トルコ領内で米軍の軍事教練を受けた第30(歩兵)師団の戦闘員の一人ナースィル・ニムル氏は、ARA News(9月1日付)に対して、アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線の同意を得て、米トルコ両政府が設置合意したとされる「安全地帯」における反体制武装集団の拠点都市マーリア市に入る準備ができた、と語った。
ニムル氏は「第30師団の戦闘員はマーリア市に入る準備を終えた。これは第30師団とヌスラ戦線との間での合意と相互理解を受けたもので、ヌスラ戦線は…、ダーイシュ(イスラーム国)の進軍を阻止するため、第30師団の戦闘員がマーリア市に入ることを許した」と述べた。
また、第30師団は1日付で声明を出し、シリア政府の支配下にある都市を解放するためダーイシュ(イスラーム国)に対する軍事作戦を開始したと発表した。
声明において、第30師団は「自由シリア国民軍第30師団」を名乗り、「テロ組織ダーイシュに対する軍事作戦を開始した」と宣言しているが、その目的に関しては、ダーイシュの支配地域の掌握ではなく、「革命の心臓に対して打撃を与え続けている体制とその治安機関の支配からシリアの諸都市を解放する」と矛盾した主張を行っている。
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アレッポ県では、ドゥラル・シャーミーヤ(9月1日付)が伝えたところによると、米トルコ両政府が設置合意したとされる「安全地帯」内の反体制武装集団の拠点都市マーリア市に対して、ダーイシュ(イスラーム国)がマスタード・ガスを装填した迫撃砲弾を撃ち込み、20人以上が中毒症状を発症し、市内の野戦病院に搬送された。
クッルナー・シュラカー(9月1日付)は、マスタード・ガスが装填された迫撃砲弾は30発以上に及んだと伝えたうえで、市内で地元警察が防塵マスクを配布する写真を公開した。
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一方、シリア人権監視団によると、有志連合がアレッポ県内の「安全地帯」内に位置するスーラーン・アアザーズ町(マーリア市北部)を空爆し、ダーイシュ戦闘員少なくとも8人を殺害した。
また、シャーム戦線は声明を出し、ダーイシュ(イスラーム国)支配地域(アレッポ県北部)で、所属部隊の一つのタウヒードの獅子中隊が極秘作戦を実行し、ダーイシュのメンバーのサウジアラビア人2人、チュニジア人1人を殺害したと発表した。
シャーム戦線は米国が「穏健な反体制派」とみなす武装集団で、「命じられるままに進め連合」、ムジャーヒディーン軍、ヌールッディーン・ザンキー運動、アサーラ・ワ・タンミヤ運動からなる。
このほか、SANA(9月1日付)によると、アレッポ市東部航空士官学校一帯を空爆し、ダーイシュ(イスラーム国)の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
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他方、ARA News(9月2日付)は、アレッポ県バーブ市北部のラーイー村の活動家の話として、国境沿いのカラフ・マズラア町に面するトルコ領内をパトロール中のトルコ国境警備隊をダーイシュ(イスラーム国)が襲撃し、トルコ軍兵士3人が死亡、7人が負傷したた。
これに対してトルコ軍は、シリア国境地帯に戦車多数を緊急展開させ、シリア領内のブタイディーン村、カラフ・マズラア町を砲撃、またカラフ・マズラア町一帯でダーイシュと散発的に交戦した。
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ラッカ県では、ARA News(9月1日付)によると、活動家(匿名)からの情報として、ラッカ市内でダーイシュ(イスラーム国)のシリア人戦闘員と欧州出身の司令官との間が口論となり、シリア人戦闘員が司令官をナイフで刺し、死亡した。
また、その場に居合わせた戦闘員たちが司令官を指したシリア人戦闘員に発砲、この戦闘員も腹に銃弾を受け、負傷した。
この活動家によると、シリア人戦闘員と外国人戦闘員による同様の口論は、30日にハサカ県でも発生しており、リビア人司令官のアブー・フザイファ・リービー氏が死亡した。
ハサカ県の事件では、フーア町での戦闘への参加を命じたリビア人司令官の命令にシリア人戦闘員らが背いたことに端を発していたという。
このほか、ARA News(9月1日付)によると、アイン・イーサー町郊外で、31日深夜から1日未明にかけて、西クルディスタン移行期民政局人民防衛隊とダーイシュ(イスラーム国)が交戦し、ダーイシュ戦闘員3人が死亡した。
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スワイダー県では、SANA(9月1日付)によると、シリア軍がカスル村でダーイシュ(イスラーム国)に対して攻撃を加え、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
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ヒムス県では、SANA(9月1日付)によると、シリア軍がカルヤタイン市、サリーバ農場、ウンム。リーシュ村、スルターニーヤ村、ラスム・アルナブ村、トゥワイニー村、タドムル市西方の採石場一帯でダーイシュ(イスラーム国)と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。
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ダイル・ザウル県では、クッルナー・シュラカー(9月2日付)によると、ダーイシュ(イスラーム国)ハイル州の統治者(ワーリー)のアブー・サーリフ・ジャブラーウィー氏が解任され、アブー・アドナーン・シャーミー氏が9月1日付で新ワーリーに任命された。
シャーミー氏はダイル・ザウル市のヒスバ(宗教警察)を統括していた人物で、ジャブラーウィー氏と同様シリア人だという。
なお、ジャブラーウィー前ワーリーの先任者だったイラク人のアブー・ウサーマ・イラーキー氏は有志連合の空爆により7月に死亡、以降、ハイル州のワーリーはシリア人が連続して務めることになる。
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米中央軍(CENTCOM)は、9月1日にシリア、イラク領内のダーイシュ(イスラーム国)拠点などに対して13回の空爆を行ったと発表した。
このうちシリア領内での空爆は5回におよび、フール町(ハサカ県)近郊(1回)、ラッカ市近郊(1回)、マーリア市近郊(2回)、ワフシーヤ村(アレッポ県、CENTCOM声明によると「ワシーヤ」)近郊(1回)のダーイシュに対して攻撃が行われたという。
AFP, September 1, 2015、AP, September 1, 2015、ARA News, September 1, 2015、September 2, 2015、Champress, September 1, 2015、al-Durar al-Shamiya, September 1, 2015、al-Hayat, September 2, 2015、September 3, 2015、Iraqi News, September 1, 2015、Kull-na Shuraka’, September 1, 2015、al-Mada Press, September 1, 2015、Naharnet, September 1, 2015、NNA, September 1, 2015、Reuters, September 1, 2015、SANA, September 1, 2015、UPI, September 1, 2015などをもとに作成。
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