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国内の暴力
ヒムス市カラム・ザイトゥーン地区で、女性・子供を含む惨殺遺体47体が発見された。遺体は市内の複数地区で殺害されたもの。
この事件に関して、SANA(3月12日付)によると、アドナーン・マフムード情報大臣が記者会見を開き、「武装テロ集団がヒムス市内の複数の地区で誘拐・殺害した遺体」と発表、「武装テロ集団」が安保理会合前に国際社会に圧力を求めるために行った「虐殺」と非難した。
またカタールやサウジアラビアなどテロ集団を支援する一部の国を「テロのパートナーであり…シリアでの流血の責任を負っている」と付言した。
SANA(3月12日付)、シリア・アラブ・テレビなどは遺体の写真や、「武装テロ集団の犯行」と述べる市民の証言を公開・放映した。
一方、反体制活動家らもユーチューブなどで遺体の映像や写真を公開し、シャッビーハが惨殺したと非難した。
シリア革命総合委員会のハーディー・アブドゥッラーを名のる活動家によると、発見された遺体のうち21人が女性、26人が子供で、遺体は自由シリア軍がヒムス市バーブ・スィバーア地区に搬出し、撮影したという。
ヒムス市の活動家だというワリード・ファーリス氏によると、自由シリア軍は、軍・治安部隊が証拠を隠滅しないよう、遺体を一カ所に集めている、という。
なお「アフバール・シャルク」(3月12日付)など一部メディアは、遺体数を57体と報じた。
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シリア人権監視団によると、この報道を受け、ヒムス市の複数の地区(カラム・ザイトゥーン地区、バーブ・ドゥライブ地区、ナーズィヒーン地区)の住民が11日未明から12日にかけて、「新たな虐殺を恐れて」市外に非難した。
なお『ハヤート』(3月13日付)によると、軍・治安部隊はヒムス市全体の約70%を制圧している、という。
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軍・治安部隊はイドリブ県などで反体制武装集団に対する掃討作戦を継続し、反体制勢力筋によると、各地で合わせて113人が死亡した。
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イドリブ県では、反体制活動家によると、イドリブ市で、軍・治安部隊が離反兵、市民を要撃し、24人を殺害した。
またシリア人権監視団によると、カフルルーマー村、マストゥーマ村、フザーン村で市民4人が治安部隊に射殺された。
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ダルアー県では、反体制活動家によると、軍・治安部隊と離反兵が交戦した。
シリア人権監視団によると、ダルアー市で軍の貨物車輌が襲撃され、3人が殺害された。
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ヒムス県では、SANA(3月12日付)によると、フーラ地方で、武装テロ集団がヒムス・ハマ間の灯油のパイプラインを破壊した。
一方、シリア人権監視団によると、フーラ村、タルビーサ市、クサイル市で市民3人が殺害された。
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ラッカ県では、シリア人権監視団によると、タブカ市で離反兵と空軍情報部が交戦し、前者に3人、後者に2人の死者が出た。
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ダマスカス県では、シリア革命総合委員会によると、ルクンッディーン区で軍・治安部隊と自由シリア軍が交戦したというが真偽は定かでない。
またマイダーン地区、サーリヒーヤ区が治安当局によって閉鎖されたとの情報が一時流れたが誤報だった。
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ハマー県では、シリア人権監視団によると、カルアト・マディーク町で、離反兵が軍・治安部隊兵士3人を殺害した。
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ハサカ県では、シリア人権監視団によると、カーミシュリー市で「カーミシュリーの春」発生8年に合わせて反体制デモが計画されたが、治安部隊によって強制排除された。
アサド政権の動き
AFP(3月12日付)は、シリア革命総合委員会のムハンマド・ラシュウダーン氏(在外反体制活動家)の話として、政権離反がささやかれているムスタファー・トゥラース元国防大臣が数日前からパリにいるが、「離反ではなく、体制の許可を得た訪問」の可能性が高いと報じた。
トゥラース元国防大臣は、アサド政権の許可を得て、妻と長男でビジネスマンのフィラース氏とともにフランスに滞在しており、共和国護衛隊の准将で次男のマナーフ氏はダマスカスにいる、という。
反体制勢力の動き
シリア国民評議会は声明を出し、カラム・ザイトゥーン地区での惨殺遺体発見を受け、国際社会に「虐殺」に対処するための国連安保理緊急会合の開催を呼びかけ、「アラブと国際社会の緊急の軍事介入」を求めた。
レバノンの動き
サアド・ハリーリー前首相は、声明を出し、アサド政権によるヒムス市での「虐殺」は、イスラエルによるガザ攻撃に等しいと非難した。
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進歩社会主義党のワリード・ジュンブラート党首は、フランス24(3月12日付)で、シリアのドゥルーズ派に対して、スンナ派との宗派対立に巻き込まれないよう警鐘をならした。
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レバノン軍団代表のサミール・ジャアジャア氏は、アサド政権に同情的なビシャーラ・ラーイー・マロン派総大司教の姿勢に関して、「地域のキリスト教徒すべてを危険にさらす」と非難した。
諸外国の動き
国連安保理でシリア情勢をめぐる閣僚級会合が開かれ、常任理事国外相らが出席した。
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会合に先立ってロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣と会談したヒラリー・クリントン米国務長官は、ロシアとアラブ連盟が合意した五原則に関して、「(反体制勢力の)自衛停止を求める前提条件として民間人に対する政府の暴力停止」がなされるべきだと主張した。
またシリア国民保護のために安保理が行動をとらないこと拒否するとの姿勢を固持し、ロシアと中国などに、アサド政権の暴力停止、人道支援、シリア国民の要求に沿った政治プロセスへの支援を求めた。
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ロシアのラブロフ外務大臣は、「シリア政府は自由シリア軍などといった武装集団と対決している。また攻撃を行うアル=カーイダとも対決している」と反論するとともに、外国の干渉と外国による解決策の押しつけを拒否し、体制打倒を前提として内政干渉を試みる欧米、湾岸アラブ諸国の姿勢を暗に非難した。
そのうえで、五原則における「無条件の対話」の必要を強調した。
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フランスのアラン・ジュペ外務大臣は、五原則が曖昧だと指摘、解決策はシリア国民の合法的な要求を満たすかたちで、安保理の行動を通じてなされるだろう」と述べ、内政干渉を続けるとの意思を示し、「シリアの犯罪は処罰なしで済まされてはならない」と強調した。
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国連の潘基文事務総長は、アサド政権に対して「近日中に」暴力を停止するよう改めて呼びかけた。
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中国外交部報道官は、中国政府がロシアとアラブ連盟が合意した五原則を支持すると表明した。
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イランのホセイン・エミール・アブドゥッラフヤーン外務次官は、アサド大統領が提案した改革が「最善の解決策」だと述べ、アサド政権への全面支持の姿勢を改めて示した。
AFP, March 12, 2012、Akhbar al-Sharq, March 12, 2012、al-Hayat, March 13, 2012、Kull-na Shuraka’, March 12, 2012、Naharnet.com, March 12,
2012、Reuters, March 12, 2012、SANA, March 12, 2012などをもとに作成。
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