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国内の暴力(アレッポ県)
各紙によると、アレッポ市での軍・治安部隊が戦闘機を動員し掃討作戦を継続し、前日まで撤退を否定してきた反体制武装勢力はサラーフッディーン地区からの撤退を認めた。
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アブー・アリーを名のる反体制武装活動家はロイター通信(8月9日付)に対して、「自由シリア軍の戦闘員はサラーフッディーン地区の複数地点から撤退した」と明かした。
ロイター通信(8月8日付)は、別の活動家の話として、サラーフッディーン地区での戦闘で少なくとも68人が死亡した、と報じた。
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自由シリア軍国内合同司令部のカースィム・サアドッディーン大佐はAFP(8月9日付)に対して、「自由シリア軍はサラーフッディーン地区から撤退した」と述べた。
しかしこの撤退は、「無差別の激しい砲撃で同地区が完全に破壊されたための技術的撤退」で、「アレッポ市の他の場所で我々は留まっている」という。
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自由シリア軍シャフバーの楯大隊司令官のフサーム・アブー・ムハンマド大尉はAFP(8月9日付)に対して、サラーフッディーン地区から「技術的完全撤退」をしたと述べる一方、軍が「真空爆弾を使用した」と非難した。
同大尉によると、反体制武装勢力は「サラーフッディーン地区にはおらず、政府軍が同地域に入った」。
撤退の理由として、同大尉は「砲撃激化」を理由にあげるとともに、「第10街道、第15街道も政府軍が制圧した」と明かした。
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ヌール・ハック大隊のワースィル・アイユーブ大尉もAFP(8月9日付)に対して、「技術的撤退」を認め、サイフ・ダウラ地区、マシュハド地区に前線を移動させたと述べた。
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地元調整諸委員会やシリア革命総合委員会によると、軍・治安部隊はスッカリー地区、東アンサーリー地区、マシュハド地区、ジスル・ハッジ地区などアレッポ市東部に激しい砲撃を加えた。
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シリア人権監視団によると、サーフール地区、シャッアール地区、マサーキン・ハナーヌー地区、バーブ街道地区、サラーフッディーン地区が軍・治安部隊の激しい砲撃に曝された。
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これに対して、SANA(8月9日付)によると、軍・治安部隊はアレッポ市内のアスィーラ地区、バーブ・ナスル地区で反体制武装勢力の「浄化」を完了した。
またハナーヌー地区、ブスターン・バーシャー地区、ハーン・ワズィール地区などで軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷、逮捕したほか、マイサル地区、マサーキン・ハナーヌー地区、ハラブ・ジャディーダ地区などで「残党」の追跡・掃討を行った。
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ダマスカスの治安消息筋はAFP(8月9日付)に対して、スッカリー地区でも軍・治安部隊による大規模な掃討作戦が実施される、と述べた。
また軍は「アレッポに動員された増援部隊の10%しか投入していない」と付言した。
ダマスカスの別の治安消息筋によると、軍はアレッポ市に20,000人の兵力を動員している。これに対して、『ハヤート』(8月10日付)によると、反体制武装勢力の兵力は8,000人だという。
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ロイター通信(8月8日付)によると、アレッポ市郊外のタッル・リフアト市では、軍の戦闘機が低空で旋回、空爆し、市民は避難を余儀なくされた。
ファトフ旅団のアブー・ハサンなる戦闘員によると、軍の戦闘機は「これまでタッル・リフアトとその周辺の我々の基地4カ所を砲撃した」。
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シリア人権監視団によると、バーブ市、フライターン市、カフルハラブ村でそれぞれ1人が殺害された。
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一方、SANA(8月9日付)によると、アレッポ市郊外のフライターン市、タッル・リフアト市、ダーラト・イッザ市でも軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷した。
国内の暴力(その他の県)
ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ザバダーニー市で2人が砲撃により死亡し、アイン・タルマー村では軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦した。
また『アフバール・シャルク』(8月9日付)は、ジャルマーナー市内の住居ビルの入り口で爆発が発生し、イブラーヒーム・ダッラ退役准将が暗殺された、と報じた。
さらに複数の活動家の話として、ムウダミーヤ・シャーム市の入り口の検問所で若者5人が、ダーライヤー市入り口の検問所で若者4人が殺害された、と報じた。
このほか、同報道によると、ダーライヤー市郊外で、両腕を切り落とされた遺体8体が発見された。
シリア人権委員会は、軍・治安部隊によって殺害されたと思われる身元不明の民間人の遺体多数が、ダマスカス県およびダマスカス郊外県で発見されている、と発表した。
