シリア軍がヒムス県クサイル市を制圧し同氏の治安と安定を回復したと発表、カイロで開催されたアラブ連盟緊急会議ではシリア情勢に加えヒズブッラーのシリアでの戦闘への参加・支援などについて審議される(2013年6月5日)

Contents

国内の暴力

シリア軍武装部隊総司令部は、ヒムス県クサイル市および周辺の村々に対する一連の作戦の末、5日早朝に市の治安と安定を回復し、テロリストの浄化を完了したと発表した。

SANA, June 5, 2013

SANA, June 5, 2013

また、戦闘により、多数のテロリストを殺害、またその一部を投降させ、逃亡した残党の追撃を続けていると付言した。

シャーム・プレス(6月5日付)によると、5日の戦闘は、午前5時に開始され、3時間続いた。戦闘により、ヒズブッラーの戦闘員3人が死亡、7人が負傷したという。

『ハヤート』(6月6日付)は、ある軍司令官の話として、12発の地対地ミサイルをクサイル市内に打ち込み、1,250人の負傷者を出した、と報じた。

**

同じくヒムス県では、『ハヤート』(6月6日付)などによると、東ブワイダ市、ダール・カビーラ村などで、軍と反体制武装集団が交戦、軍が砲撃を加えた。

**

アレッポ県では、シリア人権監視団によると、マンスーラ村、マンナグ航空基地周辺、ジャニーン村などで、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(6月5日付)によると、アレッポ中央刑務所周辺、ハーン・アサル村、ハンダラート・キャンプ郊外で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またアレッポ市バニー・ザイド地区、シャイフ・マクスード地区、ライラムーン地区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

イドリブ県では、シリア人権監視団によると、カスタン村やザーウィヤ山の村々が軍の砲撃を受けた。

一方、SANA(6月5日付)によると、ハーッジ・ハンムード農場、ダイル・シャルキー村、マアッラト・シューリーン村、タッフ村、アブー・フッバ村、ナイラブ村、マアッラト・イフワーン市、サルミーン市、カスティン・タフターウィー市、フサイニーヤ村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ムウダミーヤト・シャーム市、ハジャル・アスワド市で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(6月5日付)によると、ドゥーマー市郊外のワーフィディーン避難民キャンプに反体制武装集団が撃った迫撃砲が着弾し、市民15人が負傷した。

**

ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、ヤルムーク区、ジャウバル区、バルザ区で、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

**

ハマー県では、シリア人権監視団によると、アブー・ハナーヤー村、カルアト・マディーク町に対して軍が空爆を行った。

また市民が避難生活を送るサルバ石油貯蔵施設周辺で軍と反体制武装集団が交戦し、反体制武装集団が仕掛けた爆弾が爆発した。

一方、SANA(6月5日付)によると、サラミーヤ市区外のサルバ石油貯蔵施設を反体制武装集団が爆破した。

**

ラッカ県では、シリア人権監視団によると、タブカ市が軍の砲撃を受けた。

**

ハサカ県では、シリア人権監視団によると、タッル・ブラーク町が軍の砲撃を受けた。

一方、クッルナー・シュラカー(6月5日付)が、カーミシュリー市の飛行場を離陸した軍のMiG22戦闘機2機が、ラアス・アイン市上空を旋回後、消息を絶ったと報じた。

**

イスラエルのサファド市の病院で、ゴラン高原を経由して搬送されたシリア人負傷者2人のうち、1人が搬送中に死亡した。

同病院のスポークスマンが発表した。

もう一人のシリア人負傷者の容態は安定している、という。

モシェ・ヤアロン国防大臣が3日、シリア領内からの負傷者2人を受け入れたと発表していた。

反体制勢力の動き

自由シリア軍参謀委員会は、アレッポ県を離れヒムス県クサイル市での戦闘に赴いたアレッポ軍事評議会議長のアブドゥルジャッバール・アカイディー大佐を解任すると発表した。

**

しかし、タウヒード旅団はフェイスブック(6月5日付)で声明を出し、アブドゥルジャッバール・アカイディー大佐の代わりにアレッポ軍事評議会議長を務められる人物はいないと発表、自由シリア軍参謀委員会の決定を拒否する意思を示した。

