アサド大統領はスペインのEFE通信社のインタビューに応じた。
インタビュー映像は大統領府がYoutube(https://youtu.be/O8z81BRb3VU)を通じて公開、また英文全文およびアラビア語全訳はSANA(http://sana.sy/en/?p=63857、http://www.sana.sy/?p=310789)が配信した。
インタビューにおけるアサド大統領の主な発言は以下の通り:
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「シリアでの紛争勃発当初から、我々は紛争に関与するすべての当事者との対話を行うという路線を採用してきた。また我々は、世界中の様々な国によるすべてのイニシアチブに説教的に対処、対応してきた…。だから、我々は今日、反体制派と対話を行う用意がある…。しかし、それは反体制派の定義次第だ。反体制派は、この世界の誰にとっても、武装集団を意味しない。武装集団、テロリストと反体制派の間には大きな違いがある…。これまで、サウジアラビア、米国、西欧諸国はテロ組織を交渉に加えようとしてきたと見ている…。しかしこうしたことは他のどの国でも認められないと思う」。
(サウジアラビアのリヤドでの合同会合に参加した反体制派に関して)「彼らには反体制政治組織と武装集団が混ざっている。現実的な話をしよう。シリアの武装集団に関して言うと、我々は一部のグループ、組織と対話をしてきた。それは一つの理由、すなわち彼らが武器を放棄し、政府に参画するか、日常生活に戻ったからだ…。これこそがシリアにおける武装集団との唯一の対処方法だ…。いわゆる反体制政治組織について言うと…他国、すなわち外国とつながりがある限り、反体制派ではあり得ない…。もし対話を成功させたいのなら…、世界の他の国や体制ではなく、シリアに根ざした真の愛国的な反体制派に対処する必要がある」。
「(反体制派との交渉は)どの組織がテロ組織で、どれがそうでないのかを定義するまで適切とは言えない…。シリアでは、機関銃を持つ者はみなテロリストだ」。
「ワッハーブ主義組織、そしてサウジ・マネー…によって数十年にわたり人々や社会にすり込まれたイデオロギー(タクフィール主義)に対処しなければ、ダーイシュ(イスラーム国)やヌスラ戦線、あるいはそれ以外のアル=カーイダに属する組織に対処すると言っても、時間の無駄になるだけだ…。長期的に対処すべきで、ワッハーブ主義組織やサウジ・マネーが世界中のイスラーム教徒の組織に入り込まないようすべきだ…。また、短期的にはシリア、イラクのダーイシュへの対処について話さねばならない…。テロリストのながら、とりわけトルコからシリアやイラクへの流れを食い止めねばならない…。もちろん、サウジ・マネー、ワッハービー・マネー、そしてカタール・マネー、さらには武器、兵站支援がトルコを経由してテロリストに貫流するのも止めねばならない…。我々はこうした流れを止めることから始めねばならず、同時にシリア国内でシリア軍、そしてシリア軍を支援する意思のあるすべての人々がテロリストと戦わねばならない」。
「シリア国内の石油のほとんどはシリア北部産だ…。彼ら(ダーイシュ)がイラクに輸出しようとしても、イラク国中でダーイシュとの戦いが行われているので不可能だ。シリアも同じだ。レバノン…、ヨルダンは遠すぎる。ダーイシュにとっての唯一のライフラインはトルコなのだ…。サウジアラビア、トルコ、そしてカタールがダーイシュの残虐行為に関与する主要な加害者だ…。もしシリアの紛争を早期に終わらせたいのなら…、トルコ、サウジアラビア、カタールに圧力をかけることだ。そうすれば、1年以内に紛争は必ず終わるだろう」。
(シリア軍と米軍主導の有志連合が連携しているかとの問いに対して)「決してない…。だから、彼らが1年以上も空爆を続けているのに、ダーイシュは拡大しているのだ。テロリストに空からだけでは対処できない。地上で彼らに対処しなければならない。だから、ロシアがテロとの戦いに参加を開始するや、ロシア軍とシリア軍は数週間で、有志連合が1年かけてあげたよりも大きな成果を達成した…。むろん、実際のところ、有志連合は何も達成していなかった。なぜなら彼らはダーイシュを主に間接的に支援していたからだ」。
「米政権は当初から、テロリストに対してさまざまな政治的な隠蔽を行ってきた…。また米国はテロとの戦いに真剣ではないし、我々はほかの西側諸国も真剣だとは考えていない…。米国が果たしている役割はダーイシュ、過激派、テロを破壊することではなく…、オバマ大統領の言葉を借りるなら、「封じ込める」ことだ。これはどういう意味なのか? つまりは別の場所に行かせずに、動き回らせるということだ」。
