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国内の暴力
ヒムス県では、複数の活動家・目撃者によると、ヒムス市で軍・治安部隊による掃討作戦が続き、地元調整諸委員会によると110人余りが殺害されたという。
掃討作戦はバーブ・アムル地区、ハーリディーヤ地区、インシャーアート地区、バイヤーダ地区、ジャウラト・シヤーフ地区で激しく行われ、住民らによると、市内は間断のない砲撃が続く「実戦」の様相を呈し、ライフラインが遮断され、「焼け焦げた遺体」が散乱、家々が破壊されている、という。
一方、シリアの日刊紙『ワタン』(2月9日付)は、ヒムス市バーブ・アムル地区でアル=カーイダと関係がある様々な国籍の武装集団多数を当局が逮捕し、米イスラエル製ロケット弾などを大量に応酬したと報じた。
逮捕された戦闘員の国籍は同報道によると、レバノン人、リビア人、アフガニスタン人など。
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ダマスカス郊外県では、複数の活動家・目撃者によると、マダーヤー町、ザバダーニー市を軍・治安部隊の戦車・装甲車など約350輌が包囲し、掃討作戦を続けているという。
シリア人権監視団によると、ザバダーニー市では市民2人が殺害された。
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イドリブ県では、複数の活動家・目撃者によると、マアッラト・ヌウマーン市で軍・治安部隊による掃討作戦による死者が出た。
シリア人権監視団によると、同市では女の子1人が殺害された。
一方、SANA(2月9日付)によると、武装テロ集団がイドリブ県内の鉄橋を破壊した。死傷者はなかった。
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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、離反兵が軍・治安部隊を要撃し、7人の兵士を殺害した。
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ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、クーリーヤ市で激しい発砲があり、女子供を含む数十人が負傷した。
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地元調整諸委員会によると、全国の死者数は150人近くにのぼったという。
アサド政権の動き
『ダマス・ポスト』(2月9日付)によると、アサド大統領は、政府使節団をモスクワに派遣し、反体制勢力との対話を行う用意があるとの意思を表明した。
同報道によるとこの意思表明は、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣との会談時になされ、ファールーク・シャルア副大統領を反体制勢力との対話の責任者に任じた。
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SANA(2月9日付)によると、タルトゥース県シャイフ・バドル市で、外国の干渉拒否、ロシア・中国の姿勢支持、アサド政権支持を訴えるデモが行われた。
反体制勢力の動き
『ハヤート』(2月10日付)が伝えたところによると、自由シリア軍のムハンマド・イマームを名のる人物がダマスカス郊外県から米国に向けてインターネットを通じてメッセージを発し、外国軍の派遣ではなく、「さらなる武器支援」を要請した。
同メッセージは、ワシントンで開催された中東専門家や特派員の会合に宛てて発信されたもの。
イマーム氏はそのなかで「我々は世界でもっとも残忍な殺人装置の一つと戦っている」としたうえで、離反兵が「軽火器で戦車に応戦している」と述べ武器の不足を認めた。
また「ヒズブッラーとイランの戦闘員がシリア人の弾圧を教練している…。ダマスカス近郊にはヒズブッラーが運営する訓練キャンプがある」と述べ、ヒズブッラーとイランの弾圧を断定した。
イマーム氏によると、離反兵(脱走兵)の数は40,000人を越え、グータ地方(ダマスカス郊外県)、ダルアー県には約20,000人の人々が武装したいと考えているが、武装している離反兵の数は数百人に過ぎないという。
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『フィナンシャル・タイムズ』(2月9日付)は、自由シリア軍のアフマド・アスアド大佐とシリア革命最高軍事評議会のムスタファー・シャイフ准将の不和を解消するため、シリア国民評議会が仲裁に乗り出した、と報じた。
自由シリア軍、シリア革命最高軍事評議会はいずれもトルコに避難している士官らが指導し、国内での反体制活動を指導していると主張している在外組織。
一方、シリア国民評議会も在外有識者やイスラーム主義者の寄り合い所帯。
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シリアのドゥルーズ派の首領の一人ムンタハー・アトラシュ女史は記者会見を開き、アサド政権に対する反乱をアラブ山地方の住民に呼びかけた。
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自由シリア軍(リヤード・アスアド大佐)とシリア革命最高軍事評議会(ムスタファー・シャイフ准将)の共同声明が『クッルナー・シュラカー』(2月10日付)で発表され、後者が前者の国内活動を情報面、兵站面などで支援することに合意し、近く正式な声明を出すことを明らかにした。
アラブ連盟の動き
『ハヤート』(2月10日付)が、アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長に近い消息筋として伝えたところによると、2月12日に開催予定のアラブ連盟緊急外相会合では、在外の反体制政治同盟の一つであるシリア国民評議会を「シリア国民の正当な代表」とみなすか否かが審議される予定。
国連の動き
国連の潘基文事務総長は記者会見で、アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長から、国連の支援のもとに連盟監視団をシリアに戻したい旨7日に通達されたと発表し、国連とアラブ連盟による合同監視団を派遣する構想を提起した。
