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アレッポ市での連続爆破テロ
アレッポ県では、SANA(10月3日付)によると、アレッポ市内で反体制武装勢力による3件の爆弾テロが発生し、34人が死亡、122人が負傷した(内務省発表)。
内務省によると、最初のテロは、サアドゥッラー・ジャービリー広場(サアドゥッラー・ジャービリー地区)で7時50分に発生し、爆弾を搭載した2台の車が自爆した。
2回目のテロは、アレッポ県庁前で8時17分に発生し、500キロ以上の爆弾を搭載した車1台が自爆し、また県庁ビル近くに迫撃砲が着弾した。
3回目のテロは、アミール・ホテル、アレッポ商業会議所、シリア中央銀行アレッポ支店近くで10時35分に発生し、約1トンの爆発物を処理班が解除使用としたときに爆発が起きた。
また事件現場では34人が死亡、122人が負傷、「テロリスト」3人の遺体が発見されたほか、現場近くの街区が破壊された。
シリア人権監視団によると、アレッポ市での連続爆破テロでの死者数は48人に達した。
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『ハヤート』(10月3日付)速報によると、シャームの民のヌスラ戦線が犯行声明を出した。
ヌスラ戦線はアレッポ市での連続爆破テロを「アジト爆破攻撃」作戦と名づけ、「ヌサイリー(アラウィー)派の敵に属す治安関連地区に対して同時に攻撃を行い…、将校グラブ、スィヤーヒー・ホテル、県庁、アミール・ホテル」を標的としたことを明らかにした。
また将校グラブとスィヤーヒー・ホテルに自爆攻撃をかけた戦闘員2人の名前(アブー・ハムザ・シャーミー、アブー・スライマーン・シャーミー)を公表した。
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シリア人権監視団によると、「死傷者のほとんどは軍人で、爆発は将校クラブ、正規軍の検問所を標的としていた」という。
トルコへの越境砲撃
トルコのウルファ県アクチャカレ市の市長は、シリア領からの砲撃により、女性1人、子供1人を含む市民3人が死亡、9人が負傷したと報じた。
アクチャカレ市に面するシリアのラッカ県タッル・アブヤド市は、2週間前に反体制武装勢力によって制圧され、シリア軍・治安部隊が奪還のため大規模な攻撃を行っていた。
また事件の前日、トルコ軍がシリア領内をパトロール中の民主統一党(PKK系)の国境警備隊に攻撃し、2人を殺害していた。
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トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、シリア領内からの砲撃に対して、「直ちに我々の武装部隊が反撃し…、レーダーで捉えらえた(迫撃砲)国境上の発射地点に対して砲撃した」と述べた。
またアフメト・ダウトオール外務大臣は国連の潘基文事務総長に、事件に対する「トルコ政府の深い懸念」を伝えた。
潘基文事務総長付報道官によると、これに対して事務総長は、「緊張緩和のため、シリア当局と充分な連絡のチャンネルを維持するよう、ダウトオール外務大臣に促した」。
さらに国連安保理に、シリア軍による「敵対行為を終わらせるための措置の実施」を求める書簡を提出した。
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レジェップ・タイイップ・エルドアン内閣は、トルコ国会に、1年間を期限とする越境砲撃の許可を求め、賛成多数で承認された。
与党公正発展党(AKP)、民族主義者行動党(MHP)の320人が賛成した一方、平和民主党(クルド政党)、共和人民党(CHP)の129人は反対票を投じた。
地上軍の投入やシリア領内の空爆などトルコ軍の海外での軍事行動には国会の承認が必要となる。
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トルコのベシル・アタライ副首相は、国会での審議後に記者団に対して、「シリア側は自らの行為を認め、謝罪した」と述べ、トルコ領への砲撃を謝罪したことを明らかにした。
副首相はまた「彼らは、こうした事件が繰り返されないだろうと述べた。これは良いことだ。国連の仲介のもと、シリアに晩にそう伝えた」と付言した。
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「アフバール・シャルク」(10月4日付)は、トルコ軍によるタッル・アブヤド市への報復攻撃により、軍の兵士多数が死亡した、と報じた。
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アンカラの国会議事堂前では左派の活動から数百人がシリアへの軍事力行使に反対するデモを行い、警官隊が催涙ガスで強制排除を断行した。
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シリアのウムラーン・ザイーム情報大臣は、アクチャカレへの砲撃に関して、シリア・アラブ・テレビ(10月3日付)で、「友好的なトルコ国民に対して、シリアの名において、厚く哀悼の意を示す」と述べるとともに、「(迫撃砲の)発射地点を特定した」と述べた。
またトルコ政府による安保理への書簡提出に対して、シリア政府も国連安保理に書簡を提出、トルコに「英知、知性、主権尊重、善隣関係、国境警備の協力、両国間の武装テロ集団の潜入阻止」を求めた。
さらにバッシャール・ジャアファリー・シリア国連代表は、トルコ軍の報復攻撃によって、シリア軍の士官2人が負傷したと述べたうえで、「シリア軍は自制し、トルコの砲撃に応戦していない」と強調した。
また「シリアの関係当局は、発砲地点を厳密に特定した…。自制的でない武装テロ集団が存在するなかで国境地帯は特別な状態にあり…、それがシリアの治安だけでなく、地域の国々の治安を脅かしている」と述べた。
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北大西洋条約第4条に基づくトルコ政府の要請に基づき、NATO緊急会合が開催された。
