シャーム解放機構は離反した元幹部を追跡してトルコ占領地に侵入、元幹部を拘束するも、トルコ軍に撤退を阻まれ元幹部の身柄をトルコに引き渡す(2023年12月19日)

アレッポ県では、シリア人権監視団によると、シャーム解放機構の部隊がルコ占領下の「ユーフラテスの盾」地域内の拠点都市の一つアアザーズ市に侵入、13日に組織を離反し、トルコ占領下の同市に逃亡していた元幹部のアブー・アフマド・ズクール氏(本名ジハード・イーサー・シャイフ)の住居を襲撃した。

ANHA(12月19日付)によると、襲撃を実行したのはシリア解放機構に所属する第50師団。

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ズクール氏はアブ・ムハンマド・ジャウラーニー指導者に近いとともに、8月17日に「自身の立場の気密性を考慮せず、あるいは許可をとることの必要を考慮せず、意図を明示しないまま、意思疎通を行うに際して過ちを犯した」との理由でシューラー評議会メンバーを解任され、消息不明となっているアブー・マーリヤー・カフターニー氏を支持するグループにも近いとされる人物で、ジャウラーニー指導者、カフターニー氏に次ぐ組織の「ナンバー3」と目されていた。

13日に、イドリブ市やサルマダー市でズクール氏に近い司令官2人を含む12人がシャーム解放機構の総合治安機関に拘束されると、14日にX(旧ツイッター)のアカウント(https://twitter.com/ahmedzakor1/)を通じて声明を出し、シャーム解放機構を離反したと発表した。

アブー・アフマド・ルクーズ氏は声明で、シャーム解放機構が政策を徐々に変更し、支配、覇権、諸派の浸食、そしてその解体が顕著になり、アレッポ県でのシリア国民軍の支配地を軍事、治安、経済面で支配しようとしていると非難、同組織がシャーム・ファトフ戦線の名前で活動していた2017年にすでに組織を離れていたと主張、シリア国民軍とシャーム解放機構の対立を解消し、新たな関係構築に向けて取り組んでいたと述べ、自身を正当化していた。

これに対して、シャーム解放機構は18日、地位を悪用し、政策に違反したとして、その権限をはく奪する決定を下したと発表していた。

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シリア人権監視団によると、ズクール氏を拘束しようとしたシャーム解放機構の部隊は、市内の時計広場や城地区で同氏を支持して離反したバッカーラ部族のメンバーらと激しく交戦し、民間人6人が戦闘に巻き込まて負傷した。

一方、ANHA(12月19日付)によると、双方合わせて数十人が死亡、また住民も巻き添えとなって死傷した。

シャーム解放機構の部隊はまた、ズクール氏の出身部族であるバッカーラ部族の諮問評議会長の来客用施設を包囲した。

事態を受けて、シリア国民軍に所属するシャーム戦線、北の嵐旅団がトルコ軍の指示を受けてアアザース市内で厳戒態勢を敷き、同市に至る街道を封鎖した。

また、バッカーラ部族が、ズクール氏を支援するため、バーブ市、ジャラーブルス市、そして「オリーブの枝」地域の中心都市のアフリーン市からアアザーズ市に民兵を乗せた車輛多数を派遣した。

シャーム解放機構の部隊は戦闘の末、離反メンバー2人を殺害、複数を負傷させ、ズクール氏を拘束し、イドリブ県に撤退を開始した。

だが、トルコ軍部隊が戦車や軍用車輛と街道を封鎖し、シャーム解放機構の部隊の撤退を阻止、シャーム解放機構は、ズクール氏の身柄をトルコの治安機関に引き渡した。

AFP, December 19, 2023、ANHA, December 19, 2023、‘Inab Baladi, December 19, 2023、Reuters, December 19, 2023、SANA, December 19, 2023、SOHR, December 19, 2023などをもとに作成。

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