サウジ外相と独外相がシリア情勢などについて意見を交換し「軍事的選択肢は解決策でない」と一致したにもかかわらず、西側諸国や湾岸諸国が反体制勢力の武器供与に関する「真剣な議論」を開始したと報じられる(2012年3月11日)

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アサド政権の動き

コフィ・アナン・シリア危機担当国連・アラブ連盟合同特使が前日に引き続き、アサド大統領と会談した。

SANA, March 11, 2012

SANA, March 11, 2012

アナン特使はシリアを去る前の記者会見で、自身の任務に関して「困難だが、我々は希望を捨ててはならない。我々は楽観的だ…。複数の理由で楽観的だと感じている。私は短期間で多くのシリア人と会談した。大多数のシリア人が和平と停戦を望んでいる…。彼らは自らの生活を送りたいと考えている」と述べた。

そのうえで、アサド大統領から「現地で実際に反映され、この危機を収束させるためのプロセスを開始することに資するであろう一連の提案」がなされたことを明らかにし、「即時の暴力、殺戮停止」と「人道支援と対話」を強調した。

SANA(3月11日付)は、アナン特使の訪問に関して、共和国ムフティーのアフマド・バドルッディーン・ハッスーン師、各宗派の代表らと会談した、と報じた。

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ベイルート・オブザーバー(3月11日付)は、信頼できるシリア情報機関筋の話として、ムスタファー・トゥラース元国防大臣の息子2人が政権を離反し、反体制勢力に加わったと報じた。真偽は定かでない。

離反したとされるのは、長男でビジネスマンのフィラース・トゥラース氏と、共和国護衛隊内の大隊長でアサド大統領に近いとされるマナーフ・トゥラース准将。

トゥラース家は現在、アサド政権による重点的な掃討作戦が行われているヒムス県ラスタン市出身。

トゥラース准将は一時、反体制勢力に殺害されたと報じられていた。

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『クッルナー・シュラカー』(3月11日付)によると、ダマスカス県内などでデモの弾圧を行う治安部隊要員・工作員は、互いを所属を確認し合うため、シリアの著名な俳優でアサド政権支持者の名前である「アイマン・ザイダーン」の名前を隠語として用いている、と報じた。

国内の反体制勢力の動き

民主的変革諸勢力国民調整委員会のアブドゥルアズィーズ・ハイイル広報局長は、アナン特使と10日に会談したことを明らかにした。

ハイイル広報局長は、アサド政権の弾圧が続く限り、「政治プロセス開始に関するあらゆる議論は幻想である」と伝えるとともに、「政府が暴力行使停止の制約を遵守し、政治プロセス開始前に善意を示す必要」があると強調したと述べた。

また政権との交渉に関して、「血と腐敗に手を染めた者たちと行うことはあり得ない」と述べた。

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同じく10日にアナン特使と会談したシリア国家建設潮流のルワイユ・フサイン代表はAFP(3月11日付)に対して、「政権があらゆる政治プロセスにとって最大の障害だ。なぜなら、暴力を続け、すべてのイニシアチブを拒否しているからである」と述べ、政権が政治犯釈放、暴力停止の約束を履行するべきだと述べた。

国外の反体制勢力の動き

トルコに逃れている自由シリア軍のリヤード・アスアド大佐は『シャルク・アウサト』(3月11日付)に対して、アサド政権に対抗するため対空兵器が必要だと述べた。

アスアド大佐は、「我々は一部の地区を完全に制圧しているとは言えないが、我々の検問所は全国の約60%に配置されており、優れた軍事作戦を実行している…。(離反兵の数は)5万人に達した」と離反兵の活動を過大評価した。

また近く、アサド政権にサプライズを与えるような作戦を行うと述べた。

一方、10日の戦果に関して、イドリブ県で戦車6輌を破壊しただけでなく、ヘリコプターを破壊したと豪語し、自由シリア軍が制圧する地区に対する政権の航空機による攻撃や迫撃に対する防空兵器が必要だと述べた。

しかし、アサド政権が反体制勢力の弾圧において、航空機を投入したとの情報はない。

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シリア国民評議会は声明を出し、UAEを国外追放された反体制活動家の帰国手続きのための仲介をユースフ・カラダーウィー師に求めたとの同氏の発言に関して、仲介を求めていないと否定した。

