プーチン首相がアサド政権打倒に固執する西側諸国や一部アラブ諸国を「無謀」と非難する一方、英外相は自国が「シリアの友」グループにおいて主導的役割を果たす意向を示す(2012年2月8日)

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国内の暴力

ヒムス県では、複数の活動家・住民が伝えたところによると、ヒムス市内の反体制勢力が占拠しているとされる複数地区を奪還するための、軍・治安部隊による大規模な掃討作戦が行われ、ロケット弾や迫撃砲による間断のない攻撃が続き、シリア人権監視団によると、少なくとも70人が死亡した。

al-Hayat, February 9, 2012

al-Hayat, February 9, 2012

掃討作戦にはヘリコプター、戦闘機も投入されたというが、その真偽は定かでない。

掃討作戦が行われたのは、インシャーアート地区、バーブ・アムル地区など。

一方、ロイター通信(2月8日付)によると、軍・治安部隊はガンターウィー家、トゥルカーウィー家、ザーミル家の家族少なくとも20人を殺害した。

同報道によると殺害されたのはほとんどが子供だという。

これに対して、SANA(2月8日付)やシリア・アラブ・テレビ(2月8日付)は、バーブ・アムル地区、ナーズィヒーン地区、ハーリディーヤ地区、バイヤーダ地区などに対する迫撃は「武装テロ集団」によるものだと報じた。

同報道によると、「武装テロ集団」は市内のバアス大学を標的として攻撃を行ったという。

またバイヤーダ地区では「武装テロ集団」が車爆弾を爆発させ、市民、治安知事部隊兵士多数を死傷させたと報じたほか、市内の石油精製所が迫撃砲の攻撃を受け、火災が発生したと伝えた。

さらに、バーブ・アムル地区で米国製およびイスラエル製の武器・弾薬を大量に押収したと報じた。

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ダマスカス郊外県では、複数の活動家・住民によると、ザバダーニー市に戦車・装甲車約150輌が侵入し、掃討作戦を展開した。

シリア人権監視団によると、カフィール・ヤーブース村で治安維持部隊と武装テロ集団が交戦し、前者の士官1人、兵士3人が死亡し、士官1人が捕捉された。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、マアッラト・ヌウマーン市で治安部隊の発砲により青年1人が殺害された。

SANA(2月8日付)によると、マアッラト・ヌウマーン市で治安維持部隊と武装テロ集団が交戦した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、タスィール町で中尉1人を含む兵士18人が離反し、軍・治安部隊と交戦、市民1人が死亡した。

アサド政権の動き

『クッルナー・シュラカー』(2月8日付)は、アサド大統領の子供が脅迫を受け、通学できないでいる、と報じた。

反体制勢力の動き

『ガーディアン』(2月8日付)は、英米の専門家の分析として、最近のアサド政権による対トルコ、レバノン、イラク、ヨルダン国境の警備強化により、離反兵が重火器などの武器のシリアへの密輸が困難になっていると報じた。

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ダマスカス県の著名なシャイフ5人(カリーム・ラージフ、サーリヤ・アブドゥルカリーム・リファーイー、ウサーマ・アブドゥルカリーム・リファーイー、ムハンマド・ラーティブ・ナーブルスィー、ムハンマド・ヒシャーム・ブルハーニー)は国軍の将兵に向けて共同声明を出し、市内での攻撃を停止するよう呼びかけた。

その他のシリアでの動き

Kull-na Shuraka', February 8, 2012

Kull-na Shuraka’, February 8, 2012

シリア人映画監督のファーイズ・カザク(ラタキア出身)はチュニジアの『ウラービヤー』(2月8日付)に対して、シリア情勢に関して、「アラブ諸国の革命は混沌だ…。私はいかなる判断も下さない…。話題に上っているいかなる革命も革命だとは考えていない…。革命は生活に関する新たな哲学をもたらすからだ」と述べ、批判的な姿勢を示した。