**

タウヒード旅団の声明の約7時間後、自由シリア軍参謀委員会のサリーム・イドリース参謀長は、アカイディー大佐解任の決定を下していないと発表した。

イドリース参謀長は、クサイル市での戦闘に参加していたアカイディー大佐と電話会談し、同大佐およびタウヒード旅団のアブドゥルカーディル・サーリフ司令官ら戦闘員の無事を確認した、という。

**

シリア革命反体制勢力国民連立のジョルジュ・サブラー暫定議長は、イスタンブールで、軍によるクサイル市の完全制圧に関して「外国の侵略に曝された」結果だと述べ、「アサド政権は外国の支援なしには存続できない」と批判、「全土解放まで」反体制運動を継続するとの決意を表明した。

**

シリア革命反体制勢力国民連立は声明を出し、「48日間に及ぶ激しい戦いの末、民間人を護ろうとする自由シリア軍の英雄的な戦いの末…、アサド体制とそれを支援するイラン人民兵が(クサイル)市に侵入し、市内の新市街を制圧した」と発表した。

そのうえで、国際社会に対して「民間人保護とアサド体制の復讐阻止のための早急な介入」を求めるとともに、「革命は続き、不正と専制に立ち向かう者とともにある」と強調した。

**

シリア革命反体制勢力国民連立は、英仏がアサド政権による化学兵器使用を断定したのを受けて、声明を出し「民間人に対して化学兵器の使用を停止する兆候はなく、使用を段階的に増やそうとする兆候しかない」と警鐘をならし、国際社会に対応を求めた。

**

自由シリア軍参謀委員会のサリーム・イドリース参謀長は、BBC(6月5日付)のインタビューで、自由シリア軍は敗北していないと強調、レバノン国内でヒズブッラーの戦闘員と戦うと誓約した。

イドリース参謀長は「クサイル市近郊にいる者など、自由シリア軍司令官に対して、ヒズブッラー戦闘員とシリア国内だけで戦うよう要請した。しかし彼らは、クサイルだけでなく、アレッポ、ダマスカス、シリア国内のあらゆる場所に多数いる…。彼らはシリア領を蹂躙している。彼らが、こうしたことを続け、彼らがシリアに来ることを阻止するための措置をレバノン当局が講じなければ、我々はレバノン領内で戦うことになるだろう」と述べた。

そのうえで「体制との戦いに勝利を収めるだろう…。しかし、西側諸国や米国における我々の友人が支援しなえれば、戦いは今後も数年にわたり続き、さらなる死者と流血がもたらされるだろう」と付言した。

**

シリア革命総合委員会はフェイスブック(6月5日付)に声明を出し、「我らが同胞たちよ、今回は敗北した…。しかしレバノン人傭兵数千人との戦いを続ける」と発表した。

**

クッルナー・シュラカー(6月5日付)によると、シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン元事務局長は、シリア革命反体制勢力国民連立に関して、「悲しむべき勢力拡大の戦いを終え、存続および活動し得るだろうという幻想は潰えた」と述べた。

連立の今後に関する問いに対してインターネット上で答えた。

**

クッルナー・シュラカー(6月5日付)によると、シリア人権連盟は、シリア国内での化学兵器使用疑惑に関する報告書を作成、そのなかで過去7ヶ月間で軍が34回にわたって化学兵器を使用し、多くの民間人が犠牲となった主張した。

同報告書によると、化学兵器使用の主な事例は以下の通り:

2012年6月9日、ダルアー県ラジャート高原で、サリン・ガスを充填した迫撃砲による攻撃。市民10人が中毒症状に。
2012年7月20日、ダイル・ザウル県ブーライル地方で、サリン・ガスを充填した地対地ミサイルによる攻撃で、市民10人が中毒症状に。
2012年12月23日、ヒムス県ダイル・バアルバ地区、バイヤーダ地区、ハーリディーヤ地区、ザアフラーナ村で、サリン・ガスを充填した地対空ミサイルによる攻撃。
2013年3月19日、ダマスカス郊外県ウタイバ村で、サリン・ガスを充填した地対空ミサイルによる空爆。
2013年3月19日、アレッポ県ハーン・アサル村で、サリン・ガスを充填した地対地ミサイルによる攻撃。

