民主的変革諸勢力国民連立がシリア革命反体制勢力国民連立によるトゥウマ氏の移行期政府首班への選出を批判するなか、後者連立内ではシリア・クルド国民評議会の連立への合流が承認される(2013年9月15日)

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反体制勢力の動き

民主的変革諸勢力国民連立のハサン・アブドゥルアズィーム代表は、シリア革命反体制勢力国民連立によるアフマド・トゥウマ氏の移行期政府首班への選出を「国民的コンセンサスも、地域、国際社会のコンセンサスも得ていない北部の政府と、ダマスカスの政府との間でのシリア分割の門戸を開くことになろう」と批判した。

また、シリアの化学兵器廃棄については、「核兵器、化学兵器といった大量破壊兵器を(地域で)唯一保有することになるイスラエルに資する」と非難した。

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自由シリア軍合同司令部中央広報局(ファフド・ミスリー)は声明を出し、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意について、「シリア国民への裏切り」と非難した。

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シリア革命反体制勢力国民連立は総合委員会会合(3日目)を開催、シリア・クルド国民評議会の連立への合流の是非に関して審議を行い、採決の結果、投票で80人中52人が支持を表明し、承認された。

しかし、これに関して、クッルナー・シュラカー(9月15日付)は、連立内の対立が露呈した、と報じた。

同報道によると、評議会の合流は、シリア・ムスリム同胞団やシリア民主主義者連合が推進し、連合代表のミシェル・キールー氏は、その背景に米国の意向があったことを明らかにした。

合意支持者は、シリア・ムスリム同胞団のアフマド・ラマダーン氏、ナズィール・ハキーム氏、シリア民主主義者連合代表のキールー氏のほか、アフマド・ルワイヤーン・ジャルバー議長、ルワイユ・サーフィー報道官、ブルハーン・ガルユーン氏などからなっているという。

一方、体制転換後の国号を「シリア・アラブ共和国」から「シリア共和国」に変更することなどを定めた参加合意に対しては、連合内の法務委員会、カマール・ルブワーニー氏、ムスタファー・サッバーグ前事務局長、革命運動体、人民自由潮流が反対したという。

なお、リハーブ・ニュース(9月15日付)は、シリア・クルド国民評議会の合流の採決で反対票・棄権票を投じた総合委員会メンバーの氏名(28人)を公開した。

反対票を投じた主なメンバーは、アナス・アルヌート、サミール・ナッシャール、ハイサム・マーリフ、カマール・ルブワーニー、そしてトルクメン・ブロックのメンバー。

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シリア革命反体制勢力国民連立は声明を出し、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意について、「化学兵器廃棄を、空軍や弾道兵器(の廃棄)にも拡大することを強く求める」と表明した。

また連立は、化学兵器廃棄が「公正の実現を犠牲にしてはならない」と述べ、その使用者を国際刑事裁判所に訴追、処罰する必要があると強調した。

その一方、合意にいたるまでのロシアの提案については「アサド政権によるシリア国内での攻撃継続を奨励している」と批判した。

そのうえで、ロシアの提案が「国連憲章第7章に従って対処されねばならない」と主張し、アサド政権の合意不履行に強い姿勢で対処するべきだとの意思を示した。

さらに、「アサド政権の航空兵器、戦車を無力化し得るよう、反体制武装勢力の能力を向上させることをアラブ諸国とシリアの友連絡グループ」に求めた。

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クッルナー・シュラカー(9月16日付)によると、シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ウワイヤーン・ジャルバー議長、同移行期政府首班のアフマド・トゥウマ氏、自由シリア軍参謀委員会のサリーム・イドリース参謀長がイスタンブールでアフメド・ダウトオール外務大臣と会談し、シリア情勢について協議した。

シリア政府の動き

AFP(9月15日付)は、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意を受け、ダマスカス県では、米国の攻撃が回避されたとの安堵の声が拡がったと報じた。

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アリー・ハイダル国民和解問題担当国務大臣は、RIAノーヴォスチ通信(9月15日付)に、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意について「我々はそれを歓迎する。合意はシリア人が危機から脱却するを支援する一方、シリアへの戦争を回避するものだ…。それはシリアにとっての勝利で、友人であるロシアのおかげで実現した」と述べた。

