シリア革命反体制勢力国民連立が総合委員会会合の閉幕宣言のなかで「アサド政権に与えることをめざしたロシアの陰謀」を非難する一方、ガルユーン氏は同連立とシリア・クルド国民評議会の合意の枠組みから民主統一党を排除する姿勢を明示(2013年9月16日)

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反体制勢力の動き

『デイリー・テレグラフ』(9月16日付)は、シリアの反体制武装集団の約半分がアル=カーイダと関係のあるサラフィー主義者だと結論づけた英国のIHS Jane’sの報告書の一部を紹介した。

IHS Jane’sの報告書によると、シリアの反体制武装勢力は、約1,000の細胞、約10,000人の戦闘員からなるアル=カーイダとつながりのある「過激派」(extremists)と、約35,000人の「強硬派」(hardliners)からなるという。

「過激派」と「強硬派」の違いは、同報告書によると、前者は外国人から、後者は主にシリア人からなっている点だという。

またこうしたサラフィー主義者以外に、30,000人以上の戦闘員がより穏健なイスラーム主義組織に属しているのだという。

同報告書は、戦闘員へのインタビューや諜報機関の推計をもとに、シリア国内で約10万人の戦闘員が反体制運動に参加しているとしたうえで、「世俗的なグループが反体制派を主導しているという考え方は何ら裏付けがない」と結論づけている。

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シリア革命反体制勢力国民連立はイスタンブールでの4日にわたる総合委員会会合を閉幕した。

4日間の会合では、アフマド・トゥウマ氏が暫定政府首班に選出される一方、シリア・クルド国民評議会の連立への合意に関する文書が承認された。

閉幕声明で、連立は8月21日のダマスカス郊外県での化学兵器攻撃をアサド政権による「体系的暴力」と非難するとともに、「化学兵器の引き渡しと解体は、犯罪者を免責する措置ではない」と主張、「国際社会、とりわけシリアの友(連絡グループ)に最低限の信頼を維持するため…、自由シリア軍に武器を供与し、アサド政権の国民に対する暴力を停止させる」よう求めた。

また化学兵器廃棄に向けたロシアのイニシアチブについて「革命を生き埋めにし、シリア国民を殺戮するさらなる機会をアサド政権に与えることをめざした陰謀」と非難した。

さらに、ジュネーブ2会議に関しては、「アサド体制の存続を含意するいかなる決定、シリアの将来を描くことに現体制を象徴する者が参加するかたちでのいかなる政治的解決をも拒否する」との姿勢を明示した。

一方、クッルナー・シュラカー(9月16日付)によると、シリア革命反体制勢力国民連立のトルクメン国民ブロックは、シリア・クルド国民評議会の連立への合流に関する合意を受け、総合委員会で声明を回付し、トルクメン人をクルド人と同じく「民族」(シャアブ)として承認し、憲法でその民族的権利を保障するよう求めた。

このほか、総合委員会では、シリア革命反体制勢力国民連立が交わす合意、締結文書などの一切は、体制転換後に選出される国会での承認をもって正式に発効することが14日に決定された、という。

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シリア革命反体制勢力国民連立の暫定政府首班のアフマド・トゥウマ氏はロイター通信(9月16日付)のインタビューに応じ、そのなかで「反体制勢力は民主主義がイスラームの教えに反しないということを明示することで、アル=カーイダに対して思想的に立ち向かわねばならない。また反体制戦闘員が制圧している地域における公共福祉を回復することでアル=カーイダの人気に歯止めをかけねばならない」と述べた。

トゥウマ氏はまたアラビーヤ(9月16日付)のインタビューも応じ、サラフィー主義がシリア社会に固有の思想ではないと述べ、「民主的文化の普及を通じた…市民社会の再建と民主制の確立」をめざすと述べる一方、国際社会に対して「暫定政府が(シリア国内で)活動できるよう飛行禁止空域の設置」を求めた。

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シリア国民評議会元事務局長のブルハーン・ガルユーン氏はリハーブ・ニュース(9月16日付)に、シリア・クルド国民評議会のシリア革命反体制勢力国民連立の合意に関して、「クルド人代表の決定は(シリア・クルド国民)評議会内でなされねばならず、クルド最高委員会の決定であってはならない」と述べ、民主統一党を排除する姿勢を明示した。

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民主的変革諸勢力国民調整委員会のムンズィル・ハッダーム報道官はAKI(9月16日付)に、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意について「危機の政治的解決の糸口にならなければ、シリア人には何の役にも立たない」と述べた。