「先月のパリでの銃撃事件発生後に、フランスのオランド大統領がしたことを見ると、フランスはダーイシュに対する空爆を開始し、自分たちがテロと戦う意思があると発言した。しかし、これはどういう意味なのか? 事件が起こる前に、フランスはテロとの戦いを行っていなかったということになる…。フランスの空爆はフランス国内の世論の怒りをかき消すものであり、テロと戦うものではない。テロと戦いたいのなら、銃撃を待つまでもない…。テロとの戦いとは原理原則であって、怒りを感じて行われる短期的なものではない」。
「ロシアのプーチン大統領はシリアへの軍事介入の見返りを求めていない。なぜならこれは取引ではないからだ。それは互いの国益に関係のある二国間の通常の関係に基づくものだからだ」。
(プーチン大統領から退陣を求められたかとの問いに対して)「シリア国民が大統領であって欲しいと望まなければ、即日去らねばならない…。これが私自身が依って立つ原則だ」。
「私はいかなる状況であろうとシリアを去ろうなどと考えたことはない…。しかし、答えは同じだ。それはシリア国民が支持するかどうかによる」。
「もしトルコのエルドアン大統領が、テロ支援という…自らの犯罪的な態度を改めようとするのなら、我々には何の問題もない…。我々はあらゆる支援、積極的な参加を歓迎する用意がある…。しかし、エルドアンが変わることを期待できるだろうか? できない。なぜなら、エルドアンはムスリム同胞団のイデオロギーを持つ人物であり、このイデオロギーに背くことはあり得ないからだ。彼は、国益について考えるようなプラグマティックな人間ではない。彼は自分のイデオロギーのために国益に背いている」。
「(ロシア軍のシリア空爆により)現地の情勢は良い方向に変わった。しかし、エルドアンにとって、それは自らの野望の失敗を意味した…。彼の野望とはトルコを地域におけるムスリム同胞団のハブに仕立てることで…、彼は自分の夢の最後の砦がシリアだと考えている。彼はシリアで失敗すれば、自分のキャリアが終わると考えているのだろう。だから、彼の反応(ロシア軍機撃墜)は決して賢いものではないが、彼の思考様式だけでなく、彼の本能を反映していた…。彼はまた、NATOとロシアを紛争に巻き込み、シリア情勢をさらに複雑なものにすることで、飛行禁止空域設定という自らの夢を叶え、そこにテロリストを送り込み、シリアの正統な国家の目前に「別の国」を作り出せると思っていた」。
(国外難民にメッセージはあるかとの問いに)「シリア人難民のほとんどはシリア国内の家族と連絡を取り合っている。彼らの多くはシリア政府の支持者だが、彼らはテロリストが作り出した惨状、脅威、殺戮、インフラ破壊、欧米諸国の経済制裁ゆえに去った…。彼らは事態が改善すれば、戻ってくるつもりでいるので、彼らにメッセージを送る必要はない…。しかし、もしメッセージを送るとするのであれば、それは欧州諸国政府に対してだ。彼らこそが難民をもたらし、現下の状況を作り出し、テロリストを支援し、制裁を科してきた…。だから、これらの政府がシリア国民のために行動したいというのであれば…、まず制裁を解除せよ、と言いたい。そのうえで、テロリストの流れを止めることをすべきだ」。
(テロリストを赦すつもりはあるかとの問いに)「もちろんだ。すでにそうしたことはシリアで行われている」。
AFP, December 11, 2015、AP, December 11, 2015、ARA News, December 11, 2015、Champress, December 11, 2015、al-Hayat, December 12, 2015、Iraqi News, December 11, 2015、Kull-na Shuraka’, December 11, 2015、al-Mada Press, December 11, 2015、Naharnet, December 11, 2015、NNA, December 11, 2015、Reuters, December 11, 2015、SANA, December 11, 2015、UPI, December 11, 2015などをもとに作成。
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