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国内の暴力(アレッポ県)
アレッポ市では、シリア人権監視団、シリア革命総合委員会、総攻撃の準備を着々と整える軍・治安部隊と反体制武装勢力がサラーフッディーン地区、ザバディーヤ地区、マールティーニー地区、スッカリー地区、サイフ・ダウラ地区などで交戦した。
AFP(8月3日付)によると、シャッアール地区では、「国民は自由と平和を望む」とのシュプレヒコールをあげ、反体制デモを行った。
またシリア人権監視団によると、ハラク地区、サイフ・ダウラ地区、シャッアール地区、スッカリー地区、ハラブ・ジャディーダ地区、フィルドゥース地区、フルカーン地区、ブスターン・カスル地区で行われた。またアレッポ市郊外の村々でも反体制デモが行われた。
デモ発生現場のほとんどは反体制武装勢力が掌握しているとされる地域だという。
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一方、SANA(8月3日付)によると、アレッポ・ラッカ街道で軍・治安部隊が反体制武装勢力を攻撃し、戦闘員多数を殺傷した。
また、アレッポ市内のインザーラート地区、アレッポ市郊外のハフサ町、マスカナ市では、軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、戦闘員多数を殺傷した。
国内の暴力(ダマスカス県ヤルムーク区)
シリア人権監視団によると、ヤルムーク区(パレスチナ難民キャンプ)でイフタールの準備で混雑していた繁華街に迫撃砲複数発が着弾、子供2人を含む21人が死亡した。
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同監視団によると、誰が迫撃砲を発射したのかは「不明」だが、複数の医療筋によると、軍・政府軍による砲撃だという。
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砲撃に先だって、同地区では2日晩に、アサド政権に反対するデモが発生し、治安部隊やPFLP-GCの支援者がデモ参加者に発砲する事件が発生した。
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またパレスチナ人権センターによると、事件の前日の2日晩、PFLP-GCの支持者がキャンプ内および隣接するタダームン区に至る街道に、「キャンプ保護」のために展開していた。
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PLO執行委員会のヤースィル・アブドゥラッブフ書記長はロイター通信(8月3日付)に対して、「シリア政府が虐殺の責任を負っている」と非難した。
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ハマースも声明を出し、「ヤルムーク・キャンプを狙った凶悪犯罪を強く非難する」との意思を示した。
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一方、パレスチナ自治政府大統領府は、「アフマド・ジブリールら一部の当事者が…我らが人民とキャンプをシリアの血塗られた暴力の連鎖のなかに陥れ、彼らをこのホロコーストの燃料に変えようとしている」と非難した。
またシリアの内政への不干渉と、シリア、レバノンなどのパレスチナ難民キャンプの中立化を改めて確認しつつ、即時の暴力停止を呼びかけた。
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イスラーム聖戦もまた声明で「凶悪犯罪」と非難した。
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SANA(8月3日付)は、ヤルムーク区での砲撃に関して、隣接するタダームン区で軍・治安部隊と反体制武装勢力の砲撃戦が行われ、そのなかで「武装テロ集団が迫撃砲でヤルムーク区を標的とした」と報じた。
国内の暴力(その他)
ダマスカス県では、シリア人権監視団など複数の目撃者や活動家によると、タダームン区に軍・治安部隊の戦車、兵員輸送車数十輌が突入し、夕方までに同県のほぼ全域を完全掌握した。
一方、タダームン区では、SANA(8月3日付)によると、軍・治安部隊が反体制武装勢力の「残党」と交戦し、戦闘員多数を殺傷・逮捕、武器弾薬を押収した。
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ヒムス県では、SANA(8月3日付)によると、ヒムス市のダイル・バアルバ地区で軍・治安部隊が反体制武装勢力の拠点(地下壕)を制圧した。
またハミーディーヤ地区では反体制武装勢力と交戦し、戦闘員多数を殺傷した。
またクサイル市では軍・治安部隊が反体制武装勢力のアジトを襲撃し、戦闘員多数を殺傷した。
SANA(8月3日付)によると、タッルカラフ地方では、国境警備隊がレバノン領内から潜入を試みた反体制武装勢力と交戦、撃退した。
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ダルアー県では、SANA(8月3日付)によると、ブスル・ハリール市で軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、外国人を含む複数の戦闘員を殺傷した。