一方、SANA(8月9日付)によると、タッル市で、軍・治安部隊が反体制武装勢力のアジトに突入し、複数の戦闘員を殺傷した。
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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ナスィーブ村での砲撃で3人が死亡した。
またヌアイマ村、ウンム・マヤーズィン町、ハイト村、ブスル・ハリール市、タイバ町などが軍・治安部隊の砲撃を受けた。
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ハサカ県では、シリア人権監視団によると、ハサカ市各地区で治安部隊が逮捕・摘発を行った。
一方、SANA(8月9日付)によると、ハサカ市で軍・治安部隊が反体制武装勢力の戦闘員多数を逮捕、武器弾薬を押収した。
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ヒムス県では、シリア革命総合委員会によると、ヒムス市ジャウラト・シヤーフ地区が砲撃に曝された。
一方、SANA(8月9日付)によると、タッルカラフ地方でレバノンからの潜入を試みる反体制武装勢力を国境警備隊が撃退し、多数を殺傷、逮捕した。
またタッルカラフ市では軍・治安部隊が反体制勢力と交戦した。
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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、1人が死亡した。
またカフルナブル市で軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦した。
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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ハマー市各地区で治安部隊が逮捕・摘発を行った。
一方、SANA(8月9日付)によると、カルアト・マディーク町郊外で軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷した。
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ダイル・ザウル県では、SANA(8月9日付)によると、ダイル・ザウル市で軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷した。
殺害した戦闘員のなかには、多数のアラブ人と外国人が含まれていた、という。
アサド政権の動き
アサド大統領は政令第298号を出し、ワーイル・ナーディル・ハルキー保健大臣を首相に任命した。
ハルキー新首相は1964年生まれ。ダルアー県出身。ダルアー県ジャースィム市基幹医療局長(1997~2000年)、バアス党ダルアー支部書記長(2000~2004年)を歴任後、2011年8月のアーディル・サファル改造内閣で保健大臣に就任した。
ハルキー新首相がスンナ派であることに関して、シリア国内の宗派バランスに配慮した人事といった報道が散見されたが、シリアの首相はスンナ派が就くことが独立以来慣例となっている。
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DPA(8月9日付)によると、ロンドン・オリンピックにシリア代表として参加している競泳のアーザード・バラーズィー氏は「殺される人々、砲撃を受けている家々のことを聞くと心が揺さぶられます。オリンピック村でいるので、考えたくないです。なぜならここでのすべては平和の祭典だからです」と述べた。
一方、シリア選手団のマーヒル・ハイヤータ代表は、アレッポの家族のことを心配する一方で、アサド政権を非難することはできなかったと吐露した。
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『クッルナー・シュラカー』(8月9日付)は、大統領府内の反体制消息筋の話として、ブサイナ・シャアバーン大統領府政治情報補佐官が夫のムサンナ・サーリフ氏とともに7日に米国に向かった、と報じた。
同報道によると、前妻が米国人で米国籍を持つムサンナ・サーリフ氏の配偶者としてシャアバーン大統領府政治情報補佐官も米国籍を取得しようとしている、というが、事実確認はとれていない。
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アラビーヤ(8月9日付)は、大統領府儀典長のムイーッディーン・ムスリマーニー氏が離反したと報じた。事実確認はとれていない。
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『サンナーラ』(8月9日付)は、アサド大統領が叔父のリフアト・アサド前副大統領との和解のため、前副大統領をダマスカスに迎えることに同意したと報じた。
前副大統領の代理であるファールーク・ムサーリウ氏が明らかにした。
反体制勢力の動き
シリアの複数の反体制武装活動家によると、反体制武装勢力の司令官らは、アレッポ市サラーフッディーン地区などからの撤退後初めて、捕虜への暴行、拷問、処刑を行わないとの誓約に署名した。
ロイター通信(8月9日付)が報じた。
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AKI(8月9日付)は、ダマスカス革命評議会広報局のヌール・ビータール報道官なる活動家が、ダマスカス郊外県で拉致されたイラン人が巡礼者だというイラン側の「話は根拠が薄い」と非難した。
レバノンの動き
ミシェル・サマーハ元情報大臣が逃走先のレバノン山地県マトン郡ジュワール・ヒンシャーラ村で、ボディーガード2人、運転手1人とともに内務治安総軍に身柄を拘束された。
ボディーガード2人、運転手1人はその後釈放された。