レバノンの動き

ヒズブッラーのナーイム・カースィム副書記長はシリア民族社会党のタウフィーク・ムハンナー副党首と会談し、「クサイルからの反体制武装集団の撤退で、米国、イスラエル、そしてタクフィール主義者の計画は頓挫した」と述べた。

**

レバノンの声ラジオ(6月5日付)などによると、シリア軍がベカーア県バアルベック郡アルサール市を空爆した。

これに関して、ミシェル・スライマーン大統領はレバノン領内への越境攻撃を厳しく非難した。

諸外国の動き

米露代表、アフダル・ブラーヒーミー共同特別代表がジュネーブで会談し、ジュネーブ2会議開催に向けた協議を行った。

しかし、『ハヤート』(6月6日付)は、協議が6月中の開催に合意できずに閉会となったと報じた。

**

カイロでアラブ連盟緊急会議が開かれ、シリア情勢、ヒズブッラーのシリアでの戦闘への参加・支援などについて審議された。

ナビール・アラビー事務総長は会議の開会に際して、ジュネーブ2会議を「拒否することが許されない機会」と評し、協力の必要を強調した。

会議は、「シリア領内を暴力の場とするような外国のあらゆる干渉」、「軍事行動激化、住民に対する重火器・航空機の使用…を通じた戦闘」を非難・拒否する声明を発表して、閉幕した。

声明の文言をめぐっては、カタールなど湾岸諸国はヒズブッラーを名指しで非難することをめざしたが、アルジェリアがこれに強く反発、またレバノンが不関与政策を強調し、最終的にはカタールとアルジェリア両国の案を折衷するかたちで、ヒズブッラーに対する非難が削除された。

なお、レバノンのアドナーン・マンスール外務大臣は会議で、「もし我々アラブ人がシリアを危機から救い出したいのなら、復讐…でななく、シリアの同胞どうしの政治的対話を通じて行わねばならない」と述べ、ジュネーブ2会議開催に向けて努力するべきだと主張した。

またクサイル市での戦闘へのヒズブッラーの支援に関して「シリアでの衝突が発生して数週間も経ずして、破壊的で過激なタクフィール主義の集団が国境を越え、レバノンを脅かし始めた…。シリア国内の村々で暮らすレバノン人は、クサイル市およびその郊外での武装集団の活動で甚大な被害を受けた…。村人たちは武装人民諸委員会を結成し、レバノンの親族に護って欲しいと訴えた」と述べた。

さらに「ヒズブッラーはアレッポ、ダルアー、ダイル・ザウル、イドリブ、カーミシュリーでは戦っていない…。先行的・予防的措置としてクサイル市郊外に戦闘員を派遣すると宣言しただけだ」と強調した。

一方、シリアの外務在外居住者省は声明を出し、カイロでのアラブ連盟緊急外相会議に関して、「アラブ連盟はシリアに対する戦争の主要な当時者」、「危機解決の当時者となることはない」としたうえで、アラブ世界の世論を反映していないそこでの決定に正統性はないと非難した。

**

フランス政府報道官は、アサド政権による化学兵器使用に対する制裁としてのシリアへの軍事介入の有無に関して「一方的に決定することはない…。事態は国際社会の手のなかにある」と慎重な姿勢を示した。

**

イランのホセイン・エミール・アブドゥッラフヤーン外務副大臣は声明を出し、シリア軍およびシリア国民に対し「クサイル市でのタクフィール主義テロリストへの勝利」への祝辞を送った。

また「一部の当時者が依然としてテロ集団に武器と資金を供与しており、シリア国民の殺戮の責任を負っている」と西側諸国を暗に非難した。

**

イタルタス通信(6月5日付)は、ロシア軍消息筋の話として、S-300ミサイル・システム供与に関連して、ロシアがシリア軍士官を教練することになると報じた。

同消息筋によると、教練はまだ開始されていないという。

AFP, June 5, 2013、BBC, June 5, 2013、Champress, June 5, 2013、al-Hayat, June 6, 2013、Kull-na Shuraka’, June 5, 2013、Kurdonline, June 5, 2013、Reuters,
June 5, 2013、Sada, June 5, 2013、SANA, June 5, 2013、UPI, June 5, 2013などをもとに作成。

(C)青山弘之 All rights reserved.