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ワーイル・ハルキー首相は、シリアの化学兵器の廃棄に関する米露合意について「シリア人は(アサド大統領が示した)危機解決政治プログラムの実施を強く求めている…。シリアは、ジュネーブ2開催など、政治的解決に資するような国際社会の信頼できるイニシアチブを歓迎する…。これは外国の介入を排除したかたちで、シリア人どうしがシリアの国土のなかで国民対話を開催するのにふさわしい雰囲気を醸成するだろう」と述べた。

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ウムラーン・ズウビー情報大臣は、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意について、英国のITN(9月15日付)に「シリアは国連から発せられるすべてを遵守する。我々は我々の化学兵器を廃絶するとしたロシアの計画に同意している。実際、我々は(化学兵器に関する)リストの準備を進めている」と述べた。

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クッルナー・シュラカー(9月15日付)は、バアス党シリア地域指導部のヒラール・ヒラール副書記長が、組合組織幹部らとの会談で「バアス党は今も昔も国家と社会の指導者で、今後もそうであり続ける」と述べたと報じた。

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ワーイル・ハルキー首相は、PFLP-GCのアフマド・ジブリール書記長に、PFLP-GCを「西側とその手先である一部アラブ諸国政府の夢を打ち砕くレジスタンスの筆頭」と評し、シリア政府による全面支援の意思を伝えた。

これに対して、ジブリール書記長は、アサド政権の勝利を確信し、「アラブ民族と世界の栄誉ある勝利」につながると返礼したという。

SANA(9月15日付)が報じた。

国内の暴力

ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、ヤルムーク区、バルザ区で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃・空爆を加えた。

またマルジャ地区のダマスカス郊外県庁前に迫撃砲弾1発が着弾した。

これに関して、クッルナー・シュラカー(9月15日付)は、「自由シリア軍」がバアス党ダマスカス郊外県支部の本部を狙い、建物に被害を与えたが、人的被害はなかったと報じた。

一方、SANA(9月15日付)によると、バルザ区、カーブーン区、ジャウバル区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またヒジャーズ地区、マルジャ地区、ジョルジュ・フーリー広場に迫撃砲弾3発が着弾し、市民2人が負傷した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ダーライヤー市周辺、ムウダミーヤト・シャーム市で、軍と反体制武装集団が交戦、軍が地対地ミサイルなどで攻撃した。

また、マアルーラー市周辺では、軍、人民諸委員会が、シャームの民のヌスラ戦線などからなる武装集団と交戦し、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(9月15日付)によると、マアルーラー市南西部郊外、ラアス・アイン市、サルハー村などで、軍がシャームの民のヌスラ戦線の追撃を続け、外国人戦闘員らを殺傷した。

またザバダーニー市周辺および山岳地帯、ジャイルード地方、アドラー市、カースィミーヤ市、ダイル・サルマーン市、ズィヤービーヤ町、ダーライヤー市で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

他方、『サウラ』(9月15日付)は、グータ地方で国防隊を指揮していたアラー・ムニール・スライマーン大佐が仕掛け爆弾の爆発に巻き込まれ、戦死したと報じた。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、マスルーヒーヤ村、サルージュ村、アニーク村、バージラ村、アブー・クスール村、カスル・ブン・ワルダーン村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、軍が砲撃した。

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ハサカ県では、シリア人権監視団によると、カーミシュリー市西方のヒンナーディー(ハイムー)村の農業研究所に設営された民主統一党人民防衛隊の殉教者サルハ大隊の本部に対して、男性2人が自爆攻撃を行った。

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イドリブ県では、SANA(9月15日付)によると、イドリブ市とマストゥーマ村を結ぶ街道で、反体制武装集団が仕掛けた爆弾が爆発し、記者のファフルッディーン・ハサン氏を含む3人が死亡した。

また、カフル・ウワイド市、ムウタリム村、ザルズール市、カニーヤ村、カーディリーヤ市、ハミーディーヤ市、マアッラト・ヌウマーン市、ウンム・ジャリーン村、ブワイティー村、タッル・サラムー村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、シャームの民のヌスラ戦線戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ヒムス県では、SANA(9月15日付)によると、ムシャイリファ村、マスアダ村、ムサイイード村、ハッターブ村、アスマド村、ウンム・ハーラタイン村で、軍が反体制武装集団の掃討を完了し、同地の治安を回復した。