ハッダーム報道官はまた「シリア国民は、暴力を停止し、ジュネーブ2会議を準備する必要がある。これは化学兵器に関する合意を実施するためにも不可欠である。シリアのほとんどの地域で戦闘が続けば、合意を実施することはできない」と指摘した。

一方、ジュネーブ2会議に関しては「国民調整委員会、クルド最高委員会、シリア革命反体制勢力国民連立は合同の使節団を結成しなければならない」と述べた。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、SANA(9月16日付)によると、シャブアー町の反体制武装集団の武器庫と爆弾製造工場に対して、軍が特殊作戦を行い、戦闘員約40人を殲滅、武器を破壊・押収した。

またハラスター市、フジャイラ村でも、軍が反体制武装集団の追撃を続け、戦闘員20人以上を殺害、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス県では、SANA(9月16日付)によると、ジャウバル区、ドゥンマル区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ハマー県では、SANA(9月16日付)によると、ハムラー村、ラヒーヤ村、ラーラー村、ラビーア村、アフィーフ村、カルアト・ラヒーヤ村、タッル・ダリール村で、軍が反体制武装集団の掃討を完了し、シャームの民のヌスラ戦線戦闘員を殲滅し、同地の治安を回復した。

またムーリク市を襲撃しようとした反体制武装集団を軍が撃退した。

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イドリブ県では、SANA(9月16日付)によると、マアッルシャムサ市、アブー・ズフール航空基地周辺、ビンニシュ市、シャビーバ市、マアッラトミスリーン市、サルミーン市、マアッラト・ヌウマーン市などで、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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アレッポ県では、SANA(9月16日付)によると、アウラム・クブラー町、カスティールー街道、フライターン市東部、バーブ・アレッポ街道、アターリブ市、ICARDA付近で、トルコから武器弾薬を運び込もうとしていた反体制武装集団の車輌を軍が破壊、武器・弾薬を押収した。

またハッダーディーン村、クワイリス村、アルビード村、ラスム・アッブード村で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

アレッポ市旧市街、ジュダイダ地区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダルアー県では、SANA(9月16日付)によると、ブスラー・シャーム市で自爆攻撃を行おうとしていた反体制武装集団戦闘員が運転していた車を破壊、同戦闘員を殺害した。

またタファス市、ムザイリーブ町、ダーイル町、インヒル市、シャイフ・マスキーン市、ヌジャイフ村、タスィール町、イズラア市、シャイフ・サアド村で、軍が反体制武装集団の拠点を攻撃し、複数の戦闘員を殺傷した。

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ヒムス県では、SANA(9月16日付)によると、ヒムス市ワアル地区に侵入しようとした反体制武装集団を殲滅した。

またアブー・アラーヤー村、マスウーディーヤ村、ジュッブ・ジャッラーフ村に対して、反体制武装集団が迫撃砲で攻撃を行ったが、死傷者は出なかった。

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ハサカ県では、SANA(9月16日付)によると、タッル・イード村、ムワイナ村、ラジャム・アスウース村で、軍が反体制武装集団の拠点を攻撃・破壊、戦闘員を殺傷した。

諸外国の動き

米英仏の外相はパリで会談し、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意への対応を協議した。

会談後の記者会見で、フランスのローラン・ファビウス外務大臣は、参加国が「数日中に、強力な国連安保理決議を採択する必要がある」との認識で一致したとしたうえで、アサド政権が化学兵器廃棄に関する約束をしない場合、軍事的措置を含む制裁を念頭に、「深刻な結果を招く」との文言を安保理決議に盛り込むべきだとの姿勢を示した。

またアサド政権が化学兵器を使用したと断じたうえで、「兵器使用者の責任の追及」を決議に盛り込むべきだとも主張した。

一方、ジョン・ケリー米国務長官は、「アサド政権が合意に違反した場合の結果については、ロシアも含めて我々すべてが合意している」と述べ、ジュネーブでのロシアとの会談で、ロシア側が国連憲章第7章に基づく決議について同意したとの見解を示した。

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ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、モスクワでエジプトのナビール・ファフミー外務大臣と会談し、シリア情勢などについて協議した。

会談後、ラブロフ外務大臣は「シリアへの武力行使に含みを持たせるような内容を持ったいかなる安保理決議案もジュネーブ合意(シリアの化学兵器廃止に関する米露合意)を失敗させるだろう」と述べ、国連憲章第7章に基づく決議をめざす米国の姿勢が合意の「誤解」によるものだと暗に批判した。

また「脅迫や攻撃を行う口実を探すことは、ジュネーブ2会議を失敗させるための挑発や試みを反体制勢力に煽動することを意味する」と付言した。

そのうえで「ジュネーブ2大会の期日を議論する必要があると我々のパートナー(西側諸国)は考えているはずだ。我々は…準備ができている。シリア政府も使節団の派遣に同意している」と述べ、西側諸国に反体制勢力(シリア革命反体制勢力国民連立など)を説得して、交渉に向かわせるよう求めた。

