された「国民評議会」に関して、スハイル・アタースィー氏が「いわゆる革命指導国民議会に関して承知していないし、関係がない」と述べ、自身がメンバーであることを否定したと報じた。
シリア政府の動き
アサド大統領はダマスカス大学講堂で演説し、新憲法の制定と現下の危機からの脱却を図るための「国民対話」を呼びかけた。
アサド大統領は演説で、シリアが「困難な日々」のなかで「決定的な瞬間」に身を置いているとしたうえで、「陰謀」を前にシリアの「力と抵抗力」が増していると述べた。
またアサド大統領は抗議行動で命を落とした「殉教者の家族」に弔意を示し、「命を落とした殉教者は、家族、祖国、さらには私個人にとっても大きな損失である」と述べた。
そのうえで「血を流したすべての人々」、すなわち「流血をもたらした」すべての人々は処罰を受けるだろうと明言、「すべての人が損害を被った。処罰は…国家が行使する権利である」と強調した。
シリアに対する「陰謀」に関して、アサド大統領は「陰謀は細菌のように撲滅はできない…。それゆえ我々は自らの身体の抵抗力を強めねばならない」と述べた。
そして「独立前も独立後も、シリアは依然として陰謀を免れるような段階にはないと考えていない」との見方を示した。
事態収拾の方途をめぐって、アサド大統領は、危機から脱却するための「国民対話」を呼びかけ、この対話が新憲法制定につながると明言、「対話は次の時期のスローガンとなるだろう」と強調した。
さらに「シリアの未来の成功を我々が望むのなら、それはこの対話に基づくものとなる」と付言、「国民対話委員会は100人を招聘して近く会合を開くだろう」と述べた。
しかし「武器を持った者との間に政治解決はない」と述べ、武装勢力との対話を拒否する姿勢を示した。
そして「国民対話は限られたエリートによるものでもなければ、体制や親体制勢力と反体制勢力との対話も意味しない。政治に限定されるものではなく、祖国に関するすべての問題をすべての国民諸集団と対話することを意味する」と強調した。
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SANA(6月20日付)によると、アサド大統領の演説を支持するデモが各地で行われ、数万人の市民が参加した。
国内の暴力
イドリブ県では、SANA(6月20日付)によると、ジスル・シュグール市のアブヤド川河畔で、反体制武装集団に殺害された治安部隊隊員らが遺棄された第3の「集団墓地」をシリア当局が発見した。
諸外国の動き
EU外相会議がルクセンブルグで開かれ、対シリア制裁強化に向けた準備を「活発に」進めることを確認した。
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フランスのアラン・ジュペ外務大臣は、シリア大統領の演説に関して、「引き返すことのできない地点」まで来たと評し、国民に対して「恐るべき」弾圧を行った後で、大統領が名声を回復できないと断じた。
ジュペ外務大臣は、ルクセンブルグでのEU外務会談の後、「変革と改革プロセス開始の時間はまだ残されていると考える者もいる」としつつ、「だが私はそうだとは思っていない。彼(アサド大統領)は引き返すことのできない地点に来てしまった」と述べた。
またジュペ外務大臣は「すべての状況を踏まえた場合、今日の発言(アサド大統領の演説)は状況を変えるものではない…。弾圧が1,000人以上の死者をもたらしている…。アサド大統領の暴力は恐るべきもので、受け入れることができず、何らかのリアクションが求められる」と述べた。
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ドイツのギド・ウェスターウェレ外務大臣は、アサド大統領の演説に関して「シリアからの報道は懸念に値する。我々には非人道的な状況が伝えられている」と述べた。
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キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表は、アサド大統領の演説に関して、「アサド大統領は誠実さをもって真の包括的対話を始めねばならない…。シリア国民は、改革への希望に包まれている。しかし第一印象は今日の演説が失望に値するものだったと言わざるを得ない」と述べた。
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ロシアのドミトリー・メドヴェージェフ大統領はアサド大統領の演説に関して、「シリアはきわめて困難な選択肢に直面している。私個人は、アサド大統領に遺憾の意を感じている。アサド大統領は自分がきわめて困難な立場にあると考えており、私が思うに、彼は国の政治の改編に取り組み、改革をしたいと考えているはずである」と述べた。
そのうえで、国連安保理でのシリア非難決議の採択を拒否するとの立場を改めて示し、シリアの反体制勢力に対しては、危機解決のため当局との対話に入るよう呼びかけた。
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イスラエルのエフード・バラク国防大臣は『フィガロ』(6月20日付)に対し、「アサドが倒れれば、イランとヒズブッラーにとって厳しい打撃を与え、「シーア派の弧」を弱体化させるだろう」と述べた。
バラク国防大臣はまた、アサド大統領が正統性を失ったと主張するとともに、「トルコがアサド支援を止めたことはとても重要だ」と付言した。
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トルコのギュル・トルコ大統領は記者団に対し、アサド大統領が演説で、複数政党制への移行など、改革についてより具体的な発言をすることを期待していたと述べ、失望感を露わにした。
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AFP(6月20日付)は、シリア当局が各国外交官らによるイドリブ県ジスル・シュグール市の視察訪問を手配し、ロバート・フォード米大使らが参加したと報じた。
AFP, June 20, 2011、Akhbar al-Sharq, June 20, 2011、al-Hayat, June 21, 2011、Kull-na Shuraka’, June 20, 2011、Naharnet, June 20, 2011、Reuters,
June 20, 2011、SANA, June 20, 2011などをもとに作成。
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