クサイル市の住民らが軍による武装テロ集団の殲滅を祝う集会を開くなか、アレッポ県では「イスラーム主義者の戦闘大隊」がアレッポ県で「預言者ムハンマドを冒涜した罪」で15歳の少年を家族の前で射殺(2013年6月9日)

Contents

国内の暴力

アレッポ県では、シリア人権監視団およびSANA(6月9日付)によると、アレッポ市シャッアール地区で、「イスラーム主義者の戦闘大隊」が、預言者ムハンマドを冒涜した罪で15歳の少年を家族の前で射殺した。

同監視団によると、反体制武装集団は、コーヒーを売っていたこの少年が、支払いをめぐって口論となった際に、預言者ムハンマドを冒涜する言葉を吐いたとして連行した。

その後、この少年に暴行を加えた後、頭をシャツで覆って、身柄を拘束した場所に連れ戻し、その場で頭と首を銃で撃ち、処刑したという。

監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン代表はこの処刑に関して「こうした犯罪によって、シリアの人々はアサド政権が崩壊することに恐怖を抱くようになる」と非難した。

**

同じく、アレッポ県では、シリア人権監視団によると、反体制武装集団が包囲するマンナグ航空基地に駐留する部隊に対して、軍がヘリコプターで武器、食糧を投下した。

またバービード市、フライターン市、タッル・リフアト市、アナダーン市、ダイル・ハーフィル市、ハイヤーン町、マアーッラト・アルティーク村、カフルハムラ村が軍の砲撃、地対地ミサイルによる攻撃を受ける一方、ヌッブル市が反体制武装集団の砲撃を受けた。

一方、SANA(6月9日付)によると、アレッポ市北部のタッラ・フワイフナで軍が反体制武装集団の掃討を完了、治安を回復した。

またフライターン市、マンナグ村、カブターン・ジャバル村、バービース村、アナダーン市、アレッポ市ブスターン・カスル地区で、軍が反体制武装集団と交戦、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

他方、AFP(6月10日付)は、シリアの治安消息筋の話として、「数日、ないしは数時間中にアレッポでの作戦を開始し、(反体制武装集団が)占拠するアレッポ県内の都市・村を奪還するだろう」と報じた。

また『ワタン』(6月9日付)は、軍がクサイル市での「経験」を駆使して、アレッポ県での掃討作戦を行う準備しているとしたうえで、政府内でこの作戦が「北部の嵐」と呼ばれていると報じた。

**

ラッカ県では、シリア人権監視団によると、第17師団基地周辺、タブカ航空基地周辺が軍の砲撃・空爆を受けた。

また『ハヤート』(6月10日付)によると、シャーム自由人大隊は、第17師団の軍事拠点3カ所に突入したと発表した。

**

ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市ハミーディーヤ地区、シャイフ・ヤースィーン地区、ラサーファ地区、工業地区などが軍の砲撃を受けた。

またイラク西部(ヨルダン国境近く)と接するワリード国境通行所近くのシリア領内からの反体制武装集団の攻撃により、イラクの国境警察の要人1人が死亡、2人が負傷した。

武装集団はワリード国境通行所の制圧をめざしているという。

一方、SANA(6月9日付)によると、ダイル・ザウル市のムワッザフィーン地区全土と、ラシュディーヤ地区、ジュバイラ地区の一部で軍が反体制武装集団の掃討を完了、治安を回復した。

また軍は、ダイル・ザウル市のハウィーカ地区、カマーナート地区で、カーディスィーヤ旅団、アンサール旅団と交戦、外国人戦闘員を殲滅した。

**

イドリブ県では、シリア人権監視団によると、タフタナーズ市、サッラ村、ミンタール村、ビンニシュ市、サルミーン市、アルバイーン山が軍の空爆・砲撃を受けた。

またバニー・イッズ部族の民兵が、マアッラト・ヌウマーン市郊外の複数カ所に検問所を設置した。これは族長の補佐役を務めていたアフマド・ムバーラク氏が武装集団に暗殺されたことを受けた動きだという。

一方、SANA(6月9日付)によると、ジャーヌーディーヤ町、バシュラームーン村、ハーッジ・ハンムード農場、ダルクーシュ農場、ジャフタルク農場、サルミーン、シャビーバ航空基地周辺、ビンニシュ市、アルバイーン山、ナイラブ村などで、軍が反体制武装集団と交戦、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ラスタン市、ダール・カビーラ村、ヒムス市各所(ワーディー・スィヤーフ地区など)、ガジャル村で、軍と反体制武装集団が交戦、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(6月9日付)によると、ラスタン市、タッルカラフ市、ハスヤー町東部、ガジャル村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、シャーム自由人大隊メンバーなど複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

ハマー県では、シリア人権監視団によると、アクラブ町、フワイジャ村などが軍の砲撃を受けた。

**

ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、バルザ区、カダム区に迫撃砲弾が着弾、またヤルムーク区で軍と反体制武装集団が交戦した。

一方、SANA(6月9日付)によると、ザブラターニー地区に反体制武装集団が撃った迫撃砲が複数発着弾し、市民2人が死亡、複数が負傷した。

またジャウバル区で、軍が反体制武装集団と交戦、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

このほか、アマーラ地区で、治安部隊が反体制武装集団のアジトの一つを制圧、複数の戦闘員を逮捕、武器・弾薬を押収した。

**

ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ハラスター市、ザマルカー町、マルジュ・スルターン村一帯で軍と反体制武装集団が交戦した。

一方、SANA(6月9日付)によると、アフマディーヤ市入り口、ハーン・シャイフ・キャンプ、フジャイラ村、ハラスター市、アドラー市で、軍が反体制武装集団と交戦、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