また東ガーリヤ村でも軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦し、甚大な被害を与えた。
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ハマー県では、シリア革命総合委員会や地元調整諸委員会によると、ハマー市アルバイーン地区で軍・治安部隊の砲撃により反体制武装勢力戦闘員と民間人合わせて数十人が死亡した。
詳細は明らかでない。
またシリア国民評議会広報局も、ハマー市で2日早朝から砲撃に曝されていると発表した。
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ダイル・ザウル県では、SANA(8月3日付)によると、ダイル・ザウル市では、軍・治安部隊が反体制武装勢力を追撃し、戦闘員多数を殺傷した。
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イドリブ県では、SANA(8月3日付)によると、ジスル・シュグール地方各所で、軍・治安部隊が反体制武装勢力を追撃し、戦闘員多数を殺傷した。
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シリア人権監視団によると、ダマスカス県、ハサカ県、イドリブ県、ダルアー県、タルトゥース県、ダイル・ザウル県、ハマー県の各地でも反体制デモが行われたという。
反体制活動家はフェイスブックなどで「ダイル・ザウル:東からの勝利」と銘打ってデモを呼びかけていた。
シリア政府の動き
カドリー・ジャミール経済問題担当副首相兼国内通商消費者保護大臣はモスクワでの記者会見で、「当事者は対話の開始、交渉のテーブルにどうつくかについて合意に達することができないでいる…。政治的に危機を解決するための対話が不可避なのに、アサド大統領が退陣してしまっては、対話の当事者がいなくなってしまう」と述べた。
ジャミール副首相らシリアの使節団は、ロシア側と地政学・科学・技術・通称協力統一センター設置に関する合意文書に署名した。
SANA(8月3日付)によると、この合意により、両国の民間セクターの交流、とりわけロシアの企業のシリア国内産業への参入が活性化されるという。
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東方正教会アンタキア総主教イグナティウス4世ハズィーム師ら東方協会の聖職者は、シリア国民に対して統合を呼びかけるとともに、国連に対してシリアの状況を理解し尊重するよう呼びかけた。
モスクワ総主教渉外局が伝えた。
反体制勢力の動き
『ハヤート』(8月4日付)は信頼できる消息筋の話として、シリア・クルド国民評議会がシリア国民評議会との合併を拒否した、と報じた。
同消息筋によると、シリア・クルド国民評議会の代表らは、エルビルを訪問したシリア国民評議会のアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長に対して「(合併ではなく)調整や協力を選ぶ」と回答し、シリアにおけるクルド人の権利を明確に承認するよう要求した。
スィーダー事務局長は2日にわたるエルビル訪問は、シリア・クルド国民評議会のシリア国民評議会への合流を説得することだった、という。
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シリア・クルド民主統一党(イェキーティー)のムヒーッディーン・シャイフ・アーリー書記長(シリア・クルド国民評議会)は『ハヤート』(8月3日付)に対して、「会合は、クルド最高委員会を構成するクルド民族主義勢力の全当事者、シリア国民評議会のスィーダー事務局長が出席した。また昨日(2日)の会合にはトルコのアフメト・ダウトオール外務大臣、イラク・クルディスタン地域政府の指導者らも出席した」と述べた。
アーリー書記長によると、シリア・クルド国民評議会はこの会合で、「外国の干渉拒否と社会の軍事化拒否」を求め、暴力継続への懸念と、反体制勢力の協力が不可避だとの立場を伝えた、という。
また「会合ではバッシャール・アサド大統領退陣後についても議論した…。我々はシリアのクルド人の権利をアラブ人と同様に承認する明確な文言を憲法に盛り込む必要があると主張した」という。
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イラク・クルディスタン地域政府は声明を出し、マスウード・バールザーニー大統領がシリア国民評議会のスィーダー事務局長と会談し、「シリア国民が自らの運命を決しなければならない」と伝えたことを明らかにした。
また同事務局長および「ジャズィーラ地方、ハサカの使節団」(クルド最高委員会の使節団)と会談し、同胞関係とそれを乱すような事態が発生しないことを確認した、と付言した。
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『ヒュッリイェト』(8月4日付)は、マナーフ・トゥラース准将が非公式にトルコを訪問し、トルコ外務省高官と会談したと報じた。
匿名消息筋によると、会談でアフメト・ダウトオール外務大臣と会談したかどうかは不明だが、会談は「アサド政権退任後にシリアにおいて何らかの役割を得ようとする動きの一環」だという。
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シリア国民変革潮流は、コフィ・アナン特使の辞意表明に関して、アサド政権が存続する限り特使のミッションが成功しないことは誰もが分かっていた、と述べ、歓迎の意を示すつつ、停戦イニシアチブの失敗が同特使独りの責任によるものではなく、アサド政権とそれを支持する諸勢力によるものだと非難した。