内務治安総軍によると、身柄拘束の理由は「治安上の理由」。
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しかし妻のサマーハ氏はLBC(8月9日付)に対して、逮捕は「政治的理由」によると述べた。
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MTV(8月9日付)は、身柄拘束後にサマーハ元大臣が「シリアの命令でレバノン国内でテロ攻撃を計画したと自供した」と報じた。
また内務治安総軍が言及した「治安上の理由」に関して、ハーリド・ダーヒル国民議会議員(ムスタクバル潮流)暗殺計画と関係があると報じた。
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LBC(8月9日付)は、「シリアからレバノンへの爆発物の密輸を自供し」、またドライバーも関与を認めたと報じた。しかしボディーガードの1人は密輸への関与を否定した。
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ジャディード・チャンネル(8月9日付)は、北部県での攻撃計画に元大臣が関与していることを示すビデオテープに基づき身柄拘束されたと報じた。
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ムスタクバル・チャンネル(8月9日付)は、元大臣がスンナ派対アラウィー派、スンナ派対キリスト教徒の対立を煽るための爆破を計画していたと報じた。
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シュカイブ・クルトバーウィー法務大臣はNBN(8月9日付)に対して、サマーハ元情報大臣の逮捕を「受け入れられない」と述べ、非難した。
諸外国の動き
イランのアリー・アクバル・サーレヒー外務大臣は『ワシントン・ポスト』(8月9日付)で、アサド政権が崩壊すれば、さらなる混乱が生じるとの見方を示した。
サーレヒー外務大臣は、「シリア社会は人種、宗派、文化のるつぼで、アサド大統領が突然いなくなってしまったら散り散りになってしまう」と警鐘を鳴らした。
またイランが近くシリア問題に関する国際会議を主催し、アジア、アフリカなど12~13カ国が参加するだろう、と述べた。
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イランはシリア問題国際会議をテヘランで開催し、イランを含む29カ国および同国駐在の国連機関代表が出席した。
参加したのは、イラク、パキスタン、ジンバブエの外務大臣、ヨルダン、スーダン、オマーン、チュニジア、ロシア、中国、アフガニスタン、インド、キューバ、ヴェネズエラの代表ら。
開会の辞で、イランのアリー・アクバル・サーレヒー外務大臣は、「シリアの危機の解決は政府と反体制勢力の真剣かつ包括的な対話を通じてのみ可能」と述べるとともに、「いかなる外国の介入、軍事介入をも拒否し、危機解決のための国連の努力を支持する」と強調した。
さらにアサド大統領の退任がシリアで平和的な転換をもたらすとの西側の主張を「幻想」と一蹴した。
なお、レバノンとクウェートはそれぞれ代表を派遣しないと発表した。
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シリアの反体制武装勢力に武器供与などの支援をするトルコのアフメト・ダウトオール外務大臣は、アサド政権がPKKに武器供与を行っている、と批判した。
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トルコの非常事態局によると、シリアからのトルコへの避難民の数は50,000人を越えた。
AFP(8月9日付)が伝えた。
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ジョン・ブレナン米大統領補佐官は、ワシントンでの講演で、シリアへの飛行禁止空域の設定はあるかとの質問に対して、「何かがテーブルの上にないと大統領がこれまでに言ったという覚えはない」と応えた。ロイター通信(8月9日付)が報じた。
しかし、スーザン・ライス米国連代表大使は、シリアへの飛行禁止空域設定の可能性に関して、「この提案は議論されたが、シリアが世界有数の防空能力を持っているなか…容易な選択肢ではないだろう」と述べた。
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フランスのニコラ・サルコジ前大統領はシリア国民評議会のアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長と7日に電話会談し、リビア暫定国民評議会を支援し、リビアへの軍事介入を行った前大統領の姿勢が、シリアでも同様に正当性を持つという点で見解が一致した、とAFP(8月9日付)が報じた。
AFP, August 9, 2012、Akhbar al-Sharq, August 9, 2012、Al Jadeed August 9,
2012、AKI, August 9, 2012、DPA, August 9, 2012、Future TV August 9, 2012、al-Hayat, August 10, 2012、Kull-na Shurakaʼ, August 9, 2012、LBC, August 9, 2012、MTV, August 9, 2012、Naharnet.com, August 9, 2012、NBN August 9, 2012、Reuters, August 9, 2012、SANA, August 9, 2012、al-Sannara, August 9, 2012、The Washington Post, August 9, 2012などをもとに作成。
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