国内の暴力

反体制活動家らによると、イドリブ県などで軍・治安部隊による反体制武装集団の掃討作戦が続き、34人が殺害された。

シリア人権監視団によると、死者の内訳は民間人15人、軍人14人。軍人のなかには離反兵5人が含まれ、その多くはイドリブ県内で軍・治安部隊との交戦により死亡した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、対トルコ国境のジャーヌーディーヤ町で軍・治安部隊と離反兵が激しく交戦し、市民1人、軍兵士3人が死亡した。

ジャズィーラ(3月11日)付によると、軍・治安部隊がが同村への侵攻を試みたが、「自由シリア軍」が応戦し、戦車二輌を破壊した、という。

またマルイヤーン村で爆弾が爆発し、兵士1人が死亡、ナージヤ村でも市民1人が殺害された。

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アレッポ県では、シリア人権監視団、シリア革命総合委員会によると、PKK系のクルド民族主義政党、民主統一党の活動家(ジャーナリスト)がアレッポ市シャイフ・マクスード地区(クルド人地区)で未明に「シャッビーハ」に射殺された。

民主統一党はアサド政権の弾圧を陰に支援しているとされる。

一方、SANA(3月10日付)によると、アレッポ市でボクシング・チャンピオンのギヤース・タイフール氏が武装テロ集団に暗殺された。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、軍・治安部隊と離反兵との戦闘で、兵士6人、離反兵2人が死亡した。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、クサイル市近郊で士官1人が離反兵の要撃に遭い、殺害された。

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ダマスカス県では、反体制活動家らによると、複数地区で治安当局による厳戒態勢が強化された。

シリア革命総合委員会によると、ジャウバル区、オートストラード・アダウィー地区、バグダード通り、バーブ・ムサッラー地区広場周辺、ルクンッディーン区、ムハージリーン区で、治安部隊の検問所の警備が強化されている、という。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権ネットワークによると、サクバー市で2人が殺害された。

またシリア革命総合委員会によると、ダーライヤー市で離反兵17人が「虐殺」された。

殺害された離反兵のうち6人がカナーキル村出身者。

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ラッカ県では、反体制活動家によると、ラッカ中央刑務所でデモが発生し、看守が収監者に発砲、数十人が負傷した。

レバノンをめぐる動き

ヒズブッラー南部地区代表のナビール・カーウーク氏は、3月14日勢力の指導者の一部が、シリアへの武器支援、戦闘員潜入を支援している、と述べた。

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内閣筋によると、イランの主催で3月18日に開催予定のシリア情勢に関するイラン、シリア、イラク、レバノンの四カ国大会に、レバノン政府は参加しないことを決定した。

この決定は、ミシェル・スライマーン大統領とナジーブ・ミーカーティー首相の会談のなかで行われたという。

諸外国の動き

サウジアラビアのサウード・ファイサル外務大臣はドイツのギド・ヴェスターヴェレ外務大臣と会談し、シリア情勢などについて意見を交換した。

会談後の記者会見でサウード・ファイサル外務大臣は、「シリア政府が国民に対して行う戦争」を即時・緊急停止させるべく努力を集中させるべきだと述べた。

また「軍事的選択肢は解決策でない」としつつ、「シリア人の自衛を許すことが解決策になる」と述べ、反体制武装集団による暴力を是認した。

アサド政権に関しては、「シリア政府が路線を変更すればと思っている。なぜなら誰もシリア政府には反対していない。我々はそのように行動しているだけだ。もしこの行為が停止すれば、それこそ我々が望んでいることである」と述べ、政権の正統性を一方的に否定する欧米諸国と一線を画した。

一方、ヴェスターヴェレ外務大臣も、アサド政権の弾圧を「蛮行」と非難し、即時の暴力停止を改めて呼びかけるとともに、「シリア国民に対する緊急の人道支援を保障することが重要」と強調した。

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中国の張明次官補がサウジアラビアを訪問し、GCCのアブドゥッラティーフ・ザイダーニー事務局長と会談、シリア情勢に関して議論した。

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『ワシントン・ポスト』(3月11日付)は、米高官の話として、米国をはじめとする西側諸国や湾岸諸国が、反体制勢力の武器供与に関する「真剣な議論」を開始したと述べた、と報じた。

AFP, March 11, 2012、Akhbar al-Sharq, March 11, 2012、Aljazeera.net, March 11, 2012、Beirutobserver.com, March 11, 2012、al-Hayat, March 12, 2012、Kull-na Shuraka’, March 11, 2012、Naharnet.com, March 11, 2012、Reuters, March 11, 2012、SANA, March 11, 2012、The Washington Post, March 11, 2012などをもとに作成。

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