ダルアー県では、シリア人権監視団によると、カフルシャムス町のガソリン・スタンド検問所を反体制武装集団が襲撃、占拠し、軍の兵士9人を殺害した。

またキータ市とインヒル市を結ぶ街道で、軍の士官1人を含む2人が反体制武装集団に狙撃、殺害された。

これに先立ち、軍はインヒル市に突入し、これを制圧、またカラク村で反体制武装集団と交戦した。

一方、SANA(6月9日付)によると、ブスラー・シャーム市、西ムライハ村、マアルバ町で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

クナイトラ県では、シリア人権監視団によると、ビイル・アジャム市、タルナジャ市、ジャバーター・ハシャブ村を軍が砲撃した。

**

ラタキア県では、SANA(6月9日付)によると、トルコ領からナブウ・ムッル村を経由して県内に潜入しようとした反体制武装集団を軍が撃退した。

**

ハサカ県では、SANA(6月9日付)によると、タッル・タムル町郊外のジスル・ハリータ地方、タッル・リマール地方で、反体制武装集団どうしが略奪品の分配をめぐって衝突し、複数の戦闘員が死傷した。

シリア政府の動き

SANA(6月9日付)によると、ヒムス県クサイル市で、同市および周辺地域の住民、ヒムス市バアス大学学生が、市内中心の広場で集会を開き、軍による武装テロ集団の殲滅を祝った。

SANA, June 9, 2013

SANA, June 9, 2013

集会には、ヒムス県のムハンマド・アフマド・ムニール・ムハンマド県知事、バアス党ヒムス支部のスブヒー・ハルブ書記長、バアス党レバノン地域指導部のファーイズ・シュクル副書記長らも参加した。

**

アサド大統領は2013年政令第199号を発し、国民情報評議会(ムハンマド・ルズーク議長)を設置した。

反体制勢力の動き

トルコのガズィアンテップ市で、シリアの反体制弁護士・判事100人強が会合を開き、「解放区」における司法活動の監視のありようなどをめぐって協議した。

会合には、シリア革命反体制勢力国民連立のムスタファー・サッバーグ書記長、ガッサーン・ヒートゥー暫定政府首班が出席した。

出席者らによると、アラブ連盟において合意され、シリアが採用を見送っている「アラブ統一法」に関する審議が行われた際、サッバーグ書記長が「正統性を付与するのはシリア革命反体制勢力国民連立だ」と主張すると、参加した弁護士・判事らが一斉に反発し、「シリアに入れなくなるだろう。戦闘大隊が現地を支配しており、土地はそれを守る者のものだ」と反論した、という。

一方、ヒートゥー暫定政府首班は、組閣が連立内外、そして諸外国から反発を受けており、「この政府を承認するなとの命令が外国によってなされた」と暴露した。

また新規メンバー参加問題に関して、「新規参加をめざす活動家のなかに、体制打倒を望んでいない者がいる」と述べ、その排除を正当化した。

クッルナー・シュラカー(6月9日付)が報じた。

**

シリア革命調整連合は声明を出し、アサド政権と「傭兵」が「宗派戦争」を行っていると批判、エジプト、サウジアラビア、カタール、トルコに対して、イランと同様にシリアに直接介入するよう呼びかけた。

レバノンの動き

AFP(6月9日付)によると、レバノン赤十字社は、過去48時間で、ヒムス県クサイル市一帯での戦闘で負傷したシリア人87人をレバノン領内(ベカーア県バアルベック郡アルサール市など)に搬送した。

**

ベイルート県では、レバノン帰属党がイラン大使館前で反ヒズブッラー・デモを行ったが、主催者が何者かによって撃たれて死亡した。

レバノン帰属党のアフマド・アスアド党首(シーア派)は、同党のハーシム・サルマーン学生委員会委員長が撃たれて死亡したと発表した。

複数の消息筋によると、デモ会場の近くにはアサド政権を支持するレバノン人武装集団がいたという。

**

またベイルート中心街の「殉教者広場」には、「シリア国民の自由と尊厳を支持するレバノン人」が、シリアでの戦闘へのヒズブッラーの参加に抗議するデモを行った。

デモには、ムスタクバル潮流のハーリド・ザフラマーン議員、3月14日勢力事務局メンバーらが参加した。

諸外国の動き

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相と電話会談を行い、ゴラン高原の非武装地帯でのシリア軍と反体制武装集団の交戦など、シリア情勢について協議した。

**

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、閣議で「イスラエルは我々に銃弾が向けられていない限りは、シリアの内戦に関与しないだろう」と述べた。

**

米中央軍のロバート・カタラノッティ少将は、アブドゥッラー国王特殊部隊訓練センター主催のアンマンでの記者会見で、19カ国8,000人の兵力が参加する軍事演習(Eager Lion)を行うと発表した。

同軍事演習では、化学兵器対策、「テロ集団」の拠点などが行われるという。

**

英国のウィリアム・ヘイグ外務大臣は、BBC(6月9日付)で、「体制(アサド政権)は現地で前進を遂げた…。現地での進捗は我々が政治的・外交的解決を行うのに資さない」と述べた。

AFP, June 9, 2013、al-Hayat, June 10, 2013、Kull-na Shuraka’, June 9, 2013、Kurdonline, June 9, 2013、Naharnet,
June 9, 2013、Reuters, June 9, 2013、SANA, June 9, 2013、UPI, June 9, 2013、al-Watan, June 10, 2013などをもとに作成。

(C)青山弘之 All rights reserved.