レバノンの動き

3月14日勢力事務局は、レバノン国軍による北部県対シリア国境地帯への展開に関して「異常な展開」と述べ、ナジーブ・ミーカーティー内閣を「失敗内閣」と非難した。

諸外国の動き

ロシアの複数の通信社によると、ロシアのウラジーミル・プーチン首相は、シリア国民が「自身で自らの運命…アサド大統領の運命を決めるべきだ」と述べ、体制打倒に固執する西側諸国や一部アラブ諸国を「無謀」だと非難した。

一方、セルゲイ・ラブロフ外務大臣は、シリア訪問後の記者会見もまた「シリア人が自らの運命を決する」と述べ、アサド大統領の退任について議論したことを否定した。

またラブロフ外務大臣は、「国民対話がシリア人自身の合意の結果となり、すべてその内容はすべての国民に受け入れられるべきもの」としたうえで、「国際社会が国民対話の結果を予め限定してはならない」と西側の動きを非難した。

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シリアのシャームFM(2月8日付)は、シリア国内で身柄拘束されたトルコ人士官49人の引き渡しをめぐる交渉がシリア・トルコ間で開始されたと報じた。

同報道によると、トルコ人士官は「違法にシリア国内で活動を行って」おり、シリア政府は釈放の条件として、自由シリア軍メンバーの引き渡し、シリア領内への武装集団潜入の規制、および軍事教練の停止を求めるとともに、イランを引き渡し合意の承認として立てることを要求している、という。

トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣は、シリアの危機を収束させるため、イスラーム諸国、アラブ諸国、西側諸国による拡大国際会議の開催をめざすとの方針を宣言した。

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フランスのアラン・ジュペ外務大臣は、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣との会談でアサド大統領が改革と弾圧停止を改めて確認したことに関して、「我々をバカにした策略」に過ぎないと非難した。

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英国のデヴィッド・キャメロン首相は、ラブロフ外務大臣のシリア訪問に関して「(よい結果がもたらされるとは)ほとんど信用してない」と述べた。

またウィリアム・ヘイグ外務大臣は、「シリア国内外の反体制勢力への支援を増加させる」と述べ、英国が「シリアの友」からなる「調整グループ」において主導的役割を果たす意向を示した。

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AFP(2月8日付)によると、イラン外務省報道官は、シリアで誘拐されていたイラン人観光客22人のうち11人がトルコ国境で釈放された、と発表した。

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シリア危機を煽る急先鋒のカタールの首都ドーハでシリア人など約3,000人が集まり、アサド政権の打倒と自由シリア軍の支持を訴えるデモを行った。

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UNICEFは、2011年3月の反体制運動発生以降、シリア国内で400人の子供が殺害されたと発表した。

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国境なき医師団は声明を出し、シリアのアサド政権による「慈悲なき弾圧」を非難した。

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ジャズィーラなどに頻繁に出演しているユースフ・カラダーウィー師らアラブ諸国のイスラーム教宗教関係者107人が連名でファトワーを出し、自由シリア軍への支援を呼びかけた。

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ヨルダン・ムスリム同胞団はヨルダン政府に対してシリア大使を追放するよう呼びかけた。

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『ハヤート』(2月9日付)は、信頼できる消息筋の話として、中国がシリア国民評議会の指導部に連絡し、中国への訪問を求めるかたちで会談を申し出たと報じた。

これに対して、シリア国民評議会側は、この申し出を(政権との)仲介とは無関係だとみなすとの姿勢を示すとともに、安保理での拒否権発動に関する説明を求めたという。

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ナバネセム・ピレイ国連人権高等弁務官は、安保理に対してシリアでの弾圧を「人道に対する罪」として国際刑事裁判所に提訴するよう呼びかけた。

AFP, February 8, 2012、Akhbar al-Sharq, February 8, 2012, February 11, 2012、The Guardian, February 8, 2012、al-Hayat, February 9, 2012、Kull-na Shuraka’, February 8, 2012、Naharnet.com, February 8, 2012、Reuters, February 8, 2012、SANA, February 8, 2012などをもとに作成。

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