潘事務総長はまた、ヒムス市でのシリア軍による攻撃を「恐るべき蛮行」と非難する一方、ロシアと中国の安保理決議に対して「悲惨な失敗」と形容、「シリア国民に対する戦争をエスカレートさせる」との西側寄りの中立性を欠いた見解を示した。
そのうえで「内戦、宗派対立に向かう危険」があるとしたうえで、「受け入れられない段階に達した現状に対して大胆且つ断固たる措置」を講じる必要を訴え、外部介入を唱導した。
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フランス外務省はアラブ連盟監視団の活動再開に関して、「自由な移動と必要な連絡が行われねばならない」と述べ条件をつけつつも、支持する意思を示した。
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スーザン・ライス米国連大使は、潘事務総長の提案に対して、「検討する」と述べた。
一方、米国防相報道官は、シリア情勢に関して、軍事介入を念頭に置かず、「外交的方法を優先している」と改めて述べた。
レバノンの動き
MTV(2月9日付)は、北部県トリポリ市バーブ・タッバーナ地区で爆弾3発が爆発したと報じた。
バーブ・タッバーナ地区はスンナ派(反アサド政権、親3月14日勢力)が多く居住しており、アラウィー派(親アサド政権、親3月8日勢力)が多く住む隣接するジャバル・ムフスィン地区との対立が絶えない。
諸外国の動き
『ハヤート』(2月10日付)によると、西側諸国が現在検討中のシリアの友連絡グループは、国連を通じた「外交的オプション、平和的解決」が息詰まるなかで、「民間人保護」のための「別の選択肢」を検討しているという。
この「別の選択肢」のなかには、フランスが昨年末に提示した人道回廊の設置、ないしは緩衝地帯を対トルコ国境地帯(のシリア領内)に設置するといった案が含まれているが、反体制勢力への軍事支援は含まれていないという。
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西側によるシリアの友連絡グループ構想に関して、ロシア外務省報道官は「国際法の観点から違法」との立場を示した。
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英国のデビッド・キャメロン首相は記者団に対して、アサド政権が「いかなる代償を払ってでも」国民を殺戮しようと計画していると非難した。
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ABC(2月9日付)が伝えたところによると、スイスの最高裁判所は、スイスの銀行が資産凍結していたハーフィズ・マフルーフ准将(総合情報部内務課ダマスカス班長、アサド大統領のいとこ)の資産3,000,000ユーロ(約4,000,000米ドル)の凍結を解除する決定を下した。
マフルーフ准将の代理人によると、この資産は、マフルーフ准将がスイスの制裁対象になる前に売買契約した不動産の代金を支払うための資金の一部だという。
同報道によると、スイスの銀行が資産凍結したシリア政府高官らの資金の総額は50,000,000スイス・フラン(約60,000,000米ドル)。
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イラン大統領府のウェブサイトによると、マフムード・アフマディーネジャード大統領はイラン訪問中の共和国ムフティーのバドルッディーン・ハッスーン師と会談し、「イスラーム抵抗運動を破壊し、シオニスト体制を救済するため米国とその同盟者たちは地域で新たな戦争を起こそうとしている…。しかし我々は彼らに結束と知恵をもって対抗できると確信する」と述べ、アサド政権への支持を伝えた。
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ドイツのギド・ヴェスターヴェレ外務大臣はスパイ容疑によるシリア人ら2人の逮捕を受けるかたちで、シリア大使館の外交官4人を追放したと発表した。
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SANA(2月9日付)によると、ムハンマド・アリー・サアディー弁護士を団長とするイラク部族使節団がシリア訪問を訪問し、ムハンマド・シャッアール内務大臣、アドナーン・マフムード情報大臣と相次いで会談し、両国関係の強化を確認した。
また使節団は、シリアに対する外国の介入を拒否する姿勢を示した、という。
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リビア外務省は、在トリポリ・シリア常駐代表に対して72時間以内にリビアを出国するよう要請した。
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中国外交部報道官は、民主的変革諸勢力国民調整諸委員会の使節団が北京を訪問し、外務次官と会談、シリア情勢について意見を交わしたと発表した。
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ロシアのアナトーリー・アントノフ国防次官はロシアのテレビでのインタビューで、「我々の専門家は同地域(シリア)の様々な軍事拠点や工場におり、我々の見解では、それは国際的軍事協力という文脈において非常に大きな将来的意味を持っている」と述べ、シリアとの軍事的な協力関係の維持・強化の意思を示した。
ABC, February 9, 2012、AFP, February 9, 2012、Akhbar al-Sharq, February 9, 2012, February 10, 2012、Damas Post, February 9, 2012、The Financial Times, February 9, 2012、al-Hayat, February 10, 2012, February 12, 2012、Kull-na Shuraka’, February 9, 2012,
February 10, 2012、Naharnet.com, February 9, 2012、Reuters, February 9, 2012、SANA,
February 9, 2012、al-Waṭan, February 9, 2012などをもとに作成。
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