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シリアでの化学兵器の調査を使用する国連調査団が潘基本文事務総長に報告書を提出、その内容が公開された。

報告書は、国連調査団が持ち帰った環境・医療サンプルを検査した結果、サンプルが収集されたアイン・タルマー村、ムウダミーヤト・シャーム市、ザマルカー町のすべてで、化学兵器の装填が可能な地対地ミサイルが使用され、同ミサイルによって攻撃がされた地域でサリン・ガスが使用された痕跡が発見されたこと確認されたと指摘した。

同報告書によると、国連調査団は、患者や医療スタッフの証言、そしてカルテを検証、また36人の患者(ムウダミーヤト・シャーム市で16人、ザマルカー町で20人)に対面調査を行い、尿などのサンプルを採取した。

そして検査の結果、ムウダミーヤト・シャーム市の尿サンプル100%、ザマルカー町のサンプル91%からサリン・ガスを吸引したことが確認された。

全文はhttp://www.un.org/disarmament/content/slideshow/Secretary_General_Report_of_CW_Investigation.pdfを参照。

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国連の潘基文事務総長は、シリアで8月21日に化学兵器が使用されたと結論づけた国連調査団の報告書に関して「もっとも厳しい表現で化学兵器使用を非難する。こうした行動は戦争犯罪で、国際的な外交儀礼へのあからさまな違反であると考える」と述べた。

そのうえで、「米露合意を早急に実施するため化学兵器禁止条約と安保理が行動することを望む」と付言した。

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フランスのローラン・ファビウス外務大臣はRTLラジオ(9月16日付)に、8月21日のシリアでの化学兵器攻撃に関する国連調査団の報告書に関して「攻撃元に関して、疑いの余地はない…。シリア政府の犯行だと述べている人々の主張を裏づけるものだ」と述べた。

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シリアでの人権侵害を調査するための国際調査委員会のパウロ・ピニェイロ委員長はジュネーブで記者会見を開き、シリアでの紛争において、化学兵器の使用が疑われている事例が14件あることを明らかにした。

同委員長は、これらの事例について調査を進めているとする一方、「化学兵器を使用したのが誰なのか、そして使われた物質が何なのかは判明していない」と付言した。

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トルコのビュレント・アルンジュ副首相は、アンカラで記者会見を開き、トルコ領空を侵犯したシリア軍のヘリコプターをトルコ軍の戦闘機が撃墜したと発表した。

定例閣議後の記者会見で、アルンジュ副首相は「シリア軍のMi-17ヘリコプターが国境から2約2キロのハタイ県ギュヴェッジ村上空を侵犯、度重なる警告にもかかわらず侵犯を続けたため、我々の戦闘機がミサイルで攻撃、これによりヘリコプターはシリア領内に墜落した」と述べた。

これに関して、アフメト・ダウトオール外務大臣は、国連安保理とNATOに報告すると述べた。

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シリアでの人権侵害を調査するための国際調査委員会のメンバーで前国際連合戦争犯罪主任検事のカルラ・デル・ポンテ女史は、スイスのテレビ局とのインタビューで、シリアの反体制武装集団の半数がサラフィー主義者だとするIHS Jane’sの報告書について「信頼できる情報です。彼ら(サラフィー主義者)はもう少し多いと言えます」と述べた。

AFP(9月16日付)が伝えた。

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シリアでの人権侵害を調査するための国際調査委員会のメンバーの一人のカーリン・アブーザイド女史は、ロイター通信(9月16日付)に、「もっとも卑劣な(人道)犯罪を行っている集団を調べるのであれば、とくに外国人戦闘員(の行為)を調べなさい」と述べた。

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ジェイ・カーニー米ホワイトハウス報道官は、シリアでの化学兵器使用に関する国連調査団の報告書の内容に関して「シリアの政権のみが保有する地対地ミサイルによるサリン・ガス発射に言及しているこの報告書の情報は、攻撃が同政権によるものだということを明確に表している」と述べた。

AFP, September 16, 2013、AKI, September 16, 2013、Alarabia.net, September 16, 2013、The Daily Telegraph, September 16, 2013、al-Hayat, September 17, 2013, September 18、Kull-na Shuraka’, September 16, 2013、Kurdonline,
September 16, 2013、Naharnet, September 16, 2013、Reuters, September 16,
2013、Rihab News, September 16, 2013、SANA, September 16, 2013、UPI, September
16, 2013などをもとに作成。

 

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