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シリア国家建設潮流は8月3日にダマスカスで予定していた「国民救済大会」を15日に延期する、と発表した。
国連の動き
国連総会は、シリアのアサド政権を非難し、全当事者に暴力の停止を求める決議案を賛成多数で採択した。
サウジアラビアが作成した決議案は、モロッコ、ヨルダン、UAE、バーレーン、チュニジア、オマーン、カタール、クウェート、リビア、エジプト、イエメン、モーリタニア、米国、英国、ドイツ、トルコ、フランス、カナダなどにより共同提出され、133カ国の支持を得た。
これに対して、ロシアや中国など12カ国が反対し、31カ国が棄権した。
審議に際して、ロシア、中国、ブラジル、インド、南アフリカ、アルジェリア、アルゼンチン、ヴェネズエラなどは、決議案にアサド政権の退陣や制裁を明記することに強く反対し、これらの文言は採択された決議案から削除された。
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国連の潘基文事務総長は国連総会で「次のステップは予見できた。地域および国際社会の当事者が互い(の支援者)に武器を供与する代理戦争だ。こうした予想は実際に起きてしまっている」と述べ、国連安保理の分裂と関係当事国の過激化を非難した。
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シリアのバッシャール・ジャアファリー国連代表は国連総会での対シリア「決議案を支持する国は、資金、武器、そしてヒステリックなまでの情報キャンペーンを通じて公然と武装テロ集団を支援している」と述べ、決議を「ヒステリックかつ妄想的」だと非難、主権尊重と内政不干渉を唱う国際法の原則に反していると主張した。
諸外国の動き
『ハヤート』(8月3日付)は、ロイター通信やAFPの報道をもとに、バラク・オバマ米大統領がシリアの反体制武装勢力への支援を認める「秘密文書」に署名した、と報じた。
同報道によると、署名の時期、支援の具体的な内容は明らかでないが、大統領命令に基づき、反対武装制勢力の教練を行うトルコや湾岸アラブ諸国と協力を行っている、という。
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英国のウィリアム・ヘイグ外務大臣は、BBC(8月3日付)に対して、シリアの反体制勢力に対して「非戦闘」機器の供与を通じて支援を増大させると述べた。
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アナトリア通信(8月3日付)は、トルコ軍がキリス県の対シリア国境で軍事演習を行い、重戦車、兵員輸送車、地対空ミサイルを投入した、と報じた。
軍事演習は2日にも行われていた。
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『ハヤート』(8月4日付)は、トルコの匿名消息筋の話として、7月のダマスカス、アレッポでの攻撃激化により、トルコ国内のシリア人避難民は44,000人から45,500人に増加した、と報じた。
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ロシア外務省はアナン特使の辞意表明に関して声明を出し、「早急に後任を探すべき…、現状においてシリアに国連がプレゼンスを維持することはきわめて重要」との意思を示した。
また「残念ながら、シリアの反体制勢力はいつも政治的対話に関する提案を拒否し、西側諸国と一部の地域諸国は反体制勢力に影響力を行使できるにもかかわらず、何もしない」と批判した。
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キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は「シリアでの平和的な政治的転換のための行動を貫徹するため、アナン特使の後任を早急に任命することを呼びかける」と述べた。
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フランスのジェラール・アロー国連大使は、「UNSMISは8月19日に消滅すると思う」と述べた。
なおフランスは8月の安保理議長国である。
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中国外交部報道官はアナン特使の辞意表明に関して「遺憾」の意を示すとともに、「アナン特使の仲介が困難だったことを理解し、彼の決断を尊重する」としつつ、「中国は適切な方法によって国連がシリアの問題解決において役割を果たすことを支援する」との立場を示した。
AFP, August 3, 2012、Akhbar al-Sharq, August 3, 2012、al-Hayat, August 3, 2012、August 4, 2012、Kull-na Shurakaʼ, August 3, 2012、Naharnet.com, August 3, 2012、Reuters, August 3, 2012、SANA, August 3, 2012などをもとに作成。
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