会合は1時間弱で閉会、声明では、トルコへの支持を表明する一方、越境砲撃に関して、「加盟国にとっての大いなる懸念の源泉であり、強く非難する」とし、シリア政府に「国際法違反の停止」を求めたにとどまった。
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国連では、潘基文事務総長が、「シリアの危機が周辺諸国に波及する危険の増大」への懸念を表明、「国際社会の安全と平和への脅威」と警鐘をならした。
また「シリア国内でのテロが、地域紛争の危険を高めていると危機感を示した。
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国連安保理では、シリアからトルコへの越境砲撃を非難する決議案が回付されたが、スーザンライス米代表によると、ロシアによる修正提案が多くの国に受け入れられず廃案となった。
アゼルバイジャンが提出した決議案は、シリア軍による越境砲撃を国際法の侵害だと非難していたが、ロシアは「シリア領からの砲撃」と修正するよう求めるとともに、「国際法の侵害」、「国際の平和と安全への脅威」という文言の削除を迫ったという。
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トルコのアタライ副首相の発言に先立って、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、訪問先のイスラマバードで、越境砲撃に関して、「大いなる懸念」を示す一方、「我が国の大使を通じてシリア当局と連絡を取った。シリア当局は…対トルコ国境での時間が悲劇的なもので、二度と繰り返されないだろうと明言した…。これに対して我々はダマスカスがその旨発表すべきだと考える」と述べ、シリア政府に謝罪を促したことを暗示した。
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シリアからトルコへの越境砲撃に関して、西側諸国は一斉に非難の声をあげた。
だが、多くの国は双方に自制を呼びかける一方、同日に発生したアレッポでのシャームの民のヌスラ戦線によると思われる同時爆破テロについては言及せず、国際テロリストに暗に与するという自己矛盾した対応に終始した。
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ヒラリー・クリントン米国務長官は記者会見で、「我々は怒りを感じる。なぜならシリア人が国境を越えて発砲し…、残念ながトルコ側に犠牲者が出たからだ」と述べた。
またヴィクトリア・ヌーランド国務省報道官は、クリントン国務長官がトルコのアフメト・ダウトオール外務大臣に、「同盟国トルコの主権と領土の安全を米国が支持する」と電話で伝えたことを明らかにするとともに、「シリア政府の常軌を逸した行動」を示す新たな事例と非難、「それゆえに権力の座から去らねばならない」と断じた。
さらに米国家安全保障会議のトミー・ヴィーター報道官は声明を出し、「アサド政権に対する受けいられざる虐待を行った…。アサドが去るときが来たことを明示するためにすべての国は責任を負わねばならない」と越境砲撃とは無関係の主張を行った。
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フランスのローラン・ファビウス外務大臣は、シリアからトルコへの越境砲撃に関して「国際社会の平和と安全に深刻な脅威」と非難し、トルコへの支持を表面するとともに、国連に対して、シリア政府への明確な非難のメッセージを示すするよう求めた。
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ドイツのギド・ヴェスターヴェレ外務大臣は、トルコへの支持を表明しつつ、トルコ政府に「我々は節度ある行動を呼びかける」と自制を求めた。
またシリア政府にもトルコの主権と領土保全を尊重するよう呼びかけた。
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キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は、シリアからトルコへの越境砲撃に関して、「シリア危機が近隣諸国に及ぼした悲劇的結果」と表し、シリア政府に暴力停止を求めつつも、「すべての当事者に自制」を求めた。
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アラブ連盟のナビール・アラビー事務総長は、シリアからトルコへの越境攻撃に関して、地域の安全と平和を脅かすとの懸念を表明した。
その他の国内の暴力
アレッポ県では、『ハヤート』(10月4日付)によると、反体制武装勢力はアレッポ市内の政治治安部施設や、軍が集結していた野菜市場を砲撃、また市内で戦車2輌を破壊した、という。
一方、SANA(10月3日付)によると、アレッポ市カッラーサ地区、フィルドゥース地区、ブスターン・カスル地区、スッカリー地区などで、軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」を追跡し、多数の戦闘員を殲滅した。
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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、自由シリア軍が「拠点」とするクドスィーヤー市、ハーマ町に対して、軍・治安部隊が砲撃を加え、その後突入、逮捕・捜索活動を行った。
アレクスィアを名のる女性活動家はAFP(10月3日付)に対して、「軍の攻撃は激しくはなかった…。二つの都市(クドスィーヤー市、ハーマ町)のすべての出入り口は閉鎖され…、人々は市内で包囲されていて、軍は住民が街を離れないようにしている」と述べた。
一方、SANA(10月3日付)によると、バーラ村で軍・治安部隊が反体制武装勢力のアジトを攻撃し、戦闘員を殲滅、武器弾薬を押収した。
SANA(10月3日付)はまた、クドスィーヤー市で任務にあたる前線司令官の話として、シリア軍部隊は反体制武装勢力のアジトに関する正確な情報を持っており、そのことが浄化の任務を容易なものとするだろうと述べた、と報じた。
