国連安保理では、シリア情勢への対応について協議するための会合が開かれ、シリアのアル=カーイダと目されるシャーム解放機構が軍事・治安権限を握るイドリブ県を中心とする北西部の状況をめぐって、ドイツ、ベルギー、クウェートが停戦を求める決議を、ロシア、中国が「テロとの戦い」継続を求める決議を提出、いずれも否決された。
ドイツ、ベルギー、クウェートが提出した決議案は、イドリブ県での人道状況のさらなる悪化を回避するため、9月21日(土曜日)から「人道停戦」の実施を求めるもの。
これに対して、ロシアも、中国の決議案は、同地での停戦において、テロ組織とつながりのある個人、グループ、組織に対する軍事行動を停戦から除外することを定めたもの。
採決に先立って、ユーソラ・ミューラー国連人道問題担当次官補は、ロシアとシリア政府が8月31日に発効した一方的停戦によって、シリア北西部で激しい戦闘は収まったとと一定の評価を下しつつも、同地での人道状況は依然として深刻なものだと強調、戦闘が続けばさらなる状況悪化は必死だと警鐘を鳴らした。
ミューラー氏によると、トルコを経由してドリブ県に対して行われている人道支援は、160万人の人々の手に届いているとしつつも、5月以降の戦闘で40万人が避難を余儀なくされ、国境地帯に追いやられていると指摘した。
9月初めには約60万人が国内避難民(IDPs)としてキャンプなどに身を寄せているという。
そのうえで、彼らを保護するために6800万米ドルが必要となっていると訴えた。
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採決では、米国、英国、フランス、ドイツ、ベルギー、クウェート、コートジボワール、ペルー、ポーランド、ドミニク共和国、南アフリカ、インドネシアの12カ国がドイツ、ベルギー、クウェートの決議案に賛成したが、ロシアと中国が拒否権を発動、また赤道ギニアが棄権し、否決された。
また、ロシア、中国の決議案も、9カ国が反対、4カ国が棄権し、同じく否決された。
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ロシアのワシーリー・ネヴェンジャ国連大使は、ドイツ、ベルギー、クウェートの決議案に関して、イドリブ県での民間人を含む犠牲の責任だけでなく、テロリストが最終敗北から逃れることの責任をロシアに帰せようとするものだと非難した。
また、バッシャール・ジャアファリー国連代表は、拒否権を発動したロシアと中国に対して、「国際法の諸原則、国連憲章の諸決定を遵守する」行為だと謝意を示した。
また、常任理事国を務める西側諸国が、いわゆる「署名運動」などと称して、「戦闘行為停止」を口実に偏った決議案を作成し、テロリストを救い出そうとしていると非難した。
とりわけ、決議案を提出したドイツに関しては、シリアとイラクで活動しているドイツ人テロリストが500人に達し、うち360人が今もテロ組織のメンバーとして活動を続けていると指弾した。
AFP, September 19, 2019、ANHA, September 19, 2019、AP, September 19, 2019、al-Durar al-Shamiya, September 19, 2019、Reuters, September 19, 2019、SANA, September 19, 2019、SOHR, September 19, 2019、UPI, September 19, 2019などをもとに作成。
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