またタルビーサ市、ラスタン市、ガジャル村、キースィーン市、タスニーン市、ダール・カビーラ村、ハウラ地方、ガントゥー市、アイン・フサイン市、カルアト・ヒスン市、ジャッブーリーン村、ザマーミール村、ヒムス市バーブ・フード地区、ジャウラト・シヤーフ地区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、サウジアラビア人、UAE人戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

またラッフーム村では、反体制武装集団が撃った迫撃砲が着弾し、市民2人が負傷した。

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ダイル・ザウル県では、SANA(9月15日付)によると、ダイル・ザウル市アルディー地区、ハウィーカ地区、シャイフ・ヤースィーン地区、クスール地区、ムッラート村、ハトラ村で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

また同市ハミーディーヤ地区で、軍はヌスラ戦線シャリーア委員会の拠点を攻撃、破壊した。

諸外国の動き

バラク・オバマ米大統領は、ABC(9月15日付)が放映したインタビューのなかで、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意について「同盟国であるアサド政権に化学兵器を手放させることに責任を負う、と述べた彼(ヴラジミール・プーチン大統領)を祝福している…。これは冷戦ではない。米露の争いではない」と述べた。

また(シリアの化学兵器問題よりも)「ずっと大きな問題がある…。シリアへの攻撃を行わないことが、イランへの攻撃を行わないことを意味しない、とイラン人は結論づけてはならない」と述べた。

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ジョン・ケリー米国務長官はイスラエルを訪問し、ベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意の報告を行った。

ネタニヤフ首相は会談後の会見で、米露合意が「結果、すなわちシリア化学兵器全廃…をもたらすことを希望する」と述べた。

また「世界は、大量破壊兵器を使うかもしれない過激派政権に保有させないことを確認せねばならない。シリアはその一例だ」と付言した。

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フランスのフランソワ・オランド大統領は、シリアの化学兵器廃棄に関する問題について、TV1(9月15日付)に「シリア危機の外交的政治的解決は可能だが、軍事的脅威もなければならない」と述べ、アサド政権が公約を履行しなかった場合の制裁を定めた国連安保理決議を採択すべきだと述べた。

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フランスのローラン・ファビウス外務大臣は北京を訪問し、中国の王毅外交部長らと会談、シリア情勢などについて協議した。

会談後、ファビウス外務大臣は、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意について歓迎の意を示した。

また王外交部長は、「シリア問題の政治的解決に向けた状況を情勢する」と述べ支持を表明するとともに、「シリア問題は軍事的方法では解決されない」と強調した。

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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は声明を出し、シリアの化学兵器廃棄に関する米露合意について「政治的正常化への合意に向けた動きを促す措置」と歓迎し、すべての紛争当事者に国連安保理を通じて停戦に向け、自らの役割を果たすよう呼びかけた。

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トルコ政府は声明を出し、シリアの化学兵器廃棄に関する米露の合意について「シリア政府によって、時間稼ぎのために…利用されようにしなければならない」と警鐘をならした。

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イラクのムクタダー・サドル氏は、シリアの化学兵器に関する米露合意に関して、アサド大統領ら政権幹部は化学兵器使用に関する国際裁判所への訴追を免れるため、「適切なかたち」での退任を受け入れるだろうとの見方を示した。

サドル氏は、2014年のシリア大統領選挙にアサド大統領が出馬しないとの見方を示すとともに、シリアの政治的移行期が始まれば、イランの革命防衛隊やヒズブッラーの戦闘員はシリアから退却するだろう、と述べた。

『スィヤーサ』(9月15日付)が報じた。

AFP, September 15, 2013、al-Hayat, September 16, 2013、Kull-na Shuraka’, September 15, 2013, September 16, 2013、Kurdonline, September 15, 2013、Naharnet, September 15, 2013、Reuters, September 15, 2013、Rihab News, September 15, 2013、SANA, September 15, 2013、al-Siyasa, September 15, 2013、al-Thawra, September 15, 2013、UPI, September 15, 2013などをもとに作成。

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