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ハマー県では、SANA(10月3日付)によると、カルアト・マディーク町、マスウード村などで、軍・治安部隊が反体制武装勢力を攻撃し、戦闘員を殺傷した。
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ダルアー県では、SANA(10月3日付)によると、ナーミル村、ダルアー市(避難民キャンプ)などで、軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」を追撃し、戦闘員を殺傷した。
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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、ビダーマー町で反体制武装勢力が軍・治安部隊を攻撃し、兵士15人を殺害した。
一方、SANA(10月3日付)によると、サルキーン地方ガザーラ村で、トルコから潜入しようとした反体制武装勢力を撃退した。
シリア政府、野党の動き
バアス党シリア地域指導部は声明を出し、アレッポ市での連続爆破テロを非難した。
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人民議会は、アレッポ市での連続爆破テロを非難する決議を採択した。
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『リワー』(10月3日付)は、国連総会出席のため米国を訪問中のワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣が、レバノンのナジーブ・ミーカーティー首相と会談、シリアの危機へのレバノン内閣の不充分な協力に遺憾の意を示した、と報じた。
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野党の国民青年公正成長党バルウィーン・イブラーヒーム書記長はエルナシュラ(10月3日付)に対して、ハサカ県カーミシュリー市での爆破テロに「テロリストの指紋がついている」と述べ、批判する一方、「クルド人は国民対話を支持している」と述べた。
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ダマス・ポスト(10月3日付)は、人民議会が、アリー・ムハンマド・ビッシュ議員(アレッポ県諸地域A部門、バアス党)と、離反しトルコに逃亡したイフラース・アフマド・バダウィー議員(アレッポ県諸地域B部門、バアス党)の起訴を提案した、と報じた。
この提案はテロ対策法、一般処罰法に依拠している。
反体制勢力の動き
自由シリア軍国内合同司令部は声明を出し、ヒズブッラーを標的とした「報復」を今後も続けるとの意思を示した。
声明で、彼らは「我々はシリアに駐留するヒズブッラーのメンバーに、シリアへの干渉とシリア国民を殺戮するアサド政権への支援に対して、激震をもたらすような厳しい報復を行うだろうと約束する…。(ヒズブッラーとハサン・ナスルッラー書記長を)眠れなくするほど驚かすだろう…。我々は、テロ民兵であるヒズブッラーのシリア国内での作戦司令官である犯罪者、ムハンマド・フサイン・ハーッジ・ナースィーフ・シャンマスを殺害したとの朗報を、偉大なるシリア国民に伝える」と述べた。
レバノンの動き
ヒズブッラーの広報局が声明を出し、ベカーア県バアルベック郡ナビー・シート市でイスラエルが投下した不発弾が爆発し、ヒズブッラーの戦闘員3人と複数名が負傷した、と発表した。
AFP(10月3日付)によると、死者数は9人、負傷者数は7人(うちシリア人4人)。
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進歩社会主義党のワリード・ジュンブラート党首は機関誌『アンバー』(10月3日付)で、シリア情勢、とりわけアレッポ市での混乱に関して、シリア、イラン政府だけでなく、「シリアの友連絡グループ」にも責任があると非難した。
その理由として、ジュンブラート党首は「反体制勢力への必要な支援、対空・対ロケット弾兵器の供与を自ら禁じている」との暴論を展開した。
諸外国の動き
ロシア外務省は声明を出し、アレッポ市での連続爆破テロを強く非難した。
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トルコ訪問中の英国ニック・クレッグ副首相は、トルコ赤新月社に、100万英ポンド掃討の人道支援物資を供与すると発表した。
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ハマースは、プレス向け声明で、シリア・アラブ・テレビによるハマース批判に遺憾の意を表明した。
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ブラジルのリマでアラブ・ラテンアメリカ首脳会談が開催された。
アラブ諸国からは、レバノン、チュニジアの大統領、ヨルダンの国王が出席したのみだった。
会談では予定の時間を大幅に延長して非公式の審議がなされ、シリア情勢が協議されたが、閉幕声明では、直接の言及はなされなかった。
AFP, October 3, 2012、Akhbar al-Sharq, October 3, 2012, October 4, 2012、Damas Post, October 3, 2012、Elnashra.com, October 3, 2012、al-Hayat, October 3, 2012, October 4, 2012、Kull-na Shurakaʼ, October 3, 2012、al-Kurdiya
News, October 3, 2012、al-Liwa‘, October 3, 2012、Naharnet.com, October 3, 2012、Reuters, October 3, 2012、SANA, October 3, 2012などをもとに作成。
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